小娘こむすめ)” の例文
わたくしやうやくほつとしたこころもちになつて、卷煙草まきたばこをつけながら、はじめものうまぶたをあげて、まへせきこしおろしてゐた小娘こむすめかほを一べつした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
近所きんじょいえの二かいまどから、光子みつこさんのこえこえていた。そのませた、小娘こむすめらしいこえは、春先はるさきまち空気くうきたかひびけてこえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と投出すやうに謂ツて湯呑ゆのみを取上げ、冷めた澁茶しぶちやをグイと飮む。途端とたん稽古けいこに來る小娘こむすめが二三人連立つれだツて格子を啓けて入ツて來た。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
折々をり/\には會計係くわいけいがゝり小娘こむすめの、かれあいしてゐたところのマアシヤは、せつかれ微笑びせうしてあたまでもでやうとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
菫色の薔薇ばらの花、こじけた小娘こむすめしとやかさが見える黄色きいろ薔薇ばらの花、おまへの眼はひとよりも大きい、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
わたくしおもってそう案内あんないいました。すると、としころ十五くらいえる、一人ひとり可愛かわいらしい小娘こむすめがそこへあらわれました。
小娘こむすめ挙動きょどう、だんだんと合点がてんがいかぬ。あるいは、野かせぎの土賊どぞくばらが、手先に使っている者かも知れぬ、も一ど、ひッとらえてただしてみろ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある春の日、山吹きのしんをぬいて、べにで染めて根がけにかけてきた小娘こむすめが交って、あたしのお座をとりまいていた。
誇顏ほこりがはひました、何故なぜといふに、自分じぶんぐらゐ年齡格好としかつかう小娘こむすめで、まつた其意味そのいみつてるのははなはまれだと實際じつさいあいちやんはおもつてゐましたから。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
とうとうしまいに、みんなは、台所で働いている、貧しい小娘こむすめに出会いました。ところが、娘はこう言いました。
事によるとまだ小娘こむすめであった私の母や、その友だち仲間なかまなどがそう言い始めたくらいがもとであるかもしれぬ。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おかみは行々ゆくゆく彼をかゝり子にする心算つもりであった。それから自身によく太々ふてぶてしい容子をした小娘こむすめのお銀を、おかみは実家近くの機屋はたやに年季奉公に入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
となり座敷ざしきでは二人の小娘こむすめが声をそろへて、嵯峨さがやおむろの花ざかり。長吉ちやうきちは首ばかり頷付うなづかせてもぢ/\してゐる。おいとが手紙を寄越よこしたのはいちとり前時分まへじぶんであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その翌早朝のこと、大鳥氏は、下ばたらきの小娘こむすめの、けたたましいさけび声に目をさましました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大毘古命おおひこのみことはおおせをかしこまって出て行きましたが、途中で、山城やましろ幣羅坂へらざかというところへさしかかりますと、その坂の上にこしぬのばかりを身につけた小娘こむすめが立っていて
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
人間ならとしをした梅干婆うめぼしばあさんが十五、六の小娘こむすめ嬌態しなを作って甘っ垂れるようなもんだから、小滛こいやらしくてり倒してやりたい処だが、猫だからそれほど妙にも見えないで
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私通した小娘こむすめの青い悪阻つわりの秘密と恐怖とにふりそそぐ雨。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「首領よりか副司令のあの小娘こむすめが恐ろしいのか」
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふと小娘こむすめの気に返る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かはいい小娘こむすめ
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
折々おりおりにわ会計係かいけいがかり小娘こむすめの、かれあいしていたところのマアシャは、このせつかれ微笑びしょうしてあたまでもでようとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
が、そのあひだ勿論もちろんあの小娘こむすめが、あたか卑俗ひぞく現實げんじつ人間にんげんにしたやうなおももちで、わたくしまへすわつてゐることえず意識いしきせずにはゐられなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『まあ見事みごと百合ゆりはな……。』わたくしおぼえずそうさけんで、巌間いわまからくびをさししていた半開はんかい姫百合ひめゆり手折たおり、小娘こむすめのように頭髪かみしたりしました。
「かあさん。」と小娘こむすめがその母親のところへ告げに行きました。「このほおずきを鳴るようにしてください。」
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まだ十いくつの幸福な小娘こむすめだったころに、こういう手毬歌にむちゅうになっていたことがあるのであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「お師匠ツしよさん、こんちは。」と甲高かんだか一本調子いつぽんてうしで、二人づれの小娘こむすめ騒々さう/″\しく稽古けいこにやつて来た。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
佐分利五郎次さぶりごろうじが、飛びかかるが早いか、ガラリとその笛を打ちおとすと、とたんに、右からも、走りよった足助主水正あすけもんどのしょう早業はやわざにかけられて、あわれ、野百合のゆりのような小娘こむすめ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十時過ぎ、右の食堂で家族打寄り、梅干茶うめぼしちゃわん枯露柿ころがき今日きょう此家ここで正月を迎えた者は、主人夫妻、養女、旧臘から逗留中とうりゅうちゅうの秋田の小娘こむすめ、毎日仕事に来る片眼のかみさん。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雨が降るぞや、川面かはづらに、羊の番の小娘こむすめよ……
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
すると小娘こむすめ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
厳格に——けれどもつうやは母のように年をとっていたわけでもなんでもない。やっと十五か十六になった、小さい泣黒子なきぼくろのある小娘こむすめである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われるままにわたくし小娘こむすめみちびかれて、御殿ごてんながなが廊下ろうか幾曲いくまがり、ずっとおくまれる案内あんないされました。
またわずかずつのしばまぐさまでささげていたが、親が教えるのは水汲みがしゅであったとみえて、八つ九つの小娘こむすめまでが、年に似合ったちいさな水桶みずおけをこしらえてもらって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
って、一頃ひところはよく彼女かのじょのところへあそびにかよって近所きんじょ小娘こむすめもある。光子みつこさんといって、幼稚園ようちえんへでもあがろうという年頃としごろ小娘こむすめのように、ひたいのところへかみりさげているだ。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
午前ひるまへ稽古けいこに来る小娘こむすめ達が帰つてのち午過ひるすぎには三時過ぎてからでなくては、学校帰りのむすめ達はやつて来ぬ。今が丁度ちやうど母親が一番手すきの時間である。風がなくて冬の日が往来わうらいの窓一面にさしてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
するともなくすさまじいおとをはためかせて、汽車きしや隧道トンネルへなだれこむと同時どうじに、小娘こむすめけようとした硝子戸ガラスどは、とうとうばたりとしたちた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)