暖炉だんろ)” の例文
旧字:暖爐
それから、ね上がる。寝台の鉄具かなぐにぶつかる。椅子いすにぶつかる。暖炉だんろにぶつかる。そこで彼は、勢いよく焚口たきぐちの仕切り戸をける。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
烈々れつ/\える暖炉だんろのほてりで、あかかほの、小刀ナイフつたまゝ頤杖あごづゑをついて、仰向あふむいて、ひよいと此方こちらいたちゝかほ真蒼まつさをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きゃくをへやに案内あんないすると、暖炉だんろに火をもやしてたきぎをくべ、台所だいどころでお手伝いにてつだわせて、おかみさんはせっせと食事しょくじのしたくをした。
左手には大きなロシア風の暖炉だんろがあった。暖炉から左側の窓にかけて、部屋いっぱいになわが渡されて、色とりどりなぼろが下がっていた。
かずかずの変な手紙を貰う度にそれを引裂いて捨てるか暖炉だんろの中へ投げ込んでしまうかしたその自分の心持を思い出して、いやな気がした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三四郎は静かな部屋へやの中に席を占めた。正面に壁を切り抜いた小さい暖炉だんろがある。その上が横に長い鏡になっていて前に蝋燭立ろうそくたてが二本ある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゆかは暖炉だんろぬくまりにて解けたる、靴の雪にぬれたれば、あたりの人々、かれ笑ひ、これののしるひまに、落花狼藉らっかろうぜき、なごりなく泥土にゆだねたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何、わたしの逃げみちですか? そんな事は心配に及びません。この高い天窓てんまどからでも、あの大きい暖炉だんろからでも、自由自在に出て行かれます。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下心したごころとともに、耳たぶの紅から爪の先までみがきに研いていたことである。窓外の雪明りは豪奢ごうしゃえ、内の暖炉だんろはカッカと紫金しこんの炎を立てる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまどきめずらしい、石炭をたく暖炉だんろの、四角なえんとつがニューッとつきでていて、おうちのかっこうをいっそう奇妙に見せているのでした。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、じきに二人ふたりは、なかよくなって、暖炉だんろまえこしをかけて、チョコレートやネーブルをべながらおはなしをします。
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして彼が暖炉だんろのほとりで、書物でも読んでいてなにも予期していないところをつかまえて、こう言ってもらいたい。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
朝六時半病牀びょうしょう眠起。家人暖炉だんろく。新聞を見る。昨日帝国議会停会を命ぜられし時の記事あり。繃帯ほうたいを取りかふ。かゆわんすする。梅の俳句をけみす。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ツートよくお寐入ねいりなさった様子で、あとは身動きもなさらず、ひっそりした室内には、何の物音もなく、ただ暖炉だんろの明滅がすごさを添えてるばかりでした。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
あの暖炉だんろのなかの屍体のことをどういったか、それからまたドクトルは何処に行っていたのかなどというかねて彼の知りたいと思っていたことをいてみた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一ぴきはつくえの下に、二ひきめは寝床ねどこのなかに、三ばんめは暖炉だんろのなかに、四ばんめは台所だいどころに、五ばんめは戸だなのなかに、六ばんめはせんたくだらいのなかに
玄関げんかんさきはこの別室全体べっしつぜんたいめているひろ、これが六号室ごうしつである。浅黄色あさぎいろのペンキぬりかべよごれて、天井てんじょうくすぶっている。ふゆ暖炉だんろけぶって炭気たんきめられたものとえる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
銀座のまぶしいショウ・ウィンドウを見ている人には自家用自動車で待合まちあい通いやカッフェー入りをする人には、夏は扇風機せんぷうき、冬は暖炉だんろに、思うようしたい放題のことのできる人には
出来る事ならなまけて、終日火燵こたつくすぶっていたいであろう。時には暖炉だんろのかたわらにばかりかじりついている上官を呪うこともあろう。決してその死んだ集配人を立派な人とも考えない。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
の黒影はヤガて外套を脱して、一室の扉を押せり、室内は燈火明々めい/\として、いまだ官服のまゝなる主人は、燃え盛る暖炉だんろの側に安然と身を大椅子に投げて、針の如き頬髯ほゝひげ撫で廻はしつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
もつともそれなら暖炉だんろもまつだらうし
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
スープさら、コップなどを客室きゃくしつにはこんで、食卓しょくたくのよういをととのえた。暖炉だんろの火はさかんにもえて、ぱちぱちと音をたてている。
この、しょっぱなの運動は、暖炉だんろの熱よりも健康な熱を全身に伝えるのである。ところで、顔はらしたことにしておく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その中にある建物は、同じ赤れんがの二階建てで、三角形にとんがった屋根には、むかしふうな四角い暖炉だんろのえんとつがニューッとつきだしています。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これもやはりざあざあ雨の降る晩でしたが、私は銀座のある倶楽部くらぶの一室で、五六人の友人と、暖炉だんろの前へ陣取りながら、気軽な雑談に耽っていました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
西洋では煙管パイプに好みをって、大小長短色々ぜた一組を綺麗きれい暖炉だんろの上などに並べて愉快がる人がある。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはらうちはいつもからっぽになります。そして、した暖炉だんろなかにはかみくずがまります。どうかわたしのおねがいをきいてください。いつまでもふゆのつづきますように……。
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しばらく使わなかった暖炉だんろの鉄蓋をあけ、火かき棒を突込むと、酸っぱいような臭いがした。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わしは、ここにあるいすも、こしかけも、安楽あんらくいすも、いや、暖炉だんろの火かきさえも、つぎつぎとつみあるものになげつけて、ここにはとっくになにひとつなくなっておったろう。
暖炉だんろ瓦斯がす颯々さっさつ霜夜しもよえて、一層殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貴方あなたは一生涯しょうがいだれにも苛責かしゃくされたことはく、健康けんこうなることうしごとく、厳父げんぷ保護ほごもと生長せいちょうし、それで学問がくもんさせられ、それからしてわりのよいやく取付とりつき、二十年以上ねんいじょうあいだも、暖炉だんろいてあり
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
左の方の柱には古笠と古蓑ふるみのとが掛けてあつて、右の方の暖炉だんろの上には写真板の手紙の額が黒くなつて居る。北側の間半けんはんの壁には坊さんの書いた寒山かんざんの詩の小幅が掛つて居るが極めて渋い字である。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
男は、暖炉だんろの前のひじかけいすに、ふかぶかとからだをうずめて、ほうたいだらけの頭をかしげ、うとうとと、いねむりをしているらしかった。
あのとおり、びんふたをしたまま暖炉だんろの上に置いたるじゃないの。感心でしょう。だけど、あたし、自慢はできないわ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼の談話に耳を傾けるよいふかしたのですが、いかに多くの人が押しかけても、彼のすわるべき場所は必ず暖炉だんろそばで、彼の腰をおろすのは必ず一箇の揺椅ゆりいすときまっていました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私たちは葉巻の煙の中に、しばらくはりょうの話だの競馬の話だのをしていましたが、その内に一人の友人が、吸いさしの葉巻を暖炉だんろの中に抛りこんで、私の方へ振り向きながら
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、さっさと暖炉だんろのそばにこしかけて、バターパンとおかしを食べはじめました。
暖炉だんろの上においてある音叉をとりあげた。それは非常に振動数の高いもので、ガーンと叩いても、殆んど振動音の聴えぬ程度のものだった。しかしその音叉にも別に異状はなかった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
デミトリチは彼等かれら厨房くりや暖炉だんろなおしにたのであるのはっていたのであるが、きゅうなんだかそうではいようにおもわれてて、これはきっと警官けいかんわざ暖炉職人だんろしょくにん風体ふうていをしてたのであろうと
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、暗号の数字と一致するものは、あの暖炉だんろのマントルピースのまわりに刻んである、飾りの玉の外にないことを確めました。アトリエに備えつけた暖炉にしては、あの飾りは不相応に立派です。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
次のへ来て見ると、果して野村のむら栗原くりはらの娘と並んで、大きな暖炉だんろの前へたたずんでいた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
暖炉だんろふさいだままの一尺前に、二枚折にまいおり小屏風こびょうぶを穴隠しに立ててある。窓掛は緞子どんす海老茶色えびちゃいろだから少々全体の装飾上調和を破るようだが、そんな事は道也先生の眼にはらない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しぶいつたの模様の壁紙、牧場の朝を画いてあるうつくしい油絵の大きな額縁がくぶち暖炉だんろの上の大理石の棚の上には、黄金の台の上に、奈良朝時代のものらしい木彫の観世音菩薩かんぜおんぼさつが立っている。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、小人たちは、おはいり、といいました。そこで、むすめはへやにはいって、暖炉だんろのそばのいすにこしをおろしました。そして、からだをあたためて、朝ごはんを食べようと思いました。
部屋は暖炉だんろで暖めてある。きょうは外面そとでも、そう寒くはない。風は死に尽した。枯れた木が音なく冬の日に包まれて立っている。三四郎は画室へ導かれた時、かすみの中へはいったような気がした。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)