何人なんびと)” の例文
いつ、どういう時に、彼が官庁に入ったのか、また何人なんびとが彼を任命したのか、その点については誰ひとり記憶している者がなかった。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
であるから人の困厄を見れぱ、其人が何人なんびとであらうと、憎悪にくあしするの因縁いはれさへ無くば、則ち同情を表する十年の交友と一般なのである。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
市九郎は、十日の間、徒らな勧進に努めたが、何人なんびともが耳を傾けぬのを知ると、奮然として、独力、この大業に当ることを決心した。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この四つのうちに、重要の度からして差等の点数をつけて見ろと云われた時に、何人なんびともこれをあえてする事はできないはずと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとえば音楽にしても聞き慣れたラルゴの曲をプレストで演奏したらもはや何人なんびともそれが何であるかを再認することはできないであろう。
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
恐らく何処にか埋め隠して置いて、詮議のゆるんだ頃にそっと持ち出すという方法を取るであろうとは、何人なんびとも想像するところであった。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
茲まで考え来るときは倉子に密夫みっぷあるぞとは何人なんびとにもしらるゝならん、密夫にあらで誰が又倉子が身に我所天おっとよりも大切ならんや
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
従来これまで動機と犯罪現象とが、何人なんびとにも喰い違っていて、その二つを兼ねて証明された人物と云えば、かつて一人もなかったのだ。とにかく。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さてはわが想像にたがはざりけり。何人なんびとの紹介状をも持参せず突然たづね行きける故主人自ら立出でしまま不在といひて謝絶せしなるべし。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何人なんびとも大半は婦人によつて教育せられるのであると云ふ一を見ても、婦人は男子と対等の生活を営みる権利をつて居るのはあきらかである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ことに殺人の動機が外に表われていない時においては、何人なんびとか之を人殺しと云い得るでしょう。即ち最悪の場合でも殺人事件にはなりませぬ。
彼は誰を殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
したがつ日本國内にほんこくないからきん解禁かいきんごときことは、國民的こくみんてき大問題だいもんだいであるとふことは何人なんびと否認ひにんすることの出來できないことである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
モーツァルトの音楽は、古典音楽の絶頂におかれたもので、その形式美の絢爛けんらんたる点においては何人なんびとも及ぶところではない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
孝子に幸福を与へしものは何人なんびとかの遺失せる塩竹の子のみ。或は身を売れる一人ひとり娘のみ。作者の俗言を冷笑するもまた悪辣あくらつきはめたりと云ふべし。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
みちの上が急に暗くなって来た。何人なんびとかがこのあたりに見はっていて、故意に門燈のスイッチをひねっているようであった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
騒ぎは鎮まり、燈光は宮殿の中で消えてしまい、予がいまやようやくその何人なんびとであるかを認めたかの見知らぬ人はただ一人敷石の上に立っていた。
しかし何人なんびとも彼らの鋭い真理への追求を等閑にすることはできぬ。そこには来るべき工藝論に対する多くの示唆が宿る。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
是は何人なんびともただちに思い起すであろうごとく、紀記両書の神代巻に、いわゆる山幸海幸やまさちうみさちの物語として、久しく語り継がれてきた海の国の名であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
恐らく犯人にとっては、この『品物』が、何人なんびとの命に換えても大切なものであって、それを手に入れる為に今度の事件が起ったと見るべきであろう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たゞ水の東京に至つては、知るもの言はず、言ふもの知らず、江戸の往時むかしより近き頃まで何人なんびともこれを説かぬに似たれば、いで我試みにこれを語らん。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それはまごうかたもなく当時にあっては何人なんびとも珍重しておかぬ伊太利珊瑚イタリヤさんごの虫きずもない七寸ばかりな生地でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左様さやう何人なんびとか罪の悩をいだかぬ心をつでせうか」と篠田は飛び行く小鳥の影を見送りつゝ「けれど、悩はやがて慰に進む勝利の標幟しるしではないでせうか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しょうあいだわたくし自分じぶんむねなか程度ていどまで打明うちあけたのは、あなたお一人位ひとりくらいのもので、両親りょうしんはもとよりその何人なんびとにも相談そうだんひとつしたことはございませぬ。
僕はこの瞬間、思わず頭のクラクラする恍惚感を感じたのです。真赤な血の海の中をひくひくと動く蒼白な肌の色は何人なんびとも描くことの出来ない美の極地ですね
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
涙が目じりからあふれて両方のこめかみの所をくすぐるようにするすると流れ下った。口の中は粘液で粘った。許すべき何人なんびともない。許さるべき何事もない。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それが現在の何人なんびとの利害の意識をも刺戟しないばつかりに、昔彼を責めた人々も、風變りな地主だとして彼を見逃すし、彼も亦氣安くてゐることが出來るのだ。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
その男の捕えられるまでは、何人なんびとといえども片盤坑から抜け出る事は出来ない。こうして水も洩らさぬ警戒陣が出来上ると、技師は広場の事務所へやって来た。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
何人なんびとにもあれ地図を見ないで初めて此地方に来て、南方から兎岳を望見したならば、利根川両岸の山脈は兎岳に於て合するものと思わぬ者はないであろう。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
およそ日本国に生々せいせいする臣民は、男女老少を問はず、万世一系の帝室を奉戴ほうたいして、其恩徳を仰がざるものあるべからず。此一事は、満天下何人なんびとうたがいれざる所なり。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
しこうして先生は二人のほか何人なんびとにも示さざれば決して他にるるはずなきに、往々これを伝写でんしゃして本論は栗本氏等の間に伝えられたるものなりなどの説あるを見れば
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
何人なんびとが何といおうと、独本土上陸作戦を決行する吾輩の決意には、最早変りはない。ドイツを屈服くっぷくせしめる途はただ一つ、それより外に残されていないのである」
何人なんびとも隠すべきものをもっている。秘密といえば何か悪事するごとく思い疑わんが、決してそうでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「陛下、やがて寡婦たるべき妻のために御礼を申しまする。」一時間後に彼はオーアンの峡路におちいった。さてこのジョルジュ・ポンメルシーとは何人なんびとであったか。
もう何人なんびとの力も役には立たないのです。あの人は阿片を多量に喫して辛うじて睡眠をとりました。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
後の日を約して小走りに歸り行く男の影をつく/″\見送りて、瀧口は枯木の如く立ちすくみ、何處ともなく見詰むる眼の光たゞならず。『二郎、二郎とは何人なんびとならん』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その農夫たちの家もやはり土塀の中にあったが、彼らも何人なんびとの姿も見なかった。それからみんなは叢という叢を掻き𢌞したり、円柱にからみついている蔓草を引きむしった。
彼に限らず何人なんびとにても彼の場合に立ちて、光明探究の心を棄てずばついにここに至るのである。これを特殊の天啓と見ずとも人間自然の要求と見れば少しも怪むを要さない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
死に到る道程の全部を歩いてきた。全部を経験してきた。それは同志の中の何人なんびとも知らないような焦熱地獄しょうねつじごくの苦しみであった。おお、俺はそれだけでも許さるべきではないか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
よしこのやまいゆとも一たび絶えし縁は再びつなぐ時なかるべきを感ぜざるにあらざるも、なお二人が心は冥々めいめいうちに通いて、この愛をば何人なんびともつんざくあたわじと心にいて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
藤井はしょう何人なんびとなるかを問いきわむる暇もなく、その人にひかれて来り見れば、何ぞはからん従妹じゅうまいの妾なりけるに、更に思い寄らぬていにて、何故なにゆえの東上にや、両親には許可を得たりやなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
即座に、両親の面前で、同時に、姉のエルネスチイヌと兄貴のフェリックスのうらやましそうな眼つき(だが、何人なんびともすべてのものを得るわけには行かぬ)をしりえに、一服おうと思う。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
同時にまたあの事件を何人なんびとの利益のために、何人なんびとに依頼されて実行したかをあばくことの出来る人間であるということを、現在巴里パリーに時めく若干なにがしかの紳士ジェントルマン等に思い知らせるためである。
捨てるのに躊躇ちゅうちょしなかった命さえもまだ残っていて、この先どうなっていくのであろう、全く死んだ者として何人なんびとからも忘れられたいと思い悩んで、横になったままの姿で浮舟うきふねはいた。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
現在げんざいおいて、アイヌせつ代表だいひやうされる小金井博士こがねゐはかせアイヌせつ代表だいひやうされる坪井博士つぼゐはかせ此二大學説このにだいがくせつじつ尊重そんちやうすべきであるが、これ意外いぐわいろんじるほど材料ざいれうを、そもそ何人なんびとあつめつゝあるか
第二に何人なんびとを問はず、忠之に背き、又は國家の害をなすと認めた時は、三人が忠之に告げて其人の處置を請ふ事、第三に三人を離間するものがあるときは、必ず互に打ち明けて是非を正す事
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「御秘蔵の乾雲丸が先生のお命を絶とうとは、何人なんびとも思い設けませんでした。がしかし、因縁いんねん——とでも申しましょうか、離れれば血を見るという乾雲は、離れると第一に先生のお血を……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
野に山にわれらの周囲に咲きほこ草花くさばなを見れば、何人なんびともあのやさしい自然の美に打たれて、なごやかな心にならぬものはあるまい。氷が春風にけるごとくに、いかりもさっそくにけるであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「いまごろ、何人なんびとっているのだろう。」と、あやしみながら、よくつめますと、それは、うつくしい、わかおんなでありました。かれは、好奇心こうきしんから、つい、そのそばにちかづいてみるになりました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何人なんびとも欺し得ず、何ものも傷付け得ぬところまで行き付くのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何人なんびと何用なにようありてひたしといふにや親戚しんせき朋友ほういう間柄あひだがらにてさへおもてそむけるわれたいして一面いちめんしきなく一語いちごまじはりなきかも婦人ふじん所用しよようとは何事なにごとあひたしとは何故なにゆゑ人違ひとちがひとおもへばわけもなければ彼處かしこといひ此處こゝといひまはりし方角はうがく不審いぶかしさそれすらこと不思議ふしぎなるにたのみたきことありあし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)