)” の例文
田舎では問屋本陣とんやほんじんの家柄であった女主は、良人おっとくなってから、自分の経営していた製糸業に失敗して、それから東京へ出て来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それで、ひすいを見分みわけるために、御殿ごてんされた老人ろうじんは、きさきくなられると、もはや、仕事しごとがなくなったのでひまされました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
嫂は毎日絶え間なく、くした息子むすこのことを嘆いた。びしょびしょの狭い台所で、何かしながら呟いていることはそのことであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
あなたのお母さんがくなられた時に、私はこれほど悲しいことはないと思ったが、女の人は世間と交渉を持つことが少ないために
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それはくなった実母への呼びかけであるかもしれぬ。ただ母をよぶ声だけで終っている手紙のどこにも、帰ってほしい言葉はない。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
二人ふたりは、はゝ父母ふぼで、同家ひとついへ二階住居にかいずまひで、むつまじくくらしたが、民也たみやのものごころおぼえてのちはゝさきだつて、前後ぜんごしてくなられた……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼等は最初の勢いにも似ず、じり/\と警戒しながら、そして主人のがらを蹈まないように大廻りしながら、床の間の方へ進んだ。
ふり返って見ると、入院中に、余と運命の一角いっかくを同じくしながら、ついに広い世界を見る機会が来ないでくなった人は少なくない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから半年後に、父は(脳溢血のういっけつのため)ペテルブルグでくなった。母やわたしを連れて、そこへ引移ったばかりのところだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その子どもがかわいらしくって、きれいであるか、あるいはその人たちのくした子どものことを思い出させるとかいうならくれる。
将軍家がこういう手続きをする前に、熊本花畑のやかたでは忠利の病がすみやかになって、とうとう三月十七日さるの刻に五十六歳でくなった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
頼朝がだ病気にならない時、御所ごしょの女房頭周防のむすめの十五になる女の子が、どこが悪いと云うことなしにわずらっていてくなった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いまこそ彼女かのぢよは、をつとれい純潔じゆんけつ子供こどもまへに、たとへ一時いつときでもそのたましひけがしたくゐあかしのために、ぬことが出來できるやうにさへおもつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
流るるごとき長州弁に英国仕込みの論理法もて滔々とうとうと言いまくられ、おのれのみかはき母の上までもおぼろげならずあてこすられて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「あら、お母さんもつい先頃くなりました。ニューイングランドの行商相手にかんしゃくをおこして、血管を破ってしまったんです」
それは母のくなったのちも、母のために我儘わがままにせられていた私を前と変らずに大事にし、一たびも疎略にしなかったほどだった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
また身その分にあらざるに、暴力や呪言もてかかる財を取った者は、必ず後嗣しと(同氏の『グジャラット民俗記』一四〇頁)。
ところでその流行病のおりに、マニョンは同じ日の朝と晩に、まだごく幼いふたりの男の児をくした。それは少なからぬ打撃だった。
継母にはまたしかられるかもしれないがき吉左衛門が彼にのこして行った本陣林のうちをいてその返済方にあてたいと頼んだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれど聞く方のおどろきは沙汰のほかだった。なぜならば松千代はすでに世にい者ということが誰もの通念になっていたからである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また隣家の主婦も、またその隣家の主婦も日ならずしてくなった。すると、その亡くなった斜め向いの主婦も間もなく死んでしまった。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「こんどのおかあさんもいいおかあさんだから、くなったおかあさんとおなじように、だいじにして、いうことをくのだよ。」
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
でも、この赤人あかひとといふひとは、かういふ傾向けいこう景色けしきうたひてをくして、だん/\自分じぶんすゝむべき領分りようぶん見出みいだしてきました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「お孃さんがくなつたばかりのところへ、こんなことを訊くのは氣がなさ過ぎますが、調べの都合と思つて、勘辨して下さい」
早くから奥様とお子さんをおくしになってから熱心な基督キリスト教信者となって、教育事業に生涯を捧げると言っておられる立派なお方です。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
唯懐ただおもひき人に寄せて、形見こそあだならず書斎の壁に掛けたる半身像は、彼女かのをんなが十九の春の色をねんごろ手写しゆしやして、かつおくりしものなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「今はね。ですがおありになつたのですよ——でなくも御親戚の方位はね。あの方は何年前かにお兄さまをおくしになつたのですよ。」
探偵の苦労というものを熟知しているこの検事には、親のい娘の身で、苦労し抜いている亡友の子への不愍ふびんさが加わっているのであろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし御二人とも御回春を見ずして、一カ月後の二月二十一日に膳大刀自がくなられ、その翌二十二日には太子が薨去せられたのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
云えばすぐに殺されるか、刺違えて死兼しにかねぬ忠義無類むるいごく頑固かたくな老爺おやじでございますから、これをいものにせんけりアなりません。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
朧気おぼろげなる一個の写真ぞ安置せらる、れ此の伯母が、いま合衾がふきんの式を拳ぐるに及ばずしてかずに入りたる人の影なり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
やがて櫛名田姫のがらは、生前彼女が用ひてゐた、玉や鏡や衣服と共に、須賀の宮から遠くない、小山の腹に埋められた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いまの入江家は、少し違っている。結婚した人もある。くなられた人さえある。四年以前にくらべて、いささか暗くなっているようである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いちばんのお兄上の伊邪本別皇子いざほわけのおうじは、お父上のきおあとをおつぎになって、同じ難波なにわのお宮で、履仲天皇りちゅうてんのうとしてお位におつきになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
小さい子供を連れて、き夫のお墓に詣るらしい若い未亡人や、珠数じゅずを手にかけた大家の老夫人らしい人にも、行き違った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その中、未亡人も没し、政吉氏もくなって、とても大店おおみせがやって行けなくなり、手元は不如意ふにょいがちでついに店を人手に渡すことになりました。
事實じゝつ此世このよひとかもれないが、ぼくにはあり/\とえる、菅笠すげがさかぶつた老爺らうやのボズさんが細雨さいううちたつる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それは和作のい父親と、当時死んで間もなかつた徳次郎の父との関係から来てゐた。二人は同じ藩の先覚者で、××伯系統の政治家であつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
しかし実際起ったのは、その晩父がまったく急にくなったことで、そのために他の事は皆そっちのけになってしまった。
季康子問う、弟子たれか学を好むとす。孔子こたえて曰く、顔回がんかいというひとありて学を好みしが、不幸短命にして死し、今は則ちし。(先進、七)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
重縁の親族というだけではない、き佐月さまから、周防さまへと、誰よりも親しく、心の底から信じあって来られた。
それが脚気をわづらつて、二週間程の間に眼もふさがる位の水腫みづばれがして、心臓麻痺で誰も知らないうちにくなつて居た。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
人の話だと、あの子の母親がくなる前、莫大ばくだいな財産を一文のこらず、すっかりご主人の名義に書きかえたんですって。
そんなら其子そのこくなつてか、可憐かわいさうなとおくさまあはれがりたまふ、ふく得意とくいに、此戀このこひいふもはぬも御座ござりませぬ、子供こどもことなればこゝろにばかりおもふて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
君はこう云う「和歌うた」知ってるかい? 「なげきわび 身をば捨つとも かげに 浮名うきな流さむ ことをこそ思え……」
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私は、出来たらば書いて見よう、と約束した。その後十年、二十年と月日がって、茂雄君はくなってしまった。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
血の気を絞り取ってしまったら乾干ひぼしになって、孫を産む活力などはくなってしまいはしないかという気がする。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女君は一一七国のとなりまでも聞え給ふ美人かほよびとなるが、一一八此の君によりてぞ家所領しよりやうをもくし給ひぬれとかたる。
それから後の噂は、藤沢は最近に妻をくし、ちょうど子供が無かったので、彼女を後妻に入れたのだと伝えた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
黒きつたの葉の鳥なんどの如く風に搖らるゝも見ゆ。我は十字を切りて眠に就きぬ。き母上、聖母、刑せられたる盜人の手足、皆わが怪しき夢に入りぬ。