装束しょうぞく)” の例文
旧字:裝束
今度は鬼女、般若の面のかわりに、そのおかめの面を被せい、うし刻参ときまいり装束しょうぞくぎ、素裸すはだかにして、踊らせろ。陰を陽に翻すのじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いよいよ将軍家参内さんだいのおりには、多くの公卿くげ衆はお供の格で、いずれも装束しょうぞく着用で、先に立って案内役を勤めたものであったという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かねをきくと、兵士へいしたちは、るものもとりあえず、いくさ装束しょうぞくかためて、まえおなじように、御殿ごてんのまわりにあつまってまいりました。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一人の黒い装束しょうぞくをした男が、足場のために作ったやぐらの柱と柱の間に、はさまれて身動きが出来ずに、むくむく動いているのであった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
軽い装束しょうぞくで、巻煙草たばこをくわえ、両手を背に組んで、庭の中にいるように、静かに海の方に進んで行く。すると海が向こうから近づいて来る。
今川義元の一子氏真うじざねは、蹴鞠の名手といわれていたが、その日も、晴れがましく装束しょうぞくして、庭上で得意のまりを蹴って見せた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芝居を見るにはそれでたくさんだと考えて、からめいた装束しょうぞくや背景をながめていた。しかし筋はちっともわからなかった。そのうち幕になった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先ほどの粗末そまつな下人の装束しょうぞくで、何やらおさがたい血気が身内にみなぎっている様子ようすである。舞台の右方に立ち、遠くから小野おのむらじをきっと凝視みつめる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
平時は中下なかしも屋敷附近に火災のおこるごとに、火事装束しょうぞくを着けて馬にり、足軽数十人をしたがえて臨検した。貞固はその帰途には、殆ど必ず渋江の家に立ち寄った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出来星できぼしの金持ですよ。米相場でもうけたとか言って、大変な景気で、その妹のお辰はまた、小格子から引っこ抜いて来て、装束しょうぞくを直したような恐ろしい女ですぜ」
不審ふしんにたえない栄三郎が、さまざまに思い惑って、ちらとそばのやみに眼をくばると、ふしぎ! にも落ち残った葉を雨にたれた木立ちのかげに、同じ装束しょうぞくの四
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なるほど、淀君はご大典の時にでも着るような装束しょうぞくをつけ、厚化粧の上に十二重の内掛うちかけを着ている。そして今、豊臣家の大奥から出て来たばかりだといった様子であった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
朝々の定まれる業なるべし、神主禰宜ねぎら十人ばかり皆おごそかに装束しょうぞく引きつくろいて祝詞のりとをささぐ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その装束しょうぞくが実に面白い。ちょうど昔の日本のよろいかぶとのような物を着け、またそのかぶとの上に赤地に白の段だらの切布きれを、赤烏帽子あかえぼしのような具合に後ろに垂れて居る兵士が五百人位あります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女郎は短い袖のいくさ装束しょうぞくで年は十四五であろう、おさげにした髪は霧のかかったようで、細そりした腰は風にもたえないように見えた。それは花でもくらべものにならない美しさであった。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「顔を包んで、黒い装束しょうぞくをしておりましたから、さっぱり分かりませんでした」
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
とこれから丈助が種々いろ/\の物を拵えまして、小左衞門は野掛装束しょうぞくになり、丈助を連れて八幡の八幡宮へ参詣をして、ブラ/\市川新田いちかわしんでんを帰りみちになりましたが、菜の花が盛りでございます
あるいは結構なる新織新形など無益の手間をけ候者をこしらえ、輪なき紋八ツ藤その外高家こうけ装束しょうぞくの紋柄を手拭てぬぐいにまで染出し、湯に入り前尻をぬぐい、七、八十文にて事足るものまでも心を込め
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わたくし服装みなり瞬間しゅんかんかわりましたが、今日きょう平常いつもとはちがって、には白練しろねり装束しょうぞくには中啓ちゅうけいあしにはつるんだ一しゅ草履ぞうり頭髪かみはもちろん垂髪さげがみ……はなはださッぱりしたものでございました。
「いや、いえちがいじゃありません。じつはおとっさんからのことづてがあったのでまいりました。」と、くろ装束しょうぞくをしたおとこは、おだやかにこたえました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
この言葉のうち、神楽かぐらの面々、おどりの手をめ、従って囃子はやし静まる。一連皆素朴そぼくなる山家人やまがびと装束しょうぞくをつけず、めんのみなり。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その夜の旅寝の夢の中に、彼は正式の装束しょうぞくを着けた正香が来て、手にする白木しらきしゃくで自分を打つと見て、涙をそそぎ、すすり泣いて目をさました。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夢に見た妻は、死に装束しょうぞくを着ていた。彼は妻の名を、紙位牌かみいはいにして、机の前に貼った。そして、水をあげていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この日に家康は翠色みどりいろ装束しょうぞくをして、上壇じょうだんたたみを二帖敷じょうしかせた上に、暈繝うんげんの錦のしとねを重ねて着座した。使は下段に進んで、二度半の拝をして、右から左へ三人ならんだ。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大伴おおとも御行みゆき、粗末な狩猟かり装束しょうぞくで、左手より登場。中年男。荘重そうちょうな歩みと、悲痛ひつうな表情をとりつくろっているが、時として彼のまなざしは狡猾こうかつな輝きを露呈ろていする。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
寺男の権六の着物を脱がせて自分の装束しょうぞくの上へ着込み、その上、小僧の良念りょうねんを人質につれ出し——物を言うと命が無いぞ——と脅かしながら裏口から出て行きました。
火事の起らない先に火事装束しょうぞくをつけて窮屈な思いをしながら、町内中け歩くのと一般であります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火事装束しょうぞく! おのれッ何やつ? トトト覆面ふくめんを? ウヌ! 覆面をがぬかッ! ツウッ……!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
烏帽子えぼしもともに此の装束しょうぞくは、おりものの模範、美術の表品ひょうほん、源平時代の参考として、かつて博覧会にも飾られた、鎌倉殿が秘蔵の、いづれ什物じゅうもつであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
装束しょうぞくを解いて、書院へ上がった。やがて室をかえてから昼餐ちゅうさんが運ばれ、主客の歓語は、さすがに親睦しんぼくであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どなた。」といいながら、むすめけました。すると、くろ装束しょうぞくをしたたかい、らぬおとこっていました。むすめはびっくりして、あとずさりをしました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
付き添いとして来た中津川の老和尚の注意もあって、松雲が装束しょうぞくを着かえたのも本陣の一室であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正規の火事装束しょうぞく——それもはっきりと真新しく、しかるべき由緒ゆいしょを思わせる着こなし。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
神主かんぬし装束しょうぞくを着けて、これから祭典でも行なおうとするまぎわには、こういう気分がするだろうと、三四郎は自分で自分の了見を推定した。じっさい学問の威厳に打たれたに違いない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お茶汲ですもの、装束しょうぞくは皆んな主人のお仕着せですよ。同じあわせに同じ帯、後ろから見ちゃ、お房とお萩はちょいと見分けがつかない程で——きりょうも年格好としかっこうも、身体つきまでよく似ていますよ」
揉烏帽子もみえぼしかぶり、いかにもみすぼらしい下人しもびと装束しょうぞくで、立っている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
それから日をめまして、同じ暮方くれがたの頃、其の男を木戸の外まで呼びましたのでございます。其のあいだに、此の、あの、烏の装束しょうぞくをおあつらへ遊ばしました。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはとにかく、啓之助の仲間ちゅうげんが、今も、細かに時雨堂の様子を探ってきたところから、時分はよしと三十人近い黒装束しょうぞく、一度にムクムクと立ち上がった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
組のまといが動いて行ったあとには、消防用の梯子はしごが続いた。革羽織かわばおり兜頭巾かぶとずきんの火事装束しょうぞくをした人たちはそれらの火消し人足を引きつれて半蔵らの目の前を通り過ぎた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その人が——くうすらりとして見えるのには、真白の装束しょうぞくを着た、全く常の人間でない。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「白装束しょうぞくに身をかためて——」
旅姿の松雲はそのまま山門をくぐらずに、まず本陣の玄関に着き、半蔵が家の一室で法衣装束しょうぞくに着かえ、それから乗り物、先箱さきばこ台傘だいがさで万福寺にはいったのであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
百鬼夜行ひゃっきやこうということはあるが、これは爛々らんらんたる朝のをあびて、その装束しょうぞくが同じからぬごとく、その武器ぶきやり太刀たち、かけや、薙刀なぎなた鉄弓てっきゅう鎖鎌くさりがま、見れば見るほど十人十色。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一年ひととせ、比野大納言、まだお年若としわかで、京都御名代ごみょうだいとして、日光の社参しゃさんくだられたを饗応きょうおうして、帰洛きらくを品川へ送るのに、資治やすはる卿の装束しょうぞくが、藤色ふじいろなる水干すいかんすそき、群鵆むらちどりを白く染出そめいだせる浮紋うきもん
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くろ装束しょうぞくおとこは、いえなかはいってきました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
当時の習慣としてまず本陣としての半蔵の家の玄関に旅の草鞋わらじを脱いだその日から、そして本陣の一室で法衣装束しょうぞくに着かえて久しぶりの寺の山門をくぐったその日から
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ホホホ。——でも、御所のつぼねのうちに、じっと装束しょうぞくを着て、かしこまっているよりは」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、その鎧具足よろいぐそくにかためている手や体が、すこしも窮屈そうに見えなかった。むしろさびた釜と茶碗としかないこの室にあっては、この老将の装束しょうぞくがひとつの華麗な道具にすら見える。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御通行の際は、白地のにしき装束しょうぞく烏帽子えぼしの姿で、軍旅のいでたちをした面々に前後をまもられながら、父岩倉公の名代をはずかしめまいとするかのように、勇ましく馬上で通り過ぎて行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
武器、装束しょうぞく、一切はすでに安兵衛の浪宅まで密かに船上げしてあるし、こうすべての準備は、何日いつでもというように出来たが、さて、最後のたった一つの探りだけが何うしても掴めない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)