吟味ぎんみ)” の例文
土間どまから眼を放したお延は、ついに谷をへだてた向う側を吟味ぎんみし始めた。するとちょうどその時うしろをふり向いた百合子が不意に云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男なら酒のよしあしをやかましくいう酒みのように、ものの吟味ぎんみを注意深くするようになれば、料理のよしあしが語れるわけである。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
また、地方吟味ぎんみ税取立ぜいとりたて、岡崎浜松の勘定方や軍需品の買入役など、およそ経済方面の要務は、ほとんど兼ねているといっていい。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「学校でも若様のお遊び相手ははあなたが吟味ぎんみする。玉石混淆ぎょくせきこんこうですから、その中からしかるべき人を選んでください。おわかりかな?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
吟味ぎんみ與力筆頭、若くて俊敏な笹野新三郎は、この自慢の岡つ引に叩き起されて、大した不平らしい顏もせずに起きて來ました。
早くも次の日の午後、この強情な男は、外界を吟味ぎんみするための新しい処置を取った。しかもこんどは、ありったけの成果をおさめたのだった。
「お金、——」と彼は息を止め、それからなにかを吟味ぎんみするように云った、「貴女はいまあいつらに、金をやったんですか」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いさ、おれもそりや何方どつちだツていさ。雖然けれどもこれだけは自白じはくして置く。俺はお前のにく吟味ぎんみしたが、心は吟味ぎんみしなかツた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
いや足しになるどころではない、これを十分吟味ぎんみすれば、何もジタバタしなくたって、坐っていて事件の真相をつかむことが出来るかも知れない。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
殘らず呼集よびあつめ次右衞門三五郎正座になほ座傍かたはらには寺社奉行じしやぶぎやう并びに遠藤喜助小林軍次郎等列座れつざにて一人々々に呼出よびいだし澤の井の宿を吟味ぎんみに及ぶも名主を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「某より申上げます。唯今、仮牢にて吟味ぎんみ中でござりまするが、それも野良着のままにて御前へ推参いたさせますることはいかがかと存じまするが」
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そんな次第ゆえ諸方からの到来物は一々自ら吟味ぎんみして菓子かしの折まで開けて調べるという風で月々の収入支出等も佐助を呼びつけて珠算盤そろばんを置かせ決算を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「絵柄は、わたしも、随分と吟味ぎんみいたしたつもりで——鷹は、百鳥ひゃくちょうのつわもの——一度見込んだ対手は、のがしっこがないといわれてますゆえ——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
この二重の吟味ぎんみで、もうなにも食物ののこっていないことがわかった。それでかれはたき火の前の自分のせきに帰って、ゼルビノとドルスの顔をながめた。
ところで、荒唐無稽であるが、この妙チキリンな一語は、芸術の領域では、さらに心して吟味ぎんみすべき言葉である。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
れから脇屋を捕まえると同時に家捜やさがしをして、そうしてそのまま当人は伝馬町に入牢にゅうろう申付もうしつけられ、何かタワイもない吟味ぎんみの末、牢中で切腹を申付られた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だれでも實際じつさいあたつて一々いち/\營養えいやう如何いかん吟味ぎんみしてものはない、だい一にあぢ目的もくてきとしてふのである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
一つの件がきわめて長いあいだ吟味ぎんみされていると、その吟味がまだ終ってしまってはいないのに、突然、電光石火の勢い、思いもかけなかったようなところ
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
隆夫は今までによく吟味ぎんみしてあったから自分のところの受信機はほとんどゆがみをしょうじない自信があった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここを深く相考うべきことかしらたる者よくよく心をつけもはや縁辺願い出で候節吟味ぎんみを遂ぐべきことに候。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それは今まで調べられた、どの切支丹門徒きりしたんもんとの申し条とも、全く変ったものであった。が、奉行が何度吟味ぎんみを重ねても、頑として吉助は、彼の述べた所をひるがえさなかった。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雨戸をしめれば蛇の逃所がなし、しめねばならず、ランプを呼ぶやら、青竹を吟味ぎんみするやら、小半時こはんときかゝって雨戸をしめ、隅に小さくなって居るのを手早くたゝき殺した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
材料も吟味ぎんみし、木理も考え、小刀も利味ききあじくし、力加減も気をつけ、何から何まで十二分に注意し、そしてわざの限りをつくして作をしても、木のというものは一々にちが
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
実際これを作るには、長い幾夜かを費すのであって、材料も吟味ぎんみするから安くは出来ない。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
相当の吟味ぎんみをして入れなければならないはずなのが、どうしたものか、少なくとも、たった一人だけ穏かでない人足を入れてあることは、役人たちの大きな手落ちと言おうか
彼は姉の下腹をうかがった。躑躅をひくときの姉の様子を浮かべると、肱で子供がつぶされていそうに思えてならなかった。しかし、それをどうして吟味ぎんみしてよいものか分らなかった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
むかし、あるくに有名ゆうめい陶器師とうきしがありました。代々だいだい陶器とうきいて、そのうちしなといえば、とお他国たこくにまでひびいていたのであります。代々だいだい主人しゅじんは、やまからつち吟味ぎんみいたしました。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「で、日光造営奉行が、拙者ときまりましてから、江戸にいる家老に申しつけて、日光を中心にした四十里の地方と、江戸からの道中筋、駅馬などを残らず吟味ぎんみさせましたところが」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「旦那の御吟味ぎんみは違っております。これではわたくしが浮かばれません。」
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あらためて、町奉行が、あまりの事に、櫓下やぐらした胡乱うろついた時と、同じやうなさまをして見せろ、とな、それも吟味ぎんみの手段とあつて、屑屋を立たせて、ざる背負しょはせて、しめたやうな手拭てぬぐいまでかぶらせた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
余は目科に向いて馬車の隅にすくみしまゝ一つは我が胸に浮ぶ様々の想像を吟味ぎんみするにいそがわしく一は又目科の様子に気を附けるが忙わしさに一語だも発するひま無し、目科は又暫し考えし末
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「何ですね。若旦那だって、商売人の子じゃござんせんか。このくらい手近かにある現品の吟味ぎんみを、今更、おもてさらして野暮な実物看貫かんかんも出来ないじゃござんせんか。つもっても、ごろうじましな」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実際にほかの動物がつらくては、何にもならない、結局はほかの動物がかあいそうだからたべないのだ、小さな小さなことまで、一一吟味ぎんみして大へんな手数をしたり、ほかの人にまで迷惑めいわくをかけたり
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
吟味ぎんみの結果は僧が云ったように三左衛門が二目の負けとなっていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
不審のかどを以て吟味ぎんみ致し候処、右慶蔵申立て候処によれば、慶蔵事盗み候金子は満行寺境内に有之候子育地蔵尊こそだてじぞうそん賽銭さいせんばかりにて、所持の大金は以前より満行寺門内の大木の穴に有之候ものゝ由にて
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
領主 暫時しばらく叫喚けうくわんくちぢよ、この疑惑ぎわくあきらかにしてその源流げんりう取調とりしらべん。しかのち、われ卿等おんみら悲歎なげきひきゐて、かたきいのちをも取遣とりつかはさん。づそれまでは悲歎ひたんしのんで、この不祥事ふしゃうじ吟味ぎんみしゅとせい。
知事は“早暁に行われた美人ごろしの事件”と聞いて、さっそく官舎からちょうへのぼり、閻婆と唐牛児を白洲しらすにすえて、吟味ぎんみをひらいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふぐの特質は、こんな一片のシャレでほうむり去られるものではなかろう。ふぐの味の特質は、もっともっと吟味ぎんみされるべきだと私は考える。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「良家の令嬢、深窓しんそう佳人かじんなら、そんな心配はない。そういうのを吟味ぎんみして、早く貰うんだよ。光子さんだって賛成するだろう」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼は最初の二三台を親のかたきでもねらうようにこわい眼つきで吟味ぎんみしたあと、少し心に余裕よゆうができるに連れて、腹の中がだんだん気丈きじょうになって来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「一向知りませんよ。旦那はお酒の吟味ぎんみがやかましくて、剣菱けんびしたるで取って飲んでいましたから、酒屋の徳利なんか家へ入るわけはありません」
入れ殺生する曲者くせものありとのうつたへに付私し出役しゆつやく仕つり引き捕へ吟味ぎんみ仕り候處に彼曲者かのくせものは紀伊家の徳太郎信房卿のぶふさきやうの御名前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
弁兆は食膳の吟味ぎんみに心をくばり、一汁いちじゅうの風味にもあれこれと工夫を命じた。団九郎の坐禅諷経をふうじて、山陰へ木の芽をとらせに走らせ、又、屡〻しばしば蕎麦そばを打たせた。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
吟味ぎんみにかける盗賊があり、係の与力と打合せをするためで、そのあと夕方まで役所で事務をとった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、極度に混乱した思考力を落ちつけ、この一連の犯罪事件を、もう一度隅から隅まで吟味ぎんみして見たいと思った。あとはやがて到着する警察の人々に任せて置けばよい。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いずれでもよろしい、政府がかっままあたいで売てれるとえば、私はどんなにでも骨をおって、本を吟味ぎんみして値切り値切ねぎって安く買うて売てるようにするが、政府がもうけると云えば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは、なんであったか、ぼく昨日きのうから、今日きょうへかけて、散歩さんぽした場所ばしょかべたり、んだ書物しょもつについて、吟味ぎんみしたりしたのでした。けれど、やっぱりくもをつかむようだったのです。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
「何が毒酒なもんで——いい酒さ——いいも良い——池田の剣菱けんびし、ちょいと口にへえる奴じゃあねえ。これで、おいらも、何の道楽もねえ堅造だが、酒だけは吟味ぎんみしねえじゃあいられねえ方だ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「よし、では鳥沢の粂を呼び出してからまた吟味ぎんみをする、さがれ」
例年の通りに、お茶の水の聖堂で素読そどく吟味ぎんみが行なわれた。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)