態々わざ/\)” の例文
根岸氏はその豆腐の一つを、ボウル箱に入れて、態々わざ/\正金銀行の支店までボオイに持たせてやつた。根岸氏は幾度いくたびボオイに言つて聞かせた。
もおいとひ無くて態々わざ/\と娘のつとめ先までも御連れ下さる御心切御れいの申上樣も御座らぬ迄に有難う存じますると云ふをきゝ三次はかぶりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けにならないように願いたい、自分は此のことを申上げたいと存じて、只今態々わざ/\筑紫から参ったのです、と云うのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
富「手前は隣村りんそんる山倉富五郎と申す浪人で、先生御在宅なれば面会致したく態々わざ/\参りました、是は此方様こなたさまへほんのお土産で」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯ういふ化粧品をしんきに輸入しましたと態々わざ/\買つて来る。今度は何処そこに音楽会がありますと上等の切符を持つて来る。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
さうでないとすれば人間にその犠牲にすべき肉体を態々わざ/\与へた者は余りに無慈悲である。「一方が不正な為めだ。基督教が残酷なのではない。」
其れからみんなして遺骸おからだを、御宅へかついでめえりましたが、——御大病の御新造様ごしんぞさま態々わざ/\玄関まで御出掛けなされて、御丁寧な御挨拶ごあいさつ、すると旦那
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
たつての頼みをこばみ難く、態々わざ/\迎ひに來たと語るのであつたが、然し一言もお定に對して小言がましい事は言はなかつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、つまる所、私が態々わざ/\乗鞍岳へ登って、得て来たちゅうものは、この一つだけだすが、之が、可成大きな発見だす。
其に就いて、こゝに居られる郡視学さんも非常に御心配なすつて、態々わざ/\の雪に尋ねて来て下すつたんです。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と言つた風に油をけられたので、それで当時規則正しい、陸軍志願の学生には唯一の良校と言はれた市谷の成城学校にも入らずに、態々わざ/\速成といふ名にれて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
お前のうちは昔から阿母おつかさんが東京好きで、長火鉢まで東京風のふちせまい奴を態々わざ/\取り寄せて、褞袍どてらなんか着込んで其の前へ新橋邊しんばしへん女將おかみさんみたいにして坐つてゐたが
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なんことアねへ態々わざ/\心配しんぱいしてたさにようなもんで一盃いつぱい一盃いつぱいかさなれば心配しんぱいかさなつて
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
先頃さきごろのよりもくしてつたからもうれでとほ道程みちのり態々わざ/\なくてもれを時々とき/″\つてやれば自然しぜんかわいてしまふだらうと、しろくすりとそれからガーゼとをふくろれてくれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とも態々わざ/\休暇きうかつて、自分じぶんとも出發しゆつぱつしたのではいか。ふか友情いうじやうによつてゞはいか、親切しんせつなのではいか。しかじつ是程これほど有難迷惑ありがためいわくことまたらうか。降參かうさんだ、眞平まつぴらだ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
西瓜すゐくわが食べたくなつて態々わざ/\京都から大きな新田しんでん西瓜の初物を取り寄せたといふ話や、村へ来た時百人余りの小学校の生徒全部へ土産として饅頭を贈つたことや、馬に乗りたくなつたとて
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
最後は、昨年の十一月だつたが、東京から弟を態々わざ/\呼んで、Fの行李まで擔ぎ出さしたのだが、丁度獨りの老父が郷里の家を疊んで出て來たのとカチ合つた爲め、その時もお流れになつた。
不良児 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
なんとか乘出して貰へまいか——と川崎の孫三郎親分から態々わざ/\の手紙ですぜ
これを読んで寝ようとお思ひになつてあなたが二階から態々わざ/\とこの中へ持つて来ておありになるのを見附けますが、私の生前にたばねられた儘の紙捻こよりの結び目は一度もまだ解いた跡がないのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たねくにも、いねるにも態々わざ/\こよみいだしてせつるにおよばず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
貫名海屋ぬきなかいをくの系統を伝へた谷口藹山あいざんが、まだ京都の下長者町しもちやうじやまちに居た頃、南画好きのある男が態々わざ/\大阪から訪ねて往つて弟子入りをした。
いとなみ候へども彼地は至て邊鄙へんぴなれば家業もひまなり夫故それゆゑ此度同所を引拂ひきはらひ少々御内談ないだんも致度事これありて伯父上をぢうへ御許おんもと態々わざ/\遠路ゑんろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
伊兵衞「誠に遠方の処態々わざ/\お訪ね下され御真実なことで、わたくしは伊兵衞と申しますものでございますが、只今お次で残らず御様子を伺いました」
「イエ、なに、態々わざ/\と申すでは御座りませぬ、ほかに此の方面へ参る所用も御座りまする、其れに久しく御父上には拝顔を得ませんで御座りまするから」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
う/\其忠太さんさ。面白い言葉な人だねえ。』と言つたが、『來なくても可いのに、お前さん達許り詰らないやね、態々わざ/\出て來て直ぐ伴れて歸られるなんか。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「何が困る……困るのは当り前だ。己がナ、この藤田重右衛門がナ、態々わざ/\困るやうにして遣るんだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『へえ、お蔭さんで、月見の晩やなぞは、大阪から態々わざ/\來て呉れはるお客さんもござります。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
態々わざ/\そこまで出て来て、その火鉢を中心にして陽気な談話に花を咲かせた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
みなみ亭主ていしゆ態々わざ/\はなしをされてはてゝかへりみぬことも出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
パアシング将軍は態々わざ/\立つて、その士官の船室ケビンに訪ねて往つた。士官は船酔の果てが、枕につかまつて頻りとむさい物を吐いてゐた。
文「手前は業平村に居ります浪島文治郎と申しますえー粗忽そこつの浪士でござるが、先生にお目通りを願いたく態々わざ/\出ました」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ば先下に置き懷中くわいちうより一枚の紙取出し如何も少々の買物かひものにて氣の毒ながら此方の店は藥種やくしゆが能きゆゑ態々わざ/\遠方ゑんぱうよりして參りたれば此の十一
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一昨日をとゝひの晩も『浪の家』から、電話ぢやく解らないツてんで態々わざ/\使者ひとまで来たぢやないか、何が面白くて湖月などにグヅついてたんだ、帰つたともや
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
腸の一部が睾丸かうぐわんに下りて居る事で、何うかしてこの大睾丸おほきんたまなほしてる方法は無いかと、長野まで態々わざ/\出懸けて、いろ/\医者にも掛けて見たけれど、まだ其頃は医術も開けて居らぬ時代の事とて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
自分はひそかに微笑せざるを得なかつた。辯當をつかふのでお秋さんがお茶を汲んで山芋を一皿呉れた。お秋さんは草鞋わらぢをとつた丈で脚袢の儘疊へ膝をついて居る。自分へ茶を出すため態々わざ/\あがつたのだ。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だが、それは糠喜ぬかよろこびであつた。原氏は夕方宿へ着くと、こつそり高橋氏を陳列所にやつた。そして態々わざ/\くだんの鯛の刳盆を買ひ取らせて来た。
丈「それが有るから斯うやって金を貸すほうで、足手あしてを運んで、雪の降るのに態々わざ/\橋のたもとまで来たのだから、本当に金貸かねかしをもって仕合しあわせではないか」
小松こまつくぬぎはやしまじつて、これれゝばひと肌膚はだへせるほどこは意地いぢわるつたすゝきまでが、さうしなければにもたないのに態々わざ/\薄赤うすあかやはらかな穗先ほさきたかくさしげて、ひとばいさわいだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「江川のは狩猟かりが好きなのぢやない、あれは病気なのだ、病気にも色々あるが、態々わざ/\あんな殺生病にかゝるなざ気の毒なもんだ。」
文「また来たか、誠に心にかけて毎度旨い物を持って来てくれて気の毒だ、商売をしていればさぞせわしかろうから態々わざ/\持って来てくれなくもいゝのに」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鴈治郎はとしよつた尼さんのやうな寂しさうな眼もとをして、をふつた。そのは女の涙を拭いてやるために態々わざ/\拵へたやうに繊細きやしやに出来てゐた。
是非お前さんの袖にすがって伯父さんにお詫をしていたゞき、永らくかけた御苦労の御恩を返そうとおもってね、それで態々わざ/\来たんですから、鳶頭どうか
町の人は名高い王様のお成りだといふので、態々わざ/\心をこめてとんちんかんなおもてなしをして、王様の御機嫌をとつた。
富「毎度面倒な事を頼んで、大分裁縫しごとうまいと云うので、大きにさいも悦んでいる、ついては忙しい中を態々わざ/\呼んだのは他の事じゃアないが、此の払物はらいものの事だ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お鮨なんですよ、昨夕ゆうべ大使夫人にお招きにあづかりましてね、その折戴いた御馳走なの、貴方に上げたいと思つて、態々わざ/\持つて、帰つたのですわ。」
かく「かえすッたって、どうもたゞは返されません、私も路銀を遣い、こうやって態々わざ/\尋ねて来たんですものを」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
忘れ物とは他でもない女房かないの事だ。女房かないといふものがあるのに、態々わざ/\外へ出て女買ひにふけつたのは勿体なかつた。
貞「麹屋のお隅が、先生にお目に掛ってお話し申し度い事があって、雪の降る中を態々わざ/\参ったといいます」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
紳士はそれを自分を褒めて呉れたもののやうに思つて、態々わざ/\懐中時計を引張り出して、今正規の時間に合はしたばかりの針をまた古時計の通りに引直ひきなほした。
その侍が鰻屋へ這入へえると、此の通り売切れ申候という札が出してあります、存じてる、貴様の所の鰻は宜いから態々わざ/\来たのを、己に食わせんと云う事はあるめえ