トップ
>
深
>
ふ
ふりがな文庫
“
深
(
ふ
)” の例文
明後日
(
あさッて
)
が
初酉
(
はつとり
)
の十一月八日、今年はやや
温暖
(
あたた
)
かく
小袖
(
こそで
)
を
三枚
(
みッつ
)
重襲
(
かさね
)
るほどにもないが、夜が
深
(
ふ
)
けてはさすがに初冬の
寒気
(
さむさ
)
が身に浸みる。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
夜気
(
やき
)
沈々たる書斎の
中
(
うち
)
に
薬烟
(
やくえん
)
漲
(
みなぎ
)
り渡りて
深
(
ふ
)
けし
夜
(
よ
)
のさらにも深け渡りしが如き心地、何となく我身ながらも涙ぐまるるやうにてよし。
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
雜木林
(
ざふきばやし
)
の
間
(
あひだ
)
には
又
(
また
)
芒
(
すゝき
)
の
硬直
(
かうちよく
)
な
葉
(
は
)
が
空
(
そら
)
を
刺
(
さ
)
さうとして
立
(
た
)
つ。
其
(
その
)
麥
(
むぎ
)
や
芒
(
すゝき
)
の
下
(
した
)
に
居
(
きよ
)
を
求
(
もと
)
める
雲雀
(
ひばり
)
が
時々
(
とき/″\
)
空
(
そら
)
を
占
(
し
)
めて
春
(
はる
)
が
深
(
ふ
)
けたと
喚
(
よ
)
びかける。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
乳母 もしえ、この
指輪
(
ゆびわ
)
は
姫
(
ひい
)
さまから、わしに
貴下
(
こなた
)
へ
上
(
あ
)
げませいと
言
(
い
)
うて。さ、
速
(
はや
)
う、
急
(
いそ
)
がしゃれ、
甚
(
いか
)
う
夜
(
よ
)
が
深
(
ふ
)
けたによって。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
剛一は千葉地方へ遠足に
赴
(
おもむ
)
きて二三日、顔を見せざるなり、雨
蕭々
(
せう/\
)
として孤影
蓼々
(
れう/\
)
、梅子は燈下、思ひに悩んで夜の
深
(
ふ
)
け行くをも知らざるなり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
▼ もっと見る
七日の夜
深
(
ふ
)
けて長政朝倉孫三郎景健に面会なし、合戦の方便を談合ありけるは、越前衆の
陣取
(
じんどり
)
し大寄山より信長の本陣龍ヶ鼻まで
道程
(
みちのり
)
五十町あり。
姉川合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
いったん心が
閃
(
ひらめ
)
いただけ、遅々として進まなくなり、わが才能を疑りだすと、始めに気負った高さだけ、落胆を深め、自信喪失の深度を
深
(
ふ
)
かめる。
オモチャ箱
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
そうは云ったものの、あの
深
(
ふ
)
か
情
(
なさけ
)
の女房が又しても
傍
(
そば
)
にへばりついているのかと思うと、私は五体の力が一時に抜けてしまうように感じたのだった。
殺人の涯
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
それより余は館に行きて
仮店
(
かりみせ
)
太神楽
(
だいかぐら
)
などの催しに興の尽くる時もなく
夜
(
よ
)
深
(
ふ
)
けて泥の氷りたる上を踏みつつ帰りしは十二年前の二月十一日の事なりき。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
夜は
深
(
ふ
)
けて
一際
(
ひときわ
)
しんと致しますと、新吉は何うも寝付かれません。もう
小一時
(
こいっとき
)
も
経
(
た
)
ったかと思うと、二畳の部屋に寝て居りました馬方の作藏が
魘
(
うなさ
)
れる声が
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
煌々
(
こうこう
)
としている妓楼の家の中はちょうど神経が興奮している時のように夜の
深
(
ふ
)
けるに従って
冴
(
さ
)
え返っている。
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
夜は
縄
(
なわ
)
を
綯
(
な
)
い草鞋を編み、その他の夜綯いを楽しみつ、夜綯いなき夜はこの家を訪い、温かなる家内の快楽を
己
(
おの
)
がもののごとく
嬉
(
うれ
)
しがり、夜
深
(
ふ
)
けぬ間に
還
(
かえ
)
りて寝ぬ
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
はなはだも
夜
(
よ
)
深
(
ふ
)
けてな
行
(
ゆ
)
き
道
(
みち
)
の
辺
(
べ
)
の
五百小竹
(
ゆざさ
)
が
上
(
うへ
)
に
霜
(
しも
)
の
降
(
ふ
)
る
夜
(
よ
)
を 〔巻十・二三三六〕 作者不詳
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
何人の夜
深
(
ふ
)
けて
詣
(
まう
)
で給ふやと、
異
(
あや
)
しくも恐ろしく、親子顔を見あはせて
息
(
いき
)
をつめ、そなたをのみまもり居るに、はや
前駆
(
ぜんぐ
)
の
若侍
(
わかさむらひ
)
、
七四
橋板
(
はしいた
)
をあららかに踏みてここに来る。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
併し余は深く考える心はない、唯「其の様な事は何うでも宜しい」と言い捨てて此の家を立ち出でた、余ほど時間の経った者と見え、早や夜
深
(
ふ
)
けて、町の往来も絶えて居る。
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
秋になると梢に反覆分枝し五裂花冠と五雄蕊とを有する淡黄色の小花を沢山に開いている。花が
終
(
す
)
んだ後には双頭状を成した小さい果実が出来、秋が
深
(
ふ
)
けるとその苗が枯れる。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
彼等は久しく芝生の
縁代
(
えんだい
)
で話した。M君が
辞
(
じ
)
し去ったのは、夜も
深
(
ふ
)
けて十二時近かった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
そのほかにはこの土地の名物といふ飴を売つてゐた。秋も
深
(
ふ
)
けて、この頃の
日脚
(
ひあし
)
はだん/\に詰まつて来たので、亭主はもうそろ/\と店を
仕舞
(
しま
)
はうかと思つたが、また躊躇した。
小夜の中山夜啼石
(新字旧仮名)
/
岡本綺堂
(著)
秋ももう
深
(
ふ
)
けて、木葉もメッキリ黄ばんだ十月の末、二日路の山越えをして、そこの国外れの海に臨んだ古い港町に入った時には、私は少しばかりの旅費もすっかり
払
(
はた
)
きつくしてしまった。
世間師
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
夜
(
よ
)
が
深
(
ふ
)
けるに
隨
(
したが
)
つて
霜
(
しも
)
は三
人
(
にん
)
の
周圍
(
しうゐ
)
に
密接
(
みつせつ
)
して
凝
(
こ
)
らうとしつゝ
火
(
ひ
)
の
力
(
ちから
)
をすら
壓
(
お
)
しつけた。
彼等
(
かれら
)
は
冷
(
さ
)
めて
行
(
ゆ
)
く
火
(
ひ
)
に
段々
(
だん/\
)
と
筵
(
むしろ
)
を
近
(
ちか
)
づけた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
明後日が初酉の十一月八日、今年はやや
温暖
(
あたたか
)
く小袖を
三枚
(
みッつ
)
重襲
(
かさね
)
るほどにもないが、夜が
深
(
ふ
)
けてはさすがに初冬の
寒気
(
さむさ
)
が感じられる。
里の今昔
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
万客
(
ばんきゃく
)
の
垢
(
あか
)
を
宿
(
とど
)
めて、夏でさえ冷やつく名代部屋の夜具の中は、冬の夜の
深
(
ふ
)
けては氷の上に
臥
(
ね
)
るより耐えられぬかも知れぬ。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
その対立はぬきさしならぬものとなり、憎しみは
深
(
ふ
)
かまり、安き心もない。知性あるところ、夫婦のつながりは、むしろ苦痛が多く、平和は少いものである。
悪妻論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
ぬばたまの
夜
(
よ
)
の
深
(
ふ
)
けぬれば
久木
(
ひさき
)
生
(
お
)
ふる
清
(
きよ
)
き
河原
(
かはら
)
に
千鳥
(
ちどり
)
しば
鳴
(
な
)
く 〔巻六・九二五〕 山部赤人
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
深
(
ふ
)
け行く寒き夜を、
大和
(
おほわ
)
一郎の
尚
(
な
)
ほ
兀々
(
こつ/\
)
と勉学に余念なし、雪バラ/\と窓を打ちて、吹き入る風に身を
慄
(
ふる
)
はしつ「オヽ、寒い、
最早
(
もう
)
何時かナ、未だ十二時にはなるまい——」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
夜は十二時一時と次第に
深
(
ふ
)
けわたる中に、妻のお光を始め、父の新五郎に弟夫婦、ほかに
親内
(
みうち
)
の者二人と雇い婆と、合わせて七人ズラリ枕元を囲んで、ただただ息を引き取るのを待つのであった。
深川女房
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
夏
(
なつ
)
が
漸
(
やうや
)
く
深
(
ふ
)
けると
自然
(
しぜん
)
は
其
(
そ
)
の
心
(
こゝろ
)
を
焦燥
(
あせ
)
らせて、
霖雨
(
りんう
)
が
低
(
ひく
)
い
田
(
た
)
に
水
(
みづ
)
を
滿
(
み
)
たしめて、
堀
(
ほり
)
にも
茂
(
しげ
)
つた
草
(
くさ
)
を
沒
(
ぼつ
)
して
岸
(
きし
)
を
越
(
こ
)
えしめる。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
遠くに聞える省線電車の響、蛙の声と風の音とが、さほど
深
(
ふ
)
けてもゐない夜を、気味わるいほど物さびしくしてゐる。
人妻
(新字旧仮名)
/
永井荷風
、
永井壮吉
(著)
さ
夜中
(
よなか
)
と
夜
(
よ
)
は
深
(
ふ
)
けぬらし
雁
(
かり
)
が
音
(
ね
)
の
聞
(
きこ
)
ゆる
空
(
そら
)
に
月
(
つき
)
渡
(
わた
)
る
見
(
み
)
ゆ 〔巻九・一七〇一〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
酒楼
(
しゅろう
)
に
上
(
のぼ
)
りても
夜
(
よる
)
少しく
深
(
ふ
)
けかかると見れば
欄干
(
らんかん
)
に近き座を離れて我のみ一人
葭戸
(
よしど
)
のかげに露持つ風を避けんとす。
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
一
梃
(
ちょう
)
の夜駕籠
頻
(
しきり
)
と道をいそぎ行く
傍
(
かたわら
)
に二匹の犬その足音にも驚かず疲れて眠れる姿は、土手下の閉ざせる人家の様子と共に夜もいたく
深
(
ふ
)
け渡りしのみか
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
君江の目にも
寐静
(
ねしずま
)
った路地裏の情景が一段
艶
(
なまめか
)
しく、いかにも
深
(
ふ
)
け渡った
色町
(
いろまち
)
の夜らしく思いなされて来たと見え、言合したように立止って、その後姿を見送った。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
咳嗽
(
せき
)
を
交
(
まじ
)
うる
主人
(
あるじ
)
の声と共にその妻の
彼方此方
(
かなたこなた
)
と立働くらしい物音が夜の
深
(
ふ
)
け渡るまでも
止
(
や
)
まなかった。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
いつ
深
(
ふ
)
けるとも知らぬ町の夜の物音は
忽
(
たちま
)
ち
彼方此方
(
かなたこなた
)
に鳴り出す夜廻りの拍子木に打消される折から
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
昨日
(
きのう
)
午後
(
ひるすぎ
)
から、夜も
深
(
ふ
)
けるに従ってますます
烈
(
はげ
)
しくなった吹雪が夜明と共にいつかガラリと晴れたのだという事を知った。それと共にもうかれこれ
午
(
ひる
)
近くだろうと思った。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
偐紫楼
(
にせむらさきろう
)
の
燈火
(
ともしび
)
は春よりも夏よりも
徒
(
いらずら
)
にその光の澄み渡る
夜
(
よ
)
もやや
深
(
ふ
)
け
初
(
そ
)
めて来た頃であった。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
その夜の雨から時候が打って変ってとても
浴衣
(
ゆかた
)
一枚ではいられぬ肌寒さにわたしはうろたえて
襦袢
(
じゅばん
)
を重ねたのみか、すこし夜も
深
(
ふ
)
けかけた
頃
(
ころ
)
には
袷羽織
(
あわせばおり
)
まで
引掛
(
ひっか
)
けた事があるからである。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
夏の末から秋になっても、打続く毎夜のあつさに今まで全く気のつかなかっただけ、その響は秋の夜もいよいよまったくの夜長らしく
深
(
ふ
)
けそめて来た事を、しみじみと思い知らせるのである。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
深
(
ふ
)
けるにつれてますます蒸暑くなるような日が幾日もつづく。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
深
常用漢字
小3
部首:⽔
11画
“深”を含む語句
深淵
深更
夜深
深々
執念深
深山
深川
深夜
深入
嫉妬深
深田
深慮
奥深
深谷
深碧
深山幽谷
深海
深緑
慈悲深
水深
...