熱海あたみ)” の例文
四十一ねんぐわつ二十一にち午前ごぜんごろ水谷氏みづたにしとは、大森おほもり兒島邸こじまてい訪問ほうもんした。しかるにおうは、熱海あたみはうつてられて、不在ふざん
熱海あたみ来宮きのみやの七月十六日の例祭に、古来行われていた鹿島踊の記録は、かなり精密なものが『民俗芸術』三の八に報告せられている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小田原熱海あたみ間に、軽便鉄道敷設ふせつの工事が始まったのは、良平りょうへいの八つの年だった。良平は毎日村はずれへ、その工事を見物に行った。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それで貴君あなた様の方を、湯河原のお宿までお送りして、それから引き返して熱海あたみへ行くことに、此方こちらの御承諾を得ましたから。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
熱海あたみ予審判事、警視庁の戸山第一捜索課長以下鑑識課員、大森署より司法主任綿貫わたぬき警部補以下警察医等十数名現場げんじょうに出張し取調とりしらべを行ったが
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尼院の庭はたいらかであったが、東は伊豆山の絶壁であり、南は熱海あたみの漁村まで、山なりに海へ傾斜している半島の突角とっかくだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一度子供連れで熱海あたみへでも行ってみようと云っていたが、日曜というと天気が悪かったり、天気がいいと思うときっと何かしら差障りがあって
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは熱海あたみの海岸などによくある竹のかきいめぐらして、湯槽ゆぶねの中から垣ごしに三原山みはらやま噴煙ふんえんが見えようというようなオープンなものではなく
隨分ずゐぶんながたされたとおもつたが實際じつさいは十ぷんぐらゐで熱海あたみからの人車じんしや威勢ゐせい能く喇叭らつぱきたてゝくだつてたのでれちがつて我々われ/\出立しゆつたつした。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
伊豆の此方こつち側では、熱海あたみが一番好いわけでなくてはならぬのであらうけども、どうもそこは評判が余り好くなかつた。
女の温泉 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
八月の末で馬鹿ばかに蒸し暑い東京の町を駆けずり廻り、月末にはまだ二三日があるというのを拝みたおして三百円ほど集ったその足で、熱海あたみへ行った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ときには沢山の石の階段を登って伊豆山神社に参拝したり、またときには熱海あたみまで、月のいい夜道を歩いたりして、またたく間に数日を過ごしました。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それが今日こんにちでは、一泊はおろか、日帰りでも悠々と箱根や熱海あたみに遊んで来ることが出来るようになったのであるから、鉄道省その他の宣伝と相俟あいまって
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
四十三年の一年は、その相剋そうこくをつづけて、四十四年の一月、熱海あたみへの三泊旅行も、以前の関係のままで押通した。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
このまへ關東大地震かんとうだいぢしんさいし、熱海あたみ津浪つなみさらはれたものゝうち伊豆山いづさんほうむかつておよいだものはたすかつたといふ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
こまたけをめぐる未開墾の火山灰地帯と大沼の風光をつきぬけて、噴火湾岸の森からオシャマンベまで、さしむき熱海あたみから藤沢までの天地自然の夕まぐれを
そしてその返事で、小菊が客につれられて、三四人の芸者と熱海あたみへ遠出に行っていて、昨日行ったのだから今夜は遅くも帰るのではないかというのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
修善寺から熱海あたみへ出て名物のポンスを買って小田原と大磯へ寄って来たが小田原の梅干うめぼしも三樽買って来た。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
当時外国公使はいずれも横浜に駐剳ちゅうさつせしに、ロセツは各国人環視かんしの中にては事をはかるに不便ふべんなるを認めたることならん、やまいと称し飄然ひょうぜん熱海あたみに去りて容易よういに帰らず
その年の秋には、京極三太郎は巧みに社用をこしらえて、熱海あたみのさる宿屋に矢留瀬苗子を待って居りました。
そういへばソレントオは熱海あたみ、ポジタノは舞鶴まなづる、またヹズヸオの煙は大島の御神火ごじんくわに相応します。
伊豆伊東 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
さてお話ですが、当時私は避寒旁々かたがた少し仕事を持って、熱海あたみ温泉のある旅館に逗留とうりゅうしていました。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十時じふじ出發しゆつぱつどう五十五分ごじふごふん電鐵でんてつにて小田原をだはらかへり、腕車わんしややとうて熱海あたみむかふ、みち山越やまご七里しちりなり。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
熱海あたみあたりで眼が覚めると、前の娘さんは帯をといて寝巻きに着替えるところだった。羽織と着物をそでだたみにして風呂敷に包むと、少時わたしの寝姿を見ていて横になった。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
箱根や熱海あたみに古道具屋の店を開き、手広く商売が出来ていたものだが、全然無筆な男だから、人の借金証書にめくら判を押したため、ほとんど破産の状態に落ち入ったが
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
日日にちにちその辺をさまよい歩くようになったが、その時分からひどく健康が衰えて来たので、親類の者や葛西家に使われている者などが心配して、無理に勧めて彼を熱海あたみへ転地さした。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
熱海あたみ修善寺しゅぜんじ箱根はこねなどは古い温泉場でございますが、近年は流行りゅうこういたして、また塩原しおばらの温泉が出来、あるい湯河原ゆがわらでございますの、又は上州に名高い草津くさつの温泉などがございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
逗子ずしでも鎌倉かまくらでも、熱海あたみでも君のすきな所へって、呑気のんきに養生する。ただ人の金を使って呑気に養生するだけでは心が済まない。だから療養かたがた気が向いた時に続きをかくさ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊豆いず熱海あたみ温泉場の挽物師ひきものしで山本由兵衛という人の次男の国吉というのを養子にしたのですが、この子供が器用であって、養父の吉兵衛さんも職業柄彫刻のことなどに心がある処から
或いは熱海あたみ線の小田原駅に下車した人々が、こうべめぐらせて眼を西北方の空にげるならば人々は、あたかも箱根連山と足柄連山の境界線にあたる明神ヶ岳の山裾と道了の森の背後に位して
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
はたとこうじ果ててまたはじめの旅亭にかえり戸を叩きながら知らぬ旅路に行きくれたる一人旅の悲しさこれより熱海あたみまでなお三里ありといえばこよいは得行かじあわれ軒の下なりとも一夜の情を
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
木村は、去年の暮に、家から二百円持ち出して、横浜、熱海あたみと遊びまわり、お金を使い果してから、ぼんやり僕の家へやって来たので、僕は木村の家へ、すぐに電話をかけて知らせてやった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おれは、これから熱海あたみのお父さんのところへと花子のところへと電報を打ちに行くんだ。そして、それから、もう一度医者に酸素吸入を頼んでくるつもりでゐるが、お前にも、頼みがあるんだ」
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
凍った土ばかり眺めていたお新が、熱海あたみか伊東あたりの温暖あたたかい土地へ、もし行かれるなら行きたいと言っていることは、お牧への話で山本さんも知っていた。お新は産後と言っても時が経っている。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
俊雄に預けて熱海あたみへ出向いたる留守を幸いの優曇華うどんげ
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「左様でございます。何しろ、熱海あたみへおいでになる前には、拙者が旅中でございましたから、あれ以来とするともう半年近くに相成ります」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
箱根から熱海あたみの方へ越える日金ひがねの頂上などにも、おそろしい顔をした石の像が二つあって、その一つを閻魔えんまさま、その一つを三途河そうずかの婆様だといいました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし熱海あたみ間歇泉かんけつせんから噴出する熱湯は方尺にも足りない穴から一昼夜わずかに二回しかも毎回数十分出るだけであれだけの温泉宿の湯槽ゆぶねを満たしている事を
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その上、サア・オルコツクは、富士山ふじさんへ登つたり、熱海あたみの温泉へはひつたり、なり旅行も試みてゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
検事局よりは新進明察の聞え高き熱海あたみ検事と古木書記とが臨場して詳細なる調査を遂げたるが、その結果は更に幾多の怪事実の発見となり、疑問に疑問を重ぬるのみ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
銀子は唐物屋とうぶつやや呉服屋、足袋屋たびやなどが目につき、純綿物があるかとのぞいてみたが、一昨年草津や熱海あたみへ団体旅行をした時のようには、品が見つかりそうにもなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところが小田原をだはらから熱海あたみまでの人車鐵道じんしやてつだうこの喇叭がある。不愉快ふゆくわい千萬なこの交通機關かうつうきくわんこの鳴物なりものいてるけで如何どうきようたすけてるとはかね自分じぶんおもつてたところである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
御承知の通り、その頃はまだ東京駅はございませんでした。継子さんは熱海あたみへも湯河原へも旅行した経験があるので、わたくしはただおとなしくお供をして行けば好いのでした。
そこで寄ってたかって聞いてみますと、梅子のやつ情夫じょうふ熱海あたみへ行っていたというのです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「日暮までに、熱海あたみに着くといゝですな。」と、信一郎はしばらくしてから、沈黙を破った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
名古屋で有名なゴキソの沢庵も熱海あたみ名物の沢庵もなかなかこの百一漬には及びません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ヒガネとむ、西風にしかぜさむきがたう熱海あたみ名物めいぶつなりとか。三島街道みしまかいだう十國峠じつこくたうげあり、今日こんにちかぜ氣候きこう温暖をんだん三度さんどくもごと湯氣ゆげいてづるじつ壯觀さうくわん御座候ござさふらふ後便こうびん萬縷ばんる敬具けいぐ
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二月は、伊豆の古奈こなへ行った。丹那たんなトンネルは初めてなので、熱海あたみを出るときから嬉しくて仕方がなかった。八分位かかると聞いたけれども、随分ながいトンネルのような気がした。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
熱海あたみには、お宮の松があり、逗子ずしには、浪子不動がある。浅草には、われわれ捕物作家クラブが建てた半七塚がある。京都や大阪には、浄瑠璃じょうるりや小説の主人公の墓が保存されているそうだ。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
帰り路は山越しに熱海あたみに出た。坂口屋弥兵衛さかぐちややへえ方に一泊した。ここでまた驚くべき事実を発見した。ここに謎の人が泊り合せて虫の息でいるのであった。それは七化の小紋三という旅役者であった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)