良人おつと)” の例文
なに下品げひんそだつたからとて良人おつとてぬことはあるまい、ことにおまへのやうな別品べつぴんさむではあり、一そくとびにたま輿こしにもれさうなもの
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
保雄の妻と成つて以来このかた良人おつとと一緒に貧しい生活に堪へて里家さとから持つて来た丈の衣類は皆子供等の物に縫ひ換へ、帯と云ふ帯は皆売払つて米代に
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
而して遂にわが良人おつとなる人物が汗にまみれて疲労のどん底にありとはいへ、真剣なることアトラスのごとき重々しさで大きな行李をかつぎこんでくる様を認めた時に
老嫗面 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
けれど品行方正らしく見えた良人おつとが、会社で一日働いて帰つて来ても、晩酌のときなぞに、そんな事にはまるで馴れない彼女に、何かしら飽足りなさを感じてゐることが
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『オヤ、亞尼アンニーがまたつまらぬことかんがへていてりますよ。』と、春枝夫人はるえふじん良人おつとかほながめた。
独り居てこそもの思へ、思へる事のありぞとは、良人つまに知られじ、知らさじと、思ひかねては、墜ちも来る、涙を受けて、掌は白粉も溶く薄化粧。紅も良人おつとへ勤めぞと、物憂さ隠す身嗜み。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
あゝヘクトール、わが良人おつと、われは薄命、君と我
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
分けられぬ身なれば恩愛の重きに引かれて、車には乗りけれど、かかる時気楽の良人おつとが心根にくく、今日あたり沖釣りでも無き物をと
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
良人おつとであり、細君であり、恋人であり、諸君も亦、男女の道を行はれること当然ではないか。
余はベンメイす (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
けられぬなれば恩愛おんあいおもきにかれて、くるまにはりけれど、かゝるとき氣樂きらく良人おつと心根こゝろねにくゝ、今日けふあたり沖釣おきづりでもものをと
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
普通の夫婦でもなんだから、まして無能者を良人おつとにもつ女は当然浮気の権利があるんだつて、そんなことまでハッキリ言つたわ。とても真面目に、厳粛な顔付でハッキリ言ふのよ。
雨宮紅庵 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
さりとは思ひのほかなるもの、このあたりに大長者のうわさも聞かざりき、住む人の多くは廓者くるわものにて良人おつと小格子こがうしの何とやら
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
信助夫人は良人おつとの店へ飛んで行つた。彼は駅前に本屋を開いてゐたのである。
朴水の婚礼 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
さりとはおもひのほかなるもの、このあたりに大長者だいちやうじやのうわさもかざりき、ひとおほくは廓者くるはものにて良人おつと小格子こがうしなにとやら
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いよいよ離縁するとでも言はれて来たのかと落ついて問ふに、良人おつと一昨日おととひより家へとては帰られませぬ、五日六日と家を明けるは平常つねの事
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いよ/\離縁りゑんするとでもはれてたのかとおちついてふに、良人おつと一昨日おとゝひよりうちへとてはかへられませぬ、五うちけるは平常つねこと
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夢さら二タ心は持たぬまでも、我が良人おつとを不足に思ひて済むべきや。はかなし、はかなし、桜町の名を忘れぬ限り、我れは二タ心の不貞の女子おなごなり
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
されば奧方おくがた町子まちこおのづから寵愛てうあいひらつて、あなが良人おつとあなどるとなけれども、しうとしうとめおはしましてよろ窮屈きうくつかたくるしきよめ御寮ごりようことなり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まとつては隨分ずいぶんつらいこともあらう、なれどもれほどの良人おつとのつとめ、區役所くやくしよがよひの腰辨當こしべんたうかましたきつけてくれるのとはかくちが
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今宵限こよひかぎせきはなくなつてたましゐ一つがまもるのとおもひますれば良人おつとのつらくあたくらゐねん辛棒しんぼう出來できさうなこと、よく御言葉おことば合點がてんきました
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これはうもならぬそのやうに茶利ちやりばかりはですこ眞實しんところかしてくれ、いかに朝夕てうせきうそなかおくるからとてちつとはまことまじはづ良人おつとはあつたか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これはどうもならぬそのやうに茶利ちやりばかり言はで少し真実しんの処を聞かしてくれ、いかに朝夕てうせきを嘘の中に送るからとてちつとは誠も交るはづ良人おつとはあつたか
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うでもひゞ々を義務つとめばかりにおくりて此處こゝこゝろ何處いづこそら倘佯さまよふらん、一〻にかゝることども、女房にようぼうひとられてらぬは良人おつとはなしたゆびさゝれんも口惜くちおしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もとは檀家だんかの一人成しが早くに良人おつとを失なひて寄る辺なき身の暫時しばらくここにお針やとひ同様、口さへらさせて下さらばとて洗ひそそぎよりはじめてお菜ごしらへはもとよりの事
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もとは檀家だんかの一にんなりしがはやくに良人おつとうしなひてなき暫時しばらくこゝにおはりやとひ同樣どうやうくちさへらさせてくださらばとてあらそゝぎよりはじめておさいごしらへはもとよりのこと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此樣こんものなれど女房にようぼうたうといふてくださるもいではなけれど良人おつとをばもちませぬ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かへればゑりあごうづめてしのびやかに吐息といきをつく、良人おつと不審ふしんつれば、うもこゝろわる御座ござんすからとてしよくもようはべられず、晝寢ひるねがちに氣不精きぶせうりて、次第しだいかほいろあほきを
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
恐ろしや、この大恩の良人おつとる心を持ちて、仮にもその色のあらはれもせば。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まだゑんづかぬいもとどもが不憫ふびんあね良人おつとかほにもかゝる、此山村このやまむら代〻だい/\堅氣かたぎぱう正直しようじき律義りちぎ眞向まつかうにして、風説うわさてられたことはづを、天魔てんまうまれがはりか貴樣きさまといふ惡者わる出來でき
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三十ゑんどりの會社員くわいしやゐんつま此形粧このげうそうにて繰廻くりまわしゆくいゑうちおもへば此女このをんな小利口こりこう才覺さいかくひとつにて、良人おつとはくひかつてゆるやららねども、失敬しつけいなは野澤桂次のざわけいじといふ見事みごと立派りつぱ名前なまへあるをとこ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まだ縁づかぬ妹どもが不憫ふびん、姉が良人おつとの顔にもかかる、この山村は代々堅気一方に正直律義を真向まつかうにして、悪い風説うわさを立てられた事も無き筈を、天魔の生れがはりか貴様といふ悪者わるの出来て
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三十円どりの会社員の妻がこの形粧げうそうにて繰廻しゆく家のうちおもへばこの女が小利口の才覚ひとつにて、良人おつとはくの光つて見ゆるやら知らねども、失敬なは野沢桂次といふ見事立派の名前ある男を
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身はいにしへの斎藤主計かずへが娘に戻らば、泣くとも笑ふとも再度ふたたび原田太郎が母とは呼ばるる事成るべきにもあらず、良人おつとに未練は残さずとも我が子の愛の断ちがたくは離れていよいよ物をも思ふべく
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これにも腹はたてども良人おつとの遊ばす事なればと我慢して私は何も言葉あらそひした事も御座んせぬけれど、朝飯あさはんあがる時から小言は絶えず、召使の前にて散々と私が身の不器用不作法を御並べなされ
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これでも折ふしは世間さま並の事を思ふて恥かしい事つらい事情ない事とも思はれるもいつそ九尺二間でもまつた良人おつとといふに添うて身を固めようと考へる事もござんすけれど、それが私は出来ませぬ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)