こし)” の例文
近くこれを同じ越後について見るに、魚沼郡に接して古志郡の名がある。古志はすなわちこしで、古えの越人こしびとの名の保存せられたもの。
「ケット」と「マット」 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
堀川百首ほりかはひやくしゆ兼昌かねまさの哥に、「初深雪はつみゆきふりにけらしなあらち山こし旅人たびびとそりにのるまで」この哥をもつても我国にそりをつかふのふるきをしるべし。
ここにこし達磨だるまのことも言い添えておくべきでしょうか。木型きがたを用い、紙で作ります。この県の唯一の窯場かまば深谷ふかやであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これよりみやこし驛に至る、坦々たん/\の如き大路たいろにして、木曾川は遠く開けたる左方の山の東麓を流れ、またその髣髴を得べからず。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
東京三こしの「山と水」展覧会に、故人角田浩々歌客かくだかう/\かかくが世界の各地から集めた石と一緒に、塚本工学博士が出品した瓶詰の黄河の水がある。
またこの御世に大彦の命をばこしの道に遣し、その子のタケヌナカハワケの命を東方の諸國に遣して從わない人々を平定せしめ
委細くはしく申立ければ大岡殿とく聞請きゝうけられ早速に組下くみしたの同心に申付られ藤澤宿大津屋段右衞門方へまかこしみぎ段右衞門を召捕めしとり來るべしと遣はされたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
次に出羽は『いでは』で、出端いではしの義と解せられる。古は本州中部から東北の日本海方面地方を、漠然とこしの国と呼んだ。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
奈良井ならいみやこし上松あげまつ三留野みどの、都合五か宿の木曾谷の庄屋問屋はいずれも白洲しらすへ呼び出され、吟味のかどがあるということで退役を申し付けられ
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は間もなく、浪華に近い曹洞の末寺に入って得度とくどした。そこで、一年ばかりの月日を過してから、雲水の旅に出て、こし御山みやまを志して来たのである。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
埼玉県鴻巣こうのすの辺りから岩槻いわつきこし亀有かめあり、亀戸を経て東京湾に延長する一地震帯があって、この地震帯から、小規模ではあるが、強烈な地震が起こる。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
是などもあとの句はこし大徳だいとくの故事をんだものらしいが、まん中はやはり荒々しい山伏村の写実であった。そうかと思うと『続猿蓑ぞくさるみの』の夏の夜の章には
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小宮山は広袖どてらを借りて手足を伸ばし、打縦うちくつろいでお茶菓子のこしの雪、否、広袖だの、秋風だの、越の雪だのと、お愛想までが薄ら寒い谷川の音ももの寂しい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三六こしの国へ三七水丁くわんぢやう三八戒師かいしにむかへられ給ひて、百日あまりとどまり給ふが、くにより十二三歳なる童児わらはしてかへり給ひ、三九起臥おきふしたすけとせらる。
新造と金之助と一通り挨拶あいさつの終るのを待って、お光は例の風呂敷を解いて夫に見せた。きりの張附けの立派な箱に紅白の水引をかけて、表に「こしみぞれ」としてある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
江戸から二里で千住せんじゅ。おなじく二里で草加そうか。それからこし粕壁かすかべ幸手さってで、ゆうべは栗橋の泊り。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ここでは丈の高い枯れた雑草のかげなどに深く積もったものはかさが高くなるばかりでこし白山はくさんをそこに置いた気がする庭を、今はもうだれ一人出入りする下男もなかった。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
七十をこした老僧がたいくつして困つてゐるのだ。露を踏んで、なだらかな丘をこえて行つた。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「鷲の巣の楠の枯枝に日は入りぬ」どうだ、凄い image だろう。凡兆の句だよ。「こしより飛騨へ行くとてかごの渡りのあやふきところところ道もなき山路にさまよひて」
雪の上の足跡 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ここではこしと日の出湯というのにかよって、十二月二十二、二十三の両日は日の出湯でゆず湯にはいった。わたしは二十何年ぶりで、ほかの土地のゆず湯を浴びたのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
目の下に黒く死人しびとのにおいを蔵していた京の町も、わずかのに、つめたい光の鍍金めっきをかけられて、今では、こしの国の人が見るという蜃気楼かいやぐらのように、塔の九輪や伽藍がらんの屋根を
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此処こゝこして来ましたのはぜん申上げました右京様の御家来藤原喜代之助で、若気わかげの至りに品川のあけびしのおあさと云う女郎にはまり、御主人のお手許金てもときんつかい込み、屋敷を放逐ほうちく致され
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自然お客様のおこしも御座りませんゆゑ、何分用意とうも致し置きませんやうな次第で、然し、一両日いちりようにち中にはお麁末そまつながら何ぞ差上げまするやうに取計ひまするで御座いますで、どうぞ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
同じ時の作には 遠く来ぬこしの海府の磯尽きてねずが関見え海水曇る などがある。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
所謂いはゆるこしの松ふうしゆく女もいく人か住むといふやうな物しづかな屋しき町でもある。
「それはおこしにならぬ方が宜しゅうございましょう」と云って留めた。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
といってさわいでいるうちに、太子たいしはもう大和やまと国原くにばらをはるかあとのこして、信濃しなのくにからこしくにへ、こしくにからさらにひがし国々くにぐにをすっかりおまわりになって、三日みっかのちにまた大和やまとへおかえりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「初めて見るこしの大雪に、寒さもわびしさも、ひとしおでおわそ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上つ毛はあか黄葉もみぢこしへ来てほとほと過ぎぬのこれる見れば
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こしより飛騨ひだへ行くとてかごのわたりのあやうきところどころ
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
川ありてこし深雪みゆき断面だんめんのうらめづらしさ極りにけり
二人の女歌人 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
なんと云うおこたりでしょう。あなたがおこしになる。
藪原からみやこしまで一里三十町
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こし白山しらやま立山たてやま
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
堀川百首ほりかはひやくしゆ兼昌かねまさの哥に、「初深雪はつみゆきふりにけらしなあらち山こし旅人たびびとそりにのるまで」この哥をもつても我国にそりをつかふのふるきをしるべし。
ひるの中に伴建部の兩人より申こしたれども惣右衞門は此節病氣にて起居たちゐも自由ならざれば今宵こよひやしき内へゆきはたらく事能はず又悴重五郎は九月中より御代官だいくわんの供を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
御順路の日割によると、六月二十六日鳥居峠お野立のだて、藪原やぶはらおよびみやこしお小休み、木曾福島御一泊。二十七日かけはしお野立て、寝覚ねざめお小休み、三留野みどの御一泊。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こしの方だが、境の故郷いまわりでは、季節になると、この鶫を珍重すること一通りでない。料理屋が鶫御料理おんりょうり、じぶ、おこのみなどという立看板を軒に掲げる。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これも塚のこし境木さかいぎ峠・道祖神峠さえのかみたわ榎木えのき峠の例と同じく、越すなわち境に植えた霊木の所在を意味する地名であって、これらの四家はたとい相互に何の縁故はないとはいえ
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こしくに灌頂かんじょうの戒師として招聘しょうへいされ、百日余り御逗留なさいましたが、その国から十二、三歳ぐらいの童子をつれておかえりになり、身のまわりの世話などさせられました。
追つて因幡いなばの國に越えて行き、丹波の國・但馬の國に行き、東の方に追い𢌞つて近江の國に至り、美濃の國に越え、尾張の國から傳わつて信濃の國に追い、遂にこしの國に行つて
かみは、すこし微醺びくんを帯びたまま、郡司ぐんじが雪深いこしに下っている息子の自慢話などをしているのをききながら、折敷おしきや菓子などを運んでくる男女の下衆げすたちのなかに、一人の小がらな女に目をとめて
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
こしの方に甲州屋の親類があって、お直は母につれられて一度行ったことがあるので、よもやとは思うものの、兄の藤太郎が店の者をつれて、あしたの早朝に越ヶ谷へ訪ねてゆくことになっている。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
北陸道というのは、若狭わかさ越前えちぜん、これが福井県。加賀かが能登のと、これが石川県。越中えっちゅう、これが富山とやま県。越後えちご佐渡さど、これが新潟にいがた県。以上の七国四県であります。昔はこの地方を「こし」の国と呼びました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
上つ毛利根の水上我が越えてすでにぞくだるこしの山がは
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こし御山みやま永平寺にも、爽やかな初夏が来た。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こしの境は
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此外▲有明ありあけうら岩手いはでうら勢波せばわたし井栗ゐくりもりこしの松原いづれも古哥あれども、他国たこくにもおなじ名所あればたしかに越後ともさだめがたし。
鳥居峠とりいとうげはこの関所からみやこし藪原やぶはら二宿を越したところにある。風は冷たくても、日はかんかん照りつけた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こしの海は、雲の模様に隠れながら、青い糸の縫目を見せて、北国ほっこくの山々は、皆黄昏たそがれの袖を連ねた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)