砂漠さばく)” の例文
にぶ砂漠さばくのあちらに、深林しんりんがありましたが、しめっぽいかぜく五がつごろのこと、そのなかから、おびただしいしろ発生はっせいしました。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
都市は反抗の周囲に砂漠さばくと変じ、人の魂は冷却し、避難所は閉ざされ、街路は防寨ぼうさいを占領せんとする軍隊を助ける隘路あいろとなるのだった。
けれども秋から冬へかけては、花も草もまるで枯れてしまうので、小さな砂漠さばくみたように、ながめるのも気の毒なくらいさびしくなる。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
際涯はてし無く寂寞せきばくの続く人生の砂漠さばくの中に自然に逆ってまでも自分勝手の道を行こうとしたような、そうした以前の岸本では無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところがマルコポロは一二七三年にこの湖のすぐ南の砂漠さばくを通ったはずであるのに湖の事はなんとも言っていないのがおかしい。
ロプ・ノールその他 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さすがに紅海は太陽の光と熱砂のかすみと共に暑かった。汗と砂漠さばく黄塵こうじんによって私の肉体も顔も口の中までも包まれてしまった。
そうしていて、なん容赦ようしゃもなく、このあわれな少女むすめを、砂漠さばく真中まんなかれてって、かなしみとなげきのそこしずめてしまいました。
氷屋が砂漠さばくの緑地のようにわずかに涼しく眺められる。一日一日と道行く人の着物が白くなって行くと柳屋の縁台はいよいよにぎやかになった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
砂丘さきゅうの下で一泊した、三日目の朝に、一同はこれより北は砂漠さばくであることをたしかめたので、ふたたび一泊河へひきかえし、南の岸にわたった
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
 熱帯地方の砂漠さばくの中で、一疋の獅子ししが昼寝をして居た。肢体したいをできるだけ長く延ばして、さもだるさうに疲れきつて。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
あの太陽や青空を、珍しい鳥や獣のすんでいる豊かな森を、あの砂漠さばくを、あのたえなる南国の夜を、思い出したのです。
そして火星の表面に着陸地帯として、もってこいの平らな砂漠さばくを探しあてると、一気にそれへまい下ったのであった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
須原スハラ砂漠さばくなどでは、毒の蕾を持ったこの嗜人草が砂を離れ、群をなして風に乗って人血の香をさがして吹いてくるので、この毒草の風幕に包まれて
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あゝこれこそじつに将軍が、三十年も、国境の空気の乾いた砂漠さばくのなかで、重いつとめを肩に負ひ、一度も馬を下りないために、馬とひとつになつたのだ。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
砂漠さばく中の狂風だった。その風はどこから来たのか。その狂妄はなんであったか。彼の四と頭脳とをねじ曲げるそれらの欲望は、いかなる深淵しんえんから出て来たのか。
たゞ南谿なんけいしるしたる姉妹きやうだい木像もくざうのみ、そとはま砂漠さばくなかにも緑水オアシスのあたり花菖蒲はなあやめいろのしたゝるをおぼゆることともえ山吹やまぶきそれにもまされり。おさなころよりいま亦然またしかり。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
城内と云はず郊外と云はず空一面、蒙古もうこ砂漠さばくからのあの灰いろのほこりに包まれてしまつた。これがこの都会の名物なのだ。静かだが霖雨りんうのやうに際限なく欝陶うつたうしい。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
砂漠さばくの手前にある岩塩平原の一つで、隊商は立ちどまりました。そこは氷の表面のようにきらきら光っていて、わずかのところだけ軽い流砂りゅうしゃでおおわれていました。
私は全然まるで砂漠さばくの中にでも居る様な寂寞せきばくに堪へないでせう、さうすると又た良心は私のはなはだ薄弱であることを責めるでせう、墓所はかまゐりましても、教会へ参りましても
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ねこのような声で小さく呼びかわすこの海の砂漠さばくの漂浪者は、さっと落として来て波に腹をなでさすかと思うと、翼を返して高く舞い上がり、ややしばらく風に逆らってじっとこたえてから
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
其のうち不圖ふとまた考がれた。今度は砂漠さばくに就いて考へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しづかなる午後の砂漠さばくにたち見えし三角さんかくたふあはれ色なし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
壁のひまには砂漠さばくなるオアシスうかぶ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
砂漠さばくの月にほゆる獅子
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
まるで砂漠さばくのやうね
つかれているような、また、ねむいようにえる砂漠さばくは、かぎりなく、うねうねと灰色はいいろなみえがいて、はてしもなくつづいていました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこから砂漠さばくを北に横ぎって行くうちに偶然都市の廃趾はいしらしいものを発見した。それが昔の楼蘭ローランであることは発掘の文書で明らかになった。
ロプ・ノールその他 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あらゆるものの外部に彷徨ほうこうしながら機会をねらってる者、浮浪人、無頼漢ぶらいかん、街頭の放浪者、空に漂う寒い雲のみを屋根として都会の砂漠さばくに夜眠る者
「なるほど、すつかりわかりました。あなたは今でもまだ少し、砂漠さばくのためにつかれてゐます。つまり十パーセントです。それではなほしてあげませう。」
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
クリストフがおのれの芸術の槓桿こうかんをすえるべき支点を見出し得るのは、まだここでではなかった。否彼はこの民族とともに、砂漠さばくの砂の中に埋没しかかったのである。
其時そのときけに、今朝けさいたはなかず勘定かんぢやうつて二人ふたりたのしみにした。けれどもあきからふゆけては、はなくさまるれて仕舞しまふので、ちひさな砂漠さばくやうに、ながめるのもどくくらゐさびしくなる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、コウノトリは、暖かいアフリカのこと、ピラミッドのこと、砂漠さばくを野ウマのように走るダチョウのこと、などを話しました。しかし、アヒルたちには、コウノトリの言うことがわかりません。
時には彼は自分独りぎめに「海の砂漠さばく」という名をつけて形容して見たほど、遠い陸は言うに及ばず、船一艘いっそう、鳥一羽、何一つ彼の眼には映じない広い際涯はてしの無い海の上で、その照光と、その寂寞せきばく
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひたつぐみ暮れかかる砂漠さばく熟視みつむ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかし、砂漠さばくえていくと、あちらのやま砂金さきんるということ、また、いろいろの宝石類ほうせきるいるということだけは、たしかでした。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
突然この音が絶えると同時に銀幕のまん中にはただ一本の旗が現われ、それが強い砂漠さばくのあらしになびいてパリパリと鳴る音が響いて来る。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「煙い? なんのどうしてけむぐらゐ、砂漠さばくで風の吹くときは、一分間に四十五以上、馬を跳躍させるんぢや。それを三つも、やすんだら、もう頭まで埋まるんぢや。」
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
するとそれは、幾多の世紀と人種との異様な混和であり、砂漠さばく息吹いぶきであった。
あおくさもない、単調たんちょう砂漠さばくなかあるいてゆくときでも、二人ふたりはなしはよくって、べつに退屈たいくつかんずるということがなかったのです。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これがある時は石畳みの街路の上に、ある時は岩山の険路の上にまたある時は砂漠さばくの熱砂の上に、それぞれに異なる音色をもって響くのである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その地点をもとむるならば、それは、大小クラウスたちのたがやしていた、野原のはらや、少女アリスがたどったかがみの国と同じ世界せかいの中、テパーンタール砂漠さばくのはるかな北東、イヴン王国の遠い東と考えられる。
静寂の詩が、砂漠さばく諧調かいちょうが、その顔には感ぜられた。
わしはよるとなく、ひるとなく、幾日いくにちか、きたたびをしました。砂漠さばくえ、やまえ、りくえて、青々あおあおとしたうみうえんでゆきました。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
両岸ことにアラビアの側は見渡す限り砂漠さばくでところどころのくぼみにはかわき上がった塩のようなまっ白なものが見える。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分じぶんたちのまれた、故郷こきょう深林しんりんをふたたびかすめてび、さらに、くるは、にぶ砂漠さばくして、とおくまでいったのでありました。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それで市民自身で今から充分の覚悟をきめなければせっかく築き上げた銀座アルプスもいつかは再び焦土と鉄筋の骸骨がいこつ砂漠さばくになるかもしれない。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのうちに、日数にっすうがたって、砂漠さばくとおりすぎてしまいました。ある晩方ばんがた二人ふたりは、前方ぜんぽうに、紫色むらさきいろうみたのであります。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夜ひとりボートデッキへ上がって見たら上弦の月が赤く天心にかかって砂漠さばくのながめは夢のようであった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
砂漠さばくしての、ながい、ながい、たびでありますから、二人ふたりは、いつしかちとけてしたしくなり、たがいのうえなどをはなうようになりました。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雨のない砂漠さばくの国では天文学は発達しやすいが多雨の国ではそれが妨げられたということも考えられる。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)