)” の例文
蘿月は六十に近いこの年まで今日きょうほど困った事、つらい感情にめられた事はないと思ったのである。妹お豊のたのみも無理ではない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは(一)の明瞭性とも関係の深いことがらだが、また黒白二色のり合ひをして、快適な緊張感をかもしださせる根源をなしてゐる。
秋艸道人の書について (新字旧仮名) / 吉野秀雄(著)
むれの人がぴったりぎ合って入日の方に向いて行くのが、暗い形に見えるのだ。多くは自分の輪廓りんかくされているように背中を曲げている。
我中情は此の如く詠歎の聲をり出して、我をしてダヰツトの故事の最も當時の感興を寓するに宜しきを覺えしめしなり。
ただれ日本の外交の序開じょびらきでこそあれ、ソレほど喜ぶけもないが、その時の情にまれば夢中にならずには居られない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「俺は案外大胆だな、今夜が最初の実戦だが、大して怖くも恐ろしくもない。うむ、これなら人間が切れる。……よしよしこっちからり詰めてやれ」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たしか走水はしりみずというところ浦賀うらが入江いりえからさまでとおくもない、うみやまとのったせま漁村ぎょそんで、そしてひめのおやしろは、そのむら小高こだかがけ半腹はんぷくって
すると不思議! その穴の一つ一つに、何か黒いものが見えたと思ったら、それが徐々じょじょに上にり上ってきた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
池について庭裏の森端もりはなまで進み、おおちの大樹の下闇の露もしとどなところにしゃがみこんでいると、月影も透かさぬほど密々と幹をりあった森の木の間から
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「さういても仕やうがありやへん——外へ融通してあるのが、今月末に返る云うてるのやさかい、なア。」
くさむらの中からぬっとり出して来て笠をけ、脇差わきざしを抜いて見得を切るあの顔そっくり。その顔で癇癪玉かんしゃくだまを破裂させるのだから、たいがいの者がぴりぴりした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
古人はこれを望み見てセリとはりこ迫りこして生えているからそれでそういうのだといっているが、果してそれが語原であるか否かなお再考を要する様に思う。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そこでそのオシクマの王がイサヒの宿禰と共に追いめられて、湖上に浮んで歌いました歌
段〻と昼になったり夜になったりするりつめた時をいうのであって、とかくに魚は今までちっとも出て来なかったのが、まづみになって急に出て来たりなんかするものです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は外界に抵抗している自身の力に朗らかな勝利を感じた。同時に、彼は死がきりのような鋭さをもってめよるのを皮膚に感じると、再び銅貨を掴んで滅茶苦茶に投げ続けた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
失せし夫婦の弔ふ者もあらで闇路やみぢの奥に打棄てられたるを悲く、あはれなほ少時しばし留らずやと、いとめて乞ひすがると覚ゆるに、行くにも忍びず、又立還りて積みたる土にいこへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手紙を前に披げて、ヂツと腕組をしてゐた源太郎は、稍暫くしてから、空になつた食器が籠に入つて雇女の手で河の中からり上つて來たのを見たので、突然銀場の方を向いて
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
甚之助じんのすけかぎりなく口惜くやしがり、父君ちヽぎみなげ母君はヽぎみめ、長幼ふたり令孃ひめあたりあるきて、中姉樣ちうねえさまいぢすことヽらみ、ぼくをも一處ともにやれとまり、令孃ひめむかへばわけもなくあまへて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
天平十一年大伴坂上郎女おおとものさかのうえのいらつめの歌に、「ますらをの高円たかまと山にめたれば里にりける鼯鼠むささびぞこれ」(巻六・一〇二八)というのがあり、これは実際この小獣を捕えた時の歌で寓意でなく
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
汝もし我に報いんとならばこの国この民につかえよ、かの家なく路頭に迷う老婦は我なり、我に尽さんと欲せば彼女に尽せ、かの貧にめられて身を恥辱の中に沈むる可憐の少女は我なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかし、もうその時には、子路がいかにもきこんだ調子で、口を出していた。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
此の相續人になツた資格のうらには、種馬たねうまといふ義務ぎむになはせられてゐた。それで彼が甘三四と]なると、もう其の候補者こうほじやまでこしらへて、結婚をまられた。無論周三は、此の要求を峻拒した。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
要領よく黒塗りの枠の下からり上って夫人の前に平伏することが出来た。
彼れが秘密を見現すは今なり、と余は思切ッて同行せざるの遺憾をのぶるに「そうさ、なに構うものか、来るなら一緒においでなさい、随分面白いかも知れませぬから」く聞きて余は嬉しさにこゝろ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
『急ぎませう。急ぎませう。』と松子は後からき立てた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
り上げられて来ますね。あの人です。
見る眼もかれ、安からぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
竹藪にめ騷がし
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
蘿月らげつは六十に近いこの年まで今日けふほど困つた事、つらい感情にめられた事はないと思つたのである。妹おとよのたのみも無理ではない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
めては若い女の熱い血に觸れて、過ぎ去つた心の海の洋々たる響きを今一度取り返して見たいのである。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
口惜くちをしとの色はしたたかそのおもてのぼれり。貫一は彼が意見の父と相容あひいれずして、年来としごろ別居せる内情をつまびらかに知れば、めてその喜ぶべきをも、かへつてかくうれひゆゑさとれるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手紙を前にひろげて、ヂツと腕組をしてゐた源太郎は、やゝ暫くしてから、からになつた食器が籠に入つて雇女の手で河の中からり上つて来たのを見たので、突然銀場の方を向いて
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
ここに追ひめ敗りて、沙沙那美ささなみに出でて、悉にその軍を斬りつ。ここにその忍熊の王、伊佐比いさひの宿禰と共に追ひ迫めらえて、船に乘り、海に浮きて、歌よみして曰ひしく
「こんな土壇場へり詰まるまでいったい、何をしていたんだい」
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何れほどか私の心がかれたでしょう。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
地の底から己はり上がって来て
とて取次とりつふみおもりてもなみだほろほろひざちぬ義理ぎりといふものかりせばひたきこといとおほわかれしよりの辛苦しんく如何いかときはあらぬひとまられてのがればのかりしときみさをはおもしいのち鵞毛がもうゆきやいばりしこともありけり或時あるときはお行衛ゆくゑたづねわびうらみは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私は一目弟の顔を見ると、同じ血から生れて、自分とく似ているその顔を見ると、何ともいえない残酷な感激にめられました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
めて被布が道行きで、道行きがメリンスなどでなく、且、都會じみた柄であつたらいいのに——かの女がいい氣になつて着てゐるのを幸ひに、何も新調してやらないのも
科野しなのの國の洲羽すはの海一四め到りて、殺さむとしたまふ時に、建御名方の神白さく
貫一はこの五年間の家族をめての一人も余さず、家倉と共に焚尽やきつくされて一夜の中にはかなくなりをはれるに会ひては、おのれが懐裡ふところの物の故無ゆゑなく消失せにけんやうにも頼み難く覚えて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「お館同志の競争は、家臣同志の競争でござる。そいつがり合うと喧嘩になる。喧嘩のどんづまりは果たし合い! これはもうもう決まった話だ。そこで喧嘩! そこで果たし合い! 勝負だア——」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまり外形容貌の美にうたれると共に、直ちに何の理由もなく其の人の思想知識、凡ての人格に對して深い敬慕の念にめられるのである。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
めて——けさ——早くでも」と、また例の荒い息使ひになつて、「歸りやええのに!」
かれその軍、悉に破れて逃げあらけぬ。ここにその逃ぐる軍を追ひめて、久須婆くすばわたり一一に到りし時に、みな迫めらえたしなみて、くそ出でて、はかまに懸かりき。かれ其地そこに名づけて屎褌くそはかまといふ。
血に塗られた一竿子忠綱を、突き出すとヌッとり詰めた。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
休むにしても今日の半日、これから午後の三時までをどうして何処どこに消費しようかという問題の解決にめられた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、その失はれた心の落ち付きをめて無理にも取り返すつもりで、今書きかけてゐる議論——それは藝術と實行とは合致すべき物だと云ふ説明——の筆を轉じて、かの女を慰める手紙を書いた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
休むにしても今日けふ半日はんにち、これから午後の三時までをどうして何処どこに消費しやうかとふ問題の解決にめられた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
幸い乗換の切符は手のうちにある。自分は浅間あさましいこの都会の中心から一飛びに深川へ行こう——深川へ逃げて行こうという押えられぬ欲望にめられた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)