たて)” の例文
旧字:
リンゴの果実は、これをたてに割ったり横に切ったりして見れば、よくその内部の様子がわかるから、そうしてけんして見るがよい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ローゼ弦楽四重奏団 昔のパテーたて震動盤に五、六枚ある時は、ローゼの名前で騒がれたものだ(音はその頃でも悪かった)。
たとへばつき本尊ほんぞんかすんでしまつて、田毎たごと宿やどかげばかり、たてあめなかへふつとうつる、よひ土器色かはらけいろつきいくつにもつてたらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そんなはずはないといぶかりながら、あかるい日光のもとで横からもたてからも覗いたが、彼はどうしても赤座ではなかった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
腿の骨を肉の上からトントンと叩いて砕いておいて膝の下即ち脛の裏を庖丁でたてに裂くと八本の筋が其処そこあつまっています。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
我々人間はたて、横、高さの三つしか知らないが、今ここに、もう一つなにか人間の感じないものを備えている超立体世界ちょうりったいせかいがあったとしましょう。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黒い毛むくじゃらの皮をかぶっていて、白くももも色でもなかった。にぎりこぶしぐらいの大きさの黒い頭をして、たてにつまった顔をしていた。
横なる東西の関係を理解するものは、たてなる上下乾坤けんこんのそれを会得してしかして後に初めてなしあたうものであるまいか。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのくせ、首を強くたてに動かした。そして、お延がまだ疑わしそうな眼をして、自分の顔をのぞいているのを見ると
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二条城の普請ふしんの当初、光秀も奉行の一員として加わっていたので、彼は独特な築城技能をもって石垣のたての線に、弓なりのりをもたせて築いてあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隆ちゃんの天性はたての方です。生活が体をつかって、かえれば食べて眠くなる生活だから素朴な表現をもっているが。隆ちゃんはどこか貴方に似て来ている。
門を出るときにはもう横の列がたての列にかわっていました。しんがりはふたりです。次郎君と森川君です。
決闘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
飛びながらその女房がいうには、いつ迄も私と離れたくないならば、天とうへ行って親たちがたてに切れというものを、必ず横に切りなさいと、固い約束を夫にさせた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その下流の右岸には秀麗な角錘形かくすいけいの山(それは夕暮ゆうぐれ富士だとあとで聞いたが)山の頂辺てっぺんに細いたての裂目のある小松色の山が、白い河洲かわすゆる彎曲線わんきょくせんほどよい近景をして
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
寝台のたての鉄枠にさわれるように、彼は全身をねじまげた。そして狭窄衣の長い袖の下に隠れている手頸がそれに触ると、勢いよくごしごしと袖を鉄にこすりつけはじめた。
帳合にも日本のたての文字を用い、法を西洋にして体裁を日本にせんこと、一大緊要の事なり。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
所が其反対で、人の感触を害する為めに、わざ/\偽善をやる。横から見てもたてから見ても、相手には偽善としか思はれない様に仕向けて行く。相手は無論いやな心持がする。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ソクラテスに至ってはアテナイ市民のみが相手であり、イエスの活動範囲のごときはたて四十里横二十里の小地方である。が、それにもかかわらず我々は彼らを人類の教師と呼ぶ。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
おじいさんはもうすましたもので、一生懸命いっしょうけんめい、のびたり、ちぢんだり、たてになり、よこになり、ひだりへ行き、みぎへ行き、くるりくるりとねずみのように、元気げんきよくはねまわりながら
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この品野の窯で最も誇ってよいのは、土地で「赤楽あからく」と呼んでいる土で、これでよくたてしまを入れます。いわゆる「麦藁手むぎわらで」といわれるものの一つで、品野の特産でありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
水の中をごらんなさい。岩がたくさんたてぼうのようになっています。みんなこれです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
宇津木が刀を受け取るやうに、俯向加減うつむきかげんになつたので、百会ひやくゑ背後うしろたてに六寸程骨まで切れた。宇津木は其儘そのまゝ立つてゐる。大井は少しあわてながら、二の太刀たちで宇津木の腹を刺した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おめえさえくびたてってくれりゃァ、からきしわけはねえことなんだ。のうおせん。あか他人たにんでさえ、ことけて、かくかくの次第しだいたのまれりゃ、いやとばかりゃァいえなかろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
幾本となくたてに組み合わされた、というよりも大磐石にヒビが入って、幾本にも亀裂したように集合して、その継ぎ目は、固い乾漆かんしつの間に、布目ぬのめを敷いたように劃然かっきりとしているのが
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
封筒の寸法はたて四寸、横二寸三分、とき色地に桜ン坊とハート型の模様がある。桜ン坊はすべてで五、黒い茎に真紅まっかな実が附いているもの。ハート型は十箇で、二箇ずつ重なっている。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
南の裏庭広く、物置きや板倉がたて母屋おもやに続いて、短冊形たんざくがたに長めななりだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たてに見た往来。少年はこちらへうしろを見せたまま、この往来を歩いてく。往来は余り人通りはない。少年の後ろから歩いて行く男。この男はちょっと振り返り、マスクをかけた顔を見せる。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鉄塔の壁が、まったてにはるか下のほうまでつづいていて、まるで、高い高いだんがいのはじに、立っているような気持です。おしりのへんがくすぐったくなって、足がブルブルふるえてきました。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「されば、たてになって」
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
人の世のたてとなりけり。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その仔細は、私のからだがたてに倒れたからで、もし横に倒れたならば、首か胸か足かを車輪に轢かれたに相違なかった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けづとき釣合つりあひひとつで、みづれたときかたちがふでねえかの、たてまればしやうがある、よこれば、んだりよ。……むづことではねえだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その次は肉の厚いカステラを横から三つに切って一つ一つの間へ何のジャムでも塗ってピタリと合せてたてって出すのが手軽なジャムケーキです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いやもっと気をつけて見るなれば、その空樽をささえた壁体へきたいの隅がたてけて、その割れ目に一つの黒影がすべりこんだのを認めることができたであろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
九鬼右馬允の乗っている大船には、熊野権現くまのごんげん大幟おおのぼりと日の丸がひるがえっていた。名づけて日本丸とよぶそれは、どう七間たて十数間という熊野船だった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあと、就寝前の行事として、最初の静坐せいざがはじまった。塾生たちは、各室ごとに、きちんとたてにならび、朝倉先生の指導にしたがってその姿勢をとった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だから横に買っているのではなく、いつもたてに買っているのだとでもいおうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
左岸の城山しろやまに洞門を穿うがつのである。奇岩突兀とっこつとしてそびえ立つその頂上に近代のホテルを建て更に岩石層のたて隧道トンネルをくりぬき、しんしんとエレヴェーターで旅客を迎える計画だそうである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
鶯に次いで愛したものは雲雀ひばりであったこの鳥は天に向って飛揚ひようせんとする習性があり籠のうちにあっても常に高くい上るので籠の形もたてに細長く造り三尺四尺五尺と云うようなたけに達する。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは長さが二すんぐらい、はばが一寸ぐらい、非常ひじょうに細長くとがった形でしたので、はじめは私どもは上のおも地層ちそうし潰されたのだろうとも思いましたが、たてに埋まっているのもありましたし
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
人生ひとのよたてとなりけり。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その七つの洞穴ほらあなから洞穴は、たてに横に、上に下に、自由自在の間道かんどうがついているが、それは小角ひとりがもっているかぎでなければかないようになっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い次郎左衛門の耳は横に付いているのかたてに付いているのか、ちっともその意見が響かないらしかった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
骨を截るのでありません、両方から合せてある骨を離すのです。骨が離れると肉も一緒に離れます。そこで料理人は胸の肉へたてに庖丁を入れて肩の処をきました。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それは大きな飛行船をたてにしたようなものであった。それは恐ろしい速力で飛び去った。その速力は光の速力に近いもので人間にはとても出せそうもないものであった。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
と、画工ゑかきさん、三うらさんがばた/\とた、その自動車じどうしやが、柴小屋しばごやちいさく背景はいけいにして真直まつすぐくと、吹降ふきぶりいとつたわたしたちの自動車じどうしやも、じり/\と把手ハンドルたてつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それよりか、一年から五年までの正しい生徒が、たてに手を握りあうことが大切じゃないか。本田の弟も、その正しい生徒の一人だ。だから僕らはそれをバックしようと言うんだ。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
向うの崖に黒い岩がたてき出ているでしょう。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たてにのみくなる雲の火のはしら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鶏の脚部の膝の上の骨だけ筋の切れないように庖丁ほうちょうの背中で叩いて取っておいて膝の下即ちすねの裏の処を庖丁でたてに裂くと肉は少しもなくって八本の筋が綜合しいる。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)