にな)” の例文
膝の下の隠れるばかり、甲斐々々しく、水色唐縮緬とうちりめんの腰巻で、手拭てぬぐいを肩に当て、縄からげにして巻いた茣蓙ござかろげにになった、あきない帰り。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鍛冶屋のお爺さんはいよいよ慌てて、お金を払って荷物をになって出てゆこうとしました。その袖を店の主人はしっかりと捕えまして
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
妙義みょうぎの山も西に見えない。赤城あかぎ榛名はるなも東北に陰っている。蓑笠みのかさの人が桑をになって忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
右の南条と覚しき奇異なる労働者は、相変らず毎日石を運んだり土をになったりして、他の労働者と同じことに働いているのであります。
だが真柄の領内で、この太刀をかつげる百姓はたった一人で、常に家来が四人でになったというから、七尺八寸という方が本当かも知れない。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「武蔵野」もまたすこぶる雅文臭いもので、時代の先後をいったら二葉亭の方が当然その試みに率先した名誉をになうべきはずである。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
数千の軍中よりただ一人選抜された名誉は顧みぬとしても、全源氏げんじ軍の名誉をただ一身にになって弓を引いたときの心はいかであったろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
顔を合せる度に、二人は種々さまざまな感に打たれた。でも、正太は元気で、父の失敗を双肩にになおうとする程の意気込を見せていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それは違ふ、眼にも見えず、形にもあらはれぬごうといふ重荷を、われ/\はどれほど過ぎしかたに人にも自身にもになはせてゐるか知れぬ」
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
身体強健、なおよくくわを執り、もっこにない、旦暮たんぼ灌漑かんがいしてずから楽んでおります。いわゆる老而益壮おいてますますさかんなると申すは、この人のいいでござりましょう。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
ピラミッドを組み立つるおのおのの石塊は、全体をピラミッドたらしめた深く遠い原因と、全体より来る重力とを、おのれ自身の上にになっている。
一行は私をいれて四人の他に、もう一人、これはどちらの下僕か知らないが、主人達の防寒具やら食糧やら弾薬やらをになった男がついて来ていた。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「さもあらうず。おぬしは今宵と云ふ今宵こそ、世界の苦しみを身にになうた『えす・きりしと』を負ひないたのぢや。」
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、すぐそばにいながらしかも遠い彼女に向かって、その圧倒してくる重荷を自分にも共にになわしてくれと願った。
この会見の栄を肩身狭くも双肩にになえる余に向って婆さんは媾和こうわ条件の第一款として命令的に左のごとく申し渡した
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目見はかくの如く世の人に重視せられるならいであったから、この栄をになうものは多くの費用を弁ぜなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひまさえあればその事のほかに余念もなく、ある時は運動がてら、水撒みずまきなども気散きさんじなるべしとて、自ら水をにない来りて、せつに運動を勧めしこともありき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
僕は民さん一寸ちょっと御出でと無理に背戸へ引張って行って、二間梯子にけんばしごを二人でにない出し、柿の木へ掛けたのを民子に抑えさせ、僕が登って柿を六個むっつ許りとる。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
少年時代からピアノに異常の才能を現し、両親の大きな期待をになって十五歳の時、パリ音楽院に入学し、ピアノとオルガンの演奏でしばしば賞を受けた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
相伝あいつたう、維亭いていの張小舎、とうを察すと。たまたま市中を歩く。一人の衣冠甚だ整いたるが、草をになう者に遭うて、数茎を抜き取り、ってかわやにゆくを見る。
その話は敦賀港の町はずれで、にない茶屋を営業する小橋の利助といえる者、朝茶を売りて大問屋となり、出精するうち悪心起り、越中、越後に若い者を派遣し
谷間の泉から、苦力が水をになって病院まで登って来る道々、こぼした水がこおって、それが毎日のことなので、道の両側に氷がうず高く、山脈のように連っていた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
槃特はんどく相果あひはてゝからこれはうむると、其墓場そのはかばえたのが茗荷めうがだとふ事だ、されば「名をになふ」と書いて「めうが」とませる、だから茗荷めうがへば馬鹿ばかになる
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕はそれを想うごとに、友情を表明し得なかった腑甲斐なさを、口惜くちおしく思い、残念に思い、不本意に思って、浅からぬ罪をになっている様な心持がして堪らなかった。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
ふと林に入ろうとする畠から、すきになった一人の百姓が出てきて、だんだんとこっちへおりてきたが、前の番頭に出逢であうと、二人は立ち留まって何ごとをか語った。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この戦争はもはや、あの大戦役をもまたあの大政策をも思い起こさしめない悲しき運命をになっていた。
だから「名をになう」という所から、「名」という字に、草冠をつけて「茗荷みょうが」としたのだといいます。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
その棒にまた小さい棒を二本横たえてその棒を網のようにからみ付け、その上に敷物を敷いて屍体を載せ、その屍体の上へ白い布片を被せた儘で人がになって行くんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
古詩に「何蓑何笠」などという句もある。「何」はになうの意である。江為の詩に「何時洞庭上、春雨満蓑衣」とあるから、支那では「蓑衣さい」なる言葉も用いた。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
然れども維新の戦乱は甚だ長からず、足利氏の末路に於て文学の庇護者たりし仏教は、此時に至りては既にその活力を失ひて、再び文学の庇護者たる名誉をになふ能はず。
この事からも科学界における女性の栄誉を夫人が一身にになっていることがよくわかるでしょう。
キュリー夫人 (新字新仮名) / 石原純(著)
添てになひ不淨門へ向ひ屆けるやうは今日用人平石次右衞門老母儀らうぼぎ病死びやうし致候依て只今菩提所ぼだいしよへ送り申なり御門御通し下さるべしとことわりけるに當番たうばんの御小人目附はぢやうを明け駕籠を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蜘蛛くもの巣までが、埃をになって太くなっている、立場つづきの人家は、丈は低いが、檜やさわらの厚板で、屋根を葺いて、その上に石コロを載せている、松林の間から、北の方に
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
彼女は、長羅を身辺に引き寄せる手段として、かぶとの上から人目を奪うくれない染衣しめごろもまとっていた。一団の殿しんがりには背に投げ槍と食糧とをにないつけられた数十疋の野牛の群がつらなった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
段〻と左へ燈光ともしびを移すと、大中小それぞれの民家があり、老人としよりや若いものや、蔬菜そさいになっているものもあれば、かさを張らせて威張いばって馬にっている官人かんじんのようなものもあり
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おん身若したすけ起し給はずば、わが怪我はいかなりけん。されば我はおん身の恩をになへり。父母もか思ひて、御身のいちはやく救ひ給ひしを感じ給ひぬ。獨り此事のみにはあらず。
それは最劣等の土地の農業者のになう負担に比例して穀価を騰貴せしめるであろう。
混血というもののにないかた(女主人公として)にやはり問題があると思われます。
しからば此かるき舟とは何をすかと云ふに、口碑に隨へば、こは陸上にてになやすく、水上にては人を乘するにる物なりとの事なり。エスキモ其他北地ほくち現住民の用ゐる獸皮舟は是にたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
三百人も四百人も集つて、声をらして歌ひながら、雨乞踊を踊つてゐますと、そこへ向ふの方から、青い物をになつた男が、一人やつて来ました。よく/\見ると、それは馬鹿七でありました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
陳辯いひわけ分䟽ぶんそかぬ。なみだ祈祷きとうつみをばあがなはぬぞよ。それゆゑになにまうすな。いそぎロミオを退去たちさらせい。さもなうて見附みつけられなば、其時そのときやが最期さいごぢゃ。この死骸しがいになひゆきて、めいて。
彼は幕府を経由せずして、皇家と直接の関係を有したり。彼は京都に藩邸を置くの特許を得たり。彼は三条橋上を、白毛毿々さんさんたる長槍をにない、儀衛ぎえい堂々、横行濶歩かっぽして練り行くの特権を有したり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
幕府砲臺はうだいを神奈川にきづき、外人の來り觀るを許さず、木戸公役徒えきとに雜り、自らふごになうて之を觀る。茶店の老嫗らうをうあり、公の常人に非ざるを知り、善く之を遇す。公志を得るに及んで、厚く之に報ゆ。
「しかし先方むこうは御一緒に銀ブラの光栄をになっていますよ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「三偉人と其背景」という講演をなすの光栄をになった。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
ふところにいれ死骸しがいみのにつゝみをつといへになひゆきけり。
帆織る戸へ信天翁おきのたいふになひ入る人めづらしや初冬の磯
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そちが重責になった節婦になるのじゃ。
霜しろくになひつれけりさかなふご 鶴声
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
でつちがになふ水こぼしたり 兆
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)