素性すじやう)” の例文
雜談ざつだんの間に周三は、何かひツかゝりを作へては、お房の素性すじやう經歴けいれきとを探つた。そしてほぼ想像そう/\して見ることが出來るまでにぐり出した。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
同じくば名ある武士の末にてもあらばいざしらず、素性すじやうもなき土民郷家の娘に、茂頼斯くて在らん内は、齋藤の門をくゞらせん事思ひも寄らず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そへて差上申べしと云ければ後藤始め大いに悦び夫は何よりの幸ひ何分頼むと有りけるに八五郎は後藤ごとうならびに夫婦の者の素性すじやうくはしく書状にしたゝめ是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
言ふ迄もなく鑑識めがね自慢で、値段よりも自分の眼で買つたものだけに、素性すじやうの立派なのに比べて、金は余り掛けてゐない。
無下むげいやしきたねにはるまじ、つまむすめそれすらもらざりし口惜くちをしさよ、宿やどあるじ隣家となりのことなり、はば素性すじやうるべきものと、むなしくはなどすごしけん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「大旦那樣が亡くなつてしまへば、お内儀さんとしては、何處の子か素性すじやうもわからぬお君さんに、伊勢屋の身上を半分やるのが、惜しくもなるぢやありませんか」
坂井さかゐ道具屋だうぐや素性すじやうつてゐた。出入でいり八百屋やほや阿爺おやぢはなしによると、坂井さかゐいへ舊幕きうばくころなんとかのかみ名乘なのつたもので、この界隈かいわいでは一番いちばんふる門閥家もんばつかなのださうである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
へん、こけが六十六部に立山たてやまの話でも聞きやしめえし、頭からおどかしを食つてたまるものかえ。これやい、眠む気ざましにや勿体無えが、おれの素性すじやうを洗つてやるから、耳の穴を
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
んだことぢや、こんなあやしげなところへござつて、素性すじやうれぬふねるとはふがあるかい。おまけにお前様めえさま五位鷺ごゐさぎ船頭せんどうぢや……たぬきこさへた泥船どろぶねより、まだ/\あぶないのはれたことを。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さつきまでは、昏々こんこんと一人で眠りたいと考へてゐたのだけれど、いまはまた、気持ちが変つた。お互ひの素性すじやうを知りあつたもの同士が、一つところに寄りあつてゐる事は慰めだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
何とも知れない変な、それは泥棒などといふ素性すじやうの知れたものではない別種の侵入者、それは結局正体のない侵入者、それを自由自在に出入するに任せて居るやうな気がするのであつた。
しま一周いつしうといつて、このしまはどのくらひろいものやら、また道中だうちう如何いかなる危險きけんがあるかもわからぬが、此處こゝ漠然ぼんやりとしてつて、しま素性すじやうわからず氣味惡きみわる一夜いちやあかすよりはましだとかんがへたので
彼れは素性すじやう生国しやうこく
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
持崩もちくづし十七歳の時浪人らうにん仕つり其後京都に出て日野家に奉公致し候と茲に至つて實の素性すじやう白状はくじやうに及びけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さとしおさなきより植木うゑきのあつかひをきて、小器用こぎようはさみ使つかへば、竹箒たけばヽきにぎつて庭男にはをとこぐらゐなんでもなきこと、たゞ素性すじやうられじとばかり、まこと只今たヾいま山出やまだしにて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
されどつれなき人心、今更靡かん樣もなく、且や素性すじやういやしき女子なれば、物堅き父上の御容おんゆるしなき事もとより覺悟候ひしが、只〻最後の思出おもひでにお耳を汚したるまでなりき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「お琴お糸姉妹の素性すじやうを調べるのだ、それから、大野田の家を怨むものは無いか?」
これ素性すじやうたしかなものです。ですからね」とつた。宗助そうすけは、たゞ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
参詣の奉教人衆ほうけうにんしゆうが介抱し、それより伴天連ばてれんの憐みにて、寺中に養はれる事となつたげでござるが、何故かその身の素性すじやうを問へば、故郷ふるさとは「はらいそ」(天国)父の名は「でうす」(天主)などと
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
りにりて虫喰栗むしくひぐりにはおほかり、くずにうづもるゝ美玉びぎよくまたなからずや、あわれこのねが許容きよようありて、彼女かれ素性すじやうさだたまはりたし、まがりし刀尺さしすぐなるものはかりがた
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
上お早が身の素性すじやうより實家じつか森田屋銀五郎の方にて不實ふじつはたらきし事まで殘りなく申立るに越前守殿點頭うなづかれコレ早すれば汝が不儀の樣子森田屋銀五郎に大恩だいおんうけながら其主人宅を取逃とりにげ欠落かけおち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その上、昔の十二支組の者が、自分の素性すじやうを知つて居るのが恐ろしさに、お前は、仲間の者を片ツ端から殺して歩くつて言ふぢやないか。誰がそんな鬼のやうな奴の言ふことを聞くものか。
わたしの素性すじやうの為と——百姓育ちの為と解釈するであらう
幾度いくたびかかへりみておもへば、さてもはしたきことなり、うぢらず素性すじやうらず、心情こゝろだてなにれぬひとふとは、れながらあさましきことなり、さだめなきさだめなきひとたの
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
相手の素性すじやうも判りませんが、貫兵衞は威壓ゐあつされて、思はず大地にくづれました。
れにはらぬおやむかし、かたるまじきことれもめ、父君ちヽぎみさらなり母君はヽぎみにもいへはぢとてつヽむを、かせまゐらするではなけれど、一しやうに一打明うちあものがたり、きいたまはれ素性すじやう
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「自分のなら、素性すじやうがわかつてゐるから、怖くも可笑をかしくも何んともないが、不思議なことに、彦太郎といふ若い男の眼には、何處の誰とも知れぬ、怪しい影法師が附きまとつてゐるといふのですよ」
不幸ふかう由來もとさとめて、ちヽこひはヽこひしの夜半よはゆめにも、かぬさくらかぜうらまぬひとりずみのねがかたくなり、つヽむにもれ素性すじやうひとしらねばこそ樣々さま/″\傳手つてもとめて、香山かやま令孃ひめくるしく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)