あし)” の例文
旧字:
すべて、私念わたくしといふ陋劣さもしい心があればこそ、人間ひと種々いろいろあし企画たくらみを起すものぢや。罪悪あしきの源は私念わたくし、私念あつての此世の乱れぢや。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
嫌つたと云ふ訳なら、さうかも知れませんけれど、私はすべての人間が嫌なのですから、どうぞあしからず思つて下さい。貴方も御飯を
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それをよいことにして、諸国、江戸表にまで出て、あしざまに世へいい触らし、仇呼かたきよばわりをするのみか、御出世の道をさまたげおったな
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつこの歌の姿、見ゆる限りは桜なりけりなどいへるも極めてつたな野卑やひなり、前の千里ちさとの歌は理窟こそあしけれ姿ははるかに立ちまさりをり候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ひたすらにあしき世を善に導かんと修行に心をゆだね、ある山深きところに到りて精勤苦行しゐたりけるが、年月としつきたち一旦いったん富みし弟の阿利吒ありた
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「句のよしあしはともかくも、産みの苦しみは遁がれましたよ。ああいい気持ちだ。セイセイした」「わしは駄目だ!」と平八は
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
心を山伏に語ると、先達もこぶしを握って、不束ふつつかながら身命に賭けて諸共もろともにその美女たおやめを説いて、あしき心を飜えさせよう。いざうれ、と清水を浴びる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
変態的骨董こっとう趣味の一つのあらわれに過ぎないかも知れないが、一体人には、よかれあしかれ、自分にないものをあこがれ求める共通性があるもので
善かれあしかれ西洋を見るのは、面白い事に違いないじゃないか? 唯此処の西洋は本場を見ない僕の眼にも、やはり場違いのような気がするのだ。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、折りあしくして一益は、平素の余りの色好みから、虚脱の風となり、このごろは臣下の多くに面接せぬという。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
気のいい老父は、よかれあしかれ三人の父親である耕吉の、泣いて弁解めいたことを言ってるのに哀れをもよおして、しまいにはこうなぐさめるようにも言った。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
お登和嬢はあしき点のみを知れり「ですがあのお方は幾度いくたびも落第をなすって去年やっと御卒業だったそうですね」妻君
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もし、あしきを加え続けばその反対となると説くのであります。その根本の性を無性と説き、その上に現るる因果の法は歴然であると説くのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また自分はさほど悪く思わなかった人にして、自分のことをあしざまに非難したことを聞くと、その瞬間よりその人が善くなく思われたりするものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
従ってこの話は、黒田藩に起った事実を脚色したものであるが、しかし人名、町名と時代は差障さしさわりがあるから仮作にしておいた。あしからず諒恕りょうじょして頂きたい。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はなはだ困り候折さふらふをりからゆゑ、誠に残念には御座候得共ござさふらえども右様みぎやう次第しだいあしからず御推察ごすゐさつなし被下度候くだされたくさふらふ匆々さう/\
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「姉さん、僕は貴嬢が母のかはつてる為めに、僕を疎遠になさるとか、あしき母より生れたる僕の故を以て……」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「何れ主人と相談の上御返事申上げますが、主人は流儀がございますから、何うぞそのお積りであしからず」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あしき人はその生ける日の間つねに悶え苦しむ……その耳には常に怖ろしき音きこえ、平安の時にも滅ぼす者これに臨む……彼は富まず、その貨物たからは永く保たず
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
手前共では、もう一切そういうことはしないことにして居りますから、どうぞあしからず思召してねえ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一 身のかざりも衣裳の染色模様なども目にたゝぬ様にすべし。身と衣服とのけがれずしてきよげなるはよし。すぐれきよらを尽し人の目に立つ程なるはあしし。只我身に応じたるを用べし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分達はこの地で明治天皇陛下の大葬の当日をすごした。折あしく風を帯びた寒い雨の降る朝であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
友人いうじんいはく、我がしたしき者となり村へ夜話よばなしゆきたるかへるさ、みちかたはら茶鐺ちやがまありしが、頃しも夏の事也しゆゑ、農業のうげふの人の置忘おきわすれたるならん、さるにてもはらあしきものはひろかくさん
山伏は血縁をもって相続した故に、彼らの伝統の記憶は濃厚であり、その数もまたなかなか多かった。現にその気風はよきにつけあしきにつけ、今も片隅にはのこっている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
洗礼を施すはあしきことにあらず、然れども其を以て基督の弟子となるに欠くべからざるの大礼となすは非なり、心を以て基督に冥交する時、彼は無上の栄ある基督の弟子なり
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
これはいかなこと! 昨日きのう登山第一の元気はどこへやら、焼酎しょうちゅうは頭へのぼって、胸のあしき事はなはだしく、十二、三町走るか走らぬに、とてたまらず、煙草たばこ畑の中へ首を突込んで嘔吐へどく。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「それがいやはや、さすがの沼田正守、あきれ申したわい。かりにも御領主どのゆえ、あしざまに言うはちとはばり多いが、それにしても当代十郎次どの、少々あの方がきびしゅうてな」
いわなは小なるを貴び、且ところの流にて取りたるをよしとするものなるに、わが買いもてかえりしは、草津のいわなの大なるなれば、味定めてあしからんという。こころみるに果して然り。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いま一遍は、いよいよ新聞の方が極まったから、一晩緩り君と飲みたい。何日いくかに来てくれという平岡の端書が着いた時、折あし差支さしつかえが出来たからと云って散歩のついでに断わりに寄ったのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我輩をあしざまにした、我輩のこうむった不愉快も少々なものではなかった、当時、彼から来た手紙なども見ないで放っぽり出していたのだが、近頃或事件の必要から古い手紙類を整理したところ
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かつこの歌の姿、「見ゆる限りは桜なりけり」などいえるも極めてつたな野卑やひなり、前の千里ちさとの歌は理屈こそあしけれ姿ははるかに立ちまさり居候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
二つ有るものの善きを捨て、あしきを取り候て、好んで箇様かようの悲き身の上に相成候は、よくよく私に定り候運と、思出おもひいだし候てはあきらめ居り申候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
円壔形もしくは方壔形のものはを水底に触れつ離れつせしむる折に臨み、水底にて立ちては仆れ立ちては仆るゝまゝ要無き響きの手に伝はりてあし
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
きもまた、交わること三十年。あしきもまた、交わること三十年。好友悪友も、根元は、わが心の持ちかたにあろう」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時その役つとめし後、かれはまた再びじょうに上らざるよし。蛇責の釜にりしより心地あしくなりて、はじめはただ引籠ひきこもりしが、俳優やくしゃいやになりぬとてめたるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母はアノ恟りいたしまして身体も大分あしくなりましたが、此方こっちより手紙を出しましてもむこうから参ることも出来ませんで、此の頃は兄が諸方の借財方に責められまして
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あしからずご諒承下さいますよう。事実小会社でございますので、費用を捨てるのが洵に惜しく……
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私こそ調子に乗って、飛んでもないことを申上げて、今更後悔しています。うぞあしからず」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一 下女を使つかうに心をもちうべし。言甲斐いいがいなき下﨟げろうならわあしくて知恵なく、心奸敷かしましくものいうことさがなし。夫のこと舅姑こじゅうとのことなど我心に合ぬ事あれば猥にそしきかせて、それを却て君の為と思へり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
相互に利益をことにするように聞こゆれども、そういうように意味を取ると、とかく性質があしざまになりて、表向きでは一てきの酒を飲まぬと言いながら、裏面ではこっそりとちびちび飲む。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
必ずしも蘆カガであり、またはあしカガであると解しておくわけには行かぬ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小ざかしき智慧才覚で、しのあしのと聴き分くる心の耳を捨てるが宜い。聞く事を更に聞き知り、響きの響きを悟らせる、その源の耳に還ってわしのいう事を今よく聴け。阿難よ。お前は今悔て居る。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
仏蘭西フランスの河は何処どこへ行つても美しいが、リオンもまた市内を屈折して流れる河によつて明媚な風致に富んで居る。折あしく日曜日であつた為に三井物産会社の支店へ尋ねた某氏に会ふことが出来なかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
んだ八当やつあたりで貴方へ御迷惑が懸りますやうでは、何とも私申訳がございませんから、どうぞそれだけお含み置き下さいまして、あしからず……。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「こいつ、ただいまご城下じょうかつじで、信玄しんげんのまえへ供物くもつをあげながら、徳川家とくがわけのことをあしざまにのろっておりました」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人いづくんぞ常にあしからむ、縁に遇へば則ち庸愚ようぐも大道を庶幾しょきし、教に順ずるときんば凡夫も賢聖に斉しからむことを思ふと、高野大師の宣ひしも嬉しや。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それでなくッてもてまえ商売などは、秘密の秘の字でもある向には、嫌われるで、遠慮をしますから、あしからず。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
字余りにしたるがためあしきもの、第三、字余りにするともせずとも可なるものと相わかれ申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しかるにお嬢様は此のお國を憎く思い、たがいにすれ/\になり、國々と呼び附けますると、お國は又お嬢様に呼捨よびすてにされるをいやに思い、お嬢様の事をあしざまに殿様に彼是かれこれ告口つげくちをするので
と、日吉をなぐった若侍は、何といっても、日吉が武芸の稽古をこばむということを、武家奉公の異端者であるとして、口を極めて、あしざまに人々へ披露した。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)