百姓ひゃくしょう)” の例文
平二は百姓ひゃくしょうも少しはしていましたが実はもっと別の、人にいやがられるようなことも仕事にしていました。平二は虔十に云いました。
虔十公園林 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
百姓ひゃくしょうは「桑原くわばら桑原くわばら。」ととなえながら、あたまをかかえて一ぽんの大きな木の下にんで、夕立ゆうだちとおりすぎるのをっていました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
百姓ひゃくしょうばかりの村には、ほんとうに平和な、金色こんじきの夕ぐれをめぐまれることがありますが、それは、そんな春の夕ぐれでありました。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
百姓ひゃくしょうは、ひょいとくびを起して、思わず、あたりを見まわしました。ほんのちょっとのあいだ、わたしの言うことにつられたのです。
この男先生は、百姓ひゃくしょう息子むすこが、十年がかりで検定試験けんていしけんをうけ、やっと四、五年前に一人前の先生になったという、努力型の人間だった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
このみさき燈台守とうだいもりや、山のはたけのおばあさんや、お百姓ひゃくしょうさんや、その家族の人たちは、いつも歩きなれている道ばかりをいきますから
くわをかついでいる百姓ひゃくしょう親爺おやじさんといったほうが適当であり、講義の調子も、その風貌にふさわしく、訥々とつとつとしてしぶりがちだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
枯草かれくさをやく百姓ひゃくしょう野火のびか、あるいは、きこりのたいた焚火たきびであろうか、とある原のなかほどに、チラチラと赤くもえているほのおがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王さまは、お百姓ひゃくしょうさんをわらわずにはいられませんでした。そして、いままでのはらだたしさもすっかりきえてしまって、こういいました。
母の後ろからすこしはなれて、フランスの百姓ひゃくしょう女のようなふうをした婦人ふじんが、白いむつき(おむつ)につつまれた赤子をだいてついて来た。
が、試みに手を入れると、ほんの日向水ひなたみずほどのぬくもりしかなく百姓ひゃくしょうの女たちがその湯でせっせと大根を洗っているのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、だれか、ていはしないかと、あたりをまわしました。もし、百姓ひゃくしょうが、つけたなら、きっとはしってきてしかるからであります……。
脊の低いとがった男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いえいえ私はけっしてこのうしを殺そうなどとするのではございません。ただこうして百姓ひゃくしょうたちのたべ物を運んでまいりますだけでございます」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
(どッこいしょ、)と暢気のんきなかけ声で、その流の石の上を飛々とびとびに伝って来たのは、茣蓙ござ尻当しりあてをした、何にもつけない天秤棒てんびんぼうを片手で担いだ百姓ひゃくしょうじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いっそ故郷こきょうかえって、そこで百姓ひゃくしょうをしてる息子むすこのところで、のこったしょうがいをおくろう、とそう二人は相談そうだんしました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
茫然ぼうぜんと立って居ると、苅草かりくさいっぱいにゆりかけた馬を追うて、若い百姓ひゃくしょうが二人峠の方から下りて来て、余等の前を通って、またむこうみねへ上って往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さて、この「ニールスのふしぎな旅」は、ニールス・ホルゲルッソンというお百姓ひゃくしょうの男の子のお話です。
が、翌朝よくあさはやく、一人ひとり百姓ひゃくしょうがそこをとおりかかって、このことつけたのでした。かれ穿いていた木靴きぐつこおりり、子家鴨こあひるれて、つまのところにかえってました。
屋敷やしきまわりの大きな杉林はきりはらわれ、米倉こめぐらはとりこわされ、馬もいないうまやと、屋根に草がぼうぼうにはえた納屋なやがあるきりの、貧乏びんぼう百姓ひゃくしょうとなっていました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
で鳩は今度は牧場をして、ある百姓ひゃくしょうがしきりと井戸を掘っている山の中の森に来ました。
お兼 それで猟を始めたり、鶏をつぶしたり、百姓ひゃくしょうとけんかしたりするのでございますよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
浅井は百姓ひゃくしょうだから、百姓になるとあんな顔になるかと清に聞いてみたら、そうじゃありません、あの人はうらなりの唐茄子とうなすばかり食べるから、蒼くふくれるんですと教えてくれた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
千穂子との間に、太郎たろう光吉こうきちと云う子供があった。あとに残った千穂子は、隆吉の父親の与平の家に引きとられてくらすようになり、骨身をおしまず千穂子は百姓ひゃくしょう仕事を手伝っていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「なるほど、な。——わたくしはこれでも初めから百姓ひゃくしょう、いや、ドン芸人じゃアございません。もっとも、どなたでもそうでしょうが」と洒落しゃれてから、自分にも思い出の多い昔を語った。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
領主りょうしゅ奥方おくがた御通過ごつうかというので百姓ひゃくしょうなどは土下座どげざでもしたか、とっしゃるか……ホホまさかそんなことはございませぬ。すれちがときにちょっと道端みちばたけてくびをさげるだけでございます。
また百姓ひゃくしょうはい地租改正ちそかいせいのために竹槍ちくそう席旗せきき暴動ぼうどうかもしたるその余炎よえんいまおさまらず、いわんや現に政府の顕官けんかん中にもひそかに不平士族と気脈きみゃくを通じて、蕭牆しょうしょうへんらんくわだてたる者さえなきに非ず。
あるいは今にわすれぬが、わが輩の七、八歳のころ、故郷にあって朋輩ほうばい三、四人と山遊やまあそびしたとき、森の内で火をいたかどをもって、近所の百姓ひゃくしょうに追われていのちからがら落ちのびたことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして、三人の男の子は、一日外に出て、すこしばかりある土地をたがやして、お百姓ひゃくしょうのしごとにいそしみました。末のむすめは、まい朝四時から起き出して、うちじゅうの朝飯をこしらえました。
今日きょうはある百姓ひゃくしょう軒下のきした明日あす木陰こかげにくち果てた水車の上というようにどこという事もなく宿を定めて南へ南へとかけりましたけれども、容易に暖かい所には出ず、気候は一日一日と寒くなって
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この声援と共にここにおどろくべき声援者が現われた、それは製粉会社の職工四、五十名と、木材会社その他の労働者、百姓ひゃくしょう、人足、馬夫まご! あらゆる貧民階級が一度にどっとときの声をあげた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そうでありますから、今日に至ってもなお農民の事を百姓ひゃくしょうという。
百姓ひゃくしょうの生きて働く暑さかな
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
百姓ひゃくしょうのおとうさんは、やはりいつまでも貧乏びんぼうで、あいかわらず長者ちょうじゃの田をたがやして、ねんじゅう休みなしに、かせいでいました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
心からかなしんでいるのでした。ふたりはまずしい百姓ひゃくしょうでした。持っている土地といえば、わずかに庭ぐらいの大きさのものでした。
あるお百姓ひゃくしょうさんが、牝牛めうし市場いちばっていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。
おまえは百姓ひゃくしょうたちの仲間なかまにいて、手あらく生き物を取りあつかっては、言うことを聞かないとぼうでぶつようなところばかり見てきたのだろう。
どこの百姓ひゃくしょう女房にょうぼうであろうか、櫛巻くしまきにしたほつれをなみだにぬらして、両袖りょうそでかおにあてたまま濠にむかってさめざめといているようす……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤シャツの農夫のうふはだまって針をにらみつけました。二人のばたの百姓ひゃくしょうたちは、それを見てまた面白おもしろそうにわらったのです。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「さあさあ、行きなされ、わしがこうして、うしろから見てたげましょうわい。このわしが、なんのぼうをおおかみにやるものかね!」と、百姓ひゃくしょう
そのどの家もめいめいの商売だけではくらしがたたず、百姓ひゃくしょうもしていれば、片手間かたてまには漁師りょうしもやっている、そういう状態じょうたいは大石先生の村と同じである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
貧乏な百姓ひゃくしょうの夫婦がいました。二人は子どもがたくさんあって、苦しいところへ、また一人、男の子が生れました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
春吉君の学校は、かたいなかの、百姓ひゃくしょうの子どもばかり集まっている小さい学校なので、よそからこられる先生は、みな、都会人のように思えたのだった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
びっこのむすめは、いえにいて、百姓ひゃくしょうをしていましたが、ひまをみては、みみとおむすめのところへたずねてまいりました。そして、彼女かのじょから都会とかいはなしをきくのをたのしみにしたのであります。
日がさとちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
まずしい漁師のやどへも、お百姓ひゃくしょうのやねへも、陛下から、またこのお宮から、とおくはなれてすまっておりますひとたちの所へも、この小さな歌うたいどりは、とんで行くのでございます。
百姓ひゃくしょう馬鹿ばかだな、尺取虫しゃくとりむし土瓶どびんを引っかけるてかい?」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
むかしあるところに、お百姓ひゃくしょうのおとうさんとおかあさんがありました。夫婦ふうふあいだにはとおになるかわいらしい女の子がありました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
獣医じゅういはその雌牛めうしのはづな(口につけて引くつな)をおさえていたにぶい顔の百姓ひゃくしょうに、その雌牛の値段ねだんはいくらかとたずねた。
こういって、お百姓ひゃくしょうさんはポケットからかねをとりだして、二十四グロッシェンずつで一ターレルと、合計ごうけい七ターレルをかぞえあげてみせました。
そしたらさっきから仕度ができてめずらしそうにこの新らしい農夫の近くに立ってそのようすを見ていた子供こども百姓ひゃくしょうにわかにくすりとわらいました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこには、赤い布地きれじでつくった古風こふう百姓ひゃくしょうの着物——みじか胴着どうぎ、ひだのあるスカート、真珠しんじゅかざりのついた胸着むなぎ——がいくつか入れてありました。