まじ)” の例文
平仮名の手紙で、ほんの少しばかり漢字のまじっているものであるが、とにかく日本文の手紙が書けるのだから、たいしたものである。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
何といったって、今夜のような深いまじりっ気のない歓びというものは、おれとしては、二度と再びあじわうことの出来ない心持なんだ——
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
悦び多きさがより流れ出づるがゆゑに、このまじれる力、物體の中に輝き、あたかも生くる瞳の中に悦びのかゞやくごとし 一四二—一四四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
川音と話声とまじるのでひどく聞きづらくはあるが、話のうちに自分の名が聞えたので、おのずと聞きはずすまいと思って耳を立てて聞くと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
東洋の血のまじったオランダの貴婦人という放送。晩餐ばんさん。シャンペン。ダンス。シックで高価な服装。例の傾国傾城けいこくけいせいの「うら悲しい微笑」。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
こういう山の上に発達した宿場というものは、百姓の気分と町人の気分とがまじり合っていて、なかなかどうして治めにくいところがあるよ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
切望するやうな熱烈さにまじつて、落着いた、抑制された勝利が、その章の最後の輝かしい詩句を口にする彼の言葉に表はれた。
その客の中には、彼れの妻をはづかしめた貴族もまた、まじつてゐた。客は皆、その家の屋根にある露台ろだいで、饗応きやうおうけた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同時どうじに、こころは、昼間ひるま慰問いもんにきてくれた、幼稚園ようちえん生徒せいとらのまじじりけのない姿すがたをよみがえらせました。そして、あののぱっちりした少女しょうじょ
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
先に引用した句の後の方では、セイは利用学説に労働価値説をまじえた。だがセイは稀少性学説に左袒さたんしているようである。
有体ありていに白状すれば私は善人でもあり悪人でも——悪人と云うのは自分ながら少々ひどいようだが、まず善悪とも多少まじった人間なる一種の代物しろもの
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中に厚紙の台に木のを附けて蝋燭を立てた手燭てしよくを売る老爺おやぢが一人まじつて居る。見物人は皆其れを争つて買ふのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と店先を人々とまじって、網代の笠を冠った新発意しんぼちが、その笠をかたむけおきたを見ながら、足を早めて通って行った。
一枚絵の女 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また場所ばしょ場所丈ばしょだけに、近頃ちかごろ統一状態とういつじょうたい以前いぜんよりもずっとふかく、ずっとまじりなくなったように自分じぶんにもかんじられました。
父親清吉の話は、愚痴まじりに際限もなく續きましたが、平次はそれを宜い加減にきり上げて、これから出かけようといふ、伜の清三郎に言ふのでした。
この間なんぞは鉄砲を積んで呉淞ウースンに這入りかけたら、その間際で船員のうちに、スパイが二人まじっている事を発見したから、文句なしにブチ込んでくれたよ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上ではんなこととも知らないのであろう。大勢が声を揃えて市郎の名を呼んでいた。其中そのなかには塚田巡査のびた声も、七兵衛老翁じじい破鐘声われがねごえまじって聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その人びとの中にまじって、一人の異様いような紳士が——満身にすばらしい香水の匂いをプンプンさした紳士が、右手をスプリング・コートのポケットへ入れたまま
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
けれども、うっかりると、そのうちに、短歌たんかふるかたちのようなものが、まじつてゐるようにもえます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
塵芥に埋れたこみち。雑草にまじって芹が生えているのだろう。晩春の日の弱い日だまりを感じさせるような、或る荒寥こうりょうとした、心の隅の寂しさを感じさせる句である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それに驚くことにはいずれも形がよく、醜いものとてはありません。どの窯でも多かれ少かれ醜いものがまじりますが、この窯ばかりは濁ったものを見かけません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
大富豪の邸宅——といったところで驚くほど小さな——にまじって、ばかに内部の暗い本屋や毛織物店が、時代と場処を間違えたように二、三軒かたまっていたりして
それらの繪馬ゑままじつて、女の長い黒髮の根元から切つたらしいのが、まだ油のつやも拔けずに、うやうやしく白紙はくしに卷かれて折敷をしきに載せられ、折敷のはしに『大願成就だいぐわんじやうじゆとらとしの女』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
安酒のにおい、汗のにおい、食料脂のにおい、——、そういうものが雨で立籠められたうえ、靴の底から蹴上げられる埃と煙草の煙にまじり合って部屋の中の空気を重く濁した。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ある時七人の孃子が大和のタカサジ野で遊んでいる時に、このイスケヨリ姫もまじつていました。そこでオホクメの命が、そのイスケヨリ姫を見て、歌で天皇に申し上げるには
その聲は相變らず低かつたが、聞いてゐる内に時々聞き慣れない調子はづれの音がまじつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
はつらつたる肉体にまじっての、年のいった、身体のくずれた踊り子の、なんと惨めな恰好よ。対比的に際立きわだつ醜怪もさることながら、敗残的なその姿は目をおおいたいくらいだ。……
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
〔評〕長兵京師にやぶる。木戸公は岡部氏につてわざはいまぬかるゝことを得たり。のち丹波におもむき、姓名せいめいへ、博徒ばくとまじり、酒客しゆかくまじはり、以て時勢をうかゞへり。南洲は浪華なにはの某樓にぐうす。
小豆の飯の好きな夫に、そのわかれの飯に小豆をまじえないことが筒井にも悲しかった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
魚は空気がまじつて融けてゐる水の中にだけ住む事が出来るのだ。お前達はもつと大きくなつたら、空気がどんなに生物に必要だかと云ふ事を証明する実験をする事が出来るだらう。
兄貴のフェリックスは、うずくまって、金盥かなだらいをゆすぶり、獲物えものを受け取っている。彼らは、雲脂ふけまじって落ちてくる。った睫毛まつげのように細かなあしが、ぴくぴく動くのが見分けられる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
このたいあひだに、高山植物こうざんしよくぶつ草本帶そうほんたいまじつたり、ときには偃松はひまつ草本帶そうほんたいなかとほして、山頂近さんちようちかくまでびてゐることもあるので、各帶かくたいをはっきりと區別くべつすることは出來できにくいのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
あれなぞは中でも最もまじのないものかも知れなかつたが、長いあひだの商売で、散々に情操を踏みにじられて来ても、まだそんなものが彼女の胸にいくらか残つてゐるらしかつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
団体客ででもあるらしく、二人ばかりの芸者らしいのもまじつて、客の背中を流してやつてゐる。流して貰つてゐる男が時々仲間に冷やかされてゐる様子で、湯殿は仲々賑やかであつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かようなたま古墳こふん發掘はつくつせられたとき、たいていつちなかまじつてゐますから、すぐにつからないことがあります。それでつちふるひにかけてよくさがさなければなりません。(第六十四だいろくじゆうし五圖ごず
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その平地の其處此處に二軒三軒とあはれな人家が散在して、木がくれにかすかな煙をあげて居る。自分の生れた家もその中にまじつて居るので、白髮しらがばかりのわが老父母はいまだに健在である。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
このごろ私が日和下駄をカラカラならして再び市中しちゅうの散歩を試み初めたのは無論江戸軽文学の感化である事をこばまない。しかし私の趣味のうちにはおのずからまた近世ヂレッタンチズムの影響もまじっていよう。
今日はみな普通民の中にまじり込み、何ら区別されぬものになっている。
日本古来の道にして何ら外来思想をまじえざるものと称せらるるものが、一部の人々にこの上なく(何ら格別の理由なくして)尊信せられおる如く、エリパズは祖先の教のそのままに伝え来りしものを
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
うつらになべてをまじふ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
秋の夜風よかぜまじ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
實在、偶在、及びその特性相まじれども、その混るさまによりて、かのものはたゞ單一の光に外ならざるがごとくなりき 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
介在物をまじえずに一本の思想をひたむきに押通している。古い形式とされていた独白を平気で使って却って効果を持来たしている。万事意志的である。
独逸の範とすべき点 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
随分如何いかゞはしい飜刻物ほんこくものまじつて居るが、是丈これだけ多数に蒐集せられたところは英仏は勿論本国の日本にも無い事である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何故なら僕と同じやうに、あなたの性質中には、その種類は異つても、安靜には有害なまじりものがあるのです。
のみならずこの少年が純粋の日本人らしいという事は、故郷の新聞を懐かしがる行為と、その軽快なまじのない発音で、もはや殆んど確定的であると考えた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
多年東京の空気にまじっているうちに、そんなお伽話のような奇怪な伝説は、彼の頭脳あたまから悉皆すっかり忘れられていたのを、今や再び七兵衛老爺おやじから叱るが如くにさとされて
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この学問のある田舎いなか医者に言わせると、馬籠は国境くにざかいだ、おそらく町人気質かたぎの金兵衛にも、あの惣右衛門親子にも、商才に富む美濃人の血がまじり合っているのだろう
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
電気以後のレコードにはろくなのはないが、それでも『金髪にまじる銀髪』(ビクター一一七三)『アデステ・フィデレス』(六六〇七)などは古いものだけに良い。
わたくし勿体もったいないやら、うれしいやら、それにまたとお地上生活時代ちじょうせいかつじだいあわおもまでもまじり、今更いまさらなんうべき言葉ことばもなく、ただなみだぐんでそこにつくしたことでございました。