道程みちのり)” の例文
その道程みちのりもほぼ同じこと、恐らく修業の有様も、牙彫木彫の相違はあっても、一生懸命であったことは同じことであったと思われます。
海岸からはだいぶ道程みちのりのある山手だけれども水は存外悪かった。手拭てぬぐいしぼって金盥かなだらいの底を見ていると、たちまち砂のようなおりおどんだ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恒州の中条山というところに棲んでいて、いつも旅をするときには、驢馬にまたがって一日に数万里の道程みちのりを往ったといいます。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
ここから道程みちのりももうたくさんはない。又八は清水の観音堂へ行ってみようと考え出した。あそこのひさしの下なら寝ることもできる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八百八丁の中央、川の両岸が江戸をまっぷたつに割って、江戸から何里、江戸へ何里という四方の道程みちのりは、すべてここを基準にしている。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この散歩は道程みちのりの短い割にすこぶる変化に富むが上に、また偏狭なる我が画興に適する処がすくなくない。第一は鮫ヶ橋なる貧民窟の地勢である。
これを助けにして、残りの道程みちのりを急いで進み、時には歩いたり、時には走ったりして、気をあせりながら柵壁へ近づいて行った。
旅行の道程みちのり ここでちょっと私の歩いた道程みちのりを申すと、ダージリンからラサ府まで大約たいやく二千四百九十哩ばかり歩いて居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
老樹は三台つゞきの車に横たはつて、勇ましい木遣音頭におくられながら、わづか十五六町の道程みちのりを二日がゝりで新しい地へ移されて行つた。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
リバプールからロンドンまでは、四百数十キロの道程みちのりがあった。特別急行列車は、この間を十時間で走ることになっていた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
子供の頃長い道程みちのりを歩いた後で、ゲィツヘッドへ歸つて行つたとき、活氣がなくて陰氣な樣子をしてゐると云つて叱られた氣持は知つてゐる。
それにしても飯塚薪左衛門の屋敷から、この府中までは、わずか一里の道程みちのりだのに、なぜ三日も費やして来たのであろう?
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
七日の夜けて長政朝倉孫三郎景健に面会なし、合戦の方便を談合ありけるは、越前衆の陣取じんどりし大寄山より信長の本陣龍ヶ鼻まで道程みちのり五十町あり。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こことあの足を見た所との間は、何百里と云う道程みちのりがある。そう思っている中に、足は見る見る透明になって、自然と雲の影に吸われてしまった。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
車をやり通させずに所々でとめて病人に湯を飲ませたりした。比叡ひえ坂本さかもとの小野という所にこの尼君たちの家はあった。そこへの道程みちのりは長かった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「それなら皆さん、駿河へ帰るも甲州へ入るも人家までは同じぐらいの道程みちのり、いっそ甲州へ入ることに致しましょう」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その街道かいどうくらいつづいているかとおたずねですか……さァどれくらい道程みちのりかは、ちょっと見当けんとうがつきかねますが、よほどとおいことだけたしかでございます。
御案内の通り大宮から鴻の巣までの道程みちのりは六里ばかりでございます。此処こゝまで来ると若江はしゃがんだまゝ立ちません。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たといわずかな道程みちのりでも、夜中にただ一人でまたもどって来るの軽挙を冒すほどには、進んでいなかったのである。
いつもきまった道程みちのりを駆け抜けるように努めていたにもかかわらず、いつからともなく背中と肩の辺が何だか特にひどくちかちかするように感じ出した。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
紀国屋文左衛門や。道程みちのりが近いよって割合にしたら千両にも当るてや、なあ。男は度胸や……。あとはコンタの腕次第や。酒手を別にモウ五十両出す……
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その道程みちのりは、あそこからあそこまでと頭に描くことが出来た。仕事に丹念な大野順平が繩をあてて測ったであろう五里と七町とに、間違はないであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
この六億里おくり道程みちのりを三百六十五日と六とき(實は五時四十八「ミニウト」四十八「セカンド」なれども先つ六時とするなり)のあひだ一廻ひとまはりしてもとところかへるなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
大正池からそこまで二里に近い道程みちのりを山腹に沿うて地中の闇に隧道トンネルを掘り、その中を導いてゆるやかに流して来た水を急転直下させてタービンを動かすのである。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
父が三里も道程みちのりのある島松まで出かけていって、中島の養子に遇った気持にはそうしたものがあったはずだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
聞てまゆひそめ信州と此熊本とは道程みちのり四五百里もへだたりぬらんに伊勢いせ參宮より何ゆゑ當國迄たうごくまでは參りしやと不審ふしん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
汽車ならば五時間、悪七兵衛景清あくしちべえかげきよならば十時間かからぬくらいの道程みちのりを五日の予定で突破? しようというのであるから、可なりゆっくりした気持の旅であった。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それからの人となる発達の道程みちのりも、われわれの先祖がかつてはなはだ困難とした場合、および非常に多くの歳月をついやして成就じょうじゅしたことを、よりわずかの困難と
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
何うでも宜い問題だけれど物好きに道程みちのりはかりながら歩いたら、確に七町はあった。それでも中老は
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
金毘羅こんぴらで講元をしていた大きな無尽の掛け金を持って、お庄は取りすがるこの子供をおぶいながら、夕方から出かけて行った。ここから金毘羅まではかなりの道程みちのりであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鰻縄手から富士裏まではさのみの道程みちのりでもないから、往復の時間は知れたものであるが、まだ夜がけたというほどでも無いので、例の怪しい声が聞えないのではないか。
江戸から大阪迄は百五十里の道程みちのり。江戸で人を殺している人間が同じ日の同じ頃に大阪で人を殺せるわけのものではない。どうもあなたの見違いだッたと思うほかはない。
広小路へかえるのより二倍も三倍もの道程みちのりをもったそのうちへ、さそわれるまま、平気でわたしは遊びにまわったのである。——まえにもいったように学校は馬道にあった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
『その理由わけは』とつてグリフォンは、『それは何時いつでもえびと一しよ舞踏ぶたうをする。其故それゆゑみんうみなかはふまれる。それでなが道程みちのりちてかなければなりませんでした。 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かれ自分じぶん瘡痍きずかる醫者いしやから宣告せんこくされたときなんとなく安心あんしんされたのであつたが、しかまた漸次だんだん道程みちのりはこびつゝ種々いろいろ雜念ざふねんくにれて、失望しつばう不滿足ふまんぞくこゝろいだきはじめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それから船に乗る所まで逃げるにも道程みちのりが可なりある。牧場まきばや、森や、警戒線を通らなくては行かれない。己は動悸がする。あの海の音が不幸を予言してゐるやうでならない。
駒橋は大目村より道程みちのりおよそ四、五里を隔てて、甲府街道に沿える村なるが、いかなる故にや、「とく」は近来しきりに、大目村を去りて駒橋なる実母の方へ帰らんことを望み
「この渡しを越すと越さぬとでは、道程みちのりに大変な損得が有るそうな」と竜次郎は云った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
一寸ちよつと話題わだいにはらうとおもふ、武生たけふから道程みちのりじつ二十七里にじふしちりである。——深川ふかがはくるま永代えいたいさないのを見得みえにする……とつたもので、上澄うはずみのいゝところつてかすゆづる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
心神定まらず、送迎いそがはしき際の事とて、方角道程みちのりよくも辨へねど、山に入ることはなはだ深きにはあらずと思はれぬ。わがその何れの地なるを知りしは、年あまた過ぎての事なり。
「それじゃ七年間には随分沢山の道程みちのりが歩かれたでしょう」と、スクルージは云った。
しばらく故郷を離れたが正作は家政の都合つごうでそういうわけにゆかず、周旋しゅうせんする人があってなにがし銀行に出ることになり給料四円か五円かで某町なにがしまちまで二里の道程みちのり朝夕ちょうせき往復することになった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
此山の標準みちしるべ日本ひのもとの北海へながれきたりたる其水路すゐろ詳究しやうきゆうせんとて「唐土もろこし歴代れきだい州郡しうぐん沿革地図えんかくちづ」により清国いまのから道程みちのり図中づちゆうけんするに、蛾眉山は清朝いまのからみやこへだつこと日本道四百里ばかりの北に在り
『それはわけのない話だ、しかし道程みちのりもかなりあるし、私もまだ朝飯前だから』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
それでも、彼は常に探検のことを忘れず、附近の地勢を土人に尋ねたり、道程みちのりを調べたりしました。四月二十六日に簡単な日記をつけたきり、翌日はもうペンを執る力もありませんでした。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
ただ夜になると、ときをり道がなんだか見覺えのあるやうな氣がしてくる。恐らくそれは我々が、異樣な太陽の下に苦しんで過ぎてきた道程みちのりを、いつも夜になると再び歸つてゆくのではないか。
彼等は、翼のある馬の背中に乗ったその美しい青年を、天からおりて来たものにちがいないと思ったのです。一日に千マイルくらいは、速いペガッサスにとっては、わけなく飛べる道程みちのりでした。
その惡事あくじたとへば殺人罪さつじんざいごと惡事あくじ意味いみもなく、原因げんいんきものとふをべきや、これ心理的しんりてき解剖かいぼうして仔細しさいその罪惡ざいあく成立なりたちいたるまでの道程みちのりゑがきたる一書いつしよ淺薄せんはくなりとしてしりぞくることべきや。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
二十里あまりの道程みちのりを、往復七日がかりの參宮は、氣樂過ぎる道中だが、今日往つて明日金を持つて復るといふのは、少しむづかし過ぎるので、誰れも彼れも、この使は尻込みするのが當然であつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
道程みちのりは、ざっと三百八十里、女の足で二月はかかろうか」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)