すわ)” の例文
と云ったがかないません事で、剣術は上手でもたんすわってゝも、感の悪い盲目のことゆえ、匹夫下郎の丈助の為に二刀ふたかたな程斬られました。
「その通り、太之助はなにくそかなんかで出かけたものの、胆っ玉のすわった男じゃないから、一ペンにその白装束を見ると顫えあがった」
さっさと先へけではない。待ってくれれば、と云う、その待つのはどこか、約束も何もしないが、もうこうなっては、度胸がすわって
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かういふふうにくろうとらしいうたをおつくりになつたので、歴代れきだい皇族方こうぞくがたうちでは、文學ぶんがく才能さいのうからまをして、第一流だいゝちりゆうにおすわりになるかたです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
逞しい駿馬しゅんめの鞍に、ゆらと、乗りこなしよくすわって、茶筅ちゃせんむすびの大将髪、萌黄もえぎ打紐うちひもで巻きしめ、浴衣染帷子ゆかたぞめかたびら、片袖をはずして着け
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「またってのは何だよ、または余計じゃないか。何年何月何日にあたしがそんなにお酒を呑みました?——まあさ、おすわりよ、もすさん」
舞馬 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かつゆびさきへでも、ひらうへへでも自由じいうしりすわる。それがしりあな楊枝やうじやうほそいものをむとしゆうつと一度いちど收縮しうしゆくして仕舞しまふ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その侍は胆力がすわっていたので、別に驚きもせずに、おかしなものが出たな、と、平気な顔をしていると、その顔はぐ消えて無くなった。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「大きななりをして、胆力のないやつばかりだ。」そこらにいる者をさげすむように、腹の中でつぶやいた。彼の腰はすわってきた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
春の陽ざしがうららかに拡がった空のような色をした竹の皮膚にのんきにすわっているこの意味の判らない書体を不機嫌な私は憎らしく思った。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
殊に彼女の口は、彫刻家ののみの力を借りなければ開かぬものゝやうにかたくしまり、ひたひは次第に石のやうな峻嚴しゆんげんさにすわつてゐた。
尻のすわりがすこぶる悪い。見れば食器を入れた棚など手近にある。長火鉢に鉄瓶が掛かってある。台所の隣り間で家人の平常飲み食いする所なのだ。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこで私もしまいには、すっかり度胸がすわってしまって、だんだん早くなるランプの運動を、眼も離さず眺めていました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして眼つきがおそろしくすわったようになって、そうなくてさえ、平常から陰欝いんうつになりがちの顔が、一層恐い顔になった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
体つき、身のこなしなど、いやらしく男の心をそそるようで眼つきもすわっていて、気が進まなかったが、レッテル(顔)が良いので雇い入れた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
というような心配を繰り返しましたが、叱られたらそれまでのことだ、ともう度胸もすわってしまって、私は間もなく下金屋の店へ行き着きました。
国務大臣級の人になると、相応胆力がすわっているから平気で悪筆を揮うけれど、お父さんはもっと精神修養を要する。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれどもその間に、牡牛は後足あとあしで土をしきりに掘って、自分の足場がうまくすわるように、土地にくぼみをこしらえました。
(新字新仮名) / 久米正雄(著)
此等これらの六峰が次第に高まる裾野の上に根張り大きくどっしりと横たわって如何にもすわりが好い。殊に荒山から少しの弛みもなく左に曳いた線の美事さ。
にちいた疾風しつぷうはたちからおとしたら、西にしそら土手どてのやうなくもはしちかすわつて漸次だん/\沒却ぼつきやくしつゝまたゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その前にすわっている色真綿いろまわたの肘掛椅子の中に妾の身体からだを深々と落し込むと、その上から緞子どんすの羽根布団を蔽いかぶせて、妾の首から上だけ出してくれた。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
労働者の街だった。つぶれた羊羹ようかんのような長屋が、足場のすわらないジュク/\した湿地に、床を埋めている。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
よく身体からだすわらないほど狭い独木舟バラグワなので、土人はみな片膝ついただけで水掻きのようなをあやつっている。遠くから見ると、まるで曲馬団の綱上踊子ロウプ・ダンサアだ。
女のくちびるかたく結ばれ、その眼は重々しく静かにすわり、その姿勢なりはきっと正され、その面は深く沈める必死の勇気にみたされたり。男はしおれきったる様子になりて
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
目がすわり、顔がぞっとする程蒼かった。立ち上ろうとして、平均を失い、卓にひじをついた。麦酒瓶が大袈裟おおげさな音を立てて倒れ、白い泡が土間にしたたり落ちた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
大江山捜査課長は後を部下にまかせて、一旦本庁へかえったが、覆面探偵がまだ健在だと聞いて、立ってもすわってもいられなかった。なんという恐ろしい相手だろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆき子は酒に刺戟しげきされて、ジョオが来やうとどうしやうとかまふことはないとはらすわつて来た。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
目科は「さア時が来た」と云い余を引きて此隠場を出で一直線に藻西の店先に到るに果せるかな先刻見たる下女唯一人帳場にすわりて留守番せり、目科の姿を見て立来るを
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そしてその中へ入って、すわり込んで、切符を売る窓口から『さあここへ出せ』って言うんだ。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
敢て同門の諸君子を恐るるにあらず、度胸がすわらざるが為めなり。あなたは二十日頃御出京と承わりました。然し御令兄の御病気ではいけますまい。どうか御大事になさい。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
武士の胆力がすわらぬと考えているようなものもありましたから、日頃は善良と言われている人でも、残忍な遊戯の前に目をつぶらないことが武士のたしなみの一つだと考えもし
こまやかな顔色のあざやかさと気質きだてのよさそうな様子とのために、かわいらしく見えるはずだったが、ただ、鼻が少しいかつくてすわりぐあいが悪く、顔つきに重苦しい感じを与え
しかしマヌエラの目は、狂わしげなものを映してぎょろりとすわっている。ひょっとすると心痛のあまり気が可怪おかしくなったのかもしれない。その間も、なおも譫言うわごとは続いてゆく。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何か見めてでもゐると、黒瞳くろめ凝如じつすわツてとろけて了ひそうになツてゐる………うかと思ふと、ふし目に物など見詰めてゐて、ふとあたまを擡げた時などに、ひど狼狽うろたえたやうな
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
失禮しつれい乍らお世話も致し御不自由の事も有なれば御遠慮ゑんりよなしに言れよとなさけ仕掛しかけの忠兵衞がもつた病にすわり込彼方とはなせしがしばらく有て懷中より金子一分取出し道之助にたの近邊きんぺんにてさけさかな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と云って、じっとして居れば、一寸、二寸とひとりでに足が沈んでゆくから、ぼんやりしておるわけにもゆかない、先登のヘッスラーは、もう眼がすわって、物を云っても返事もしない。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
彼の視線は初めは穏かにその銅の取っ手に引きつけられてとどまり、次に驚いてじっとそれにすわり、そしてしだいに恐怖の色を帯びてきた。汗の玉が髪の間から両の顳顬こめかみに流れてきた。
そして私は村の居酒屋の卓子テーブルに凭つて毎夜/\、哲学者と間違へられたことがあつたのも当然な重くすわつた眼つきをして、一方を見れば一方ばかりを何時までも凝つと眺めてゐるといふ
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
町内てうないかほいのは花屋はなやのお六さんに、水菓子みずぐわしやのいさん、れよりも、れよりもずんといはおまへとなりすわつておいでなさるのなれど、正太しようたさんはまあれにしようとめてあるえ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と叫んで、そつと司会者に訊くと、弁士が弔演説をしてゐる男は、今は課長に昇進して、亡くなつた男がその後釜あとがますわつてゐたのを雄弁家がつい早飲込みにその男だと穿違はきちがへてしまつたのだ。
この齢に成れば、曲りなりにも自分の了簡もすわり、世の中の事も解つてゐると云つたやうな勘定ですから、いくら洒落気しやれつきの奴でも、さうさう上調子うはちようしに遣つちやゐられるものぢやありません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのような弱点のない、本当の意味で胆のすわった人も、もちろんあったと思うが、しかし多数の人間にはこの弱点が共通であった。そのため災禍をはなはだしくした場合も決して少なくないと思う。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今からみれば乱暴かも知れませんが、玄人は度胸がすわっているから、いよいよいけないと思えば素直に恐れ入りますが、素人にはそれがなかなか出来ない。いえ、強情で云わないのではない。
半七捕物帳:45 三つの声 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あまりに生きのいい黒ずんだ目がかげされていることで、なおよく見れば決して黒目が黒目ではなく、むしろ茶褐な瞳孔で、その奥の方に水の上に走るまいまい虫のような瞳がすわっていることが
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
度胸のすわった或いは手先の特別器用な女匪は、窃盗の手先や掏摸すりになる。
阿Qはいったん逃げ出したものの、結局「その道の仕事をやった」事のある人だから殊の外度胸がすわった。彼は路角みちかどいざり出て、じっと耳を澄まして聴いていると何だかざわざわしているようだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼には、いつ死んでもいい、という覚悟がどうしてもすわらなかったので、そこに彼の独自な剣法が発案された。つまり彼の剣法は凡人凡夫の剣法だ。覚悟定まらざる凡夫が敵に勝つにはどうすべきか。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
二十両というお金は、むしろあの方をここへいすわらせるだけだ。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
首をかしげていると、目の前に、辻駕籠がとんとすわって
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
畳屋からノソリと出て来たのは朱房の源吉、朝っからアルコールが胃嚢いぶくろへ入ったらしく、赤い顔とすわった眼が、なんとなく挑戦的です。