三度みたび)” の例文
どこからかピストルの弾丸たまが風をきって飛んできそうな気がしてならぬ。わが友はその中を恐れもせず、三度みたびユダヤ横丁を徘徊はいかいした。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わが幻住のほとりに、なさけしらぬもの多く住むにやあらむ、わがうつりてより未だ月の数も多からぬに三度みたびまでも猫を捨てたるものあり。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
我まづ三度みたびわが胸を打ち、後つゝしみて聖なる足の元にひれふし、慈悲をもてわがために開かんことを彼に乞へり 一〇九—一一一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
三度みたび上州の山十組の製糸工場に働きに出た後、最後に今の、塩山駅の近くの田原という蚕糸仲買人の後妻となっているのであった。
ここにペテロ、主の「今日にわとり鳴く前に、なんじ三度みたびわれをいなまん」と言い給いし御言みことばおもいだし、外に出でていたく泣けり。
雪の上の足跡 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
左樣さやうわたくしきみ確信くわくしんします、きみ我等われら同志どうしとして、永久えいきゆう秘密ひみつまもこと約束やくそくたまはゞ、誠心せいしんより三度みたびてんちかはれよ。
三度みたび救った命の親、妾を捨てたり、他に女をこしらえたりなどなさると、お前さまとて用捨はしませぬ、きっとこの懐剣がきますまいぞ……
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市兵衛は三度みたび感服した。が、これが感服それ自身におわる感服でないことは、言うまでもない。彼はこのあとで、すぐにまた、切りこんだ。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
孔子がこれに和して弾じ、曲、三度みたびめぐった。傍にある者またしばらくはうえを忘れ疲を忘れて、この武骨な即興そっきょうまいに興じ入るのであった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
再び、三度みたび、その作業は續きましたが、よく耳をすまして居ると、相手はまさしく二人で、場所は明かに白梅の根のあたり。
三度みたび凄まじい掛け声が起こり続いて矢走りと弦返りの音が深夜の沈黙しじま突裂つんざいたがやはり多右衛門の笑い声が同じような調子に聞こえて来た。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ゆゑに幾日の後に待ちて又かく聞えしを、この文にもなほしるしあらずば、彼は弥増いやまかなしみの中に定めて三度みたびの筆をるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
翌日あくるひも、翌日も……行ってその三度みたびの時、寺の垣を、例の人里へ出るとひとしく、桃の枝を黒髪に、花菜をつまにして立った、世にも美しい娘を見た。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れが一斷念だんねんすればまでであるけれど、二度ふたたび三度みたび戸口とぐちつて足掻あがはじめれば、つてはきたり、つてはきた
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
七年の間に三度みたび四度よたび拡張した結果、私が行く一週間許り前に、新築社屋の落成式と共に普通の四頁新聞になつた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのひしまもらなん、その歌の一句を、私は深刻な苦笑でもって、再び三度みたび反芻はんすうしているばかりであった。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
三度みたび教師となって三度追い出された彼は、追い出されるたびに博士よりも偉大な手柄てがらを立てたつもりでいる。博士はえらかろう、しかしたかが芸で取る称号である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、三度みたび水面に浮んだのは御承知のとおり、夫人の懇請で試みた、船長八住の引揚げ作業でした。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それからもう一度清涼寺の門前に出、釈迦堂しゃかどう前の停留所から愛宕あたご電車で嵐山に戻り、三度みたび渡月橋の北詰に来て一と休みした後、タキシーを拾って平安神宮に向った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
論語の中で会参は日に三度みたびおのれをかえりみると云った。基督キリストは一日の苦労は一日にて足れりと云ったが、俺は耶蘇やそ教ではないが其日暮そのひぐらしが一番性に合っているようだね。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三度みたび⦅汝、詩人たるべし!⦆と呼び、三度みたび我がぬかを月桂樹もてよそほうて、空の方へと連れ去つた。
千代子は夫の説明を聞いても、怖いもの見たさの奇妙な誘惑にこうし難くて、ふたたび三度みたび、この廣介のいたずら半分のレンズ装置を、覗き直して見ないではいられませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こゝは、つまり、寒帶林かんたいりんで、いはゆる常緑針葉樹帶じようりよくしんようじゆたいです。それから海拔かいばつ八千尺はつせんじやく四合目しごうめまでのぼれば、はやし三度みたびその姿すがたへて、常緑針葉樹じようりよくしんようじゆはやし落葉針葉樹らくようしんようじゆのからまつばやしとなつてます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
汝等なんぢらにんよし爭論あらそひもととなって、同胞どうばう鬪諍とうぢょうすで三度みたびおよび、市内しない騷擾さうぜう一方ひとかたならぬによって、たうヹローナの故老共こらうども其身そのみにふさはしき老實らうじつかざり脱棄ぬぎすて、なんねんもちひざりしため
我輩の東方平和論は、本誌に於ては今度を初めてとするが、前後を通じてこれで三度みたびである。その第一回は今より約二十年前、ちょうど日清戦後列強の間に支那分割の形を現じた時であった。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ここの桑畠くわばたけ三度みたびや四度もあの霜が来て見給え、桑の葉はたちまち縮み上って焼け焦げたように成る、畠の土はボロボロにただれてしまう……見ても可恐おそろしい。猛烈な冬の威力を示すものは、あの霜だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心せはしき三度みたび五度いつたび、答なきほど迷ひは愈〻深み、氣は愈〻狂ひ、十度、二十度、哀れ六尺の丈夫ますらをが二つなき魂をこめし千束ちづかなす文は、底なき谷に投げたらんつぶての如く、只の一度の返りごともなく
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
野村はハッと思いついて、部屋を出て、三度みたび千鶴を別室に連れ込んだ。
母は、子供をでも、すかすように、なまめいた口調で、三度みたび催促さいそくした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
親愛なる友人の忠告として余は再び三度みたび己を省みたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
おもんみれば人とうまれて日に三度みたびなんぞ如何いかんぞ飯食めるらむ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「おい! 本当に何うかしたの?」私は三度みたび問うた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
三度みたび四度よたび、人のすべつた跡も見える。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ポリモスは三度みたびくりかへしました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
三度みたびかなしげに啼きて盤桓ばんくわん
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
三度みたび『今こそ語らめ』と。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そのひとりは、天より遣はされしものの如く、新婦はなよめよリバーノより來れと三度みたびうたひてよばはり、ほかの者みなこれに傚へり 一〇—一二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
呂範は君前をさがるとすぐ浄衣じょういに着かえて祭壇のある一房へ籠った。伏犠神農ふっきしんのうの霊にいのり、ひれ伏すこと一刻、占うこと三度みたび地水師ちすいしを得た。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知らずや、貫一は再度の封をだに切らざりしを——三度みたび五度いつたび七度ななたび重ね重ねて百通に及ばんとも、貫一は断じてこの愚なる悔悟を聴かじとこころを決せるを。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、その声も気がついて見れば、おれ自身の泣いている声だったではないか? (三度みたび、長き沈黙)
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それは、つまり……」明智は三度みたび、救いを求める様なみじめな表情になった。「信じられぬ。私は、その理論の指しているものを信じることが出来ないのです。怖いのです」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
熟した麦の香の漂ふ夜路に、あたたかい接吻きすの音が幽かに三度みたび四度よたび鳴つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つたなかな驕奢けうしやれふ一鳥いつてうたかいつして、こだまわらふこと三度みたび
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ただれたる眩暈くるめき三度みたび、くわつとして悶絶もんぜつすれば
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……三度みたび呆然ぼうぜんとなった。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三度みたび人魚を見き
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あらゆる水と共に三度みたびこれにめぐらし四度よたびにいたりてそのともを上げへさきを下せり(これ天意みこゝろの成れるなり) 一三九—一四一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
と叱咤するので、駕かきの肩を乗りつぶし、もうここまでの間に三度みたびか四度も、駕屋を雇い代えたほどだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、そのこゑがついてれば、おれ自身じしんいてゐるこゑだつたではないか? (三度みたびなが沈默ちんもく
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貫一はかの一別の後三度みたびまで彼の隠家かくれがを訪ひしかど、つねに不在に会ひて、二度に及べる消息の返書さへあらざりければ、安否の如何いかがを満枝にただせしに、変る事無く其処そこに住めりと言ふに
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)