ステッキ)” の例文
構わず談じようじゃあねえか、十五番地の差配おおやさんだと、昔気質かたぎだからいんだけれども、町内の御差配ごさいはいはいけねえや。羽織袴でステッキ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コツ/\と、ステッキさきで下駄の鼻を叩いた。其顏には、自ら嘲る樣な、或は又、對手を蔑視みくびつた樣な笑が浮んでゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
白手袋にステッキを持った気取った男や、三つ釦のこくめいなモーニングを着た律義らしい老人、其他とりどりに盛装した若い女達が、広い構内をざわざわと歩いていた。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しまセルの背広に、麦稈帽むぎわらぼう藤蔓ふじづるステッキをついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこへ大槻がいきな鳥打帽子に、つむぎ飛白かすり唐縮緬とうちりめん兵児帯へこおび背後うしろで結んで、細身のステッキ小脇こわきはさんだまま小走りに出て来たが、木戸の掛金をすと二人肩を並べて、手を取るばかりに
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
クローク(預所あずかりしょ)とかで、青衿が、外套を受取って、着せてくれて、帽子、ステッキ、またどうぞ、というのが、それ覚えてか、いつのこと……。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言いかけてと小さなといき、人質のかのステッキを、斜めに両手で膝へ取った。なさけの海にさおさす姿。思わず腕組をしてじっと見る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅客もステッキをたてかけて、さしむかいに背をかがめ、石を掻抱かいだくようにして、手をついて実をながめたが、まなじりを返して近々と我を迎うる皓歯しらはを見た。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一段高い廊下の端、隣座敷の空室あきまの前に、唐銅からかねさびの見ゆる、魔神の像のごとく突立つったった、よろいかと見ゆる厚外套、ステッキをついて、靴のまま。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午後三時を過ぎて秋の日は暮れるに間もあるまいに、停車場ステエションの道には向わないで、かえって十二社の方へ靴のさきめぐらして、ステッキを突出した。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書生二人を引従ひきしたがえ、御前様のお出先は、何しろ四谷、最寄もより近所は草を分けても穿鑿せんさくせんと、ステッキを携え、仕込杖しこみづえを脇挟み
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
双方聞合せて、仔細しさいが分ると、仕手方の先見あきらかなり、ステッキ差配おおやさえ取上げそうもないことを、いかんぞ洋刀サアベルうなずくべき。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お帽子もステッキも、私が預ったじゃありませんか。安心してめしあがれ。あの方、今日は会計係、がちゃがちゃん、ごとンなの。……お酌をしますわ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いった声に力がこもって、ついたステッキさきかすかにふるえた。娘のための方便ながら、勿体なくや思いけむ。と見るとまぶたに色を染めて、あわただしげにいい直した。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勢込いきおいこむ、つき反らしたステッキさきが、ストンと蟹の穴へはさまったので、厭な顔をした訓導は、抜きざまに一足飛ぶ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日に焼けたるパナマ帽子、背広の服、落着おちつきのある人体じんていなり。風呂敷包をはすしょい、脚絆草鞋穿きゃはんわらじばきステッキづくりの洋傘こうもりをついて、鐘楼の下に出づ。打仰ぎ鐘を眺め
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じ思いか、面影おもかげも映しそうに、美しいひとじった。ひとり紳士は気の無い顔して、反身そりみながらぐったりと凭掛よりかかった、ステッキの柄を手袋の尖で突いたものなり。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ステッキいて渡ろうとする縁談だから、そこいら聴合わせて歩行あるうちに、誰かの口で水をせば、直ぐに川留めの洪水ほどに目を廻わしてお流れになるだろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヤレまた落語の前座ぜんざが言いそうなことを、とヒヤリとして、やっひとみさだめて見ると、美女たおやめ刎飛はねとんだステッキを拾って、しなやかに両手でついて、悠々ゆうゆうと立っている。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ぶらつく体をステッキ突掛つッかくるさま、疲切ったる樵夫きこりのごとし。しばらくして、叫ぶ)畜生、ざまを見やがれ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「罪なこッたね、悪い悪戯いたずらだ、」と言懸けて島野は前後を見て、ステッキを突いた、辻の角で歩をとどめたので。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と顧みて、そこで、ト被直かぶりなおして、ステッキをついた処、お孝は二つばかり、カラカラと吾妻下駄を踏鳴らした。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ぶらつく体をステッキ突掛つっかくるさま疲切つかれきつたる樵夫きこりの如し。しばらくして、叫ぶ)畜生ちくしょうざまを見やがれ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
横ざまに、ステッキで、たたき払った。が、人気勢ひとげはいのする破障子やれしょうじを、及腰およびごし差覗さしのぞくと、目よりも先に鼻をった、このふきぬけの戸障子にも似ず、したたかな酒の香である。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うながすように言いかけられて、ハタと行詰ゆきつまったらしく、ステッキをコツコツとまたたきひとツ、唇を引緊ひきしめた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本来ならこの散策子さんさくしが、そのぶらぶら歩行あるきの手すさびに、近頃買求かいもとめた安直あんちょくステッキを、真直まっすぐみちに立てて、鎌倉かまくらの方へ倒れたらじいを呼ぼう、逗子ずしの方へ寝たら黙って置こう
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その癖かどの戸はしまっている。土間が狭いから、下駄が一杯、ステッキ洋傘こうもりも一束。大勢あんまひまだから、歩行出あるきだしたように、もぞりもぞりと籐表とうおもての目や鼻緒なんぞ、むくむく動く。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辻に黒山を築いた、が北風ならいの通す、寒い背後うしろからやぶを押分けるように、ステッキで背伸びをして
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士 (ステッキをもって、そのすそおさう)ばさばさ騒ぐな。やりで脇腹を突かれる外に、樹の上へ上る身体からだでもないに、羽ばたきをするな、女郎めろう、手をいて、じっとして口をきけ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士 (ステッキを以つて、其のすそおさふ)ばさ/\騒ぐな。やりで脇腹をかれるほかに、樹の上へ得上えあが身体からだでもないに、羽ばたきをするな、女郎めろう、手をいて、じっとして口をきけ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二晩ばかりつけました、上野の山ね、鶯谷うぐいすだにね、ステッキでも持ちゃあがって散歩とでも出掛けてみろ、手前てめえいかしちゃあ帰さねえつもりで、あすこいらを張りましたけれど、出ませんや。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これよりさき、相貌堂々として、何等か銅像のゆるぐがごとく、おとがいひげ長き一個の紳士の、にぎりしろがねの色の燦爛さんらんたる、太くたくましステッキいて、ナポレオン帽子のひさし深く、額に暗きしわを刻み
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と横ざまにあびせかけると、訓導は不意打ながら、さしったりで、ステッキを小脇に引抱ひんだ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまが幻のもみじする、小流こながれを横に、その一条ひとすじの水を隔てて、今夜は分けて線香の香のぷんと立つ、十三地蔵の塚の前には外套がいとうにくるまって、中折帽なかおれぼう目深まぶかく、欣七郎がステッキをついてたたずんだ。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宰八の背後あとから、もう一人。ステッキを突いて続いた紳士は、村の学校の訓導である。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士 (はじめて心付く)女郎めろう、こっちへ来い。(ステッキをもって一方をゆびさす。)
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不可いかんぞ、これは心細い。」と、苦笑いをしながら立直って、素直まっすぐステッキくと、そのまま渡り掛けたのは一石橋。月はないが、秋あかるく、銀河の青い夜の事。それは葛木晋三である。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「や、ここでえ。話はき分る。」と英臣はステッキを脇挟んで、葉巻をくわえた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生意気にステッキを持って立っているのが、目くるめくばかりに思われました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紳士 (はじめて心付こころづく)女郎めろう此方こっちへ来い。(ステッキを以て一方をゆびさす。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼の影の黒く大なるに対して、葛木の手のカウスは白く、ステッキは細かった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人のわかい方は、洋傘こうもりを片手に、片手は、はたはたと扇子を使い使い来るが、扇子面に広告の描いてないのが可訝おかしいくらい、何のためか知らず、しぼり扱帯しごきせなかに漢竹の節を詰めた、ステッキだか、むちだか
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ステッキ掻寄かきよせようとするが、すべる。——がさがさとっていると、目の下の枝折戸しおりどから——こんなところに出入口があったかと思う——葎戸むぐらどの扉を明けて、円々まるまると肥った、でっぷりもの仰向あおむいて出た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「知れた事だ。汝等うぬらのような蛆虫うじむしは撲殺したって仔細しさいえ。金次どうだ。」「っちまえ。」と、こぶしステッキくうに躍るを、「待った。」となかに割込むは、夫人おくさまの後を追うて、勝手口よりいでたる矢島
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金次は仰山に自然木じねんぼくステッキを構え、無事に飽倦あぐめる腕を鳴して
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と面くらうひまに、ステッキ脇挟わきばさんで悠然と下車しましたから。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い紳士は、ステッキを小脇に、細い筒袴ずぼんで、伸掛のしかかってのぞいて
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初阪は意気を込めて、ステッキをわきに挟んで云った。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
運五郎氏も、並んで、細いステッキを高らかに振った。
咄嗟とっさかん、散策子はステッキをついて立窘たちすくんだ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)