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臆
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おく
ふりがな文庫
“
臆
(
おく
)” の例文
泥足
(
どろあし
)
のまま
臆
(
おく
)
するところもなく自ら先に立って室内へ通った泰軒
居士
(
こじ
)
、いきなり腰をおろしながらひょいと忠相の書見台をのぞいて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
また勢いがいいのでとうとう
臆
(
おく
)
してしまって一郎も嘉助も口の中でお早うというかわりに、もにゃもにゃっと言ってしまったのでした。
風の又三郎
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
人中に
揉
(
も
)
まれて
臆
(
おく
)
し
心
(
ごころ
)
はほとんど除かれている彼に、この衷心から頭を
擡
(
もた
)
げて来た新しい慾望は、更に積極へと彼に拍車をかけた。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
しかるに余の三人は人にたかって置きながら、中には割腹の場合に臨んで
臆
(
おく
)
れを取り、人の介錯を煩わした者もあったそうである。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
「うんにゃ、あのまた気高い処から
言語
(
ことば
)
付の鷹揚な処から
容子
(
ようす
)
がまるで姫様よ。おいら気が
臆
(
おく
)
れて口が
利悪
(
ききにく
)
い。」「その癖優しい
嬢
(
こ
)
だ。」
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
少女は素足の
脛
(
すね
)
を幾分寒さうに
伸
(
のば
)
しながら、奥まつた一隅に朝着のまま立つてゐる伊曾の方へ
臆
(
おく
)
した様子もなく進んで行つた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
当年十六歳にしては、少し幼く見える、
痩肉
(
やせじし
)
の小娘である。しかしこれはちとの
臆
(
おく
)
する
気色
(
けしき
)
もなしに、一部始終の陳述をした。
最後の一句
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
百
姓
(
しょう
)
がこのごろ
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたばかりの、
若
(
わか
)
い
黒
(
くろ
)
い
牛
(
うし
)
は、
水
(
みず
)
を
臆
(
おく
)
せずにずんずんと
池
(
いけ
)
の
中
(
なか
)
に
向
(
む
)
かって
走
(
はし
)
るように
歩
(
ある
)
いていきました。
百姓の夢
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
女一人ではじめてこんなところに来るのは心
臆
(
おく
)
するのも無理はない。ところで月水金は既願人の続行審理の日となつてゐた。
老残
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
この
狂気
(
きちがい
)
じみた事の有ッた当坐は、昇が来ると、お勢は
臆
(
おく
)
するでもなく
耻
(
はじ
)
らうでもなく只何となく落着が悪いようで有ッた。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
しかし、ほかには渡瀬という家がなさそうだから、
跡戻
(
あともど
)
りをして、その前をうろついていると、——実は、気が
臆
(
おく
)
してはいりにくかったのだ——
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
彼らはわれわれの怒りを見て、哀れにも震えおののいて、その心は
臆
(
おく
)
し、その眼は女や子供のように涙もろくなるだろう。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
『たしかに、義清の耳へ、はいったのだろうか。まさか、
臆
(
おく
)
して、自身の郎党を、見殺しにするつもりでもあるまいに』
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お角さんは、案内につれて、おめず
臆
(
おく
)
せず送り込まれたのは、伊太夫の座敷でなく、不破の関守氏の部屋なのでした。
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
いくらか
臆
(
おく
)
したような態度で、彼女は机の
傍
(
そば
)
へ寄って来たが、手に半分開いたまま折り畳まれた小冊子をもっていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
勿論、警官にみつかれば、
叱
(
しか
)
られるのでしょうが、このアワア・ギャング達は、おめず
臆
(
おく
)
せず、堂々と取ってのけ、その場で、ぼくにくれるのでした。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
御助け下され
母
(
はゝ
)
の
看病
(
かんびやう
)
致
(
いた
)
させ度候と
臆
(
おく
)
したる
形容
(
けしき
)
もなく申立れば是を聞れ其方が申
處
(
ところ
)
不分明
(
ふぶんみやう
)
なり伊勢屋方にて五百
兩
(
りやう
)
盜
(
ぬす
)
み又金屋へも入りて
種々
(
しゆ/\
)
盜
(
ぬす
)
み女を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
声
(
こわ
)
づかいに貫目があると思われた。その他の人は
臆
(
おく
)
してしまったようで、態度も声もものにならぬのが多かった。
源氏物語:08 花宴
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
「恋愛」と
臆
(
おく
)
するところ無くはっきりと発音して、きょとんとしている文化女史がその辺にもいたようであった。
チャンス
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
自分は
行儀
(
ぎょうぎ
)
を知らず、
作法
(
さほう
)
が分からぬと、自分の弱点を知ったとても、人の前に出て、決して
臆
(
おく
)
することはない。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
それツと取卷く足輕の六尺棒の中に、平次は
臆
(
おく
)
れた色もなく小腰を屈めたまゝ、ツ、ツ、ツと進んだのです。
銭形平次捕物控:193 色若衆
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
是より最後の
楽
(
たのしみ
)
は奈良じゃと急ぎ登り行く
碓氷峠
(
うすいとうげ
)
の冬
最中
(
もなか
)
、雪たけありて
裾
(
すそ
)
寒き
浅間
(
あさま
)
下ろしの
烈
(
はげ
)
しきにめげず
臆
(
おく
)
せず、名に高き
和田
(
わだ
)
塩尻
(
しおじり
)
を
藁沓
(
わらぐつ
)
の底に踏み
蹂
(
にじ
)
り
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
同時に、此
臆
(
おく
)
れた気の出るのが、自分を
卑
(
ひく
)
くし、大伴氏を、昔の位置から自ら
蹶落
(
けおと
)
す心なのだ、と感じる。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
驚いたと云わんよりは、激したと云わんよりは、
臆
(
おく
)
したと云わんよりは、様子ぶったと云わんよりはむしろ
遥
(
はる
)
かに簡単な上げ方である。したがって哲学的である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
見慣れないものに対してはすべての人は
臆
(
おく
)
しやすく疑い深い。まして長い間ほとんど反対の物語を聞かされていた人々にとっては、了解に苦しむ個所が多いであろう。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
人に
臆
(
おく
)
せぬ黒いひとみでまともに見られた時、自分はなんだかとがめられたような気がした。
花物語
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
心
臆
(
おく
)
し候
哉
(
や
)
とお尋ねなされ候ところ、につことゑみを浮べ給ひ、何しに臆し
侍
(
はべ
)
らん、されど此の死顔の
態
(
てい
)
を御覧ぜよ、定めし坊主
奴
(
め
)
は生きたる空もなき心地にて侍らんものを
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
いやなお人にはお酌をせぬといふが大詰めの
極
(
きま
)
りでござんすとて
臆
(
おく
)
したるさまもなきに、客はいよいよ面白がりて履歴をはなして聞かせよ定めて
凄
(
すさ
)
ましい物語があるに相違なし
にごりえ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
と云って足が麻痺したのではなく、眼の前にある光景が、変に異様であり妖しくもあり、厳かでさえあることによって、彼の心が妙に
臆
(
おく
)
れ、進むことが出来なくなったのである。
仇討姉妹笠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
みんな、人間のやつてゐる事は、喜劇の連続だつた。心
臆
(
おく
)
して、こそこそと喜劇のなかで、人間は生きる。正義をふりかざす事も喜劇。人間の善も悪もみな喜劇ならざるはない。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
おのおの貧富にしたがって、
紅粉
(
こうふん
)
を装い、衣裳を着け、その
装
(
よそおい
)
潔
(
きよ
)
くして華ならず、粗にして汚れず、言語
嬌艶
(
きょうえん
)
、容貌温和、ものいわざる者も
臆
(
おく
)
する気なく、笑わざるも悦ぶ色あり。
京都学校の記
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
勘次
(
かんじ
)
は
草臥
(
くたぶ
)
れやしないかといつてはお
品
(
しな
)
の
足
(
あし
)
をさすつた。それでもお
品
(
しな
)
の
大儀相
(
たいぎさう
)
な
容子
(
ようす
)
が
彼
(
かれ
)
の
臆
(
おく
)
した
心
(
こゝろ
)
にびり/\と
響
(
ひゞ
)
いて、
迚
(
とて
)
も
午後
(
ごゞ
)
までは
凝然
(
ぢつ
)
として
居
(
ゐ
)
ることが
出來
(
でき
)
なくなつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
それ故、それぞれの思いに
堕
(
お
)
ちている大人にとってこの少年の出現は心をみだすほどの注意もひかないのであった。悪びれもせず、
勿論
(
もちろん
)
臆
(
おく
)
した風もなく少年は隅の方に控えていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
もはや世の
謗
(
そし
)
りもおそれませぬ、人の批判にも
臆
(
おく
)
しませぬ、いまこそ、瓦礫のなかに無名のしかばねを曝す覚悟ができました、いまこそおのれの死處がわかりました、さきほどの過言を
死処
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
男が来ているかいないか分らないが、来ていれば、こうすれば聞くであろう。その女には、こんな者がついているぞと思わせようと思って、
潜戸
(
くぐり
)
のところに寄って、
臆
(
おく
)
せず、二つ三つ
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
一四三
里遠き犬の声を力に、家に走りかへりて、彦六にしかじかのよしをかたりければ、
一四四
なでふ狐に
欺
(
あざむ
)
かれしなるべし。心の
臆
(
おく
)
れたるときはかならず
一四五
迷
(
まよ
)
はし神の
魘
(
おそ
)
ふものぞ。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
ダヴィデは心
臆
(
おく
)
しもせず、振り向いて王をながめた。そしてサウルの
膝
(
ひざ
)
に頭をのせて、また歌をつづけた。
夕闇
(
ゆうやみ
)
が落ちてきた。ダヴィデは歌いながら眠ってしまい、サウルは泣いていた。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
それを聞くと私は一寸
太刀打
(
たちう
)
ちが出来ない気がして、やや
心
(
こころ
)
臆
(
おく
)
するを覚えた。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
時々雨が降ったけれども、パイヤスやパンタロンやジルなどという道化者らはそれに
臆
(
おく
)
しもしなかった。その一八三三年の冬の上きげんさのうちにパリーはヴェニスの町のようになっていた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
いへ、いへ、
臆
(
おく
)
する
勿
(
なか
)
れ、かれらを神々の如く信ぜよ。 一二一—一二三
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
「もっと声を大きくして漢文は
朗々
(
ろうろう
)
として
吟
(
ぎん
)
ずべきものだ、語尾をはっきりせんのは心が
臆
(
おく
)
しているからだ、聖賢の書を読むになんのやましいところがある、この家がこわれるような声で読め」
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
二
尺
(
しやく
)
になつた
時
(
とき
)
ですらも
愛
(
あい
)
ちやんは、
些
(
や
)
や
臆
(
おく
)
しながら
其方
(
そのはう
)
へ
歩
(
ある
)
いて
行
(
ゆ
)
きました、『
屹度
(
きつと
)
それは
何
(
ど
)
うしても
暴
(
あば
)
れる
狂人
(
きちがひ
)
に
違
(
ちが
)
ひない!
私
(
わたし
)
はそれよりも
寧
(
むし
)
ろ
帽子屋
(
ばうしや
)
を
見
(
み
)
に
行
(
ゆ
)
きたいわ!』と
云
(
い
)
ひながら。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
と、
臆
(
おく
)
せず底をぶちまけるアメリカ流に、博士は驚くかと思いの
外
(
ほか
)
共軛回転弾:――金博士シリーズ・11――
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
広子はそれでも油断せずに妹の顔色を
窺
(
うかが
)
ったり、話の裏を考えたり、一二度は
鎌
(
かま
)
さえかけて見たりした。しかし辰子は電燈の光に落ち着いた
瞳
(
ひとみ
)
を
澄
(
す
)
ませたまま、少しも
臆
(
おく
)
した色を見せないのだった。
春
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そして、その姿勢のまま、
臆
(
おく
)
する色もなく横蔵に言った。
紅毛傾城
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
少しも
臆
(
おく
)
せず卒直に云つた
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
臆
(
おく
)
した狼はゆく
太陽の子
(旧字旧仮名)
/
福士幸次郎
(著)
しかし
臆
(
おく
)
し心の逸子はやはり家の持主に対して内証の隠事をしている気持が出て来て、永くは見廻していられなかった。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
「はい。」
頬
(
ほゝ
)
の
円
(
まる
)
い英太郎と違つて、これは
面長
(
おもなが
)
な少年であるが、同じやうに
小気
(
こき
)
が
利
(
き
)
いてゐて、
臆
(
おく
)
する
気色
(
けしき
)
は無い。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
ここでもまた
叱
(
しか
)
るもの
威嚇
(
いかく
)
するものがあって不愉快であったが、若君は少しも
臆
(
おく
)
せずに進んで出て試験を受けた。
源氏物語:21 乙女
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
臆
常用漢字
中学
部首:⾁
17画
“臆”を含む語句
臆病
記臆
気臆
臆気
臆病心
臆測
臆病者
臆病風
臆劫
胸臆
氣臆
臆病神
御記臆
臆面
臆断
臆説
揣摩臆測
臆病口
臆心
臆病癖
...