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沓
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くつ
ふりがな文庫
“
沓
(
くつ
)” の例文
また、ひとかごの
橘
(
たちばな
)
の実をひざにかかえ、しょんぼりと、市場の日陰にひさいでいる小娘もある。
下駄
(
げた
)
売り、
沓
(
くつ
)
直
(
なお
)
しの
父子
(
おやこ
)
も見える。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
急にひきつったか、怪我をしたか、馬子は案じて、もしやと、
足蹠
(
あし
)
をしらべにかかってみました。
沓
(
くつ
)
が外れて、釘でも踏みつけたか。
大菩薩峠:31 勿来の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
橋の上にはしばらくの間、
行人
(
こうじん
)
の跡を絶ったのであろう。
沓
(
くつ
)
の音も、
蹄
(
ひづめ
)
の音も、あるいはまた車の音も、そこからはもう聞えて来ない。
尾生の信
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
沓
(
くつ
)
ぬぎの土間へも降りて見まわしているうちに、かれは何か小さいものを拾った。それを袂に入れて、半七はもとの座敷へ戻った。
半七捕物帳:41 一つ目小僧
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その蟇は毎年の様に出て来て、毎夕の様に
沓
(
くつ
)
ぬぎの下に来たそうであるが、しらず、今年の夏は? 無心の彼にも、歎きがあるであろう。
解説 趣味を通じての先生
(新字新仮名)
/
額田六福
(著)
▼ もっと見る
陳氏はすっかり黒の
支度
(
したく
)
をして、
袖口
(
そでぐち
)
と
沓
(
くつ
)
だけ、まばゆいくらいまっ白に、髪は
昨日
(
きのう
)
の通りでしたが、支那の勲章を一つつけていました。
ビジテリアン大祭
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
そして、日本のひとのように膝かけはかけないで、黒い布でこしらえた
沓
(
くつ
)
をはいた両足をひろげた間に、大きい反物包みをはさんでいた。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
人の話によると、彼は外套の下に、三十斤の錘をつけているとのことであった。形のほとんどくずれかかった古い
沓
(
くつ
)
を素足にはいていた。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
半ば登りかけたときに、持彦が
沓
(
くつ
)
をわすれたことを花桐は知った。夜まわりが廻って来ると、すぐ沓がわかる位置におかれてあったからだ。
花桐
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
金色の寝台の金具、
家鴨
(
あひる
)
のぶつぶつした肌、切られた真赤な
水慈姑
(
みずくわい
)
、青々と連った
砂糖黍
(
さとうきび
)
の光沢、女の
沓
(
くつ
)
や両替屋の鉄窓。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
如何
(
いか
)
にせんと此時また忽然と鶴的鞍に
傍
(
そ
)
ひて歩み
來
(
きた
)
る見れば馬の
沓
(
くつ
)
を十足ほど
彼
(
か
)
の竹杖に
括
(
くゝ
)
し付けて肩にしたり
我馬士
(
わがまご
)
問ふて曰く鶴さん大層
沓
(
くつ
)
を
木曽道中記
(旧字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
かゝれば尊きベルナルドは第一に
沓
(
くつ
)
をぬぎ、かく大いなる平安を
逐
(
お
)
ひて走り、走れどもなほおそしとおもへり 七九—八一
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
さいわい誰にも見とがめられずに、奥座敷の縁側のそばまで来たお露は、
沓
(
くつ
)
ぬぎにうずくまるように身をかがめて、
低声
(
こごえ
)
。
丹下左膳:03 日光の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
上着の模様は唐草で、襟と袖とに銀の糸で、細く
刺繍
(
ぬいとり
)
を施してある。紫色の袴の裾を洩れ、
天鵞絨
(
ビロード
)
に銀糸で鳥獣を繍った、小さな
沓
(
くつ
)
も見えている。
前記天満焼
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
例えば
常陸
(
ひたち
)
の
石那阪
(
いしなざか
)
の峠の石は、毎日々々伸びて天まで届こうとしていたのを、
静
(
しず
)
の明神がお憎みになって、鉄の
沓
(
くつ
)
をはいてお
蹴
(
け
)
飛ばしなされた。
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
「ほんとうに、おじいさん、さんごの
沓
(
くつ
)
をはいて、
青
(
あお
)
い
珠
(
たま
)
のかんざしをさした
女
(
おんな
)
が、この
家
(
いえ
)
の
前
(
まえ
)
を
通
(
とお
)
るのですか?」
幸福の鳥
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
正装した源氏の
形
(
すがた
)
を見て、後ろのほうを手で引いて直したりなど大臣はしていた。
沓
(
くつ
)
も手で取らないばかりである。娘を思う親心が源氏の心を打った。
源氏物語:07 紅葉賀
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
おそらくこの種の形を持つものは起原が古く、よく絵にある
藤原鎌足
(
ふじわらのかまたり
)
公の
履
(
は
)
かれている
沓
(
くつ
)
の形そのままであります。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
フランツは父が
麓
(
ふもと
)
の町から始めて小さい
沓
(
くつ
)
を買って来て
穿
(
は
)
かせてくれた時から、ここへ来てハルロオと呼ぶ。呼べばいつでも木精の答えないことはない。
木精
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
パーシユーズの事情を察してマアキュリーは彼に海陸を自由に飛ぶことの出来る
沓
(
くつ
)
を与へ、女神は彼に如何にしてゴーゴンに近づくべきかの方法を教へる。
毒と迷信
(新字旧仮名)
/
小酒井不木
(著)
そして間もなく母屋の縁先の
沓
(
くつ
)
脱ぎで、地面に残された跡とピッタリ一致する二足の庭下駄が
発見
(
みつ
)
けられた。
石塀幽霊
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
薩摩と肥後の穀物畑では、変った型の
犁
(
すき
)
が使用される(図574)。鉄の
沓
(
くつ
)
と剪断部とは、軽くて弱々しいらしいが、犁は土中で転石にぶつかったりしない。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
松雲が寺への帰参は、
沓
(
くつ
)
ばきで久しぶりの山門をくぐり、それから
方丈
(
ほうじょう
)
へ通って、
一礼座了
(
いちれいざりょう
)
で式が済んだ。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
涙と水ぱなが流れだした。そして、むかむか腹立たしくなった。もくもく
燻
(
くすぶ
)
っている
焚
(
た
)
き木に怒りがぶっつかって行った。雪のついた
沓
(
くつ
)
の先でそれを
蹂
(
にじ
)
りつけた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
ふぢ
葛
(
かづら
)
七
を取りて、一夜の
間
(
ほど
)
に、
衣
(
きぬ
)
、
褌
(
はかま
)
、また
襪
(
したぐつ
)
八
、
沓
(
くつ
)
を織り縫ひ、また弓矢を作りて、その衣褌等を服しめ、その弓矢を取らしめて、その孃子の家に遣りしかば
古事記:02 校註 古事記
(その他)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
眞面目
(
まじめ
)
らしく
取
(
と
)
りつぐを
聞
(
き
)
けば、
時鳥
(
ほとヽぎす
)
と
鵙
(
もず
)
の
前世
(
ぜんせ
)
は
同卿人
(
どうきやうじん
)
にて、
沓
(
くつ
)
さしと
鹽賣
(
しほうり
)
なりし、
其時
(
そのとき
)
に
沓
(
くつ
)
を
買
(
か
)
ひて
價
(
だい
)
をやらざりしかば、
夫
(
そ
)
れが
借金
(
しやくきん
)
になりて
鵙
(
もず
)
は
頭
(
あたま
)
が
上
(
あ
)
がらず
暁月夜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
表の大地は
箒木目
(
ははきめ
)
立ちて
塵
(
ちり
)
もなく。格子戸はきれいにふききよめて。おのずから光沢をおびたり。残ったる
番手桶
(
ばんておけ
)
の水を
撒
(
ま
)
きたるとおぼしき。
沓
(
くつ
)
ぬぎのみかげ石の上に。
藪の鶯
(新字新仮名)
/
三宅花圃
(著)
それは神官の着るやうな
袍
(
はう
)
だの
指貫
(
さしぬき
)
に模したものだつた。おまけに、ボール紙で造つた黒い冠、
笏
(
しやく
)
の形をした板切れ、同じく木製の珍妙な
沓
(
くつ
)
だのいふ品々が揃つてゐた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
その刀を取れとか
沓
(
くつ
)
を持てとか、そういったようにね、それからまた銃隊をさがらせろ、なんという命令を伝えにもゆきます、そういうときは酒井さまのお口まねだから
日本婦道記:萱笠
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
魔法杖でもちょいと振りゃ、娘ふたりがダンスの
沓
(
くつ
)
にもなりそうだ。躍れよ躍れよ、おどり沓。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
藁草履は
穿物
(
はきもの
)
の中の簡素なものである。未だ一度も人の足に触れぬ新しい草履なら、極めて清浄でもある。元日気分と調和する点からいえば、革の
沓
(
くつ
)
や
塗木履
(
ぬりぼくり
)
の比ではない。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
出てくる人物が、みんな
冠
(
かんむり
)
をかむって、
沓
(
くつ
)
をはいていた。そこへ長い
輿
(
こし
)
をかついで来た。それを舞台のまん中でとめた者がある。輿をおろすと、中からまた一人あらわれた。
三四郎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
枕も髪も影になって、蒸暑さに
沓
(
くつ
)
脱ぎながら、行儀よく
組違
(
くみちが
)
えた、すんなりと伸びた浴衣の裾を
洩
(
も
)
れて、しっとりと置いた姉の白々とした足ばかりが
燈
(
ひ
)
の加減に浮いて見える。
甲乙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
小道具など色々の細工物に金銀を
費
(
ついや
)
し高価の品を作り、革なども武具の
縅
(
おど
)
しにも致すべきものを
木履
(
ぼくり
)
の
鼻緒
(
はなお
)
に致し、
以
(
もっ
)
ての外の事、
沓
(
くつ
)
は新しくとも冠りにはならずと申すなり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
掛
(
かけ
)
ければ天一坊は常樂院を見るに
早
(
はや
)
沓
(
くつ
)
を脱たりまた後を振返り伊賀亮左京をも
見
(
みる
)
に何も
履物
(
はきもの
)
を穿ざれば天一坊も沓を
拔
(
ぬぎ
)
捨ける夫より案内に從ひ行き遙か向を見れば一段高き
床
(
とこ
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
それは埃だらけの
沓
(
くつ
)
の上でひと休みし、それからやつと膝に匍ひ上がつて、人びとの組み合はしてゐる手のなかを覘いたりする。それには翼がないのだつた。人びとの顏も暗い。
旗手クリストフ・リルケ抄
(旧字旧仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
地面を
這
(
は
)
うようにして縁側までたどりつくと、爺さんは
沓
(
くつ
)
ぬぎにうつ伏せになって、肩の動き具合から見ると、虫のようにしくしく、長いこと泣いていましたよ。ほんとに長い間
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
静かな緊張した空気の中に、軽く揃つてひゞく舞人の
沓
(
くつ
)
の音も忘れ難いものであつた。
君臣相念
(新字旧仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
寛平
(
くわんびやう
)
法皇此事を
聞
(
きこ
)
しめして大におどろかせ給ひ、
御車
(
みくるま
)
にもめし玉はず俄に御
沓
(
くつ
)
をすゝめ玉ひて清涼殿に立せ玉ひ、
斯
(
かく
)
と申せとおほせありしかども左右の諸陣
警固
(
けいご
)
して事を通ぜず
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
軍記物語の作者としての馬琴は到底『三国志』の著者の
沓
(
くつ
)
の
紐
(
ひも
)
を解くの力もない。
八犬伝談余
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
臙脂
(
えんじ
)
色の小さな
沓
(
くつ
)
もちらりと見えたやうだ。そのどつちも僕は見覚えがあつた。
夜の鳥
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
剃刀
(
かみそり
)
を遠ざけ、
月光石
(
ムーン・ストン
)
を
崇
(
あが
)
め、板っぺらの
沓
(
くつ
)
をはき、白髪の
髷
(
まげ
)
を水で湿し、手相見の紙着板を首にぶら下げ、大型移動椅子を万年住宅としてつつしんで、これに近づかなければならない。
ヤトラカン・サミ博士の椅子
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
青い
三色菫
(
パンジイ
)
を散らした
更紗
(
さらさ
)
の安服に赤い
沓
(
くつ
)
をはいて、例の大きな麦藁帽子をかぶっているところは、自分ながら無邪気で可愛らしくて、身軽でふわふわして、まるで蝶々のようだと思った。
決闘
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
『夫木抄』に「ぬぐ
沓
(
くつ
)
の重なる上に重なるはゐもりの印しかひやなからん」。
十二支考:08 鶏に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
啓吉は腹が空いたので、ランドセールから弁当を出して
沓
(
くつ
)
ぬぎ石に腰を掛けて弁当を開いた。弁当の中には、啓吉の好きな鮭がはいっていたが、珍しい事に茄で玉子が薄く切って入れてあった。
泣虫小僧
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
真先
(
まっさき
)
が
彼
(
かの
)
留吉
(
とめきち
)
、中にお花さんが
甲斐〻〻
(
かいかい
)
しく子を
負
(
お
)
って、最後に彼ヤイコクがアツシを
着
(
き
)
、
藤蔓
(
ふじづる
)
で
編
(
あ
)
んだ
沓
(
くつ
)
を
穿
(
は
)
き、マキリを
佩
(
は
)
いて、
大股
(
おおまた
)
に歩いて来る。余は木蔭から
瞬
(
またた
)
きもせず其
行進
(
マアチ
)
を眺めた。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
沓
(
くつ
)
の音全都に響き、唯一人大路を練れり。
詩
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
時間は
黄金
(
こがね
)
の
沓
(
くつ
)
を穿いて逃げる。
クサンチス
(新字旧仮名)
/
アルベール・サマン
(著)
我駒の
沓
(
くつ
)
あらためん橋の霜 湖春
俳句の初歩
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
鞦韆
(
しゅうせん
)
に抱き乗せて
沓
(
くつ
)
に
接吻
(
せっぷん
)
す
五百句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
沓
漢検準1級
部首:⽔
8画
“沓”を含む語句
雑沓
雪沓
藁沓
沓脱
沓掛
沓脱石
沓石
雜沓
木沓
沓下
上沓
御沓
馬沓
沓音
沓形
沓足袋
金沓
稿沓
毛沓
古沓
...