はうき)” の例文
蚊帳を飛び出して、どうするかと思ふと、何もすることがないものだから、まだ星が出てゐるのに庭をはうきき始めたさうである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
爺達おやぢたちはうきを持つて一塵も残らないやうに境内を掃ききよめた。若い女達はさま/″\の色彩を持つた草花を何処からか持つて来てゑた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
桜の木なんか植ゑるとき根を束ねるやうにしてまっすぐに下げて植ゑると土から上の方もはうきのやうに立ちませう。広げれば広がります。〕
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
なほさら五月蠅うるさいとはしくくるまのおとのかどとまるをなによりもにして、それおいできくがいなや、勝手かつてもとのはうき手拭てぬぐひをかぶらせぬ。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「成程な、楓林ふうりんが雜草畑になつて、眞柏しんばくは伸び放題、——まるではうきだ。おや/\惜しい松を枯してゐるね、二三百年も經つた樹だらうが」
荒れ果てた家でどの硝子ガラスにも細いテープでつぎたしてあつた。夜来の雨で洗はれた矢竹が、はうきのやうに、こはれた板塀いたべいもたれかゝつてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
には卯平うへい始終しじゆくさむしつて掃除さうぢしてあるのに、蕎麥そばまへに一たん丁寧ていねいはうきわたつたのでるから清潔せいけつつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
外套のすそか、はうきの柄か、それとも子供のかよわい手か、戸をしめる時弱い抵抗をしたのを、彼は見境もなく力まかせに押しつけて、把手ハンドルを廻し切つた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
たしかに蕪村の声に相違ないので、慶作は不審しながら、入つてくと、其辺そこらぢゆうにはうき塵掃はたきがごた/\取り散らされて、師匠はひとりで窃々くす/\笑つてゐる。
落葉おちば樣子やうすをして、はうきつて技折戸しをりどから。一寸ちよつと言添いひそへることがある、せつ千助せんすけやはらかな下帶したおびなどを心掛こゝろがけ、淺葱あさぎ襦袢じゆばんをたしなんで薄化粧うすげしやうなどをする。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて重き物など引くらんやうに彼のやうやきびすめぐらせし時には、推重おしかさなるまでに柵際さくぎはつどひしひとほとんど散果てて、駅夫の三四人がはうきを執りて場内を掃除せるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
尻目しりめかけ打笑ひまだ行ぬかと大音にしかつけられ口惜くちをしながら詮方なく凄然々々すご/\我が家へ立戻たちもどりぬ跡に長庵はうき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其れにはうきを立てた様な椰子やし類の植物が繁茂して居るのは遠くから観ても山の形が日本とはまつたちがふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さて二ばんに仮面めんをあてゝ鈿女うずめいでたちたる者一人、はうきのさきに紙に女阴ぢよいんをゑがきたるをつけてかたぐ。
雪子ははうきと塵取とを持つて来てくれ、私は熱灰あつばひを塵取の中に握り込むやうなことをしたが、畳の上にあちこち黒焦げが残つた。私は真赤に顔を染めて雪子の父にあやまつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
廊下を歩く足音がバタ/\ときこえ、やがて、杯盤はいばんを取り片付け、はうきで掃いてゐる氣色けはひがした。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
姉のおせつは外出した時で、妹のおえいはうきを手にしながら散乱ちらかつた部屋の内を掃いて居た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そこらの、まだ蔭ばんでゐるやうな土の上には、ちやんと、すが/\しくはうきの目がついてゐた。どこか裏の方の木の上で、雀の子がまだ目をさましたばかりのやうに暗さうに集まつて啼いてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
をばさんははうきの手をやすめ、顔をあげて、不審げに眉をひそめ
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
笹のはうきでさツさらり
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
さう云はれて見ると、成程その二人の男は、はうきをかついで、巻物を持つて、大雅たいがの画からでも脱け出したやうに、のつそりかんと歩いてゐた。
寒山拾得 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
尤もこの女は掃除さうぢ氣違ひで、朝から晩まではうきと雜巾を離さないといふ變り者で、男をきたながつて、自分の亭主も側へ寄せつけないといふから怖いでせう
はたけ仕事しごと暫時ざんじきまりがついて百姓ひやくしやういへにはぼんた。晝過迄ひるすぎまで仕事しごとをして勘次かんじはそれでもあわたゞしくにははうきれてくさかま刄先はさきつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今も今居なくなつたら淋しかろうとお言ひなされたはほんの口先の世辞で、あんな者は早く出てゆけとはうきに塩花が落ちならんも知らず、いい気になつて御邪魔になつて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
馬尾松の房のやうに、長い葉の頼りなさや、メルクシ松のはうきのやうな形状、カッチヤ松の淡い色彩。小旗のやうな破れかぶれの枝工合なぞが、次々と瞼に現はれては消える。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
入つたところでは、そこらにはうき一つ入れないで、落葉や、枯草がそのままに打捨ててあつた。その荒れはてた容子ようすを見て、ふと御秘蔵の小倉の色紙のことが思ひ出されたものだから……
やがて庄太ははうきをそこに打捨てゝ置いて、跣足すあしまゝで蔵裏の方へ見に行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
するどいをして、ひげが二いろまつ白な、せなかのまがつた大将が、尻尾しつぽはうきのかたちになつて、うしろにぴんとのびてゐる白馬はくばに乗つて先頭に立ち、大きな剣を空にあげ、声高々と歌つてゐる。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
落葉おちば樣子やうすをしてはうきつて、枝折戸しをりどからはひつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はうきかづいて
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「そいつがこの頃は御覧なせえ。けちな稼ぎをする奴は、はうきで掃く程ゐやすけれど、あのくれえな大泥坊は、つひぞ聞か無えぢやごぜえませんか。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「女ですよ、親分。死んだ此處の主人と來たら、男も良かつたが、名題のはうきで、捨てられて首をくゝつた女も、騙されて身投した女もあるといふ話ですよ」
いまいまなくなつたらさびしかろうとおひなされたはほんの口先くちさき世辭せじで、あんなものはやてゆけとはうき𪉩花しほばなちならんもらず、いゝになつて御邪魔おじやまになつて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
卯平うへいひとり㷀然ぽさりのこされた。丈夫ぢやうぶ建物たてものはうきれて清潔せいけつんでかれ天井てんじやうもない屋根裏やねうらからすゝれてさうして雨戸あまどけてない薄闇うすくらいへうち凝然ぢつとしてはめうこゝろ滅入めいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
八五郎は藪の外、道ともなく踏み堅めた土の上に、はうきいたやうに物を引摺つた跡の遺るのを指さしました。
Brocken ざんへ! はうきまたがつたばあさんが、赤い月のかかつた空へ、煙突から一文字いちもんじに舞ひあがる。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はうきから辰巳たつみ、鎌の鼻から未申ひつじさるくはの耳から戌亥いぬゐ、口の中の眼——と讀むんだらうな。どうだ分つたか、八」
そこで、あやしいと思つたから、Kに、何故なぜ君がモデルだと云ふ事がわかつたと、追窮したら、驚いたね、実際Kの奴が、かくれて芸者遊びをしてゐたのだ。それも、はうきなのだらうぢやあないか。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「喜三郎は本所名題のはうきだ。町内の娘を總仕舞ひにして西兩國へ手を出して居るといふぢやないか」
婆さんは眼を怒らせながら、そこにあつたはうきをふり上げました。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はうき辰巳たつみで、かま未申ひつじさる——なんてえのは三世相にもないよ。ところで一寢入りして出かけようか」
魔女ははうきまたがりながら、片々へんぺんと空を飛んで行つた。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それは衣紋竹えもんだけはうきを結へ、單衣ひとへを着せて背負つて歩き、背の高い男と見せるやうにした爲だ。
「敷居の穴には、この通り小石が一パイ詰つて居るし——おや、この小石は風で吹飛ばされたり、はうきき寄せられたものぢやない。わざ/\穴に詰めて上から叩いたものだが」
「へエ、驚きましたよ。菜つ葉と豆を植ゑた畑の畝間うねまはうきが入つてゐるんだから」
「あんなはうきはありやしません、町内の女の子はキヤツキヤツ言つてるが、男の子は一向面白くないんで、——先づ手始めは文字花と變な噂を立て、それからお幾に鞍替くらがへをして、今度はお芳と變つた」
「百兵衞、——はうきから辰巳たつみ——といふ謎々の文句の箒はこれだよ」
庄司の一人息子といふ肩書を振り舞はせば、唯で食はせようとする人も、達引たてひかうといふ人も、はうきくほどある筈です。それをしないのは、人が良いのか、強情なのか、平次でも見當はつきません。
「商人の家では、今日一日はうきを使はないと言ふぢやないか」