随分ずいぶん)” の例文
旧字:隨分
随分ずいぶん疲れるぜ。僕あ、おやじの死ぬとき一週間ばかり徹夜てつやして看病した事があるが、あとでぼんやりして、大いに弱った事がある」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敦子あつこさまが、こちらで最初さいしょかれた境涯きょうがい随分ずいぶんみじめなもののようでございました。これが敦子あつこさま御自身ごじしん言葉ことばでございます。——
大道で小便とは今から考えれば随分ずいぶん乱暴であるが、乱世の時代には何でもない、こんな乱暴がかえって塾の独立を保つめになりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
現に僕の知つてゐる或る人などは随分ずいぶん経済的に苦しい暮らしをしてゐながら、富豪や華族ばかり出て来る通俗小説を愛読してゐる。
小説の読者 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「だって、いかにもあたしが意気地いくじがないから柿をられたんだって云うような口ぶりなんですもの。あの梵妻さんも随分ずいぶんだわ。」
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「ホウ、妙なものが出ているね。行って見ようじゃないか。化物屋敷なんて随分ずいぶん久し振りだ。東京にもこんな見世物がかかるのかねえ」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
随分ずいぶん撃ってみてもよいが、何かけるか」と甚五郎が言うと、蜂谷が「今ここに持っている物をなんでも賭きょう」と言った。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それがまた随分ずいぶんと興味のある仕事なのである。その中でも鳥の名は最も久しい間、田舎に住む少年たちの面白がる題目であった。
しかし今日こんにちところでは病院びょういんは、たしか資力ちから以上いじょう贅沢ぜいたくっているので、余計よけい建物たてもの余計よけいやくなどで随分ずいぶん費用ひようおおつかっているのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
晴れた日の午後一時頃と記憶しているが、これも随分ずいぶんひどい揺れ方で、市内につぶれ家もたくさんあった。百六、七十人の死傷者もあった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
無論小さく、写生風しゃせいふうに、鋳膚いはだで十二分に味を見せて、そして、思いきりばしたくびを、伸ばしきった姿の見ゆるように随分ずいぶん細く
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いや私が書生仲間しょせいなかまには随分ずいぶんかようなる事に常々つねづね注意ちゅういし、当時の秘密ひみつさぐり出し、互にかたり合いたることあり、なおれたる事柄ことがらも多かるべし
「はい、夏向なつむき随分ずいぶん何千人という東京からの客人で、目の覚めるような美麗びれいかたもありまするが、なかなかこれほどのはないでございます。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この頃ではこの議を随分ずいぶん自分から提唱ていしょうして、乱れぬ程度でこの女のみにいられた苛酷かこく起居ききょから解放されて居るには居ます。思い出しました。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
愛情と魅力と輝きの本尊のような「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は随分ずいぶんたくさんレコードされているが、その優雅にして端正な美しさで
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
▲死んだ亡父おやじは、御承知のとおり随分ずいぶん幽霊ものをしましたが、ある時大磯おおいその海岸を、夜歩いて行くと、あのザアザアという波の音が何となく凄いので
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
てくてく歩きながら帰途に就いたが、まだその時分のことで、あれから芝まで来る道には、随分ずいぶん淋しい所もあった。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
こんどのいくさまえときおとらず随分ずいぶんくるしい戦争せんそうでしたけれど、三ねんめにはすっかり片付かたづいてしまって、義家よしいえはまたひさりでみやこかえることになりました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
敗荷はいか、ああ敗荷よ。さながら人を呼ぶ如く心に叫んで、自分はもはや随分ずいぶん歩きつかれていながらも、広い道を横切り、石段を下りて、また石橋を渡った。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ぼくをみるなり「坂本さん。これあんたんじゃろう。随分ずいぶん、あんたを探していたのよ」と差出してくれたのは、くしたとばかり、思っていた蟇口です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
御殿の様な奥まった広い座敷のとこへでもこれを立てけておいて御覧なさい、随分ずいぶんいやなかんじのするものだ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
伯母おばさんが一週間ほど前に行方不明になったんで、そのことで行ったんですよ。随分ずいぶんこの事件、面白いのよ。ひとには云えないことなんです、ですけれど……
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「何うせ、人生じんせいツてものは淋しいものさ。不幸なことを謂や僕なんか随分ずいぶん………」と謂ひかゝツて、ふと口をつくむでお房は氣の無い顏で外の方をながめてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
寄る年と共にますます耳は遠くなり、貧乏教会の牧師で自身の貯金も使い果した後は、随分ずいぶんみじめな生活でした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
河童がたろ横町の材木屋の主人から随分ずいぶんと良い条件で話があったので、お辰の頭に思いがけぬ血色が出たが、ゆくゆくはめかけにしろとのはらが読めて父親はうんと言わず
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
随分ずいぶん永く——家に十八年も居たんで御座ございますよ。大きくなっておりましたそうです。もう、耳なんか、厚ぼったく、五ぐらいになっていたそうで御座ございますよ。
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
随分ずいぶん、石段の多い学校であった。父は石段の途中で何度も休んだ。学校の庭は沙漠さばくのように広かった。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
随分ずいぶん長かったような気がするし、また直ぐだったような気もする。下り坂で幾分楽だったとは言え、宇治は薄い肩を前方に曲げるようにして歩かねばならなかった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そのうちに彼の一人が子路の服装ふくそうをじろじろ見廻みまわし、やあ、これが儒服というやつか? 随分ずいぶんみすぼらしいなりだな、と言った。長剣がこいしくはないかい、とも言った。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ことに法文の読みようによっては、義務を忌避きひする道も随分ずいぶんある。ゆえに世に勢力ある人の中には種々なる口実こうじつをもって財産の義務をことごとく負担ふたんしないものがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「だが、君、今夜の最大奇観ともいひつべきは、篠田長二の出て来たことだ、幹事の野郎も随分ずいぶん人が悪いよ、餅月と夏本の両ハイカラの真中まんなかへ、筒袖つゝツぽを安置したなどは」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
合衆国がっしゅうこく桑港サンフランシスコから、国の中央を横切っている、かの横断鉄道には、その時、随分ずいぶん不思議なはなしもあったが、何分なにぶんロッキーさんの山奥を通過する際などは、そのあたり何百里というもの
大叫喚 (新字新仮名) / 岩村透(著)
仲よくいましめあい、仲よく尻をたたきあうということは、決してなまやさしいことではない。それをうまくやっていくには、随分ずいぶんとおたがいの心が深まらなければならないのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
取捨とりすて御随意ごずいいそろほねれる事には随分ずいぶん骨を折りそろ男とわれながらあとにて感服仕候かんぷくつかまつりそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
鴫沢勾当いわくお師匠さまがいつも自慢じまんをされましたのに春松検校は随分ずいぶん稽古がきびしいお方だったけれど、わたしは身にみてしかられたということがなかっためられたことの方が多かった
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はこれまでも他人の書いたそういう作品を随分ずいぶん好きでもあり、そういう出来事に出遇であったということでその人をうらやましくも思って来たが、私自身でそう言うものを書いてみようとも、又
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この問題は、自分の知らぬ世界で随分ずいぶん発展した。私は十数年の後になって知ったことだが、ある大臣は、金森を首にしなければ、内閣から出るとまで言って、総理そうりに迫ったということである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
隠しなさんな。よし、よし、おれも随分ずいぶん鍋島家には世話をやかせた、おれの傲慢ごうまんに腹を立って、切腹した家来まであるからな。それにいくら久米一だって、そうそう若さも続くまい、一つこれを
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
随分ずいぶんふるむかしのこと、ヱヴェレストのはるかふもとに、ラランとよぶ一からすんでゐた。ものすごいほどくらい、こんもりとしげつた密林みつりんおくで、毎日まいにちうたつてる小鳥ことりなかのいゝむしなどをころしてべてゐた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
この真空には随分ずいぶん骨を折らされたものであった。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
随分ずいぶん時間がかかるんだね。」
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
随分ずいぶん黒くなったなあ」
『それは様々さまざまでございます。なかには随分ずいぶんひねくれた、むつかしい性質たちのものがあり、どうかすると人間にんげんかたきいたします……。』
云うならぼくだけに話せ、随分ずいぶん妙な人も居るからなと忠告がましい事を云った。四つ角で分れたからくわしい事は聞くひまがなかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古来日本に行われる漢学には重きを置かぬと云うふうにしたから、その時の生徒の中には漢書を読むことの出来ぬ者が随分ずいぶんあります。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
随分ずいぶんスピードのある車だったが、方向転換その他に手間どった。その上、相手の車が、なりは小さいけれど、滅茶苦茶めちゃくちゃな速力だ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それにもかかわらずこれとよく似た語の随分ずいぶんと弘く行われているのには、単なる口拍子以上に、今一つ大切なる原因があったからである。
「ああ、この頃はずっと達者のようだ。あいつも東京にいる時分は、随分ずいぶん神経衰弱もひどかったのだが、——あの時分は君も知っているね。」
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
随分ずいぶん遙々はるばるの旅だつたけれども、時計と云ふものを持たないので、何時頃か、それは分らぬ。もっと村里むらざとを遠く離れたとうげの宿で、鐘の声など聞えやうが無い。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
○わたくし達は、外でお友達と一緒いっしょの時は「ノシちゃえ」なぞと随分ずいぶん、男のような言葉も使ってわあわあ騒ぐ。
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)