さや)” の例文
それからまた、若いつるがあらわれると、たちまちかぎつけて、リスのようにまっすぐ立ってつぼみと若いさやぐるみ食いとってしまう。
まあだなんちつてもさや本當ほんたうふくれねえんだから、ほんのまめかたちしたつちくれえなもんだべな、そりやさうとまめはえゝまめだな、甘相うまさうでなあ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鴨のない時期に、鴨に似た若い家鴨を探したり、夏けてさやは硬ばってしまった中からしなやかな莢隠元さやいんげんを求めたり鼈四郎は、走りまわった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
筆のさやを折るやうにへし折つて縁側から路次へ捨てヽおしまひになるやうなこともあつたに違ひないと思ふと云ふのでした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夏の土用のころ、さやのまだ青いうちに採って蔭干かげぼしにして置く。利尿剤として薬種屋でも取扱い、今でもなお民間で使っているのがそれである。
彼女は、人参、大根、ねぎ、トマトをすすめ、それからさやをむきたての豌豆えんどうをハンケチへ入れて見せ、それからまた、籠に入れた鳥類を見せる。
路傍みちばたの柿の樹は枝もたわむばかりに黄な珠を見せ、粟は穂を垂れ、豆はさやに満ち、既に刈取つた田畠には浅々と麦のえ初めたところもあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
足のさきまで、秋の日照りにえた唐辛とうがらしさやのように鋭く、かっと、輝き出し、彫り込んだようにきわ立ち、そして瞬間のうちに散ってしまった。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私は、女中がいまさやを剥いだばかりの小豌豆が、テエブルの上に球ころがしの緑色の球のやうに澤山ならんでゐるのを見ようと思つて立ち止つた。
プルウストの文体について (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
買つて来られるさア! 風呂敷ふろしきもつて、市場に行つて、お金を出して、包んでもらふんさ。純子姉ちやんはね、おじやがと、さやゑんどうなんだよ。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
触れるとすぐにさやが弾けて、遠くまで種子を飛ばすものがある。つるが容易にちぎれて残りだけでまた根付くものがある。
あさくも吹散ふきちりたり。かぜぎぬ。藪垣やぶがきなる藤豆ふぢまめの、さやも、まひるかげむらさきにして、たにめぐながれあり。たで露草つゆくさみだれす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある午後ごゞ。ぱちツと不思議ふしぎをとがしました。さやけたのです。まめみゝをおさえたなり、べたにころげだしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
秋になると、崖ぶちの恐ろしく高い木に、藤豆のような大きな平たいさやの実がった、簪玉かんざしだま位な真紅の美しい実のなる木もあった。クルミもあった。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
どこまでもどこまでも黄褐色の大豆畑が続き、その茎やさやについている微毛のげが陰影につれてきらきらと畑一面に蜘蛛くもの巣が張っているように光っていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それに青いうちにさやごともいで枝豆を食う様にして食べるとその甘みとうまさは忘れられないものの一つであり
隣の人の業になら、どんな六つかしいことにでも、手を借すのは、此人です。祭の時に蜀黍もろこしさやを剥ぎ、石垣を築くとき、第一に力を出すのは、此人です。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
「おわかりでしょう。」と彼女は言いながら、膝の上のさらをもち上げた。「豌豆えんどうさやをむいていますの。」
初めのうち、清三は夏休み中、池の水を汲むのを手伝ったり、畑へ小豆のさやを摘みに行ったりした。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
おくみは笊を下に置いてこゞんで、さつきから馬鈴薯と豚肉ぶたとで、シチュー見たいなものを拵へかけてゐるのへ入れるつもりで、それ等の小さい早いさやの筋を取りかけた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
豌豆えんどう蚕豆そらまめも元なりはさやがふとりつつ花が高くなった。麦畑はようやく黄ばみかけてきた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
白色合弁の脣形花が穂をなして開きち丁度キササゲの様な長いさやの実を結ぶのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
声の主は、鍬をもって畑を打つ孔明か、豆をって、さやむしろに叩く弟の均であった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
決して素焼をしない。さやも棚も使いはしない。積んでじか火にあてる。もともと安ものを作るのである。趣味などで作っているのではない。万事が粗野である。だがそれで充分である。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
が、四五年まへ北京ペキンに遊び、のべつにゑんじゆばかり見ることになつたら、いつか詩趣とも云ふべきものを感じないやうになつてしまつた。唯青い槐の実のさやだけはいまだに風流だと思つてゐる。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
裏には真桑瓜まくわうりつるの上に沢山ころがり、段落だんおちの畑には土が見えぬ程玉蜀黍が茂り、大豆だいずうねから畝にさやをつらねて、こころみに其一個をいて見ると、豆粒つぶ肥大ひだい実に眼を驚かすものがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
スベリヒユ。クサギの嫩葉。スミレ。ツボスミレ。カラスノヱンドウのさや等。
すかんぽ (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
玉蜀黍は数年ごとに直輸入の種子を蒔かぬと、甘さが減じて行くのであったろう。〕さや入りの豆は面白い形をした竹の筵に縫いつけられて売物に出ている(図28)。鶏卵は非常に小さい。
栗の実りておのずから殻を脱するの時あるを知らば、また何ぞ手を刺されてみずから殻をくを要せんや。豆の熟して自からさやを外るるを知らば、また何ぞ手を労して自から莢を破るを要せんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ふるいかけたような細かい日差しが向うにポツネンと立っている皁角子さいかちの大木に絡みつき、茶色に大きい実は、さやのうちで乾いた種子をカラカラ、カラカラと風が渡る毎に侘しげに鳴りわたる。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
をぢは我を抱きおろして、例の大部屋の側なる狹き一間につれゆき、一隅に玉蜀黍たうもろこしさや敷きたるを指し示し、あれこそ汝が臥床ふしどなれ、さきには善き檸檬水呑ませたれば、まだ喉も乾かざるべく
東と南とに欄干てすりめぐり、ひさしにはまたふじの棚がその葉の青い光線から、おなじくまだ青い実のさやを幾すじも幾すじも垂らしてはいるが、そうして昼間の岐阜提灯ちょうちんにもが、風はそよともしないのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
たゞ折々をり/\きこゆるものは豌豆ゑんどうさやあつい日にはじけてまめおとか、草間くさまいづみ私語さゝやくやうな音、それでなくばあきとり繁茂しげみなか物疎ものうさうに羽搏はゞたきをする羽音はおとばかり。熟過つえすぎ無花果いちじくがぼたりと落ちる。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
この期間中、彼らは、全く、ミモサの一種たるニッタ(土人はそう呼んでいる)のさやにある黄色い粉と、適当にいて調理すると全く米のような味のする竹の種子とで、生きていたのである6)。
これの実を指にて摘めば虫などのはねるやうに自ら動きて、さや破れ飛ぶこと極めて速やかなり。かゝるものを見るにつけても、草に木に鳥に獣にそれ/″\行はるゝ生々の道のかしこきをおもふ。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なんだか、さやえんどうのような形になった。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青いさやを垂れている
新秋の記 (新字旧仮名) / 木下夕爾(著)
さやから はしる
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
熟しかけた稲田の周囲まわりには、豆もさやを垂れていた。稲の中には既に下葉の黄色くなったのも有った。九月も半ば過ぎだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お舟のやうなお皿には、じやがいもと、さやゑんどうと、人蔘にんじんとの煮付が盛られ、赤いわんには、三ツ葉と鶏卵たまごのおつゆが、いいにほひを立ててゐるのです。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
まじへてくすんだきたなさやしろれて薄青うすあをいつやゝかなまめつぶ威勢ゐせいよくしてみんなからしたもぐんでしまふ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あやめの数は二人の男の通う同じ日取りの同じ数をかぞえていて、株のわかれめにさやほどのつぼみの用意を見せ、緑は葉並を走ってすくすく伸び上っていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さやなかには豆粒まめつぶが五つありました。そしてなかかつたのです。けふもけふとて、むつまじくはなしてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
栖子は千代重が指図して行った蚕豆そらまめさやを盆の上で不手際に剥ぎながら、眼はぼんやり花畑を眺めていた。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女は家の入口のところで椅子いすに腰かけていた。彼は彼女の足下の踏段にすわった。腹のところにたくねてある彼女の長衣のしわの中から、彼は青い豌豆のさやをつかみ取った。
信州でも北半分は、唐辛子とうがらしとか皀莢さいかちさやとか、茱萸ぐみとか茄子なすの木とかの、かわった植物を門口にき、南の方へ行くとわら人形を作りまたは御幣ごへいを立てて、コトの神を村境まで送り出す。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜の点呼がすむと、サン・マルクの寮監先生りょうかんせんせいは寝室から出て行く。すると生徒はめいめい、さやの中へおさまるように、できるだけちぢこまって毛布の中へすべり込む。外へはみ出ないようにだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
卵を藁で、さやに入った豆みたいに包み、これを手にぶら下げて持ちはこぶ。
誰か一人上って、双六の済む時分、ちょうど、この女は(姿見を見つつ)着くであろう。一番上りのものには、瑪瑙めのうさやに、紅宝玉の実をかざった、あの造りものの吉祥果きっしょうかる。絵は直ぐに間に合ぬ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石のべの紫蘭のさやに來て光る蜻蛉あきつはねさうなりにけり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)