たはむ)” の例文
旧字:
わが十年の約は軽々かろがろしく破るべきにあらず、なほ謂無いはれなきは、一人娘をいだしてせしめんとするなり。たはむるるにはあらずや、心狂へるにはあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うれしさうにえずたはむれたりえたりして、呼吸苦いきぐるしい所爲せゐか、ゼイ/\ひながら、其口そのくちからはしたれ、またそのおほきななかぢてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
入りつ出でつゆらめく男女の影は放蕩の花園にたはむれ舞ふ蝶に似て、折々流れきたる其等の人の笑ふ声語る声は、云難いひがた甘味かんみを含む誘惑の音楽に候はずや。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
危ねえ、間拔奴ツ——と、いつもの調子でやらかすと、無禮者ツ、通行の女にたはむれるとは不都合千萬、それへ直れ、ピカリと來た、——親分の前だが
『モールスさんのつたはう金持かねもちのコロボツクルがたので、此所こゝきつ貧乏人びんばうにんたんだらう』などたはむれてところへ、車夫しやふしたがへて二でうこうられた。
次の文章は当時の若い志士の手に成つたもので、今日の君等には如何いかにも幼児のたはむれに見えようが、この稚気ちきの中に当年智者の単純な理想を汲み取つて読んで呉れ。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こはかれが一時いちじたはむれなるべし、かゝる妖魅えうみの術はありながら人にあざむかれてとらへらるゝは如何いかん
(一)春台しゆんだいの語、老子に出でたりとは聞えたり。老子に「衆人熙々きき如享太牢たいらうをうけるがごとし如登春台しゆんだいにのぼるがごとし」とあるは疑ひなし。然れども春台を「天子が侍姫にたはむるる処」とするは何の出典に依るか。
念仁波念遠入礼帖 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
岩穴に入りておわる、衆初めて其伏流ふくりうなるをり之をとす、山霊はだして尚一行をあざむくの意乎、将又たはむれに利根水源の深奥はかるべからざるをよさふの意乎、此日の午後尾瀬がはらいたるの途中
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ぢやうさまはそれほどまでに雪三せつざうちからおぼしめしてか、それとも一のおたはむれか、御本心ごほんしんおほけられたしとむるを、糸子いとこホヽとわらひて松野まつのひざかるきつ、たはむれかとはだけあさ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつくしくにじたちにけりあはれあはれたはむれのごとくおもほゆるかも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
今更にくくこそおぼゆれなどたはむるるに、富子三一二やがおもてをあげて、三一三古きちぎりを忘れ給ひて、かく三一四ことなる事なき人を三一五時めかし給ふこそ、三一六こなたよりましてにくくあれといふは
まちの子はたはむれに空虚うつろなるくわんたたき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白萩 あれまたいやらしいたはむれごと。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
ざうたはむれるやうななみ呻吟うなり
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
こころしらひのたはむれか
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
恋の花にもたはむるゝ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
絶間無き騒動のうち狼藉ろうぜきとしてたはむれ遊ぶ為体ていたらく三綱五常さんこうごじよう糸瓜へちまの皮と地にまびれて、ただこれ修羅道しゆらどう打覆ぶつくりかへしたるばかりなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
母もその頃にはお隣のおばさんと同じやうに父とたはむれながら梯子段を降りて来るやうな事をしてゐたのかも知れない。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ごみと一しよあななかちてたのを、博士はかせたはむれに取出とりだされたので、これは一ぱい頂戴てうだいしたと、一どうクツ/\わらひ。
競技者プレーヤーみん自分じぶんばんるのをたずして同時どうじあそたはむれ、えずあらそつて、針鼠はりねずみらうとしてたゝかつてゐますと、やが女王樣ぢよわうさまいたくお腹立はらだちになり、地鞴踏ぢだんだふみながら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
唯冬とのせめぎ合ひに荒荒しい力を誇るだけである。同時に又椎の木は優柔でもない。小春日こはるびたはむれるくすの木のそよぎは椎の木の知らない気軽さであらう。椎の木はもつと憂鬱である。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男神をがみ女神めがみたはむれて
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
最期さいご用意よういあはれみじかちぎりなるかな井筒ゐづゝにかけしたけくらべふりわけがみのかみならねばくとも如何いかゞしらかみにあねさまこさへてあそびしころこれはきみさまこれはわれ今日けふ芝居しばゐくのなりいや花見はなみはうれはしとたはむはせしそれひとつもねがひのかなひしことはなくまちにまちし長日月ちやうじつげつのめぐりれば果敢はかなしや
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うした地主ぢぬしにばかり出會であはしてれば文句もんくいなどたはむれつゝ、其方そのはう發掘はつくつかゝつたが、此所こゝだ三千年せんねんらいのつかぬところであつて、貝層かひそう具合ぐあひ大變たいへんい。
あの方もお年効としがひの無い、物の道理がお解りにならないにも程の有つたもので、一体私を何と思召おぼしめしてゐらつしやるのか存じませんが、客商売でもしてをる者にたはむれるやうな事を
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
熱い日の照るこの国には、恋とは男と女の入り乱れてたはむれる事のみを意味して、北の人の云ふやうに、道徳だの、結婚だの、家庭だのと、そんな興のさめる事とは何の関係もないのだ。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夜を明してたはむるゝ遊楽の西班牙を見る事が出来るであらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)