)” の例文
いた晩はどうもなかつたの。繪端書屋の女の子が、あたしのお煎餅せんべを泥坊したのよ。それをあたしがめつけたんで大騷ぎだつたわ。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
そしてその場所にくと、急に平らな如何いかにも屋敷趾らしい開けた土地があった。開けたといっても、それは亡霊の住む土地である。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
秀麿は少し返事に躊躇ちゅうちょするらしく見えた。「それは舟の中でも色々考えてみましたが、どうも当分手がけられそうもないのです。」
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
池の西には小堂を置きて弥陀みだを安んじ、池の東には小閣を開いて書籍しょじゃくを納め、池北には低屋を起して妻子をけり、と記している。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
右のくだり船戸ふなどの神より下、邊津甲斐辨羅の神より前、十二神とをまりふたはしらは、身にけたる物を脱ぎうてたまひしに因りて、りませる神なり。
唐制に模して位階も定め、服色も定め、年号も定め置き、からぶりたる冠衣かんいけ候とも、日本人が組織したる政府は日本政府と可申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
世は義満の花の御所のあとを承けて、武断将軍義教よしのりに及ぶ時代だから、芸能の世界では種々新しいうごきが目にきはじめている。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
果然かぜん、列車が興安駅にくか著かないうちに、早くも警備軍の一隊がドヤドヤと車内に乱入すると、矢庭やにわに全員の自由を拘束こうそくしてしまった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
許宣はしかたなしにくつを脱ぎくつしたってそれをいっしょに縛って腰にけ、赤脚はだしになって四聖観の簷下を離れて湖縁へと走った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
虎曰く共に闘うべし、汝に道を借さずと。猪また語るらく、虎汝暫く待て、我れ我が祖父伝来のよろいけ来って戦うべしという。
もとの吉田玉造よしだたまぞうとか桐竹紋十郎きりたけもんじゅうろうとか言ったような老人が上下かみしもけて、立役たちやくとか立女形たておやまとかの人形を使っておったものであるが
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
が七になつても、ふねはひた/\と波止場はとばきはまでせてながら、まだなか/\けさうにない。のうちまたしても銅鑼どらる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
「夜帰って来て、幾階もある階段を昇るのに、長いろうマッチに火を附けて持ちます。それが消える頃には部屋の前にきます」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
女はそれを気にするように、すこし車を早めながら、太秦まで往きいて寺にはいってしまうと、いつかもうその男車は見えなくなっていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
反抗がいやなら嫌で、もっといていればよかったろうと思われたに違いない。暴風も一過すれば必ず収まるものである。
すての馬上の姿を見ると、貝ノ馬介の小方こかた十人に、袴野の小方十人は機先を制せられて、勢好くいたすてを見上げた。
硬玉の頸飾をけた鬚深い有力者達が、より/\相談をした。身内みうちの無いシャクの爲に辯じようとする者は一人も無い。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
(『白虎通びゃっこつう』に曰く、「魂魄こんぱくとはなんのいいぞ。魂はなお伝伝のごとし。行きて外に休まず、情をつかさどる。魄は迫然として人にきて性を主る」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
男子側から如何に多くの婦人問題を出されても、婦人自身に目をさまさねばこの問題の正しい解決はかないであろう。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それから鏡に向って胸当をつけ、鼻の孔からのぞいていた鼻毛を二本ひっこ抜くと、間髪を入れず、ピカピカ光る蔓苔桃つるこけももいろの燕尾服をけていた。
駅員室のせまい暗がりのなかでふと黒く蠢いたのは、たぶん宿直の駅員が終電車のいた音で眼をさましたのであろう。しかし起きて来る気配もない。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
わたしは上海シャンハイくや否や、一本の仮辮子つけまげを買取り——その時二円の市価であった——うちへ帰るまで付けて歩いた。
頭髪の故事 (新字新仮名) / 魯迅(著)
駄々だゞぬて、泣癖なきくせいたらしい。へのなり曲形口いがみぐちりやう頬邊ほゝべた高慢かうまんすぢれて、しぶいたやうな顏色がんしよく
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は兄の病臥びょうがしている山の事務所を引きげて、その時K市のステーションへいたばかりであったが、旅行先から急電によって、兄の見舞いに来たので
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
裏見の滝にく。茶店に人無し。外国の婦人のまだうら若きと見ゆるが靴の上に草鞋をはき、一人は橋の上に立ち、一人は岩に腰うちかけて絵など写すめり。
滝見の旅 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
友人の家にくより、翌日の大阪行きの船の時刻を問い合せ、午後七時頃とあるに、今更ながら胸騒がしぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
熊野では、これと同じ事を、普陀落渡海ふだらくとかいと言うた。観音の浄土に往生する意味であって、淼々びょうびょうたる海波をぎきって到りく、と信じていたのがあわれである。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
といいながら此方こっちへ泳ぎき、あがりにかゝる処を小三郎が飛び込んでズーンと惣兵衞の肩先深く斬り込む。
しん、としたの光線の落ちきのなかに、穏やかに明るく画像は彼の前に展けた。彼はその前面二尺ばかりに歩を止めて、おもむろに画像を見上げ見下ろした。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
父も私もこういう光景を見るのは生れてからはじめてであった。私の元気はこれを見たので回復して日の暮れに作並さくなみ温泉にいた。その日の行程十五里ほどである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
吾々の一行が湖の隅の小さな宿屋にくや否や、そこの女将は附近の全教区の貧困と窮乏を訴え始めた。彼女は曰う、国の産物は少いのに、住民は充ち満ちている。
交番でねずみを買上げることになってから、もうかれこれ三十年もたったであろう。東洋の黒死病の歴史なども、この方面より筆をけるならば文学になり得ると思う。
瑠璃るり色なる不二の翅脈しみやくなだらかに、じよの如き積雪をはだへの衣にけて、悠々いう/\と天空にぶるを仰ぐに、絶高にして一朶いちだ芙蓉ふよう、人間の光学的分析を許さゞる天色を
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
ブレスト発の列車がレンヌ駅にいた時、その一貨車の扉の破壊されているのが見出だされた。
「おい、ちやああぶないぞ‥‥」と、わたし度毎たびごとにハラハラしてかれ脊中せなかたたけた。が、瞬間しゆんかんにひよいといて足元あしもとかためるだけで、またぐにひよろつきすのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
今や足跡ほとんどあまねかられんとする日本アルプスにも、この山ばかりは、何人なんぴとも手をけ得ざるものとして、愛山家の間に功名の目標となれるが如き感ありしに、会員田部隆次氏は
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
デリベレイトに狙いすましては一筆ずつけて行ったものだろうと想像される。そういう点で、これらの絵は、有り来りの油絵よりは、むしろ東洋画に接近しているかもしれない。
二科会展覧会雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四壁沈々、澄みとほりたる星夜ほしよの空の如く、わが心一念のくもりけず、えに冴えたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
大學側だいがくがはでも、その翌日よくじつ新發見しんはつけん横穴よこあなつひ調査てうさつゞけられたのみで、それかぎり、發掘はつくつ中止ちうしされ、十一にちには坪井博士つぼゐはかせ講演かうえんがあつたゞけで、瓢箪山大發掘ひやうたんやまだいはつくつの一段落だんらくいた。
しばらくの間は何事も手にかず、自分で自分に腹を立てて、おりに入れられた猛獣のごとく部屋の中をウロウロしながら、そこらじゅうの物を八つあたりに叩きつけたり、破いたりします。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
選って、襦袢の中へ縫い込んで置く積りだから、肌身離さず身にけて置きなさい
而かも其の聖人に及ばざるも亦此に在り。聖人は平生の言動げんどう一として訓に非ざるは無し。而て※するにのぞみて、未だ必しも遺訓をつくらず。死生しせいること眞に晝夜ちうやの如し、ねんくる所無し。
幹には深々と苔をつけた梅の木が、わずかに二輪か三輪の花をけている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
いた新聞紙に台風の惨害が書いてあるが、沿岸で大部船舶が遭難し、人死にも多い。私は江ノ島の大通り——それは事実唯一の通りである——を写生しようとする誘惑に耐え兼ねた(図159)。
姉が知らせたので長野から夜行で今いたところだった。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
元日の絶句に「樗散逢春鬢欲斑。船如屋小一家閑。拝年客到無著処。混在図書雞犬間。」〔樗散春ニ逢ヒテ鬢斑ナラント欲ス/船ノ如ク屋小ナレド一家閑ナリ/拝年客到リテク処無ク/混リテ図書雞犬ノ間ニ在リ〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
保は三河国宝飯郡ほいごおり国府町こふまちいて、長泉寺ちょうせんじの隠居所を借りて住んだ。そして九月三十日に愛知県中学校長に任ずという辞令を受けた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
感情に本づく事は勿論もちろんにて、ただうつくしいとか、綺麗きれいとか、うれしいとか、楽しいとかいふ語をくると著けぬとの相違に候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
貴婦人は崔を席にかした。若い婢が十人位来て崔に酒を勧めた。崔は豪傑のたちであった。彼は勧められるままに飲んで陶然として酔うた。
崔書生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
晋安王来りしも進む能わず、聡手を以て頭をおさえ地にけその両目を閉ざしめ、王を召し展礼せしむとはなかなかえらい坊主だ。