すなわ)” の例文
その馬場という人物は一種非凡なところがあって、碁以外に父はその人物を尊敬して居たということです。その一子がすなわち僕であったのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかればすなわちわれらをして冷遇を受けしめし者は何ぞ。曰く半ば人為なりとするも半ば偶然のみ人為の不都合は自ら責任の帰する所あり。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その一死を賭して、雲蒸うんじょう竜変りょうへん成功を万一に僥倖ぎょうこうしたる、またべならずや。竹内式部たけのうちしきぶ山県大弐やまがただいに、高山彦九郎の徒すなわちこれなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
夫死すれば其妻はすなわち賢母にして、子を養育し子を教訓し、一切万事母一人の手を以て家を保つの事実は古今世に珍しからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
君側の奸をはらわんとすと云うといえども、詔無くして兵を起し、威をほしいままにして地をかすむ。そのすなわち可なるも、其実は則ち非なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さて又、近ごろ西のはてなるオランダといふ国よりして、一種の学風おこりて、今の世に蘭学と称するもの、すなわちそれでござる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
求めて得なければ天命に帰してしまい、求めてればすなわちその人を媢嫉ぼうしつする。そうでもしなければみずから慰める事が出来ない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すなわち享楽は必らず肉食にばかりあるのではない。むしろ清らかな透明な限りのない愉快と安静とが菜食にあるということを申しあげるのであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
以て仕うくんばすなわち仕え、以てむ可くんば則ち止み、以て久しくす可くんば則ち久しくし、以て速やかにす可くんば則ち速やかにせしは孔子なり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
或は傑士賢臣、うなずいて阿附あふせざるれば、軽ければすなわち之を間散かんさんに置き、重ければ則ちうばいてもってみんを編す。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すなわち分割のこと、これに与るも不利、与らざるも不利、然らばこれに対処するの策なきか。曰く、あり。しかも、ただ一つ。すなわち日本国力の充実これのみ。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
恒産なくして恒心あるは、ただ士のみくするをす。民のごときはすなわち恒産なくんば因って恒心なし。いやしくも恒心なくんば、放辟ほうへき邪侈じゃしさざるところなし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
わが浄土門他力の御法みのりはいかにといえば、かの竜樹菩薩りゅうじゅぼさつも仰せられたごとく——仏法に無量の門あり、世間の道になんありあり、陸路のあゆみはすなわち苦しく
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多数はすなわち勢力であるから、多数の登山者を有する山岳は、それだけの要求を有し得らるることと信ずる。
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
政府で鋳造の一分銀一個ごとにその量目百三十四ゲレイントロイで、すなわちメキシコ銀百ドルに適応すべき三百十一個の量目は四万千六百七十四ゲレインである。
明治の五十銭銀貨 (新字新仮名) / 服部之総(著)
ふ所の独逸ドイツとはすなわち何ぞや、彼等は軽忽けいこつにも独逸皇帝を指して独逸と云ふものの如し、気の毒なるかな独逸皇帝よ、汝は今夏こんかの総選挙に於て全力を挙げて戦闘せり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
爾さ、曲者が自分の名を書ぬ事は明かだ、かくのはすなわち自分へ疑いの掛らぬ為だから、爾だ他人たじんに疑いを掛けて自分がそれを逃れる為めだから、此名前で無い者が曲者だ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
この雪の粒が互に固く癒合凍結すればすなわち氷河となる、氷河となるにはまだ高度が不足して居る。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
向日葵ひまわり毎幹まいかん頂上ちょうじょうただ一花いっかあり、黄弁大心おうべんたいしんの形ばんごとく、太陽にしたがいて回転す、し日が東にのぼればすなわち花は東にむかう、日が天になかすればすなわち花ただちに上にむか
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
丁度この見晴しと相対するものはすなわち小石川伝通院でんづういん前の安藤坂あんどうざかで、それと並行する金剛寺坂こんごうじざか荒木坂あらきざか服部坂はっとりざか大日坂だいにちざかなどは皆ひとしく小石川より牛込赤城番町辺あかぎばんちょうへんを見渡すによい。
し我を以て天地を律すれば一口ひとくちにして西江せいこうの水を吸いつくすべく、し天地を以て我を律すれば我はすなわ陌上はくじょうの塵のみ。すべからくえ、天地と我と什麼いんもの交渉かある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その改築費及び将来の維持費の如き、一の資力を以てせんこと容易に非ず、すなわち前に掲げたるが如く今回富士観象会なるものを組織して弘く天下に向て賛助を乞うに至れり
すればすなわ同一、不会なれば万別千差、不会なれば事同一家、会すれば則ち万別千差。討つのもよい。忠孝両全の道じゃ。討たぬのもよい。神仏と心を同じゅうするものじゃ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
巧にして繊なるときはすなわち日に大方に遠し。巧にして奇なれば必ず正格を軽視す。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「この心を敬守けいしゅすればすなわち心さだまる、その気を斂抑れんよくすれば則ちたいらかなり」と。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もんは一紙に欠け、ぎょうすなわち十四、うべし、簡にして要、約にして深し」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
王朝の頃大江匡衡おおえのまさひらは『見遊女序ゆうじょをみるのじょ』を書いてこの川筋の繁昌はんじょうをしるし婬風いんぷうをなげいているなかに、河陽ハすなわチ山、河、摂、三州ノ間ニ介シ、天下ノ要津ようしんナリ、西ヨリ、東ヨリ、南ヨリ、北ヨリ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たとえば前に掲げた『令義解りょうのぎげ』の文に、「朝にはすなわち諸神の相嘗祭云々」とあるに対して、後世の相嘗祭は日を異にして十二日早くなり、延喜の四時祭式には近国の七十一座の神々にかぎり
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
政府ノ処置、此趣旨ニもとルトキハ、すなわチ之ヲ変革シ或ハ之ヲ倒シテ、更ニこの大趣旨ニ基キ、人ノ安全幸福ヲ保ツベキ新政府ヲ立ルモ亦人民ノ通義ナリ。是レ余輩ノ弁論ヲタズシテ明了ナルベシ。
「そうですとも! 理想はすなわち実際の附属物つきものなんだ! 馬鈴薯いもまるきり無いと困る、しかし馬鈴薯ばかりじゃア全く閉口する!」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
畢竟ひっきょう両者おのおの理あり、各非理ひりありて、争鬩そうげいすなわち起り、各じょうなく、各真情ありて、戦闘則ち生ぜるもの、今に於てたれく其の是非を判せんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しからばすなわこれとって代ろうと云う上方かみがたの勤王家はドウだと云うに、彼等がかわったらかえっておつりの出るような攘夷家だ。コリャ又幕府よりか一層悪い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その癖下坐舗したざしきでのお勢の笑声わらいごえは意地悪くも善く聞えて、一回ひとたび聞けばすなわち耳のほら主人あるじと成ッて、しばらくは立去らぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すなわち論難者は、そのうち動物を食べないじゃ食料が半分に減ずるというこいつです。冗談じゃありませんぜ。一体その動物は何を食って生きていますか。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この方向を指して先天的美の標準と名づけべくばすなわち名づくべし。今りに概括的美の標準と名づく。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
項王すなわチ夜起キテ帳中ニ飲ス。美人有リ。名ハ。常ニ幸セラレテ従フ。駿馬しゅんめ名ハすい、常ニこれニ騎ス。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これらの事なみ兄弟の仰ぎのっとるべき処なり。皆々よく心懸くべし。これすなわち孝行と申すものなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
否孟子は、恒産なくんば因って恒心なしということを言い出す前に、「民のごときはすなわち」と付け加えており、なおその前に「恒産なくして恒心ある者はただ士のみくするをす」
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
九万ハ性放誕不羈ふき嗜酒任侠ししゅにんきょうややモスレバすなわチ連飲ス。数日ニシテ止ムヲ知ラズ。ヤヽ意ニ当ラザレバすなわチ狂呼怒罵どばシテソノ座人ヲ凌辱りょうじょくス。マタ甚生理ニつたなシ。家道日ニ日ニくるシム。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水路の舟行はすなわち楽し——とあるとおりでござる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日が西にしずめばすなわち花は西にむか
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
帖木児チモルが意を四方に用いたる知る可し。しからばすなわち燕王の兵を起ししよりついくらいくに至るの事、タメルランこれを知る久し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
サア今藩主に話をして来たがドウだ。藩主は大参事次第だと確かに申された。しからばすなわち生殺はお前さんの手中にある、殺す気か、殺さぬ気か。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ苦にしないのみならず、凡そ一切の事一切の物を「日本の」トさえ冠詞が附けばすなわち鼻息でフムと吹飛ばしてしまって、そして平気で済ましている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
臼歯は草食動物にあり犬歯は肉食類にある。人類に混食が一番適当なことはこれで見てもわかるのです。すなわち人類は混食しているのが一番自然なのです。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
高橋梅たかはしうめすなわち僕の養母は僕の真実の母、うみの母であったのです。さい里子さとこは父をことにした僕の妹であったのです。如何どうです、これがあやしい運命でなくて何としましょう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一、餅菓子の白き色にして一箇一銭を値する者その色を赤くすればすなわち一箇二銭五りんとなる。味に相違あるに非ず。しかも一箇にして一銭五厘の相違は染料の価なりと。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
おおいニ以テ可トシコレヲ慫慂しょうようス。すなわチ屋ヲ駒籠亀田鵬斎かめだほうさいガ故居ノ近傍ニしゅうス。前ハ老杉ニ対シ、後ハすなわチ密竹掩映えんえいス。破屋数間、蕭然しょうぜんタル几案きあん、始メテ老子ヲ講ジヌ。後ニ市ヶ谷ニ移居ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下等士族はすなわしからず。役前やくまえほか、馬に乗る者とては一人ひとりもなく、内職のかたわらに少しく武芸ぶげいつとめ、文学は四書五経ししょごきょう、なおすすみ蒙求もうぎゅう左伝さでんの一、二巻に終る者多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
爾迦夷るかいすなわ両翼りょうよくを開張し、うやうやしくくびを垂れて座をはなれ、低く飛揚ひようして疾翔大力を讃嘆さんたんすること三匝さんそうにして、おもむろに座に復し、拝跪はいきしてただ願うらく、疾翔大力、疾翔大力
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)