もと)” の例文
取りつくろはぬ矮き樹の一もと二本庭なる捨石の傍などに咲きたる、或は築山に添ひて一トむら一ト簇なせるが咲きたる、いづれも美し。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おなじく桂川のほとり、虎溪橋こけいけうの袂。川邊には柳幾もとたちて、すゝきと蘆とみだれ生ひたり。橋を隔てゝ修禪寺の山門みゆ。同じ日の宵。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ長い間同じ下宿に立籠たてこもっているという縁故だか同情だかがもとで、いつの間にか挨拶あいさつをしたり世間話をする仲になったまでである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後日かの賈客、再び竜に逢って仔細を語ると、奴輩やつらを殺し尽くさぬは残念というから、その故を問う。我もとかの国の健児某甲だった。
されば請ふ、わが愛する麗しき父よ、すべての善惡の行のもとなりと汝がいへる愛の何物なるやを我にときあかしたまへ。 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すなわち抽象的ちゅうしょうてきのひろい意味の言葉を用うるにいたったもとにさかのぼって、しずかに考えると思い半ばに過ぐるものがありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
南岳の墓はもとのところに依然として立ちたり。自然石にて面に大田南岳墓。碑陰にまつくろな土瓶どびんつゝこむ清水かなの一句を刻す。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そんな風に、人の改良しようとしてゐる、あらゆる方面に向つて、自分はもと杢阿弥説もくあみせつを唱へた。そして保守党の仲間にひ込まれた。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
客観に重きを置けと申したる事もなけれどこの方は愚意に近きやう覚え候。「皇国の歌は感情をもととして」云々とは何の事に候や。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
暗い所で考えたように気味悪く思わない代りに、一層はっきりと、何かそれにもとづいて決断をしなくてはならないように思われた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ほとんど同国の史記とは信じ難かるべし。然りしこうしてその進歩をなせし所以ゆえんもとを尋ぬれば、みなこれ古人の遺物、先進のたまものなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……玲瓏れいろうと云うか崇厳と云うか、とにかく、あれはもと秋津島あきつしまの魂の象徴だ。……儂はもう文麻呂の奴に早くみせてやりたくてな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
事が娑婆しゃば世界の実事であり、いま説いていることが儒教の道徳観にもとづくとせば、縹緲ひょうびょう幽遠な歌調でない方が却って調和するのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
我身わがみ不肖ふしょうながら家庭料理の改良をもととして大原ぬしの事業を助けばやと未来の想像は愉快にみたされて結びし夢もあたたかに楽しかりき。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もとより此れを世人に知らしむるにはあらざるなり。我子孫たる者に其創業の困難なるの一端を知らしめんと欲する婆心ばしんたるのみ。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
文字は我々を征服する代りに、我々のために征服されました。私が昔知っていた土人に、かきもと人麻呂ひとまろと云う詩人があります。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕の情念じょうねんを察して呉れたまえ。しかし僕は自分の任務をおろそかにはしない。この苦しき恋をはぐくんだもとの国を愛するが故に……
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
個性の理解の強さと深さとは反省の力の強さと深さとにもとづき、しかして性格の強さと深さとは主としてそれらのものにもとづくのである。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
それ、火はまきによりて、すなわち火あり。薪なければ、すなわち火なし。薪は火を生ずるゆえんなりといえども、しかも火のもとにあらず。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
生中なまなかいぢくらずに置けば美しい火の色だけでも見られたものを、下手へたに詩にばかりもとの面白い感情が失はれたのと同じ様な失望を感じた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その集っている間、手に、裾に、胸に、白浪のひるがえるようだった、この繃帯は、欄干にもととどめて、末の方から次第に巻いて寄るのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(よしおれは、剣をもって、自己の人間完成へよじ登るのみでなく、この道をもって、治民をあんじ、経国のもとを示してみせよう)
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、向う岸に立つてゐるもと太いアカダモの高木を、自分の札幌以來外部的にもます/\育ちあがつた姿と仰いで見た。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
水無瀬みなせの離宮の風流の御遊びがいと盛んであった際には、古来の歌道のかきもとに対立して、新たにくりもとというたわれ歌の一団が生まれた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
嗚呼あゝ是れ彼れが成功の大原因に非ずや。彼れは何事にも真面目なり。其軽妙婉転たる文章ももと是れ百錬千鍛の裏に出で来る也。誠実なる人也。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
手本てほんもとにして生意氣なまいきにも實物じつぶつ寫生しやせいこゝろみ、さいは自分じぶんたくから一丁ばかりはなれた桑園くはゞたけなか借馬屋しやくばやがあるので、幾度いくたびとなく其處そこうまやかよつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もとになつて出来たもので、其前には「五人女」のお夏があり、更に其前に、歌祭文の材料になつたお夏があつたのである。
神道に現れた民族論理 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
二つは低い石甃いしだたみだんの上に並んで立っていて春琴女の墓の右脇みぎわきにひともとまつが植えてあり緑の枝が墓石の上へ屋根のようにびているのであるが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかしそのもとをいかにして養うかについての実際的な考慮こうりょが足りないとて、いつも孔子にしかられるのである。彼が孔子に心服するのは一つのこと。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「およそあだし國の人は、こうむ時になりては、もとつ國の形になりて生むなり。かれ、妾も今もとの身になりて産まむとす。願はくは妾をな見たまひそ」
染物屋を呼んで「紺屋こうや」といいます。庶民の着物であったかすりもまた「紺絣こんがすり」の名で親しまれました。それほどわが国では紺が色のもとでありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一夜の宴会に千金を投じ万金を捨つる、愚人はすなわち伝え聞いて耳をそばだつべきも、ひっきょうはなんの世益なくやがては身を滅ぼすのもとである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
淫罪いんざいがもっとも大きいからいけない、それでも千年間修練するなら命は助かる、とにかくもとの形を現すが宜い」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
別紙ハ航海日記、応接一冊を西郷ニ送らんと記せしが猶思ふに諸君御覧の後、早々西、小松などのもとニ御廻、付てハ、石川清の助中岡慎太郎などにも御見せ奉願候。
他日幕府の政權をかへせる、其事實に公の呈書ていしよもとづけり。當時幕府ばくふ既におとろへたりと雖、威權ゐけん未だ地にちず。公抗論かうろんしてまず、獨立の見ありと謂ふべし。
もとを忘れてすえに走った議論である。或る一時の人気取りの議論であると云われても仕方があるまいと思われる。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いぬ奴。胸の悪い、獣にも劣った獣奴。○ああ。無辺際なる精霊。この蛆虫うじむしを再びもとの狗の形に戻してくれぬか。
嵐に耐えた竜胆りんどうの一もとに宿った露が、静かな朝の光に耀いているのが、横文字の間に現われているのである。
軽井沢にて (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
冗談じょうだんいわっし、おまえたもとくそなんぞけられたら、それこそ肝腎かんじんひとさしゆびが、もとからくさってちるわな」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
降って六朝はもとより唐宋以下の内容の空虚な、貧弱な、美くしい文字ばかりをならべた文学にあきたらなかった。
足袋たび股引もゝひき支度したくながらに答へたるに人々ひと/\そのしをらしきを感じ合ひしがしをらしとはもと此世このよのものにあらずしをらしきがゆゑ此男このをとこ此世このよ車夫しやふとは落ちしなるべし。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
もともうらも知ることのできない米友は呆気あっけに取られて、得意の啖呵たんかを切って突き放すこともできません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
パンジエツチイといふ人はわれ夢にだに見しことあらず。われは唯だ我天賦の情にもとづきて歌ひしなり。
若侍はすぐと立派にとゞめを刺して、血刀ちがたなふるいながら藤新の店頭みせさき立帰たちかえりましたが、もとより斬殺きりころす料簡でございましたから、ちっとも動ずる気色もなく、我が下郎に向い
細民部落改善協議会席上に於ける講演筆記をもととして、これに添削修正を加えたるものにして、けだし特殊部落に関する余輩の研究を、最も通俗に概説したるものとす。
「いえ、笑うことなぞよういたしませぬ。かように美事な蘆はみやこには一もとも見られません。」
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これらはもとよりその人の薄志弱行はくしじゃっこうに基づくとはいえ、畢竟ひっきょう自己を自覚していなかった故である。
現代学生立身方法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と、そんな風に造作もなく思つた。それが病みつきのもとで、又間違ひの本だつた。——全く社交ダンス程、り易くて、達し難きものはない。がりいゝ事だけは確かだ。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
翁が「もと光る竹」の中から見いだした時には、「三寸ばかりなる人」であった。翁は手のうちに入れて家に帰り、籠に入れて養った。あたかも小鳥を取り扱うようである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
初め支那において丁韙良が始めてホウィートンのインターナショナル・ローを「万国公法」と訳したのがもとで、この名称は広く我邦にも行われるようになったのであるが
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)