うらみ)” の例文
それを、いま自分が、争議中の一切のうらみを水に流して、自ら貰い下げに行くことは、どれだけ彼らに大きな影響を与えることだろう。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
それは紛れもない多与里——曾てはお七のモテルになって、散々恋の遊戯をした相手の、多与里のうらみに燃ゆる顔ではありませんか。
まことに御尤ごもっともではございますが、あなたは萩原様におうらみがございましょうとも、私共わたくしども夫婦は萩原様のお蔭で斯うやっているので
いな、彼女は初恋の人に対する心と肉体との操を守りながら、初恋を蹂み躙られたうらみを、多くの男性に報いてゐたと云つてもよかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
平太郎は知行ちぎょう二百石の側役そばやくで、算筆さんぴつに達した老人であったが、平生へいぜいの行状から推して見ても、うらみを受けるような人物では決してなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ト月過ぎタ月すぎてもこのうらみ綿々めんめんろう/\として、筑紫琴つくしごと習う隣家となりがうたう唱歌も我に引きくらべて絶ゆる事なく悲しきを、コロリン
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「四ツの鼓は世の中に世の中に。恋という事も。うらみということも」——という謡曲の文句を思い出しながら私は気を押し鎮めた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
けれども僕は里子のことを思うと、うらみいかりも消えて、たゞ限りなき悲哀かなしみに沈み、この悲哀の底には愛と絶望が戦うて居るのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし藩の必ずこれを阻格そかくすべきことは、母子皆これを知っていた。つづめて言えば、弘前を去る成善には母をとするに似たうらみがあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし自分がそんな空怖しい役目を引受けて、何のうらみもない若旦那に無実の云い懸けをするなどとは、飛んでも無いことだと彼女かれは又思った。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
すゝがん物と思ふより庄兵衞に會ひ云々と申すに因て僥倖さいはひなれば只今よりして彼方へおもむあだを殺して身の明を立んと思へど我私しのうらみを以て他人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うらみ? 恨でも春恨しゅんこんとか云う、詩的のものならば格別、ただの恨では余り俗である。いろいろに考えた末、しまいにようやくこれだと気がついた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロミオ とらはれうと、死罪しざいにならうと、うらみはない、そもじのぞみとあれば。あの灰色はひいろあさいともはう、ありゃ嫦娥シンシヤひたひから照返てりかへ白光びゃくくわうぢゃ。
高く廻らした煉瓦塀も、人のうらみ遮断しゃだんするものであった。そのてっぺんには、硝子ガラスの破片が隙間なく植えつけてあった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
生は歌よみに向ひて何のうらみも持たぬに、かく罵詈がましき言を放たねばならぬやうに相成候心のほど御察被下おさっしくだされたく候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「それなら、もう一つたずねるが、トラ十以外の者で、誰かこのミマツ曲馬団に対してうらみを抱いていた者はないか」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
我このうらみを懐いて煩悶ついに死を決するに至る。既に巌頭に立つに及んで、胸中何等の不安あるなし。始めて知る、大なる悲観は大なる楽観に一致するを。
巌頭の感 (新字新仮名) / 藤村操(著)
そこで小僧は和尚のたくらみにうらみ骨髄に徹してゐたので、和尚のめぐらした不埒な魂胆を権十に洩らしたのである。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
微月うすづきに照されて竹の幹にそうて立っていた、可憐かれんな女のさまを浮べると、伯父に対するうらみも、心の苦痛も、皆消えてしまって、はては涙になってしまった。
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
うらみは長し人魂か何かしらず筋を引く光り物のお寺の山といふ小高き処より、折ふし飛べるを見し者ありと伝へぬ。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父母寵愛してほしいままそだてぬれば、おっとの家に行て心ず気随にて夫にうとまれ、又は舅のおしただしければ堪がたく思ひ舅をうらみそしり、なか悪敷あしく成て終には追出され恥をさらす。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
栄二 そんなうらみが言いたい位なら、わざわざ訪ねて来やしません。わたしが何かを言う以上に、今度の戦争じゃ貴女はひどい打撃を受けられた筈でしょう。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
誓つたけれども、この無残な死状しにざまを見ては、罪もうらみも皆消えた! 赦したぞ、宮! おれは心の底から赦したぞ!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の前に倒れているその男を見ると、別に憎くもなければ、うらみを持っているのでもないことが、始めて自覚された。それが不思議なことのように思われた。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ドリスがいかに巧みに機嫌を取ってくれても、歓楽の天地のしきいの外に立って、中に這入る事の出来ないうらみらすには足らない。詰まらない友達が羨ましい。
「お父さんはそんな、うらみを受ける様な事をしていたのかい。新聞には遺恨いこんの殺人らしいと出ていたが」
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人生うらみおほき四月の廿一日堺兄は幼児を病妻に托して巣鴨の獄におもむけり、而して余は自ら「火の柱」の印刷校正に当らざるべからず、是れに兄が余に出版を慫慂しようよう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うらみを受けているような事はないと存じます」こう云いながら、彼は側に立っていた青木を見つけて
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
八蔵は泰助にうらみあれば、その頭蓋骨は砕かれけん髪の毛に黒血かたまりつきて、頬より胸に鮮血なまちほとばしり眼を塞ぎ歯をしばり、二目とは見られぬ様にて、死しおれるにもかかわらず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
までく、弦月丸げんげつまる其時そのとき無限むげんうらみんで、印度洋インドやう海底かいてい沈沒ちんぼつせしめられたのである。
その女王のうらみが消えずに、今も火山の煙となって、燃え上っているのでは、ないだろうか。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
自己は自己である。愛した女だとて、自己のすべてを占領することは出来ない。それが出来ない為めに死んだとて、うらみひとに投げかけて死んだとて、それが誰の責任になるであらう。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
貴殿に対しては恩もうらみもなき身なれど、このお小夜殿おさよどのは恩儀ある我が師の娘御むすめごなり。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
都の人も見ぬをうらみに聞え侍るを、我が身をさなきより、人おほき所、あるは道の長手ながてをあゆみては、必ず二五五のぼりてくるしき病あれば、二五六従駕みともにえ出で立ち侍らぬぞいとうれたけれ。
こう気がついて見ると文三は幾分かうらみが晴れた。叔母がそう憎くはなくなった、イヤむしろ叔母に対して気の毒に成ッて来た。文三の今我こんが故吾こごでない、シカシお政の故吾も今我でない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
母親は男がとらえられ引き立てられて行くを見て、滝のように血の流るる中より、おのれはうらみいだかずに死ぬるなれば、孫四郎はゆるしたまわれという。これを聞きて心をうごかさぬ者はなかりき。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
... さればわれその厚意こころざしで、おつつけ彼の黒衣とやらんをうって、爾がためにうらみすすがん。心安く成仏じょうぶつせよ」「こは有難き御命おおせかな。かくては思ひ置くこともなし、くわが咽喉のどみたまへ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
〽鐘にうらみは数々ござる、初夜の鐘を撞く時は、諸行無常と響くなり……。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
唇の処へ持って行く時、ちょっとうらみをふくんだ眼をして、私を見ました。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「あなたは私を忘れましたか」と、修験者はうらみめたことばで云いました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『香玉はわが愛妻、絳雪はわが良友、卿そも院中第幾株、いづれの木立ぞと、く聞えよかし。わがのうちに抱へ移して、かの香玉の悪人に奪ひ去られて百年のうらみのこししわざはひ再びせさせじ』
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
けれどもこの人の、いまの静けさににくしみを返す人があろうか。この人のわたしをかばい通した永い年月を他所よそながら眺めてその人達もうらみをおさめて居るに相違あるまい。もういくたりのの父となって。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その手紙には非道く悲しい事も書かず、うらみがましい事も書かず、つい貴方のお心にわたしの心がよう分って、貴方が今一わたしを可哀く思って少しばかり泣いて下さるように書きたいと存じました。
亡国の歌は残つて玉樹空し 美人の罪は麗花と同じ 紅鵑こうけん血はそそ春城しゆんじようの雨 白蝶魂は寒し秋塚しゆうちようの風 死々生々ごう滅し難し 心々念々うらみ何ぞきわまらん 憐れむべし房総佳山水 すべて魔雲障霧の中に落つ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
人生じんせいうらみ、このやまい一大要素いちだいようそならずんばあらじ。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
と赤羽君は腕まくりをした。うらみ骨髄こつずいに徹している。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いまぞうらみの矢をはなつ声 荷兮
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
きせぬうらみに 泣くねは共々ともども
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
うらみを日本国に晴さん