熊手くまで)” の例文
熊手くまでき集めて背負ってこられるものでなく、やはり育てて収穫して調製し加工して、あとから後からと献上してくるものと予定せられ
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その中に魔衆の一人として、長いくちばしを突き出した八戒が、熊手くまでをふりあげて、強くないくせに威張った顔をして立っていた。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
すると、殆んど同時に、靴の底から熊手くまでのようなものがとび出して、下に向って開いた。その恰好は、がんじきをつけた雪靴にどこか似ていた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その頭のまわりにあてがわるべき両手の指は思わず知らず熊手くまでのように折れ曲がって、はげしい力のために細かく震えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しか熊手くまでつめすみやかに木陰こかげつちあとつける運動うんどうさへ一は一みじかきざんでやうふゆ季節きせつあまりにつめたく彼等かれらこゝろめてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたしげようとちますすそを、ドンとつゑさきおさへました。熊手くまでからみましたやうなひどちからで、はつとたふれるところを、ぐい、とつてくのです。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
上に熊手くまでのかかった帳場に、でッぷりした肌脱ぎの老爺おやじが、立てた膝を両手で抱えて、眠そうにりかかっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
無数の掻ききずが所きらわずつけられ、その上、水母くらげの様にうず高くなった乳房の上に、鳥井青年の断末魔のゆがんだ指が、熊手くまでの様に肉深く喰入っていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この爪が、黒髪の根を一本ごとに押し分けて、不毛のきょうを巨人の熊手くまでが疾風の速度で通るごとくに往来する。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人目ひとめ附易つきやす天井裏てんじやうゝらかゝげたる熊手くまでによりて、一ねん若干そくばく福利ふくりまねべしとせばたふせ/\のかずあるのろひの今日こんにちおいて、そはあまりに公明こうめいしつしたるものにあらずや
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
回目くわいめには矢張やはり其人數そのにんずで、此方こちらシヨブルや、くわつてたが、如何どううまかぬものだから、三回目くわいめには汐干しほひときもちゐた熊手くまで小萬鍬せうまんくわ)が四五ほんつたのを持出もちだしたところ
ソーンフィールドの牧場でも人々は乾草ほしくさを作つてゐた。と云ふよりも寧ろ勞働者達はちやうど仕事を止めて、熊手くまでを肩に歸りかけてゐた。丁度その時分に私は着いたのだつた。
「ええお月様を、見て御覧なさい」と言ってあなたはそとにあった熊手くまでの柄を飛越えた。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
彼等かれらの中には熊手くまでを動かしていた手を休めて私の方を胡散臭うさんくさそうに見送る者もあった。私はそういう気づまりな視線から逃れるために何度も道もないようなところへみ込んだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
父親和尚ちゝおやおしよう何處どこまでもさばけたるひとにて、すこしは欲深よくふかにたてどもひと風説うはさみゝをかたぶけるやうな小膽せうたんにてはく、ひまあらば熊手くまで内職ないしよくもしてやうといふ氣風きふうなれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こういうことが続いていたが、或る年、大分大仕掛けに、父は熊手くまでを拵え出しました。
その横からお酉様とりさまへ行く道になるのですが、私はお参りしたことがありません。いつもひどい人出だとのことで、その酉の日には、大分離れたここらまで熊手くまでを持った人が往来します。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
致せ湯責ゆぜめ責水責鐵砲てつぱう海老えび熊手くまで背割せわり木馬もくばしほから火のたま四十八の責に掛るぞヤイ/\責よ/\との聲諸とも獄卒ごくそつ共ハツと云樣無慘むざんなるかな九助を眞裸まつぱだかにして階子はしごの上に仰向あふむけに寢かし槌の枕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
半七老人を久し振りでたずねたのは、十一月はじめの時雨しぐれかかった日であった。老人は四谷の初酉はつとりへ行ったと云って、かんざしほどの小さい熊手くまでを持って丁度いま帰って来たところであった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お豊さんは尉姥じょううばの人形を出して、ほうき熊手くまでとを人形の手にしていたが、その手を停めて桃の花を見た。「おうちの桃はもうそんなに咲きましたか。こちらのはまだつぼみがずっと小そうございます」
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
羽子板はごいたなどが山と高く掲げられるのも見ものでありますが、酉町とりのまち熊手くまでなど、考えると不思議にも面白い装飾に達したものであります。玩具の犬張子いぬはりこなどにも、何かまがいない江戸の姿が浮びます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一に弓、二につよゆみ、三にやり、四に刀、五に剣、六に鍵矛かぎほこ、七にたて、八におの、九にまさかり、十にげき、十一に鉄鞭てつべん、十二に陣簡じんのたて、十三に棒、十四に分銅鎌ふんどうがま、十五に熊手くまで、十六に刺叉さすまた、十七に捕縄とりなわ、十八に白打くみうち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今は熊手くまでの実用はどこへやら、あらぬ飾物となりけるもをかし。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
「これは、これは……。すき熊手くまでを持って来なけりゃ……」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
棒と思つたのは、かね熊手くまでである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
貧乏びんばう百姓ひやくしやう落葉おちばでも青草あをぐさでも、他人ひと熊手くまでかまつたあともとめる。さうしてせてつちさらほねまでむやうなことをしてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
折れたる熊手くまで、新しきまた古箒ふるぼうき引出ひきいだし、落葉おちば掻寄かきよせ掻集め、かつ掃きつつ口々にうたう。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人夫婦のことをオジンバ(土佐幡多とさはた、近江伊香いか)、オンジョウンボ(鹿児島県)、バオジ(出雲いずも)、ウバグジ(陸前栗原)などといい、または熊手くまで高砂たかさごの絵から思い寄って
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
熊手くまでをおろしてみろ。」
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はやし彼等かれら天地てんちである。落葉おちばくとて熊手くまでれるとき彼等かれらあひともなうて自在じざい徜徉さまよふことが默託もくきよされてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さゝに、大判おほばん小判こばん打出うちで小槌こづち寶珠はうしゆなど、就中なかんづく染色そめいろ大鯛おほだひ小鯛こだひゆひくるによつてあり。お酉樣とりさま熊手くまで初卯はつう繭玉まゆだま意氣いきなり。北國ほくこくゆゑ正月しやうぐわつはいつもゆきなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)