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苦悶
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ふりがな文庫
“
苦悶
(
くもん
)” の例文
死を宣告された人間の心理的
苦悶
(
くもん
)
がどんなものか、科学者の眼をもって冷静に記録してみたい、そういう意味のことを書いていった。
四年間
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
あれを読むと自分は妙に
滑稽
(
こっけい
)
を感じる。絶体絶命の
苦悶
(
くもん
)
でついに自殺を思うまでに立ち至る記事が何ゆえにおかしいのか不思議である。
備忘録
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
稚児輪
(
ちごわ
)
姿
(
すがた
)
の牛若丸が笛にしめりを与えると同時に、突然
苦悶
(
くもん
)
のさまを現わして、水あわを吹きながら、その場に
悶絶
(
もんぜつ
)
いたしました。
右門捕物帖:05 笛の秘密
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
然し
苦悶
(
くもん
)
の様相のうちのたぶん極限のものだろうから、ここへたとえば毒殺という外からの手段が加えられても見分けはつかない。
不連続殺人事件
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
そして嫁の寝ている胸の真上と
覚
(
おぼ
)
しき
処
(
ところ
)
まで、その足音が来たかと思う時、その死に
瀕
(
ひん
)
した病人が
跳
(
はね
)
ッ
返
(
か
)
えるように
苦悶
(
くもん
)
し始めた。
白い光と上野の鐘
(新字新仮名)
/
沼田一雅
(著)
▼ もっと見る
夫の
苦悶
(
くもん
)
煩悶には全く風馬牛で、子供さえ満足に育てれば好いという自分の細君に対すると、どうしても孤独を叫ばざるを得なかった。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
……悪? それは一つの悪だろうか?
倦怠
(
けんたい
)
、陶酔、快い
苦悶
(
くもん
)
が、彼のうちにしみ込んでいた。もはや自分が自分のものではなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
心臓を一
抉
(
えぐ
)
りにやられたということであったが、顔には
苦悶
(
くもん
)
の
痕
(
あと
)
もなく、微笑しているのかと思われる程、なごやかな表情をしていた。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
その土煙のむこうには、何があるのかわからないが、そこからは、たえず、人々の
苦悶
(
くもん
)
のうめき声と、わめきさけぶ声が聞こえた。
海底大陸
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
最期の時には、臨終の
苦悶
(
くもん
)
のうちに、百日(訳者注 ナポレオン再挙の百日間)の将校らから贈られた一本の剣を胸に抱きしめていた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
月明りのわずかに残る欄干に
凭
(
もた
)
れたまま、徳之助は
苦悶
(
くもん
)
に打ちひしがれて、
濡
(
ぬ
)
れでもしたように、しょんぼりと語り続けました。
銭形平次捕物控:075 巾着切りの娘
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
笑
(
わら
)
ひ
事
(
ごと
)
では
無
(
な
)
い、
既
(
も
)
う
何
(
なに
)
か
出
(
で
)
ても
好
(
い
)
い
頃
(
ころ
)
だと、
心中
(
しんちう
)
いろ/\
苦悶
(
くもん
)
して
居
(
ゐ
)
るが
如何
(
どう
)
も
出
(
で
)
ない、
破片
(
はへん
)
、
獸骨
(
じうこつ
)
、そんな
處
(
ところ
)
しか
見出
(
みいた
)
さぬ。
探検実記 地中の秘密:20 大森貝塚の発掘
(旧字旧仮名)
/
江見水蔭
(著)
がしかし清二は彼の顔に漾う
苦悶
(
くもん
)
の表情をみてとって、「なあに、どっちみち、今となっては、内地勤務だ、大したことないさ」
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
あらゆるものが次から次へと
勃興
(
ぼっこう
)
した事は、一つには退屈と衰亡に際する一種の死の
苦悶
(
くもん
)
から湧き上った処の大革命であったに違いない。
油絵新技法
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
けれども血色にも表情にも
苦悶
(
くもん
)
の
迹
(
あと
)
はほとんど見えなかった。自分は最初その横顔を見た時、これが病人の顔だろうかと疑った。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
驚愕と喪神は去り、
苦悶
(
くもん
)
と死闘はおさまり、心
傲
(
おご
)
らずまた沈まず、嵐の後の富士のごとくに、ひときわ気高く、完き自由人でありました。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
このごろの源氏はある発展を遂げた初恋のその続きの
苦悶
(
くもん
)
の中にいて、自然左大臣家へ通うことも途絶えがちになって恨めしがられていた。
源氏物語:04 夕顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
だが深い
苦悶
(
くもん
)
のために何度も長く立ち止ったのち、とうとう河の縁に着き、その気味悪い荷物を始末する、——おそらくはボートを使って。
マリー・ロジェエの怪事件
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
そういう時は自分自身の
苦悶
(
くもん
)
の声に目ざめるのであった。太田は死の迫り来る影に直面して、思いの外平気でおれる自分を不思議に思った。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
この水戸の
苦悶
(
くもん
)
は一方に誠党と称する勤王派の人たちを生み、一方に
奸党
(
かんとう
)
と呼ばるる佐幕派の人たちを生んだ。一つの藩は裂けてたたかった。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
父は、心の
中
(
うち
)
の
苦悶
(
くもん
)
を、此の来客に
依
(
よ
)
って、少しは紛ぎらされたように、
淋
(
さび
)
しい微笑を、浮べながら応接室へ入って行った。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
六千四百
噸
(
とん
)
の
巨船
(
きよせん
)
もすでに
半
(
なかば
)
は
傾
(
かたむ
)
き、
二本
(
にほん
)
の
煙筒
(
えんとう
)
から
眞黒
(
まつくろ
)
に
吐出
(
はきだ
)
す
烟
(
けぶり
)
は、
恰
(
あたか
)
も
斷末魔
(
だんまつま
)
の
苦悶
(
くもん
)
を
訴
(
うつた
)
へて
居
(
を
)
るかのやうである。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
そう私の前もなく
掻口説
(
かきくど
)
いてのお嘆きでした。ほんとに前に坐しているに耐えないようなご
苦悶
(
くもん
)
に見えました。よくよくなお覚悟と思われまする
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私たちは常に絶えざる
苦悶
(
くもん
)
と
懊悩
(
おうのう
)
とを免かれない。しかも君に対する恋の執着はどうすることも出来なくなっている——
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
「道阿弥話」には、それから以後の少年の
苦悶
(
くもん
)
が刻明に書いてあるが、彼はそのゝち続けて三晩と云うもの、夜になると天井裏へ出かけて行った。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
実は死そのものよりも
厭
(
いと
)
うべき、
苦悶
(
くもん
)
の期間に過ぎない。どうも今になって見れば小さい時から、自分で自分を観察する癖を付けたのが悪かった。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
それは
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
、あの
時
(
とき
)
私
(
わたくし
)
は
母
(
はは
)
の
断末魔
(
だんまつま
)
の
苦悶
(
くもん
)
の
様
(
さま
)
を
見
(
み
)
るに
見兼
(
みか
)
ねて、一
生
(
しょう
)
懸命
(
けんめい
)
母
(
はは
)
の
躯
(
からだ
)
を
撫
(
な
)
でてやったのを
覚
(
おぼ
)
えています。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
水夫らは帰って来て、この
苦悶
(
くもん
)
のさまを見ると「あまりあばれると、かえって傷が悪くなるから、じっと我慢しておれ」
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
彼の学びてこれを忍得るの故は、
爾来
(
じらい
)
終天の失望と恨との
一日
(
いちじつ
)
も忘るる
能
(
あた
)
はざるが為に、その
苦悶
(
くもん
)
の余勢を駆りて他の方面に注がしむるに過ぎず。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
そこに彼の第一の
苦悶
(
くもん
)
が生まれる。神と悪魔との戦いである。苦悶のうちに少年ジェルヴェーについての試練がきた。
レ・ミゼラブル:01 序
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
彼
(
かれ
)
の
青年時代
(
せいねんじだい
)
は、
夢
(
ゆめ
)
も
多
(
おお
)
かったかわりに、また、
反面
(
はんめん
)
あまりに
醜
(
みにく
)
かった
現実
(
げんじつ
)
のために、
焦燥
(
しょうそう
)
と
苦悶
(
くもん
)
をきわめたのです。
風はささやく
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
苦悶
(
くもん
)
の表情よろしく首をそらして左右にうごかし、よたよたよたと走って局の前まで来て、ううんと一声
唸
(
うな
)
って倒れ
トカトントン
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
それが結局はことごとく魂の
苦悶
(
くもん
)
であり、あの世の音信であるということに
帰著
(
きちゃく
)
するのは、単独に幼ない者だけの経験ではなかった証拠ではないか。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
一声鋭どい
苦悶
(
くもん
)
の声が、
噛
(
か
)
みしめた歯の間を
洩
(
も
)
れたが、その声が
微
(
かすか
)
に消えると、その後へ限りない静けさが来ました。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
猪熊
(
いのくま
)
の
爺
(
おじ
)
は、
暗
(
やみ
)
におびえて泣く赤子の声の中に、かすかな
苦悶
(
くもん
)
をつづけながら、消えかかる
松明
(
たいまつ
)
の火のように、静かに息をひきとったのである。……
偸盗
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
面変
(
おもかわ
)
りしたような顔にも
苦悶
(
くもん
)
の
迹
(
あと
)
が見えて、話しているうちに、時々意識がぼんやりして来るようなことがあった。起き直るのも大儀そうであった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
と七兵衛が、ここまで語り
来
(
きた
)
って駒井の様子を
窺
(
うかが
)
うと、駒井の
面
(
おもて
)
に、言わん方なき
苦悶
(
くもん
)
の色が表われたのは事実です。
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
天性
(
てんせい
)
陰気
(
いんき
)
なこの人は、人の目にたつほど、
愚痴
(
ぐち
)
も
悔
(
く
)
やみもいわなかったものの、
内心
(
ないしん
)
にはじつに長いあいだの、
苦悶
(
くもん
)
と
悔恨
(
かいこん
)
とをつづけてきたのである。
老獣医
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
そこで鼈四郎は檜垣の病主人に
苦悶
(
くもん
)
が始まる、と、すーっと病居を抜け出て、茶を飲んで来るか、
喋
(
しゃべ
)
って来るのであった。だが病友は許さなくなった。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
もし犠牲を
不憫
(
ふびん
)
だと思ったら、勝手に苦しむのがいいのさ……全体に
苦悶
(
くもん
)
と悩みは、遠大な自覚と深い心情の持主にとって、常に必然的なものなんだ。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
それはしかし、朝倉夫人に対する
抗議
(
こうぎ
)
ではむろんなかった。また、かれの深い
苦悶
(
くもん
)
の表白であるとも言えなかった。
次郎物語:05 第五部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
私
(
わたし
)
は意外なる変化を見るものです——梅子さん、
貴嬢
(
あなた
)
の信仰は今ま実に恐るべき危機に臨むで居なさいます——何か非常なる
苦悶
(
くもん
)
の針が今ま貴嬢の精神を
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
光子は
苦悶
(
くもん
)
して悲鳴を揚げ、右に左に枕を代えて、長き黒髪地を掃きしが、最後の一撃は手元狂いて
打処
(
うちどころ
)
や
悪
(
あ
)
しかりけむ、うむとのけぞりて
渠
(
かれ
)
は絶せり。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
羞悪
(
しゅうお
)
懺悔
(
ざんげ
)
、次ぐに
苦悶
(
くもん
)
懊悩
(
おうのう
)
を
以
(
もっ
)
てす、
妾
(
しょう
)
が、回顧を
充
(
み
)
たすものはただただこれのみ、ああ実にただこれのみ
也
(
なり
)
。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
物価の
昂騰
(
こうとう
)
につれて右翼の非常手段がいつ爆発するか分らぬ恐れがあった。つまり、梶の眼に映った一同の不安は思想と現実とののっぴきならぬ
苦悶
(
くもん
)
である。
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
(
苦悶
(
くもん
)
)グツ/\/\。主「おや/\
何
(
ど
)
うかなすツたか。幸「(
苦悶
(
くもん
)
)グツ/\/\……モヽヽヽ
餅
(
もち
)
が……。 ...
大仏餅。袴着の祝。新まへの盲目乞食
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
政宗の毒味番が毒に
中
(
あた
)
って
苦悶
(
くもん
)
即死したから事
露
(
あら
)
われて、政宗は無事であったが、其為に政宗は手ずから小次郎季氏を
斬
(
き
)
り、小次郎の
傅
(
もり
)
の
小原縫殿助
(
おばらぬいのすけ
)
を
誅
(
ちゅう
)
し
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
主人公の心の
苦悶
(
くもん
)
に對する作者の
感情輸入
(
アインヒウルング
)
の
深
(
ふか
)
さは、張り切つた
弦
(
ゆづる
)
のやうに
緊張
(
きんぢやう
)
した
表現
(
へうげん
)
と相俟つて、作の
缺點
(
けつてん
)
を
感
(
かん
)
じる前に、それに對して
感嘆
(
かんたん
)
してしまひます。
三作家に就ての感想
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
碩学
(
せきがく
)
大家どもと、彼らの
白髪
(
しらが
)
と
白髯
(
しらひげ
)
は、豪雨と、暴風の、鳥獣の
苦悶
(
くもん
)
と、人民の失望と、日光の動揺と植物の
戦慄
(
せんりつ
)
と、鉱石の平伏といっしょに、宇宙へ四散した。
ヤトラカン・サミ博士の椅子
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
振
(
ふ
)
り向くと、唇の間からたらんと舌を垂れ、ウオーウオーとけだもののような声を出して
苦悶
(
くもん
)
していた。
競馬
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
“苦悶”の意味
《名詞》
あまりの苦しさにもだえること。
(出典:Wiktionary)
苦
常用漢字
小3
部首:⾋
8画
悶
漢検準1級
部首:⼼
12画
“苦”で始まる語句
苦
苦笑
苦々
苦痛
苦患
苦力
苦労
苦手
苦衷
苦心