まる)” の例文
旧字:
なぜならつくえかどは、小刀こがたなかなにかで、不格好ぶかっこうけずとされてまるくされ、そして、かおには、縦横じゅうおうきずがついていたのであります。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まあしかし、まるくゆくものなら、このまま納めた方がいい。そうなれば、金の方は後でどうにか心配するけれど、今はちょっとね」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長い細やかな房々ふさふさした髪に縁取られてるまるひたい、そしてその髪は、縮れもせずにただ軽いゆるやかな波動をなして、顔にたれていた。
それがまたおのずからなまるみを暖く抱いて、眼のとどかない上の方から、眼の先の寝床の上まで、大きな鍾乳石しょうにゅうせきのように垂れ下っている。
女体 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
王子は身仕度みじたくをし、長い外套がいとうをつけまるい帽子をかぶり、短い剣をこしにさして、誰にも気づかれないように、そっと城をぬけ出しました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
枝端したんに一花ずつ開き、直径はおよそ一二センチメートル内外もあろう。花下かかに五へん緑萼りょくがくがあるが、つぼみの時にはまるく閉じている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ままよと濡れながら行けばさきへ行く一人の大男身にぼろをまとい肩にはケットのまるめたるをかつぎしが手拭てぬぐいもて顔をつつみたり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
むまじき事なりおとろふまじき事なりおとろへたる小生等せうせいらが骨は、人知ひとしらぬもつて、人知ひとしらぬたのしみと致候迄いたしそろまで次第しだいまるく曲りくものにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
さういふ時に私は、地球はまるい、地球はいつまでも廻つてゐると書かれてあつた地理の教科書の教へを身をもつて体験したのです。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
それ異人が来たと言って、そこいらに腰掛けながら休んでいた旅人までが目をまるくする。前からも後ろからものぞきに行くものがある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
引摺ひきずるほどにそのやっこが着た、半纏はんてんの印に、稲穂のまるの着いたのも、それか有らぬか、お孝が以前の、派手を語って果敢はかなく見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなたの直線というのは比喩たとえじゃありませんか。もし比喩なら、まると云っても四角と云っても、つまり同じ事になるのでしょう」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この三つのレブは皮の方にあって悪い処ですけれどもちょうどレブロースの真中まんなかしんのようになってまるい長い肉が少しばかりあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
桑港フリスコの夜、船から降りたった波止場のはずれに、ガアドがあって、その上に、冷たくかかっていた、小さく、まんまるい月も忘れられません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
来いと仰しゃればきもしましょうが、頭髪あたまを剃らんでも改心さえすれば宜しい頭ばかりまるくっても心を改めんではなんにもなりません
まるい月が空にかかり、青白い花束のような月光が家々の屋根に砕けている。見ると腕時計は三時だった。いよいよいけなかった。
赤い手帖 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさん人間の家があるからね、まず表にまるいシャッポの看板のかかっている家をさがすんだよ。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
クリステはクリスチアナ——諾威ノウルウェの首府の前名から来てる——の略で、スキイを外側にまるく使って、急に向きを変える曲芸スタントの一つである。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
隣の植木屋との間は、低い竹垣になっていて、丁度純一の立っている向うの処に、花の散ってしまったはぎがまんまるに繁っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いま私のいる部屋へやには、一まるい時計がかかっています。この時計の表面は、ただ長い針と短い針とが、動いているだけです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
真黒に塗りたてた空の書割の中央まんなかを大きく穿抜くりぬいてあるまるい穴にがついて、雲形くもがたおおいをば糸で引上げるのが此方こなたからでもく見えた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一般の安全をはかりて保護の世話をなし、人民は政府の命令に従いて指図の世話にもとることあらざれば、公私の間まるく治まるべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
とかうめいて、自分たち個々の弱さを、いたずらに示すに過ぎない虚勢のまま、ややしばらく、桶のようにまるくなって、武蔵を囲んでいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのそばにはまだ五六人の仲間がいて潰した皮粕かわかすまるめてざるの中へ入れたり、散らばっているの皮を集めてその手許てもとに置いてやったりした。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
法螺ノ貝というのは丁度鶏冠山の南側に在って、河が大きな淵を成している。其上を高さ一丈か一丈四、五尺位の岩のまる天井が掩うている。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「何だエ」と伯母は眼をまるくし「其様そんなえら婦人ひとで、其様そんなとしになるまで、一度もお嫁にならんのかよ——異人てものは妙なことするものだの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
豆猿といふのは、ポケツトや掌面てのひらのなかにでもまるめ込んでしまはれさうな小さな猿で、支那でも湖南あたりにしか見受けられないやつこさんだ。
が、足が酷く汚れていたのでひざめいの寝ているらしい奥の間の方へした。黄色い坐蒲団ざぶとんまるめたようなものが見えた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ところで、極彩色の孔雀くじゃくがきらきらと尾羽おばまるくひろげた夏の暑熱しょねつと光線とは、この旅にある父と子とをすくなからず喜ばせた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
赤い毛、碧い眼、まるい滑らかな顎、伸々のびのびした四肢、美しい皮膚など、岩吉はもとより、此辺で見かける人達とは、まるっきり違ったものです。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
今し方工場から帰つたばかりの嘉吉は、いつもの癖で仕事着のまゝまる飯台はんだいの一方に場広くあぐらにわつて、もうがつ/\やらかしてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
顱頂ろちょうの極めてまんまるな所(誰だって大体は円いに違いないが、案外でこぼこがあったり、上が平らだったり、うしろが絶壁だったりするものだ。)
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
南の座敷が掃除そうじされ装飾されて、そこをまるい頭が幾つも立ち動くのを見るのも、今日の姫君の心には恐ろしかった。僧都は母の尼の所へ行き
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まる取巻とりまいたなかから、ひょっこりくびだけべて、如何いかにもはばかった物腰ものごしの、ひざしたまでさげたのは、五十がらみのぼて魚屋さかなやだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのまるい帽子の影はやが木隠こがくれて見えなくなつたが、ミハイロは背後うしろで手を組むで、まだ立つてゐる。何処へ行処ゆきどころもない。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
どれも辮髪を背中にたれ、赤い珊瑚玉のついた帽子を被り、長い煙管キセルを口にくわえて、悲しそうな顔をしながら、地上にまるくうずくまっていた。
先ずこのがやがやが一頻ひとしきりむとお徳は急に何か思い出したようにたって勝手口を出たが暫時しばらくして返って来て、妙に真面目まじめな顔をして眼をまるくして
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「大雪が凍死体を埋めてゆくように」刻々に『時』にまれてゆくことを自覚している精神であり、もはや「高みより地球のまるい形を眺めつつ」
たなの隅にカタのついた汚れた猿又やふんどしが、しめっぽく、すえたにおいをしてまるめられていた。学生はそれを野糞のように踏みつけることがあった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
場処ばしょは大抵は耕地の附近に、石を土台にしてまるい形に、稲の穂先ほさきを内側にして積み上げて置く、きわめて簡易且つ悠長ゆうちょうなる様式のものであるが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
種子島とはひかくにならない、黒々としたまるい島である。久しぶりに、島の濃緑な色を眺めて、富岡は、爽快な気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それで、こんどは、おかの方を見ました。すると、島のまん中ほどに、大きな、白い、まる屋根のようなものが見えました。
瞬間——豚盗人は、一寸松林の方を振向いて、何でもこう鳥の鳴く様な異様な叫びを挙げると、いきなりまるくなって線路伝いに馳け出したんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
部屋の真中に秣草桶をまるく並べ、みんなはそのまわりに、藁蒲団を敷き、尻餠をついたように、その上に坐るのでした。
「その前に、おれが兄貴と喧嘩する。金でまるくすむのに、家のことも思わずに、何だ。おれにも考えがある。離せ!」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と私は眼をまるくしましたが、その瞬間にいつか大村で聞き流した、あの言葉を思い出さずにはいられなかったのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
媒妁の家は菜食で、ダシにも昆布こんぶを使って居るので、二つの鰹節包は二人の車夫にやった。車夫は眼をまるくして居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
最初には黄いろいこととまるいこととが伴なって結びついて居り、緑いろとしわのあるのともそうであったのに、ここではこれの性質が離れてしまって
グレゴール・メンデル (新字新仮名) / 石原純(著)
顔の長くてまるくて大きいこと、海坊主のような男であったが、ひどく大袈裟おおげさな物々しい男のくせに、私と何の距てもない心の幼さが分るようであった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
昔から世をはかなんで頭をまるめた男女はもとよりのこと、頭は円めないが、普通の生活をしていながら、世をはかなんだ男女の数は数限りもなくある。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)