みさき)” の例文
急を報ずる合図の烽火のろしみさきの空に立ち登り、海岸にある番所番所はにわかにどよめき立ち、あるいは奉行所ぶぎょうしょへ、あるいは代官所へと
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
立待崎たちまちさきから汐首しほくびみさきまで、諸手もろてを拡げて海を抱いた七里の砂浜には、荒々しい磯の香りが、何はばからず北国ほくこくの強い空気に漲ツて居る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
若いのと、なれないのとで、みさきへくるたいていの女先生が、一度は泣かされるのを、本校通いの子どもらは伝説でんせつとして知っていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
万葉集の歌「うらうらと照れる春日に雲雀ひばりあがり心悲しも独し思へば」や「いもがため貝を拾ふと津の国の由良ゆらみさきにこの日暮しつ」
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
みさきの十二天へ登って、お光さんは、港内を見下ろしながら、広東カントン服の膝を組んで、その上へ、巻煙草を挟んだ指を放心的に乗せていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このみさき燈台守とうだいもりや、山のはたけのおばあさんや、お百姓ひゃくしょうさんや、その家族の人たちは、いつも歩きなれている道ばかりをいきますから
忽ち一隻の舟ありて、漁父等の立てるみさきの下より、つるを離れし征箭さつやの如く、波平かなる海原を漕ぎ出で、かの怪しき島國の方に隱れぬ。
なぎさつきに、うつくしきかひいて、あの、すら/\とほそけむりの、あたかかもめしろかげみさきくがごとおもはれたのは、記憶きおくかへつたのである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前にして遠く房總ばうそうの山々をのぞみ南は羽田はねだみさき海上かいじやう突出つきいだし北は芝浦しばうらより淺草の堂塔迄だうたふまではるかに見渡し凡そ妓樓あそびやあるにして此絶景ぜつけい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
巨大な樹木と深緑の草に蔽はれた山が湖岸まで裾をひき、絶壁をそばだたせ、みさきをつきだし、夢のやうな美しい景色が次々にひらけてきます。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
みさきのやうなかたちうて水田すゐでんかゝへて周圍しうゐはやしやうや本性ほんしやうのまに/\勝手かつてしろつぽいのやあかつぽいのや、黄色きいろつぽいのや種々いろ/\しげつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それは穏かに庭で育った高価な家畜のようなしとやかさをもっていた。また遠く入江を包んだ二本のみさきは花園を抱いた黒い腕のように曲っていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そしてそのくらい、すさまじいはなれたときには、二人ふたり姿すがたは、もはやそのみさきうえにはえなかったのであります。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
散歩に出た斧田が海沿いの道をみさきのほうへ下りてゆく途中、三方に断崖きりぎしを負ってひとところだけたくましく雑草の茂った小高い台地にさしかかったとき
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして昼近くなってちょっとしたみさきをくるりと船がかわすと、やがてポート・タウンセンドに着いた。そこでは米国官憲の検査が型ばかりあるのだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
船はしだいしだいに南方にむかい、八時間ののちには、南のみさきをめぐって、チェイアマン島を北方地平線に見送った。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
余は一人とがった巌角がんかくを踏み、荊棘けいきょくを分け、みさきの突端に往った。岩間には其処そこ此処ここ水溜みずたまりがあり、紅葉した蔓草つるくさが岩にからんで居る。出鼻に立って眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私たちがその頂上に坐っているみさきにちょうど向きあって、五、六マイルほど離れた沖に、荒れ果てた小島が見えた。
この一種の行き止まりの奥、右の横丁のかどの所に、街路のみさきのようにして立っている他より低い一軒の家があった。
故郷の村は遠く雲烟の間に、かすかに一抹の墨絵のみさきになつて見えた。岬の端に半分海の中へ入つてそびえて居る富士形の山は村から三里程奥の××山だ。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
輝かしい夜に、輝かしい海の上で、若い糸杉に縁取られたみさきに沿って、舟を漂わした。そして彼はその村に腰をすえて、たえず愉快に五日間を過ごした。
をかくだつてみゝすますと、ひゞきんでも、しま西南せいなんあたつて一個ひとつ巨大おほきみさきがある、そのみさきえての彼方かなたらしい。
おさえているから、みさきのむこう側に行ってくれたまえ、三人の身体は潮の流れにのって、あっちへとどくのだ
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
海がみさきで見えなくなった。松林まつばやしだ。また見える。つぎ浅虫あさむしだ。石をせた屋根やねも見える。何て愉快ゆかいだろう。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはみさきみたいにつき出た上の、木立の無い点に立っていて、単に渓谷のすばらしい景色を包含するばかりでなく、三つの異る山の渓流が下方で落合うのが見られる。
西東続いた南庭の池の間に中島のみさきの小山が隔てになっているのをぎ回らせて来るのであった。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
みさきや岩のたたずまいから、十分間の中に、体がいくらか潮に流されていることを知った。五郎は振切るようにしぶきを立て、元の岸に向って泳いだ。やがて足が砂についた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
肥前ひぜん下五島しもごとう、昔の大値賀島おおちかのしまの北部海岸に、三井楽みいらくというみさきの村が今もある。遠く『万葉集』以来の歌に出ているミミラクの崎と同じだと、今日の人はみな思っている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
またチェリュスキンみさきとレナ河口とにも観測所を設け、後者の一部は永久的のものにする。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その、もと船長の遺言書は、むずかしい文章なので、くだいて話すとね、今から二十年ばかりまえに、紀伊半島のしおみさきの沖で、大洋丸という汽船が、暴風のために沈没した。
海底の魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その飛び方によって、私はそれをたかだと思った。氷原の南端は狭いみさきのように、その尖端が細まって海中に突出している。この岬の麓へ来た時に、一行は足を停めてしまった。
そうですね、九十九里は全く別世界のような気がしますね、大東だいとうみさき以来、奇巌怪石というはおろか、ほとんど岩らしいものは見えないではありませんか、平沙渺漠へいさびょうばくとして人煙を
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうしてそのまま小坪こつぼ這入はいる入口のみさきの所まで来た。そこは海へ出張でばった山のすそを、人の通れるだけの狭いはばけずって、ぐるりと向う側へ廻り込まれるようにした坂道であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして原始林地帯がところどころに、荒れ野原へみさきのように突入しているのだった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
遅い越後ゑちごの春がやつて来て、海が緑色にうるみ、みさきの向かふの弥彦山やひこさんの雪も消えた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
その時慈悲太郎は、静かに砂を踏み、入江を囲む、みさきの鼻のほうに歩んで行った。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
膨らんだ頬ぺたのかげから、少しずつ、実に少しずつ、鼻の頭のとがりが見えて来る。ちょうど汽車の窓で景色を眺めている時に、とある山の横腹からみさきが少しずつ現れて来るような工合である。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それよりほかに生き方が無いと思われて、三つの手紙に、私のその胸のうちを書きしたため、みさき尖端せんたんから怒濤どとうめがけて飛び下りる気持で、投函とうかんしたのに、いくら待っても、ご返事が無かった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
雲が湧き立っては消えてゆく空のなかにあったものは、見えない山のようなものでもなく、不思議なみさきのようなものでもなく、なんという虚無! 白日の闇が満ち充ちているのだということを。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
造船所のみさきの陰には、あさなぎ、ゆうなぎと書いた二そうの銀灰色の軍艦が修理に這入っていた。白い仕事服の水兵たちがせっせと船を洗っている。赤い筋のある帽子が遠くからほたるのように見えた。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
みさきなるタンジョンカトン訪ひしかばスラヤの落葉蟋蟀こほろぎのこゑ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのうちに同じ日向ひゅうが笠沙かささみさきへお着きになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そのおひづる姿が、むかうのみさきのはしにかくれるまで。
さがしもの (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
蒙古よりいぬのごとくに吠ゆる風みさきにありて暗き磯かな
怒號はげしく更に又みさきのめぐり、波がしら
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
みさき代赭色たいしやいろに、獅子の蹈留ふみとゞまれる如く
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あやめもわかぬみさきにたてり。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
ひかれひかれて、みさきの端に
林なすしおみさき崖椿がけつばき
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
なんとか鼻をあかしてやる方法を考えだしたいと、めいめい思っているのだが、なに一つ思いつかないうちにみさきの道を出はずれていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)