かゝ)” の例文
わしも焼いてしまうべえと思ったが取ってありやすから、これを表向にすれば貴方あんたのお役にもかゝわるから、何にも云わずに帰って下せえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
にもかゝわらず虎口ここうを脱したのは、憎まれる半面にそれだけ惜しまれてもいたのであろうが、一つには彼の気転と才智とに依るのである。
つばめの母親は裏口に頑張つて居り、これは娘の生命にかゝはるやうな人間を其處から通さなかつたことは、あまりにも明かです。
わがくにごと地震國ぢしんこくおいては、地震ぢしん出會であつたときの適當てきとう心得こゝろえ絶對ぜつたい必要ひつようなるにもかゝらず、從來じゆうらいかようなものがけてゐた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
にもかゝはらず、ちゝは習慣に囚へられて、いまだに此教育に執着してゐる。さうして、一方には、劇烈な生活慾に冒され易い実業に従事した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それが睡眠中すゐみんちう身體からだきやうで一變調へんてうきたしたのだかどうだかわからないにもかゝはらず、かれたゞ病氣びやうきゆゑだとめてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すべての記憶は霧散し去り、己れの生年をさへ忘じ果てたるにもかゝはらず、我は一個の忘ずること能はざる者を有せり、たゞに忘ずること能はざるのみならず
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
其身そのみが世の名利みやうりかゝはらねばなり、此日このひるものみなうれしく、人のわざ有難ありがたおもひしは、朝の心の快濶くわいくわつなりしうつりか、その飛々とび/\ひとり隅田すみだ春光しゆんくわう今日けふあたらし。
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
それは一方ひとかたならぬ大騒で、世話人らしい印半纏しるしばんてんを着た五十格好かつかう中老漢ちゆうおやぢが頻りにそれを指図して居るにもかゝはらず、一同はまだ好く喞筒のつかひ方にれぬと覚しく
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
夜毎よごとに盛んな電灯装飾イルミナシヨンを施して客を呼ぶので、だ川風が薄ら寒いにかゝはらず物見だかい巴里パリイの中流以下の市民が押掛けての遊技館も大繁昌である、中に一寸ちよつと痛快に感じるのは
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ないがしろにいたしうへ再吟味は天下の御大法に背くとて重き上意のおもぶきにて越前閉門へいもん仰付おほせつけられ既に切腹とも存じ候へ共もし明日にも御對顏ある上萬一まんいち贋者にせものにてもある時は取返とりかへし相成らず御威光ごゐくわうにもかゝはり容易よういならざる天下の御恥辱ちじよくと存じ越前をしからぬ命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
目黒の與吉は、何が何やら解らない樣子で、ぼんやり二人の話を聽いて居りましたが、氣が付くと沽券こけんかゝはると思つたものか
宗助そうすけべつにそれをにもめなかつた。それにもかゝはらず、二人ふたりやうや接近せつきんした。幾何いくばくならずして冗談じようだんほどしたしみが出來できた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
貧乏びんばふ百姓ひやくしやうはいつでもつちにくつゝいて食料しよくれうることにばかり腐心ふしんしてるにもかゝはらず、作物さくもつたはらになればすで大部分だいぶぶん彼等かれら所有しよいうではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、此の親切な忠告にもかゝわらず、家中の武士は一層油断なく任務にくように命ぜられ、夜な/\奥庭の木の間を照らすかゞり火の数はやされる一方であった。
あれを言ってはほか役人の身の上にもかゝわるだろうと深く思いすぐして、隠し立てを致すと却って為にならんぞ、定めし上役うわやくの者が其の方に折入おりいって頼んだ事も有るであろうが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その傍には根本家と記した高張提燈たかはりぢやうちんが、月が冴々さえ/″\しく満面に照り渡つて居るにもかゝはらず、極めておぼろげに立てられてあるが、自分はそれと聞いて、驚いて、其傍に駆付かけつけて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
或る宗教のフオームかゝはり、或る道義のシステムなづみて人生を批判するは、詩人の忌むべき事なり。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「紛失物ですよ。身にも家にも代へられない寶だが、世間へ知れると殿樣のお名前にもかゝはる、そつと取戻してくれたら、褒美の金は百兩」
懇意こんいわか青年せいねん心易立こゝろやすだてはな遠慮ゑんりよのない題目だいもくは、是迄これまで二人ふたりあひだ何度なんどとなく交換かうくわんされたにもかゝはらず、安井やすゐはこゝへて、息詰いきづまつたごとくにえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
みじかころでも、あさねむたさが覿面てきめん自分じぶんたしなめるにもかゝはらずうそ/\とあるいてねばくさふるぼけた蚊帳かやなかあきらめてそのよこたへることが出來できないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此の訴訟をお採上とりあげになりませんとわたくしの一命にかゝわりますと申したので、お採上げになって、直に松右衛門まつえもんの手で腰縄をかけさせまして入牢じゅろうと相成り、年寄へ其の趣きを届け
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
筑摩領と檜垣領との国境にある朝出川あさでがわの河原に討手を迎えて火の出るように戦ったので、筑摩方は敵に倍する人数であったにもかゝわらず、散々に討ち破られて牡鹿城へ逃げ帰った。
貧乏人扱ひにしやがつて、氣に入らねえケチ兵衞だ。泥棒にされちや、親の名にもかゝはる、土性骨どしやうぼねを叩き折つて、キリキリ舞ひをさせなきや
物理学者でも、ガリレオが寺院の釣り洋燈らんぷの一振動の時間が、振動の大小にかゝはらず同じである事に気が付いたり、ニユートンが林檎が引力で落ちるのを
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
娘お徳どのと互いにむつましく暮し、両人の間に出来た子供は男女なんにょかゝわらず、孝助の血統ちすじを以て飯島の相続人と定めくれ、あと斯々云々こう/\しか/″\と、実に細かに届く飯島の家来思いの切なるなさけ
「若樣は急に命にかゝはる事もありますまい。それより大事なのは、お家の瑕瑾きずにもなる繩付の始末です。利助は何時頃此處を出かけました」
かれ自分じぶん學校生活がくかうせいくわつをしてゐるにもかゝはらず、あに日曜にちえうが、如何いかあににとつてたつといかを會得ゑとく出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「俺も解らねえが、こいつは大變な曲者だ。退治しなきや御府内の難儀、お上の御威光ごゐくわうにもかゝはる。來い、八。今晩のうちにらちをあけてやる」
広瀬中佐の詩に至つてはがうも以上の条件をそなへてゐない。やむを得ずしてせつな詩を作つたと云ふ痕跡はなくつて、やむを得るにもかゝはらず俗な句を並べたといふ疑ひがある。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「でもこいつは褒美も何んにもありませんよ。ちよいと覗いて見たつて、親分の顏にも名前にもかゝはるわけはありません」
すると与次郎が美禰子をイブセン流と評したのも成程と思ひ当る。但し俗礼ぞくれいかゝはらない所丈がイブセン流なのか、或は腹の底の思想迄も、さうなのか。其所そこわからない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
繩張にして居る、この源吉の顏にかゝはると言ふものだ、——なア八兄哥、今度はお町は井戸へ投げ込まれたに違げえねえなんて言はないことだぜ
いつぞや上野へ展覧会を見に行つた時、公園の森の下を歩きながら、自分はある目的をもつて先刻さつきから足を運ばせてゐるにもかゝはらず、いまかつて一すんも動いてゐないのだと考へたりした。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「だつて、ケチな長屋のお通夜だつて、酒ぐらゐは出るでせう、八五郎親分を一と晩かつゑさしちや、俵屋の暖簾のれんは兎も角、私の顏にかゝはるでせう」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
代助は平岡の言語げんご如何いかんかゝはらず、自分の云ふ事丈は云はうとめた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「止さないかよ、馬鹿々々しい、お靜はお勝手口から逃出したぢやないか、お前の話を聽いて居ると、命にかゝはる」
「それからが大變で、——すつかり醉つてしまつて、お御輿みこしがあがりさうもないが、初會しよけえから居据つちや、こけんにかゝはるから、いざ歸らうとなると」
「これは人の命にもかゝはる大事なことだ、——外でもない、手代の春之助、お前とは從兄妹いとこ同士ださうだが、あの男が近頃變な素振りを見せなかつたか」
相手は武家屋敷だが、これが表沙汰になると、大坪家の家名にかゝはるから、用人の小峰右内といふ人が、持て餘してそつと、あつしに頼みに來たくらゐだ。
「もう四半ときも前に人をやつたが、何んとも返事がありません。跡取りがこんな死樣しにざまをしたことが世上の噂に上ると、家名にかゝはるとでも思つてゐるんだらう」
言ふと、見識にかゝはると思つてゐるんですね。嫁なんてものは、顏があつてもなくても仔細しさいはないと——
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
打つか、怪我はしてもまさか命にかゝはるやうなことがあるめえ。ところが、こんなことになつているんだ
「待ちなよ、八。三人の娘の命にかゝはることと言ふと、そいつは向島の越後屋の寮の話ぢやないのか」
「こんなわけだ。騷ぎが大きくなれば、自然主君の御名前にもかゝはる。それに、奧方御里方、酒井左衞門尉樣への聞えも如何、——早急に片附ける工夫はないものか」
それにもかゝはらず、進んで離屋に寢泊りすることを望んだのは、主人鈴川主水もんどの眼をのがれて、自由自在に女を引入れられる、飛んでもない自由さがあつたからです。
「ところで、その死にかけてゐるのは誰と誰だ、人の命にかゝはると聞いちや放つても置けまい」
「この縁談を壞すだけならいゝが、三千兩の行方が判らないとなると、幾人もの命にかゝはるぜ」
もつとも、あんな親爺があると知れちや、師匠の人氣にかゝはるからと、秘し隱しに隱してゐたのが、近頃お幾が病氣で寢込んでしまつて、身内の者が側にゐないと心細いからと
「他でもない、宇佐美家の浮沈ふちんかゝはる一大事。折入つてお願ひを申上げたいといふのは」