昨夜ゆふべ)” の例文
昨夜ゆふべは夜もすがら静にねぶりて、今朝は誰れより一はな懸けに目を覚し、顔を洗ひ髪をでつけて着物もみづから気に入りしを取出とりいだ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「昨日夕方この端書が来ましたの、あたしに裁判所へ来いつてんでせう。私もうこはくてこはくて、昨夜ゆふべは寝ずに心配しましたわ。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「實は伜が梅吉に身代りを頼んで圍ひを拔け出すのは昨夜ゆふべに限つたことぢやないさうで、今までもちよい/\やつて居るさうですよ」
昨夜ゆふべもあんたのお噂をしてたところですよ。(椅子にかけ、調子を変へ)わしの噂をかね。(苦りきつて)ちえツ! それがお世辞かい。
浅間山 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
んだ事は、もうめやう。佐々木も昨夜ゆふべ悉くあやまつて仕舞つたから、今日けふあたりは又晴々せいせいして例の如く飛んであるいてるだらう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨夜ゆふべの収めざるとこの内に貫一は着のまま打仆うちたふれて、夜着よぎ掻巻かいまきすそかた蹴放けはなし、まくらからうじてそのはし幾度いくたび置易おきかへられしかしらせたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は昨夜ゆふべ碌々眠られなかつたことを思ひ出した。また姪も眠られなかつたと見えて、夜中に、何遍も床の上に起き返つたことを思ひ出した。
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
其にお前、昨夜ゆふべも宵の口にお前のうちの前を通つたら、ぴつたり戸を締めて、隣の洗濯屋の婆さんに聞いたら、其前の晩から歸らないつて言つてたよ。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
わたくしはしなくも、昨夜ゆふべローマからの滊車きしやなかんだ『小公子リツトルロー、トフオントルローイ』といふ小説せうせつちうの、あのあいらしい/\小主人公せうしゆじんこう聯想れんさうした。
『僕も然だよ。日頃はこれでも仲々意気の盛んな方なんだが、昨夜ゆふべ君と逢ツてからといふもの、怎したもんか意気地の無い事を謂ひたくなる。』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あれだけ茗荷めうがはせてなにを忘れたんだらう。主「ヤ、彼奴あいつめ、昨夜ゆふべ宿泊料はたごれうはらふのを忘れてきアがつたんだわえ。 ...
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
様子やうすけば、わし言托ことづけとほり、なにか、内儀ないぎ形代かたしろ一心いつしんきざむとく、……それ成就じやうじゆしたと昨夜ゆふべぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あゝ、大ちやん、その先はもう云つて呉れるな……昨夜ゆふべ書いたところと重複する、三重の苦しみは救からない。」
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
なぜといつて、兎さんは、昨夜ゆふべあんまり急いで逃げたので、小さな川におつこちて、指の先を怪我したのです。
兎さんの本屋とリスの先生 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
離るればすぐに山にてたにの流れも水嵩みづかさまして音高く昨夜ゆふべの雲はまだ山と別れず朝嵐身にこたへてさぶ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
勘次かんじはそれを凝視みつめてくとなんだか頭腦あたまがぐら/\するやうにかんぜられた。かれ昨夜ゆふべねむらなかつた。かれ自分じぶんひとりころしてねばならぬ忌々敷いま/\しさが頭腦あたま刺戟しげきした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
耕一にいちやんも蓉子姉ちやんも、何か買つて来るんだよ。みんな手分けで買つて来ることに、昨夜ゆふべ、ちやんと決めたんだよ。ママ、知らないでしよ。ないしよなんだから。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
樺の木はうっとり昨夜ゆふべの星のはなしをおもってゐましたのでついう云ってしまひました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
鏡子は昨夜ゆふべ二三十分ぐらゐは眠れたが、それも思ひなしかも分らない程で朝になつたのである。六ケ月の寝台ベツトの寝ごこちから、畳の上に帰つた初めてのの苦痛もあつたからであらう。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
だから、ヱヴェレストは千ねんまへ出来事できごと昨夜ゆふべゆめのやうにしてはなしてくれる。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
昨夜ゆふべの矢張り今の頃、酒屋の番頭が小僧をつれて、先々月からの御勘定を今日こそはといふので今まで幾十度となく主人の口車に乘せられて取り得なかつた金を催促に押しかけて來た。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
まァ今日けふ餘程よつぽど奇妙きめうよ!昨日きのふなんこともなかつたんだのに、昨夜ゆふべうちわたしうかなつたのかしら?さうねえ、今朝けさきたときにはなんともなかつたかしら?、なんだかちつへんなやうでもあるし
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
昨夜ゆふべも、同じやうな夢を見た
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
つい昨夜ゆふべ
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
「早耳のお前が、宜い心持で昨夜ゆふべのことを思ひ出して居る頃、——石原の利助親分のところのお品さんの使ひで直ぐ來るやうにと——」
よく知つてると思つたら、此男は昨夜ゆふべ始めて、寄席よせへ這入つたのださうだ。三四郎は何だか寄席よせへ行つて昇之助が見度なつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨夜ゆふべはチツとも気がつかなかつたですが、無論読んだには読んだ筈なんで、多分「父が死んだ」といふ、たゞそれ丈けで頭が一杯だつたせゐでせう。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
実は、昨夜ゆふべ電報が来てね。船からなんだが……梨枝子夫婦が今度フランスへ行く途中、此処へ寄るらしいんだ。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
昨夜ゆふべつてつた彫像てうざうのまゝ突返つゝかへされて、のめ/\とかついでかへつたんです。しか片腕かたうでもぎつてある、あのさいたせたが。……あゝ、わたし五躰ごたいしびれる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「しかし、もう、お疲れでせう。何しろ、昨夜ゆふべも夜行で碌にお休みにはなれないところに、すぐつゞいてこの客ですから——もうお休みになる方が好いでせう」
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
四隣まはりが遠うござりますので御気分の為にも良からうかと存じまする、はい昨夜ゆふべはよくおやすみに成ましたが今朝ほどは又少しその、一寸ちよつと御様子が変つたやうで、ま
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
寫す富士のおもかげさぞと胸に畫けば煙霧糢糊たる間一種の風景あり馬士まごまた云ふ昨夜ゆふべわしの方で大喧嘩が有りました湯の中で騷いだので大きに迷惑します一体湯を引いて湯塲を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
昨夜ゆふべまへさんにあづけた、アノ胴巻どうまきしてんな。主「はい/\此品このしな御座ございますか。客「イヤこれを忘れちや大事おほごとだ、アヽ有難ありがたい、はい左様さやうなら。主「ア、つちまつた。 ...
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
人々は昨夜ゆふべのランプを吹き消して、それを思ひ思ひの花環ガーランドで飾り、恭々しく奉げて祭りの広場に集るのである。広場の中央にある方尖塔オベリスクの下に先を競うて駈けつけるのである。
山彦の街 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
僕たちは、蓉子姉さんが女学校から聞いて来たので、早速、昨夜ゆふべみんなで相談して、今日の夕御飯だけでも僕たち子供でつくつて、僕たちのお母さんに食べさして上げたいと思つたのです。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
夫人おくさん昨夜ゆふべ御安眠ごあんみんになりましたか。』とふと、夫人ふじんかすかなえみうか
僕がそばに居ると智慧ちゑを付けて邪魔をると思ふものだから、遠くへ連出して無理往生に納得させるはかりごとだなと考着くと、さあ心配で心配で僕は昨夜ゆふべ夜一夜よつぴてはしない、そんな事は万々ばんばん有るまいけれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「いゝや。ふくろふは、昨夜ゆふべ、こっちへ来なかったやうだよ。」
気のいい火山弾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かあさんは昨夜ゆふべよくないのでね、頭が痛いのよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
昨夜ゆふべみたのは
野口雨情民謡叢書 第一篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「ところが、さう手輕には行きませんよ。昨夜ゆふべ小耳に挾んで、飛んで行くともう黒門町の庄太の野郎が來て、散々掻き廻したあとでしたがね」
昨夜ゆふべ、そこに轢死があつたさうですね」と云ふ。停車場か何かで聞いたものらしい。三四郎は自分の経験を残らず話した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雨戸が半ば明けられて、昨夜ゆふべ吊つたまゝの盆燈籠ぼんどうろその軒に下げてあるいへもあつた。雨戸の全く閉め切つてあるいへもあつた。箪笥たんす葛籠つゞら長持ながもち、机などが見えた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なにをしてござる、御修行ごしゆぎやうが、このくらゐあつさで、きしやすんでさつしやるぶんではあんめえ、一生懸命しやうけんめい歩行あるかつしやりや、昨夜ゆふべとまりから此処こゝまではたつた五
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飛ばしたのよ。長いでせう。着いたらへとへとなの。でも、昨夜ゆふべのうちに、ちよつと父のところへは顔を
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
といふがありしと覺ゆ「鴨ぞ鳴くなる川よどにして」の古歌に心は同じにして只俗なるのみ俗なるゆゑ人に通ず俚歌りかは輕んずべきものにあらずと昨夜ゆふべに懲りて此夜は眞面目なり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
甲板かんぱんると、弦月丸げんげつまる昨夜ゆふべあひだにカプリとうおきぎ、いまはリコシアのみさきなゝめ進航しんかうしてる、季節せつは五ぐわつ中旬なかばあつからずさむからぬ時※じこうくはふるに此邊このへんたい風光ふうくわう宛然えんぜんたる畫中ぐわちゆうけい
昨夜ゆふべ翁さんからくはしく話があつて、その上に頼むといふ御言おことば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
昨夜ゆふべも君から
極楽とんぼ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
昨夜ゆふべ娘のお美乃を小石川の叔母のところへやつたのも日濟しの拂ひが溜つて、お六に目の玉の飛び出るやうに催促さいそくを受け、思案に餘つての工面だ。