ぼう)” の例文
そして声音こわねで明らかに一人は大津定二郎一人は友人ぼう、一人は黒田の番頭ということが解る。富岡老人も細川繁も思わず聞耳を立てた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
先年川原井ぼうが薬屋の手代を殺したときも、便所の中のビール壜が有力な証拠となってね。して見ると臭い所も馬鹿にはならぬ。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
燕府えんふの将校官属を相せしめたもうに、珙一々指点して曰く、ぼうこうたるべし、某はこうたるべし、某は将軍たるべし、某は貴官たるべしと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これわたし竹馬ちくばとも久我くがぼう石橋いしばしとはおちやみづ師範学校しはんがくかう同窓どうそうであつたためわたし紹介せうかいしたのでしたが、の理由は第一わたしこのみおなじうするし
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
枕頭まくらもとには軍医や看護婦が居て、其外彼得堡ペテルブルグで有名なぼう国手こくしゅがおれのを負った足の上に屈懸こごみかかっているソノ馴染なじみの顔も見える。
あるところに宴会えんかいが開かれ、当時議会でぶりのよい有名なぼう政治家が招待せられ、わが輩もその末席まっせきについたことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
また朝日の阿闍梨あじゃりという僧が、安倍あべぼうという陰陽師おんようじの家に忍び込んでいて、発覚してげ出そうとするところを見つけて
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女は私の家へ来る前に青山のぼう軍人の家に奉公していたといった。七人の兄妹のある中で、自分は末子であるといった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
耶蘇教を奉ずる一国ここにあり、その教と同派のものを信ずるぼう宗徒のためにこの徒を管轄する他国(この国もまた耶蘇教を奉ず。ただし別派なり)
加えた者は北の新地辺に住むぼう少女の父親ではなかったかというこの少女は芸者の下地したじッ子であったからみっちり仕込んでもらう積りで稽古のつらさを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは隅田乙吉すみだおときちと名乗る東京市中野区のぼう料理店主だった。彼はそんな商売に似合わぬインテリのように見うけた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目ぼしい山火事のあったときに自分の関係のぼう官衙かんがから公文書でその山火事のあった府県の官庁に掛け合って
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
余かつて仏国ふつこくより帰来かえりきたりし頃、たまたま芝霊廟しばれいびょうの門前に立てる明治政庁初期の官吏ぼうの銅像の制作を見るや
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
エサウシ山下の絶勝に臨む、炭坑王谷山家の、豪華を極めた別荘の裏手に流れ着いて、そこに滞在していた小樽タイムスの記者、ぼうの介抱を受けているうちに
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
年代は不明であるが、その大学に、ぼうと云う学生がいた。色の蒼い脊のひょろ長い陰気な青年であった。
死体を喫う学生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
七歳の少女がその父の二重人格を見たと云う実例や「自然の暗黒面」の著者が挙げて居りますHぼうと云う科学者で芸術家だった男が、千七百九十二年三月十二日の夜
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つき浩々かう/\わたりて、くはふるにはるかのおき停泊ていはくしてる三四そうぼうこく軍艦ぐんかんからは、始終しじゆう探海電燈サーチライトをもつて海面かいめんてらしてるので、そのあきらかなること白晝まひるあざむくばかりで
橋本の敬さんが、実弟の世良田せらだぼうを連れて来た。五歳いつつの年四谷よつやに養子に往って、十年前渡米し、今はロスアンゼルスに砂糖さとう大根だいこん八十町、セロリー四十町作って居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして忠兵衛の異母兄で十人衆を勤めた大孫おおまごぼうを証人に立てて、兄をして廃嫡を免れしめた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二月ばかり前の事であるが、Nぼうという中年の失業者が、手紙と電話と来訪との、執念深い攻撃の結果、とうとう私の書斎に上り込んで、二冊の部厚な記録を、私に売りつけてしまった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私の昨年の所得決定額は、日本一、二の富豪安田ぼうの四十分の一であり、渋沢栄一氏の四分の一であつたので憤慨した。実業家など云ふものは、巨万の恒産があつての上の利子的の収入である。
差押へられる話 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
交潤社の客で一代に通っていた中島ぼうはA中の父兄会の役員だったのだ。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それからと云うものはこの家にあやしい事が度々たびたびあっておどろかされた芸人も却々なかなか多いとの事であるが、ある素人連しろうとれんの女芝居を興行した際、座頭ざがしらぼうが急に腹痛をおこし、雪隠せっちんへはいっているとも知らず
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
俊男は今年ことし三十になる。ぼう私立大學しりつだいがく倫理りんり擔任たんにんしてゐるが、講義の眞面目まじめで親切であるわりに生徒のうけくない。自躰じたい心におもりがくツついてゐるか、ことばにしろ態度にしろ、いやに沈むでハキ/\せぬ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
家康は、自分も奥山ぼうに師事して、剣を学んでいたが、その目的は
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまた、忽ちさるごとく甲板にじのぼってきては、同じ芸当を繰返くりかえすのでした。その中に、ぼくは片足の琉球人りゅうきゅうじん城間クスクマぼうという、赤銅色しゃくどういろたくましい三十男を発見し、彼の生活力の豊富さにおどろいたものです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
途中で暗記でもしてきたらしく竹田ぼう、ペラペラとやっている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蟠龍軒はお瀧を連れて松平ぼうの中の口へまいりまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たとえばぼうの衣服はよくないという。もしその悪い点が果たして衣服にありとすれば、衣服を代えればその非難はただちに消ゆるはずである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
江戸ではたしかに田沼政権の倒壊した際にも、刺客しかくの佐野ぼうを世直し大明神とって、墓参りがにぎわったという話もある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
秋草はそれを持って出て、ぼう飛行場へ急行し、烏啼の一味である矢走という男をして、その品物を飛行機でもって三原山の噴火口に投げおとさせたと認める。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三月にわたる久きをかの美き姿の絶えず出入しゆつにゆうするなれば、うはさおのづから院内にひろまりて、博士のぼうさへつひそそのかされて、垣間見かいまみの歩をここにげられしとぞ伝へはべる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
コクリが狐狗狸こくりと書くは当字で、右に左に傾くからコクリと呼ぶと云う者があり、又米国がえりの益田ぼうが、天理を告ぐ器であると云って『告理こくり』の文字を用いたので
狐狗狸の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ぼうは運命の寵兒であつて、某は運命の虐待を被つて居るやうに見えるといふことがある。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
をもつて歐洲をうしうぼう強國きやうこく結托けつたくして、年々ねん/\五千萬弗まんどるちか賄賂わいろをさめてために、かへつて隱然いんぜんたる保護ほごけ、をりふしそのふね貿易港ぼうえきかう停泊ていはくする塲合ばあひには立派りつぱ國籍こくせきいうするふねとして
わずかの給料でみずかららい、弟を養い、三年の間、辛苦しんくに辛苦を重ねた結果は三十四年に至って現われ、五郎は技手となって今は東京芝区のぼう会社に雇われ、まじめに勤労しているのである。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
本所業平橋ぎわぼうと書きました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは品川しながわの遊女ぼうが外人に落籍らくせきせられんとしたことで、当時は邦人ほうじんにして外人のめかけとなれるをラシャメンと呼び、すこぶる卑下ひげしたものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
慶良間けらまの或る島で祭の夜、白衣の祝女たちの行列の間をくぐって、小腰こごしをかがめて何べんか往来した紅衣こういの神が、後に村民ぼうの妻だったことをすっぱ抜かれて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幕末のころぼうと云う医師があって夜遅く病家へ往って帰っていた。それは月の明るい晩であった。其の大手を通っていると、戞戞かつかつと云うおびただしい馬のひづめの音が聞えて来た。
首のない騎馬武者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
十一日午前七時青森に着き、田中ぼうう。この行風雅ふうがのためにもあらざれば吟哦ぎんがに首をひねる事もなく、追手をけてぐるにもあらざれば駛急しきゅうと足をひきずるのくるしみもなし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いそしわのばしてると、これはすでに一ねんはんまへ東京とうけいぼう新聞しんぶんであつた。
鰐淵わにぶちが債務者中に高利借の名にしおふぼう党の有志家某あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
母は途中のぼうと云う川の土手を歩いていて、あやまって川の中へ落ちて溺死したものでした。
母の変死 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
現に越前えちぜん三国みくにぼうという遊女俳人が、江戸に出て来て昔馴染むかしなじみの家を、遊びまわったという話などは、是からまた百年ものちのことである。多くの遊女は旅をして遠くからやって来ている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして、何くわぬ顔をしていた米は、五稜郭に近いぼうと云う網元の妾になった。その時網元の主人は、先妻を亡くしているうえに子供もないので、子供が生れたなら本妻になおすつもりをしていた。
妖蛸 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)