饂飩うどん)” の例文
一帖を講じおわると、慰労として饂飩うどんくらいで献酬することもあり、あるいは余興として座頭を呼び、『平家』を語らすこともあった。
饂飩うどん素麺そうめんの湯煮たのを二、三十本混ぜて蒸しても洒落しゃれていますし、米の粉を大匙二杯ばかり入れて蒸しても美味しいものが出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
親類や知人などは一月ひとつきも前から、お別れだと言つては、饂飩うどんを打つたりさかなを買つたりして、老夫婦や主婦を呼んで御馳走をした。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
本妻の悋気りんき饂飩うどん胡椒こしょうはおさだまり、なんとも存ぜぬ。紫色はおろか、身中みうちが、かば茶色になるとても、君ゆえならば厭わぬ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
饂飩うどん屋に丁稚でつちをしてた時から、四十四にもなるまで、大阪に居ますのやもん、生れは大和でも、大阪者と同じことだすよつてな。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
あの、饂飩うどんたたりである。鶫を過食したためでは断じてない。二ぜん分をみにした生がえりのうどん粉の中毒あたらない法はない。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
饂飩うどん屋のガラスのはこの中にある饂飩の玉までがあざやかである。往来には軒先にむしろいたり、を置いたりして、それに消炭けしずみしてある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おおいに人を愚弄ぐろうしたものだ。ここはどこだって、阿蘇町さ。しかもともかくもの饂飩うどんいられた三軒置いて隣の馬車宿だあね。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
としはじめといふので有繋さすがかれいへでも相當さうたうもち饂飩うどん蕎麥そば/\のれいよつそなへられた。やはらかなもち卯平うへい齒齦はぐきには一ばん適當てきたうしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
饂飩うどんをしこたま食べこみ、また町の辻々をうろついて、今度は饅頭まんじゅうを買ってそれをふところに入れたと思うと、前と同じ道を真っ正直に戻って
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを読んで行くと、米を節約するために、代用食として饂飩うどん麺包ぱんとが大いに奨励してある。これをみて、二人の子供ははしゃぎ立って喜んだ。
うむどん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
茶碗に六、七分目取り、あんかけ饂飩うどんの餡で、人の知る餡を別に拵えてかけて食べる。なかなかしゃれたもので、ぜいたく者ほど喜んでくれるもの。
毛の付いた皮肌かわ饂飩うどんのような脳髄のうみそ、人参みたいな肉の片などがそこら中に飛び散って、元結もとゆいで巻いた髷の根が屍骸の手の先に転がっていたりした。
そのかようた壁の穴を求むると、隣りに饂飩うどんを商う家あり、その饂飩の粉の中に鼠棲んでこの家へ来る故白鼠と見えたと判り、皆々大笑いして帰った。
それで午後二時頃に本当に昼御膳ひるごぜんを喰うので、その時にはまたよい家では卵入りの饂飩うどんをこしらえます。だしは羊の肉などでうまそうに喰って居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
皆はこの時お作が、饂飩うどん屋時代に得意にしていた道行踊りを踊ろうとしている事を、アラカタ察しているにはいた。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
下駄屋の前を通って、四ツ角を空の方へ折れたところで、饂飩うどん屋にいたスパイがひょっこり立って出て来た。スパイは、饂飩屋で饂飩を食って金を払わない。
鍬と鎌の五月 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
陶器を見に立ち寄った小さな店では、私に面白い形の容器に入れた、スパゲティ〔イタリー饂飩うどん〕の一種を供した。太さは日本綿糸よりすこし大きい丈である。
かえって遠くに売りあるく鍋焼饂飩うどんの呼び声の、かすかに外方そとよりうちに浸みこみ来たるほどなりけり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「料理にしてもフライが天ぷらだったりマカロニが饂飩うどんだったりしますから、現物を見ない中はうっかり感心出来ません。羊頭狗肉ようとうくにく、実に油断のならない世の中です」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
祭となれば、何様な家でも、強飯おこわふかす、煮染にしめをこさえる、饂飩うどんをうつ、甘酒あまざけを作って、他村の親類縁者を招く。東京に縁づいた娘も、子を抱き亭主や縁者を連れて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
斯様かように申しますものですから、私が事を分けて、いいえ、ございませぬ、門付かどづけでいただいた鳥目ちょうもくが僅かございましたのを、それで、甲府の町のはずれで饂飩うどんを一杯いただいて
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
栄子たちが志留粉しるこだの雑煮ぞうにだの饂飩うどんなんどを幾杯となくお代りをしている間に、たしか暖簾のれんの下げてあった入口から這入はいって来て、腰をかけて酒肴さけさかなをいいつけた一人の客があった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女たちは円光のように身体の周囲に棉の粉を漂わせながら、屋台の前に重なり合って饂飩うどんを食べた。たちまち、こまかな綿の粉は動揺する小女たちの一群の上で、蚊柱のように舞い上った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ホウトウは現在の細く切った蕎麦・饂飩うどんの原形であったろうと思う。刃物を当ててもごく太目に切るだけで、中にはひものごとく手でんで細長くし、食いやすくするだけのものもある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同じ二戸郡に姉帯あねたい村と呼ぶ所があって、ここで「いたや細工」を作ります。が主でありますが、饂飩うどん揚笊あげざるの如きものをも作ります。材料の良さと腕の良さとで、仕事は見事であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
余の郷里にては饂飩うどん椎茸しいたけせり胡蘿蔔にんじん、焼あなご、くずし(蒲鉾かまぼこ)など入れたるをシツポクといふ。これも支那伝来の意であらう。めん類は総て支那から来たものと見えて皆漢音を用ゐて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
町はずれの怪しげな饂飩うどん屋に入って、登山の支度をし、秩父街道をすこしいって、上影森村の辺から左へ間道を抜けると、いよいよ山麓の樹立途こだちみちは爪先上りとなり、色の好い撫子なでしこの咲いている草原くさばらの中に
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
ごく澹泊たんぱくな独身生活をしている主人は、下女の竹に饂飩うどんの玉を買って来させて、台所で煮させて、二人に酒を出した。この家では茶を煮るときは、名物のつるよりうまいというので、焼芋を買わせる。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ねい伯父さん何か上げたくもあり、そばに居て話したくもありで、何だか自分が自分でないようだ、蕎麦そば饂飩うどんでもねいし、どじょうの卵とじ位ではと思っても、ほんに伯父さん何にも上げるもんがねいです」
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
地方の人が多くなった証拠として、饂飩うどんを食う客が多くなった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八時間ののち出してみるとブツブツと醗酵していますからその中へメリケン粉二きんを加えてよく混ぜると饂飩うどんの少し柔い位なものが出来ます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
西日にしびかわ井戸端ゐどばた目笊めざるに、のこンのさむさよ。かねいまだこほの、きたつじ鍋燒なべやき饂飩うどんかすかいけいしひゞきて、みなみえだつきすごし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ大抵たいてい癒ったようなものだが、この様子じゃ、いつ痛くなるかも知れないね。ともかくも饂飩うどんたたったんだから、容易には癒りそうもない」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この子供は母乳が少なかったので幼いときから饂飩うどんを食べならされていた。だから、いまでも饂飩が大好物なのである。
うむどん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
が、自分でもいくらか臭いにおいを嗅いだかして、饂飩うどんを売りに出るなどと辰は世間体を誤魔化していたのである。
彼等かれらはそれから茶碗ちやわんはしもべたりとむしろうへいて、單純たんじゆんみづ醤油しようゆした液汁したぢひたして騷々敷さう/″\しく饂飩うどんすゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
饂飩うどん屋にいた時分の通りの真白な襟化粧を復活させたりするばかりでなく、その襟化粧と赤ゆもじで毎日毎日福太郎の帰りを途中まで出迎えに行き始める。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
山の中ではあるがなかなか盛んな市街まちで、理髪をする兵隊もあれば饂飩うどんこしらえて売る兵隊もあり、また豆腐とうふを拵えて居るもあれば小間物こまものを売って居る者もあり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
優鈿うでん大王だいおうとか饂飩うどん大王だいおうとやらに頼まれての仕事しわざ、仏師もやり損じては大変と額に汗流れ、眼中に木片ききれ飛込とびこむも構わず、恐れかしこみてこそ作りたれ、恭敬三昧きょうけいざんまいうれしき者ならぬは
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夜が来てからかれは大胆になった。もう後悔の念などはなくなってしまった。ふと路傍に汚ない飲食店があるのを発見して、ビールを一本傾けて、饂飩うどんの盛りを三杯食った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
電燈ばかり明るくてポンペイの廃墟はいきょの様にさびしい銀座の通りを歩いて東へ折れ、歌舞伎座前を築地の方へ往った。万年橋のたもとに黙阿弥の芝居に出て来そうな夜啼よなき饂飩うどんが居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、早速うしろの饂飩うどんへ手を出しましたが、おや? これはまたしからぬ話、出前持ちが置いて行った風邪かぜの一服薬だけは地べたに落ちているが、かんじんなどんぶりはかげをかくして有る所に無く
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何ぜ饂飩うどんにしたのです?」と訊ねた。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
別にバターの時のようなメリケン粉と玉子と塩と水とで饂飩うどん位な固さの物をねてこれは厚さ三分位に大きく四方へひろげてしておきます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
停車場ステエション前で饂飩うどんで飲んだ、臓腑ぞうふ宛然さながら蚯蚓みみずのやうな、しツこしのない江戸児擬えどっこまがいが、うして腹なんぞ立てるものかい。ふん、だらしやない。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「これでよっぽど有るつもりなんだがな。ただ饂飩うどんった時ばかりは全く意志が薄弱だと、自分ながら思うね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼等かれらには饂飩うどんおほきなざると二升樽しようだるとそれから醤油しやうゆ容器いれものである麥酒罎ビールびんとがげられた。垣根かきねそととき彼等かれら假聲こわいろしてどつとはやてゝまたはやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
R市の某饂飩うどん屋で天丼を喰っているうちに、嘗てマリイ夫人を見に行った事のある中学生連中の雑談から、S岬の地形や、ロスコー家の建築の概要、生活状態なぞを聞出し
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
正月の餅と饂飩うどんとに胃腸をこわすのを恐れたが、しかしたいしたこともなくてすぎた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)