あき)” の例文
「ああ、これて清々せいせいした。」と、お葉は酔醒よいざめの水を飲んだ。お清はあきれてその顔を眺めている処へ、のお杉ばばあの声が聞えたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と有りけるに座中の人々彌々いよ/\驚き偖は其方が野尻宿の近江屋のお專殿せんどのなるかして又持參の此文はとあきれ果てたるばかりなりおせんなほも座を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私はそれを引き受けたが、態々そういう事のために、連れ立って来る門人への親切さに、少々あきれて迢空を見直す気持を持ったのである。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
脇目もふらずに、一日仕事にばかり坐っている沈みがちなその女は、あきれたような顔をして、お島が少し落着きかけて来たとき、言出した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まだくせまないかと一はらたててもたりあきれもしたりしたが、しか何處どこといつて庇護かばつてくれるものがいのでうしてるのだと
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おぬひあきれて貴君は其樣の事正氣で仰しやりますか、平常つねはやさしい方と存じましたに、お作樣に頓死しろとは蔭ながらの嘘にしろあんまりでござります
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むれを造って出て来るとはあきれ返った大胆者! お武家様の敵でよしなくとも、抛棄うっちゃって置くことは出来ません。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまり叔父の考えにすりゃ、あたしは主婦と云うよりも、従兄の遊蕩をやめさせる道具に使われるだけなんですもの。ほんとうにあきれ返ってものも云われないわ。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
園は少し自分にあきれてまた黙ってしまった。そして気がついて、手にしていた茶碗を茶托ちゃたくに戻した。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
俺はどうもその出方が怪しいと思ったので、君らが出かけた後で、そっとその行李こうりを調べてみると、いつ持ちだしたものやら、何一つ残っていないではないか。それにはあきれたね。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
お蔦 (弥八が倒れるのを見て喝采し、茂兵衛が意気地なく坐るのを見てあきれる)
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
開いて見れば不思議にも文字もんじえてたゞの白紙ゆゑ這は如何せし事成かと千太郎は暫時しばしあきはて茫然ばうぜんとして居たりしが我と我が心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
加之しか先方むこうから真白昼まっぴるま押掛おしかけて来て、平気でおでおでをめるとは、図迂図迂ずうずうしい奴、忌々いまいましい奴と、市郎はあきれを通り越して、やや勃然むっとした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
半衿は十六のお庄には渋過ぎるくらいであったので、お浜は、最中もなかの折と一緒に取次ぎをしてくれたお庄の前に差し出してから、年を聞いてあきれていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
井荻看護婦は手押車につかまったままエレベーターの下降を、出し抜かれたあきれ返った眼をしながらも、ちょっと待ってと言ったが下降は迅速に行われた。
おぬひあきれて貴君あなた其樣そのやうこと正氣せうきおつしやりますか、平常つねはやさしいかたぞんじましたに、お作樣さくさま頓死とんししろとはかげながらのうそにしろあんまりでござります
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おせいはあきれるばかりだった。父がどうしてこんなになったのか、どう思ってみようもなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
黄色きいろじゆくするうめ小枝こえだくるしめて蚜蟲あぶらむし滅亡めつばうしてしまほど霖雨りんうあきれもしないでつゞく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
僕、あきれて先生を見れば、先生、向うをゆびさして曰、「あすこに不准怪声叫好ゆるさずかいせいこうとよぶことをと言う札が下っているでしょう。怪声はいかん。わたしのように『好!』と言うのは好いのです。」
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、内蔵助の叔父小山源五右衛門、従弟じゅうてい進藤源四郎など、義理にも抜けられない者どもまで、口実こうじつを設けて同行をがえんじなかったと聞いては、先着の同志もあきれて物が言えなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
よびやりけるに六右衞門は何事やらんと打驚怖おどろきすぐに其使ひとともに來て見ればあにはからん久八が主人に折檻せつかんうける有樣に暫時しばしあきれて言葉もなし五兵衞は皺枯聲しわかれごゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おぬひあきれて貴君あなたはその様の事正気で仰しやりますか、平常つねはやさしい方と存じましたに、お作様に頓死しろとはかげながらのうそにしろあんまりでござります
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「金魚屋さんたらあきれちゃって、此方をきょとんとした眼で見て、口を開けたまんま言葉も出ないふうね。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お庄は父親が、いつのまにあのお婆さんとそんな関係になったものかと、恥じもしあきれもして聞いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いずれもあきれて顔を見合せている処へ、この騒ぎを聞いて市郎も奥から出て来た。人々から委細の話を聴いて、彼も驚かずには居られなかった。お葉のそばへ進み寄って
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そしてあきれはてたという顔を母にしてみせた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
製本屋さんはあきれて返事も出来なかったであろうが、後年、このお母さんの祈りがかなえられ、堀辰雄の生涯の書物はどれも凝った美装の書物ばかりであった。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
葉子は半ばあきれた顔をしていたが、北山やお八重が羨望せんぼうの目で、どこに陰影一つないつくり立ての葉子の顔を見ていたので、庸三はなおさら虫が納まらなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まよひし邪正じやしやうがたし、鑑定かんてい一重ひとへ御眼鏡おめがねまかさんのみと、はじたるいろもなくべらるゝに、母君はゝぎみ一トたびあきれもしつおどろきもせしものゝ、くまで熱心ねんしんきはまりには
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その中にあきれた物言いにたいする茫然の気味までたたえて見せ、次には薄ら笑いがしょんぼりとのぼった。
女はあきれたような顔をして、火鉢の傍で小野田と差向いに坐っていたが、間もなく黙って帰って行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まへはまだないのかえ、と障子しようじそとからこゑをかけて、おくさまずつとたまへば、室内うちなるをとこ讀書どくしよつむりおどろかされて、おもひがけぬやうなあきがほをかしう、おくさまわらふてたまへり。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「誰が、あんなお爺さんに引っかかるものか。それに、来てみて、家の汚いのにあきれたでしょうよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あんなに悲しいことはなかつたと言つたが、見物人は話といふのはたつたそれだけかと、あきれ返つてばかばかしい話が話といふものの範圍にさへ入らないことを笑つた。
末野女 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
御新造ごしんぞおどきたるやうのあきがほして、れはまあなんことやら、なるほどおまへ伯父おぢさんの病氣びやうき、つゞいて借金しやくきんはなしもきゝましたが、いまいまわたしのうちから立換たてかへようとははなかつたはづ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「島、お前よく考えてごらんよ。みなさんの前でそんな御挨拶をして、それで済むと思っているのかい。義理としても、そうは言わせておかないよ。真実ほんとあきれたもんだね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何処までも定見のない自分にあきれていた、彼はこれらのありふれた壺に、ちょっとでも心が惹かれることは、行きずりの女の人に眼を惹かれる美しさによく似ている故をもって
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
八重やへさぞうちつけなとあきれもせんが一生いつしやうねがひぞよ此心このこゝろつたへてはたまはるまじやうれしき御返事おへんじきたしとは努々ゆめ/\おもはねどゆゑみじかきいのちぞともられててなば本望ほんもうぞかしとうちしほるれば
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お雪はその方を見ながら、あきれたように笑った。青柳は太いしなやかな手で、胸やわきのあたりを撫で廻しながら、起き上った。そして不思議そうに、じろじろとお増の顔を眺めた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さりとは愛敬あいきやうひとあきれしことありしが、たびかさなりてのすゑにはおのづか故意わざと意地惡いぢわるのやうにおもはれて、ひとにはもなきにれにばかりらき處爲しうちをみせ、ものへばろく返事へんじしたことなく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あてになるものか。』と女は鼻で笑つて、『お前さんの口前くちまへの巧いにもあきれるよ。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
忘れてか何とも仰せの無き心もとなさ、我れには身に迫りし大事と言ひにくきを我慢して斯くと申ける、御新造は驚きたるやうのあきれ顏して、夫れはまあ何の事やら、成ほどお前が伯父さんの病氣
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
浅井は廊下で見つかって古いなじみの婆さんに、あきれた顔をしてそこに突っ立たれた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
忘れてか何とも仰せの無き心もとなさ、我れには身に迫りし大事と言ひにくきを我慢してかくと申ける、御新造は驚きたるやうのあきれ顔して、それはまあ何の事やら、なるほどお前が伯父さんの病気
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
笹村はくさむらのなかにしゃがんで、あきれたように女の様子をながめていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手近の枝を引寄せて好惡よしあしかまはず申譯ばかりに折りて、投つけるやうにすたすたと行過ぎるを、さりとは愛敬の無き人とあきれし事も有しが、度かさなりての末には自ら故意わざとの意地惡のやうに思はれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
手近の枝を引寄せて好悪よしあしかまはず申訳ばかりに折りて、投つけるやうにすたすたと行過ぎるを、さりとは愛敬あいけうの無き人とあきれし事も有しが、度かさなりての末にはおのづか故意わざとの意地悪のやうに思はれて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と余念なく豆の葉の虫をとっている。助役はあきれ顔にて
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お作はあきれたような顔をした。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庸三はあきれもしなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)