)” の例文
それは、かれているというより、られている形だった。青は、二歩歩いては立ちまり、三歩歩いては立ち停まるのだった。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
最後の死のゴールへ行くまではどんな豪傑でも弱虫でもみんな同列にならばして嫌応いやおうなしに引きってゆく——ということであった。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
やあ? きぬ扱帶しごきうへつて、するりとしろかほえりうまつた、むらさき萌黄もえぎの、ながるゝやうにちうけて、紳士しんし大跨おほまたにづかり/\。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
壁や天井裏はすべて新聞紙を張りまはしてあり、大きな大黒を書いた去年の柱ごよみと、石版りの美人繪とが壁に向ひ合つてゐる。
何だかまた現実世界にり込まれるような気がして、少しく失望した。長蔵さんは自分が黙って橋のむこうのぞき込んでるのを見て
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四十五六の用人れのした人柄ですが、平次に言はせると、んなのが案外恐ろしく頑固ぐわんこな主人思ひだつたりすることがあります。
若いし——縹緻きりょうは優れているし——それに世間れていないので、零落おちぶれてもまだ多分に、五百石取の若奥様だった香いがほのかである。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんにもしないよ」来太は男をずるずると藪の中へ引きり込んだ、「……ちょっとききたいことがあるんだ、静かにしたまえ」
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はやきようにても女の足のおくれがちにて、途中は左右の腰縄こしなわに引きられつつ、かろうじて波止場はとばに到り、それより船に移し入れらる。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
万籟ばんらいげきとして声をむ、無人の地帯にただ一人、姉の死体を湖の中へ引きり込むスパセニアの姿こそ、思うだに凄愴せいそう極まりない。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
うしろに何か重い物を引きったような歩き方で、居住区の中に消えて行った彼のうしろ姿が、奇妙に私の眼にみついて離れなかった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「ござんせん」がイヤに「ござんせん」れがして甘ったるい。寄席よせ芸人か、幇間たいこもちか、長唄つづみ望月もちづき一派か……といった塩梅あんばいだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こう梶は云うと、子供は黙ったまま、かぶっていた帽子をずるずる鼻の下へ引きり降ろして顔から取りのけようとしなかった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
商売人あがりの小夜子には求められない魅力を惜しまないわけに行かなかった。嫌悪けんおと愛執との交錯した、悲痛な思いに引きられていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
琥珀こはく刺繍ぬひをした白い蝙蝠傘パラソルを、パツとはすの花を開くやうにかざして、やゝもすればおくれやうとする足をお光はせか/\と内輪うちわに引きつて行つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
水に激する小波烟にも、ハッと胸を躍らすのであったが、まもなく闇の彼方に、鈍い、引きるような音響がおこった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
むしろあべこべにずるずるられるようになり、これではいけないと気が付いた時には、既に自分でもどうする事も出来なくなっていたのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただしこのアラり方法の発明は新しいことで、近き百年以内までは、貯蔵は多くの地方ではもみを囲い、ぬかを去る仕事は食事の準備に過ぎなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これは余りにも大胆だと思っても、花桐は引きずられるままに引きられて行くより外に、つくしようもなかった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
女の重荷を、殊にみのるの樣な我が儘の多い女の重荷を引つてゐては、自分の身體がだん/\に人世の泥沼ぬまの中に沈み込んで行くばかりだと思つた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
意地悪く、ねたみ深く、一たん我物にした女だからというので、無理に引きって連れて行く人の姿が見えたのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そこで一、二町は素直に行きましたがその羊が逃げようとして非常な力を出して私を引きり廻すです。大変な力のものでどうしても向うへ進まない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いわんや人事不省の社長を第二の人がったとか、または強制的に社長を歩かしめて自殺せしめたとかいうことは決して考えられないのであります。
新任された開拓監事兼陸軍中佐の堀盛は、ゆるやかなきぬれの音をひびかせてしゃくを、ふりまわしながらやって来た。衣冠をつけた正式の礼装であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
善ニョムさんも、ブルブルにふるえているほどいかっていた。いきなり、娘の服のえりを掴むとズルズル引きって、畑のくろのところへほうり出してしまった。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
お杉も辰蔵の店へ引きり込まれた。黐竿で人間をさしたのを初めて見た老人は、眼を丸くして眺めていた。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は、かなわぬまでも、ここでX大使を追いつめて、せめて足でも捕えて、りおろしたい考えだった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どうだ、貴様——もうそこいらで、その匕首をおろしたら——と申しても、拙者ももう貴様の首根ッこを捉えて、番所へって行くような気持もなくなったよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すると、行き行人こうじんの誰彼は、好奇な色を露骨な表情で、テワスの顔をのぞきこむのである。それからまるで見くらべでもするもののように、改めて近藤の顔に視線を移す。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そうして彼は全く夢遊病者のそれのように、押入を開けて、四個の行李を引きり出した。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
此のばゞあは元は深川の泥水育ちのあばれもので、頭の真中まんなかが河童の皿のように禿げて、附けまげをして居ますから、お辞儀をすると時々髷が落ちまする、頑丈がんじょうな婆さんですから
品も新らしいように奇麗で、みんな初版りだったから、表紙絵の色りも美事だった。
「一歩前へツ!」休職中尉の体操兼舎監の先生がき成り私を列の前にり出した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
太郎は冷汗を流しているとお婆さんは太郎の頬辺ほっぺたをつねったり、太郎の襟元えりもとを捕えて引きるのであります。だから、太郎は勇が泣いて帰ればすぐ逃げて姿を隠すのが常であります。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
懐手ふところでをして肩を揺すッて、昨日きのうあたりの島田まげをがくりがくりとうなずかせ、今月このにち更衣うつりかえをしたばかりの裲襠しかけすそに廊下をぬぐわせ、大跨おおまたにしかも急いで上草履を引きッている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
あぶないと車掌が絶叫したのもおそし早し、上りの電車が運悪く地をうごかしてやってきたので、たちまちその黒い大きい一塊物は、あなやという間に、三、四間ずるずるとられて
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その頃私はくるわを歩くと、いつも「応援団長」とか「朴歯ほおばの旦那」とか呼ばれた。私は久留米絣くるめがすりあわせを着て、はかまをはいて、そうして朴歯の下駄をガラガラって歩いていたのである。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
まるで酒場さかばひどれのやうな兵士へいし集團しふだんしめつた路上ろじやうおもくつりながら、革具かはぐをぎゆつぎゆつきしらせながら劍鞘けんざやたがひにかちあはせながら、折折をりをり寢言ねごとのやうなうなごゑてながら
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼は何物かに自分がられて行くのをもうどうにもしようがないような心もちで、遂に大森の家に向って、はじめて自分の帰ろうとしているのが母のもとだと云う事を妙に意識しながら
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
如何にのんきに悠々といつまでもり廻り、家中で一番弱い人間の頭の上へと落ちて来たのではあるまいか? 衛生知識の乏しい上に、仏教思想の影響で、早くも世の無常を観ずる習慣から
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
「さあ! 殿のお声掛りじゃ。天下晴れて娘を引きって来い。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこへ彼の伜が来て、るようにして彼をれ帰ったのだったが、彼はその晩、ひどく腹を病み、とうとうその明け方に死んだ。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
よそ行着ゆきぎを着た細君をいたわらなければならなかった津田は、やや重い手提鞄てさげかばんと小さな風呂敷包ふろしきづつみを、自分の手で戸棚とだなからり出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またぼうとなって、居心いごころすわらず、四畳半を燈火ともしび前後まえうしろ、障子に凭懸よりかかると、透間からふっと蛇のにおいが来そうで、驚いてって出る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蹴ったり、引きったり、ようやく秀吉の前まで引っ立てて来たのを見ると、無残や、鼻の下に深く突き刺さった矢はまだ抜けずにある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お君の話のテンポの遅さと、八五郎の逢曳あいびき? を享楽する心持こころもちられて、いつの間にやら四半刻しはんとき(三十分)ほどの時間はちました。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
壜の内側を身体に付著した牛乳を引きりながらのぼって来るのであるが、力のない彼らはどうしても中途で落ちてしまう。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
犬はまだ二声三声吠えつづけたが家人が日本語の怒声を聞きつけると、初めてテラスへ出て来て犬を屋内へ引きり入れた。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
金に目のくらんだ兄に引きられて、絶望のふちへ沈められて行った、お柳に対する憐愍れんびんの情が、やがて胸にみ拡がって来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここもやはり、前室と同様荒れるに任せていたらしく、歩くにつれて、壁の上方から層をなした埃がり落ちてくる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)