おそ)” の例文
アウシュコルンはなぜそんな不審が自分の上にかかったものか少しもわからないので、もうはやおそれて、言葉もなく市長を見つめた。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
わがとこは我を慰め、休息やすらいはわがうれいを和らげんと、我思いおる時に、汝は夢をもて我を驚かし、異象まぼろしをもて我をおそれしめたまう。……
周は驚きおそれて気絶しそうにしたが、やがて、それは成の法術でまぼろしを見せたではあるまいかと疑いだした。成は周の意を知ったので
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ちんはここに畏くも我上帝が、正義を行っておそれざる法官と、恥辱を忍んで法にしたが皇儲こうちょとを与えられたる至大の恩恵を感謝し奉る」
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
成程左様さう言はれて見ると、少許すこしも人をおそれない。白昼ひるまですら出てあすんで居る。はゝゝゝゝ、寺のなか光景けしきは違つたものだと思つたよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
次には「怖ろしき事四方において彼をおそれしめ、その足に従いて彼を追う」、そして「その力はえ、その傍には災禍わざわいそなわり……」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
赤くさびているかぶと鉢金はちがねのようなものが透いて見える。ただの鍋かなんぞかも知れないが勘太は、それをさえ足に踏むことをおそれた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猛虎の野にゆるや、其音おそる可し、然れども、其去れる跡には、莫然ばくぜん一物の存するなし、花は前の如くに笑ひ、鳥は前の如くに吟ず。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
示せば、下々の者も之に効うおそれがあります。それに第一、外聞も悪い事ですから、何卒、そういう真似だけはおやめ下さいますよう。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
家内の者もみなおそれた。しかしその子細は判らないので、唯いたずらに憂い懼れていると、となりに住んでいる塾の先生が言った。
これに反してヘロデは洗礼者ヨハネによりて罪を指摘せられた時、多少おそれはしたけれども、結局良心よりも体面を重んじました。
その時、菩提樹の枝より一枚の葉舞い落ちて、彼の肩を離れず、その個所ところのみ彼を傷つけるを得ん。されば、われその手をおそるるなり】
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは被害者総一郎が「蠅男」の忍びこんでくるのをおそれて、入口以外の扉も窓もすっかり釘づけにして入れなくしてしまったからだ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼少女は粗暴なる少年に車をかれて、かつおそれ且は喜びたりき。彼少女は面紗めんさきびしく引締めて、身をば車の片隅に寄せ居たり。
桑はひどくおそれて歯の根もあわずにわなわなと顫えた。妓もそれを見てあとしざりして帰って往った。隣の男は翌朝早く桑のへやへ往った。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
成熟した美しさ、実った重さと内に籠った力、凝っと静かに深く、おそれず物でも人でも見、而もその視線に些の害心も含まれない眼差し。
父母の年齢は忘れてはならない。一つには、長生を喜ぶために、二つには、餘命幾何いくばくもなきをおそれて、孝養を励むために。」
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すなわち城外の諸渓しょけいの水をきてそそぎ、一城のを魚とせんとす。城中ここに於ておおいに安んぜず。鉉曰く、おそるゝなかれ、われに計ありと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この書は英清鴉片戦争の顛末てんまつを通俗平易に書きつづり挿画を入れて、軍記の如き体裁となし、英人侵略のおそるべきことを説いたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
裏にづること、おそるること、やましきことなどの常におさへたるが、たちま涌立わきたち、跳出をどりいでて、その身を責むる痛苦にへざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
海をおそれず陸を懼れずなさんと欲するところをなすはこの若者なるをわれ知れば、ただしばしそのなすところに任さんのみと思いてやみぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
訢大いに怒り、その宅へ押し寄ると、要離平気で門を閉じず、放髪僵臥きょうがおそるるところなく、更に訢をさとしたのでその大勇に心服したとある。
そこにあの女をまつたく人目に觸れること無しに住はせ、その場所の不健康なことにもいさゝかのおそれを抱かず、森の眞中にそんな備へをして
われく、むかし呉道子ごだうし地獄變相ぢごくへんさうつくる。成都せいとひと一度ひとたびこれるやこと/″\戰寒せんかんしてつみおそれ、ふくしうせざるなく、ために牛肉ぎうにくれず、うをかわく。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「天主の教を奉じての事故ことゆえ日本全土を敵とするもおそるるに当らない。いわんや九州の辺土をや。事成らばよし、成らずば一族天に昇るまでの事だ」
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ところが百里の間に名の響いた挙人老爺がこの様におそれたときいては、彼もまたいささか感心させられずにはいられない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
親切をおそれるのは善くない。——だが、なろうことなら、自分の悲惨を家の人達に際立って感じさせたくないと思うた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
そんなことをすれば、相手は、腹をかかへて笑ふか、つんと横を向いてしまふに違ひないといふおそれがあるからだ。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
この螺旋段が、塔の内部でなしにそとについて、太陽をめがけて昇っている、つまり太陽をおそれないものだ、じつに恐ろしいほど大それた設計である。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ただ私がおそれるのは私がはたしてあなたを理解してるかどうかということである。もし私の理解が浅薄であるのならば、私は赤面してあなたに謝する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
かれその御手を取らしむれば、すなはち立氷たちびに取り成し一三、また劒刃つるぎはに取り成しつ。かれここにおそりて退き居り。
或日五百は使をって貞白を招いた。貞白はおそるおそる日野屋のしきいまたいだ。兄の非行をたすけているので、妹にめられはせぬかとおそれたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おそれて居るのか心服して居るのか、兎に角彼の命令を遵奉して、此の間のように沼倉の身に間違いでもあれば、自ら進んで代りに体罰を受けようとする。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
悪業を以てのゆえに、さらに又諸の悪業を作る。継起けいきしてついおわることなし。昼は則ち日光をおそれ、又人および諸の強鳥をおそる。心しばらくも安らかなることなし。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
深く自ら恥じかつおそれて「自分には小説は書けない、自分は文人たる資格がない」とまで気を腐らせてしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
随って欧羅巴ヨーロッパ亜細亜アジア両種の文明的要素を有しておるからしてその勢力も強くして、他の欧羅巴ヨーロッパ列国におそれられておったが、土地が偏在しておるからして
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
おそれてか、それとも真実まこと和尚さんに暗え筋のあってか、ま、なんにしても、縁あらばこそ墓所で旅立った死人を
にんじんは、心臓がどきどきしているにもかかわらず、それほどあせっている様子はない。自分の腕を見せなければならない瞬間をおそれているからである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ここおい呉起ごき公主こうしゆの・しやういやしむを(一〇四)はたして武矦ぶこうす。武矦ぶこうこれうたがうてしんぜず。呉起ごきつみるをおそれ、つひり、すなはく。
(魔女杓子にて鍋を掻き廻し、ファウスト、メフィストフェレス、獣等にほのおを弾き掛く。獣等おそれうめく。)
一匹の老いぼれた驢馬ろばを道ばたで見つけて、微笑してそれに打ち乗り、これこそは、「シオンの娘よ、おそるな、視よ、なんじの王は驢馬ろばの子に乗りて来り給う」
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
ほかの患者が向こうから来ると、彼は着物のへりの触れ合うのをおそれて、遠廻りにけて通った。『傍へ寄らんで呉れ、傍へ寄らんで呉れ!』と彼は叫んでいた。
生理学の教科書と『無門関』釈義とを、それぞればらばらにして、一枚ずつ入れまぜて製本したような「日本的科学」の出現に、一つの温床を与えるおそれがある。
発狂か自殺のおそれがあるというので、忙しいブラッチ夫人にとうぶんロイドを見張る用事が付加された。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その時にお松は、この場の悪くとらわれたような羞恥の心が、自分ながら驚くほど綺麗に拭い去られて、ずっと駒井の傍へ寄ることをおそれようとしませんでした。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敬愛けいあいする讀者どくしや諸君しよくんよ、わたくしいまこのおどろおそ海底戰鬪艇かいていせんとうてい構造こうざうについて、くわしき説明せつめいこゝろみたいのだが、それは櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ大秘密だいひみつぞくするから出來できぬ。
あるいは無理なる理屈を言いかけらるることあればただに驚くのみならず、その威力に震いおそれて、無理と知りながら大なる損亡を受け大なる恥辱をこうむることあり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……後に王者あり、げてこれを開き、春秋の義行なわるれば、則ち天下の乱臣賊子これをおそれん。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
吾ら純粋の羅布ロブ人はここの緑地オアシスに集まって吾らの唯一の守り本尊アラなる神を祠に祭りアラ大神の使者の燐光を纒った狛犬を神の権化とおそれ恭い、数千年住んで来た。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すなわち夏日水辺に遊ぶ者の彼らの害をおそるるごとく、山に入ってはまた山童を忌みはばかっていた結果かと思われるが、近世に入ってからその実例がようやく減少した。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)