じに)” の例文
次から次とおそいかかって来る波しぶきに、息をするのもやっとの思いで、舟の上にいながら、今にもおぼれじにしそうな気がします。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして結局、巴里パリーの大道で野たれじにをしようとも、ナイル河のわにに喰われて死のうとも、己は少しも恨めしいとは思うまい。………
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(おそらくはのたれじにという終りを告げるのだろう。)そのあわれな最期さいごを今から予想して、この洋杖が傘入の中に立っているとする。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんないやしい素性の者なら、たとえ英吉がその為に、こがじにをしようとも、己たち両親が承知をせん。家名に係わる、と云ったろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
オーレンカはサーシャが両親にすっかり打棄うっちゃられて、一家の余計者扱いにされ、じにしかけているような気がしてならなかった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「これではとてもやりきれない。かつえじにぬほかなくなる。いまのうちにどうかしてねこをふせぐ相談そうだんをしなければならない。」
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
風と雨とにたたかれ怒濤にもてあそばれ、おまけに冬のような寒気がおとずれ、手足がきかなくなり、こごじにをしそうになった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
嘘をおっしゃるのも、いい加減になさいまし、まだ一度もお逢いしたことがないのに、こがれじにするなどとおっしゃるはずはないでしょう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「どうして/\。支那人に椅子でも宛てがつてみなさい、じにするまでも、椅子に腰を下して、じつと写真に見とれてまさ。」
けれども武田勢の追げきはげしく、本多忠真ただざね死し松平康純やすずみ死し、鳥居信元とりいのぶもと成瀬正義なるせまさよし米津政信よねづまさのぶらあいついで討ちじにをとげた。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「山國でしゝおほかみを捕る虎挾とらばさみといふわなに首を突つ込んで山猫のやうな顏をして、もがきじにに死んで居たのを、今朝になつて見付けましただ」
大宋国の善知識のもとで、修しじにに死んで、よき僧に弔われるのは、結構なことだ。日本で死ねばこれほどの人には弔われまい
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
其れだからこの附髷つけまげや帽の流行品などに浮身うきみをやつして食べる物も食べずに若じにをする独身ものもあると云ふことである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
将軍家光は癩病で狂ひじにに死にました。けれども諸国の大名が反乱を起す気配があるので、生きたふりをさせておかねばならないのだと言つてゐます。
わが血を追ふ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
角太郎はそれから二日二晩苦しみ通して、二十一日の夜なかにもがじにのむごたらしい終りを遂げた。その葬式とむらいは二十三日のひるすぎに和泉屋の店を出た。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
獅狂人のごとく彼岸へ飛んだり此岸しがんへ飛んだり何度飛んでも亀が先にいるのでついに飛びじにに死んでしまいました。
恐しき巽風シロツコもぞ吹く。若しその熱き風胸より吹かば、中なる鳥の埃及エヂプト人の火紅鳥フヨニツクスならぬが、焦がれじにするなるべし。
そしてただ、私達をこうした境遇におとした父と叔母とをのろった。「あいつらは今に罰が当って野垂のたじにするよ」
若しも自分の戀人がああして遠く去つてゆくのを見たならば、きつと人はこがれじにに死んでしまふに相違ない。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
うつくしうて、かしこうて、わしおもじにさするほど賢過かしこすぎた美人びじんゆゑ、おそらくは冥利みゃうりき、よもや天國てんごくへはのぼれまい。
つみのない少女たちを、じにさせるのはかわいそうです。あのひとたちの親兄弟おやきょうだいにすみません。だから……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薬餌やくじまじない加持祈祷かじきとうと人の善いと言う程の事を為尽しつくして見たが、さてげんも見えず、次第々々に頼み少なに成て、ついに文三の事を言いじににはかなく成てしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
斯くて風月ふうげつならで訪ふ人もなき嵯峨野の奧に、世を隔てて安らけき朝夕あさゆふを樂しみしに、世に在りし時は弓矢のほまれ打捨うちすてて、狂ひじにに死なんまでこがれし横笛。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
こんな顔になり其の顔で私の胸倉を取って悋気りんきをしますからられませんので、私が豊志賀のうちを駈出した跡で師匠が狂いじにに死にましたので、死ぬ時の書置かきおき
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その中を尾鰭おひれを打ってその大鯉が苦しみもがいてもがいて、とうとうもがきじにをしてしまいました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
根葉ねはからちけば、昨年こぞ今年ことしなてや、首里しゆりをさめならぬ、那覇なはをさめならぬ、御百姓おひやくしやうのまじりかつじにおよで、御願おねげてる御願おねげたかべてるたかべ、肝揃きもそろてゝ、肝揃きもそろげは
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
じにをしたかないからなあ、おれは……。今すぐ食いたいんだ。なんでもいい、草でもいい。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ある琵琶法師びわほうしが語ったのを聞けば、俊寛様は御歎きの余り、岩に頭を打ちつけて、くるじにをなすってしまうし、わたしはその御死骸おなきがらを肩に、身を投げて死んでしまったなどと
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「夜通し、這入っていると、こごじにに死ぬのですよ、もう水の中が冷いですからね。」
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これほど邪慳じやけんひとではなかりしをと女房にようぼうあきれて、をんなたましひうばはるればれほどまでもあさましくなるものか、女房にようぼうなげきはさらなり、ひには可愛かわゆをもじにさせるかもれぬひと
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
奴は養母かめきちの前へも自分の顔が出されないように思った。けれどうらじにに死んでしまうほど気が小さくもない彼女は、憤懣ふんまんの思いを誰れにもらすよりは、やっぱり養母に向って述べたかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なんにも出来やしないのです。私から見れば青二才だ。私がもし居らなかったらあの人は、もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、どこかの野原でのたれじにしていたに違いない。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
貴様の頭から石油をブッ掛けて、火をけて、狂いじにさせる設備がチャントこの家の地下室に出来かけているんだ。俺の新発明の見世物だがね……グラン・ギニョールの上手を行く興行だ。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「何だ」といきまく養母のおもて、ジロリ横目に花吉は見やりつ「ハイ、乞食のおやふところで、其時泣きじにに死んだなら、芸妓げいしやなどになりさがつて、此様こんな生耻いきはぢさらさなくとも済んだでせうにねエ」唇めて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ついに敢えなくなりたまう、その梨の木は、亭々として今も谿間にあれど、果は皮が厚く、渋くて喰われたものでない、秀綱卿の怨念おんねんこの世に残って、あだをしたやからは皆癩病になってもがじにに死んだため
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
実方はそのためにうらじにをしてすずめになったのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
多くの人々が方々でむだじにをしたのです。
パナマ運河を開いた話 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
金魚と揉み合ってのたれじにか。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あいつは恐ろしい執念に我れと我が身を苦しめて、ゾッとする様な呪の言葉を叫びつづけながら、もだじにに死んでしまったのです。……
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここばかり米が出来る訳でもあるまい。どこのはてへ行ったって、のたれじにはしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さあ、たとえ俺が無理でも構わん、無情でも差支えん、おんなが怨んでも、泣いても可い。こがじにに死んでも可い。先生の命令いいつけだ、切れっちまえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
与次郎は一杯食わされて、さぞ口惜くやしかったでしょうが、もう口を利く元気もない。餅と菓子とを指さしただけで、苦しみじにに死んでしまったのです。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どうせこのまま海上に漂流していりゃ、じにするのがおちだろうから、恐竜島でもなんでもかまやしない、三日でも四日でも、腹一ぱいくって、太平楽たいへいらくを並べようや
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仏頂寺弥助は太刀を抜いて腹をき切っている——その膝の下に丸山勇仙がもがきじにに死んでいる。これはべつだん負傷はないが、傍らに薬瓶らしいものが転がっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分が来たからよいようなものの、もしこのままにしておけば、ばばは中でくるじにしてしまう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して見れば身共が大声に、御仏の名前を呼び続けたら、答位はなされぬ事もあるまい。されずば呼びじにに、死ぬるまでぢや。幸ひ此処に松の枯木が、二股に枝を伸ばしてゐる。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
恋女房のもがきじにに死んだ遺骸なきがらを、あまり他人の目に触れさせたくなかったのでしょう。
お常はとうと恋病こひやまひに取つ憑かれた。徳三郎がお初の似顔絵をいたまゝ、こがじにに死にかゝつた。娘の不心得をいかつた両親も、末期まつごの哀れさに、伝手つてをもとめて徳三郎を招いた。
たれあって来る様子もないから、まず谷へ死骸を突落そうと思うと、又市の裾にすがり付いたなりで狂いじにを致しました故中々放す事が出来ませんから、惠梅の指を二三本切落して
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
... 若氣わかげの一てつは吾れ人ともに思ひ返しのなきもの、可惜あたら丈夫ますらをこがじにしても御身は見殺しにせらるゝ氣か、さりとはつれなの御心や』。横笛はさもものうげに、『左樣の事は横笛の知らぬこと』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)