)” の例文
明後日あさッて初酉はつとりの十一月八日、今年はやや温暖あたたかく小袖こそで三枚みッつ重襲かさねるほどにもないが、夜がけてはさすがに初冬の寒気さむさが身に浸みる。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
夜気やき沈々たる書斎のうち薬烟やくえんみなぎり渡りてけしのさらにも深け渡りしが如き心地、何となく我身ながらも涙ぐまるるやうにてよし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
雜木林ざふきばやしあひだにはまたすゝき硬直かうちよくそらさうとしてつ。そのむぎすゝきしたきよもとめる雲雀ひばり時々とき/″\そらめてはるけたとびかける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
乳母 もしえ、この指輪ゆびわひいさまから、わしに貴下こなたげませいとうて。さ、はやう、いそがしゃれ、いかけたによって。
剛一は千葉地方へ遠足におもむきて二三日、顔を見せざるなり、雨蕭々せう/\として孤影蓼々れう/\、梅子は燈下、思ひに悩んで夜のけ行くをも知らざるなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
七日の夜けて長政朝倉孫三郎景健に面会なし、合戦の方便を談合ありけるは、越前衆の陣取じんどりし大寄山より信長の本陣龍ヶ鼻まで道程みちのり五十町あり。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いったん心がひらめいただけ、遅々として進まなくなり、わが才能を疑りだすと、始めに気負った高さだけ、落胆を深め、自信喪失の深度をかめる。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そうは云ったものの、あのなさけの女房が又してもそばにへばりついているのかと思うと、私は五体の力が一時に抜けてしまうように感じたのだった。
殺人の涯 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それより余は館に行きて仮店かりみせ太神楽だいかぐらなどの催しに興の尽くる時もなくけて泥の氷りたる上を踏みつつ帰りしは十二年前の二月十一日の事なりき。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
夜はけて一際ひときわしんと致しますと、新吉は何うも寝付かれません。もう小一時こいっときったかと思うと、二畳の部屋に寝て居りました馬方の作藏がうなされる声が
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
煌々こうこうとしている妓楼の家の中はちょうど神経が興奮している時のように夜のけるに従ってえ返っている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
夜はなわい草鞋を編み、その他の夜綯いを楽しみつ、夜綯いなき夜はこの家を訪い、温かなる家内の快楽をおのがもののごとくうれしがり、夜けぬ間にかえりて寝ぬ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
はなはだもけてなみち五百小竹ゆざさうへしもを 〔巻十・二三三六〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何人の夜けてまうで給ふやと、あやしくも恐ろしく、親子顔を見あはせていきをつめ、そなたをのみまもり居るに、はや前駆ぜんぐ若侍わかさむらひ七四橋板はしいたをあららかに踏みてここに来る。
併し余は深く考える心はない、唯「其の様な事は何うでも宜しい」と言い捨てて此の家を立ち出でた、余ほど時間の経った者と見え、早や夜けて、町の往来も絶えて居る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
秋になると梢に反覆分枝し五裂花冠と五雄蕊とを有する淡黄色の小花を沢山に開いている。花がんだ後には双頭状を成した小さい果実が出来、秋がけるとその苗が枯れる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼等は久しく芝生の縁代えんだいで話した。M君がし去ったのは、夜もけて十二時近かった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのほかにはこの土地の名物といふ飴を売つてゐた。秋もけて、この頃の日脚ひあしはだん/\に詰まつて来たので、亭主はもうそろ/\と店を仕舞しまはうかと思つたが、また躊躇した。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
秋ももうけて、木葉もメッキリ黄ばんだ十月の末、二日路の山越えをして、そこの国外れの海に臨んだ古い港町に入った時には、私は少しばかりの旅費もすっかりはたきつくしてしまった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
けるにしたがつてしもは三にん周圍しうゐ密接みつせつしてらうとしつゝちからをすらしつけた。彼等かれらめて段々だん/\むしろちかづけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
明後日が初酉の十一月八日、今年はやや温暖あたたかく小袖を三枚みッつ重襲かさねるほどにもないが、夜がけてはさすがに初冬の寒気さむさが感じられる。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
万客ばんきゃくあか宿とどめて、夏でさえ冷やつく名代部屋の夜具の中は、冬の夜のけては氷の上にるより耐えられぬかも知れぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その対立はぬきさしならぬものとなり、憎しみはかまり、安き心もない。知性あるところ、夫婦のつながりは、むしろ苦痛が多く、平和は少いものである。
悪妻論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ぬばたまのけぬれば久木ひさきふるきよ河原かはら千鳥ちどりしばく 〔巻六・九二五〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
け行く寒き夜を、大和おほわ一郎の兀々こつ/\と勉学に余念なし、雪バラ/\と窓を打ちて、吹き入る風に身をふるはしつ「オヽ、寒い、最早もう何時かナ、未だ十二時にはなるまい——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
夜は十二時一時と次第にけわたる中に、妻のお光を始め、父の新五郎に弟夫婦、ほかに親内みうちの者二人と雇い婆と、合わせて七人ズラリ枕元を囲んで、ただただ息を引き取るのを待つのであった。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
なつやうやけると自然しぜんこゝろ焦燥あせらせて、霖雨りんうひくみづ滿たしめて、ほりにもしげつたくさぼつしてきしえしめる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
遠くに聞える省線電車の響、蛙の声と風の音とが、さほどけてもゐない夜を、気味わるいほど物さびしくしてゐる。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
夜中よなかけぬらしかりきこゆるそらつきわたゆ 〔巻九・一七〇一〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
酒楼しゅろうのぼりてもよる少しくけかかると見れば欄干らんかんに近き座を離れて我のみ一人葭戸よしどのかげに露持つ風を避けんとす。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ちょうの夜駕籠しきりと道をいそぎ行くかたわらに二匹の犬その足音にも驚かず疲れて眠れる姿は、土手下の閉ざせる人家の様子と共に夜もいたくけ渡りしのみか
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
君江の目にも寐静ねしずまった路地裏の情景が一段なまめかしく、いかにもけ渡った色町いろまちの夜らしく思いなされて来たと見え、言合したように立止って、その後姿を見送った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
咳嗽せきまじうる主人あるじの声と共にその妻の彼方此方かなたこなたと立働くらしい物音が夜のけ渡るまでもまなかった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いつけるとも知らぬ町の夜の物音はたちま彼方此方かなたこなたに鳴り出す夜廻りの拍子木に打消される折から
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昨日きのう午後ひるすぎから、夜もけるに従ってますますはげしくなった吹雪が夜明と共にいつかガラリと晴れたのだという事を知った。それと共にもうかれこれひる近くだろうと思った。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
偐紫楼にせむらさきろう燈火ともしびは春よりも夏よりもいらずらにその光の澄み渡るもややめて来た頃であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その夜の雨から時候が打って変ってとても浴衣ゆかた一枚ではいられぬ肌寒さにわたしはうろたえて襦袢じゅばんを重ねたのみか、すこし夜もけかけたころには袷羽織あわせばおりまで引掛ひっかけた事があるからである。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夏の末から秋になっても、打続く毎夜のあつさに今まで全く気のつかなかっただけ、その響は秋の夜もいよいよまったくの夜長らしくけそめて来た事を、しみじみと思い知らせるのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けるにつれてますます蒸暑くなるような日が幾日もつづく。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)