可愛かわい)” の例文
いつでもねこ可愛かわいがりに愛されていて、身体こそ、六尺、十九貫もありましたが、ベビイ・フェイスの、だ、ほんとに子供でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ひげむしやの鳥居とりゐさまがくちから、ふた初手しよてから可愛かわいさがとおそるやうな御詞おことばをうかゞふのも、れい澤木さわぎさまが落人おちうど梅川うめがはあそばして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はじめて、白玉のごとき姿を顕す……一にん立女形たておやま、撫肩しなりとはぎをしめつつつまを取ったさまに、内端うちわ可愛かわいらしい足を運んで出た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知らぬ人も少なかろうがこの例を一つだけ挙げておこう。伊勢いせでは櫛田川くしだがわのほとりのある村で、可愛かわいい童子がの上にいるのを見て
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ちょうど女の歩きつきの形のままに脱いだ跡が可愛かわいらしく嬌態しなをしている。それを見ると私はたちまち何ともいえない嫉妬しっとを感じた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それでも宅中うちじゅうで一番私を可愛かわいがってくれたものは母だという強い親しみの心が、母に対する私の記憶のうちには、いつでもこもっている。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それだからこの息子は可愛かわいいよ」。片腹痛いことまで云ッてやがて下女が持込む岡持のふたを取ッて見るよりまた意地の汚いことをいう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかし、逸作達が批判的に見る世の子供達は一見可愛かわいらしい形態をした嫌味いやみあくどい、無教養な粗暴な、かもやり切れない存在だ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
久「おら此家こっちの旦那の身寄りだというので、みんなに大きに可愛かわいがられらア、このうち身上しんしょうは去年から金持になったから、おらも鼻が高い」
キーシュは、あるエスキモーの村で、どの雪小屋よりも一番みじめな雪小屋にお母さんと二人っきりで住んでいる可愛かわいらしい少年でした。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「あたしは、女の子が欲しいわ。どんなに可愛かわいいでしょうね。それに女の子だったら、きっと車庫の中もきれいにお掃除してくれるわ。」
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
それを聞いて、甚兵衛はひどく当惑とうわくしました。大事に可愛かわいがってる黒馬の腹を、悪魔の宿に貸そうなどとは、夢にも思わないことでした。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
まだ組合なんか無かった頃の、皆可愛かわいい子分達の中心に、大きく坐って、祝杯などを挙げた当時のことなどが、彼によみがえって来た。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
彼女の顔は、昨日より一層魅力みりょくが増して見えた。目鼻だちが何から何まで、実にほっそりとみがかれて、じつに聡明そうめいで実に可愛かわいらしかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「よし、もうお前を止めやしない。思う存分にするがよい。わしの可愛かわいい豹の敵討かたきうちだ。どうともお前の思うようにするがよい」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ルピック氏——(彼はにんじんを可愛かわいがっている。しかし、いっこう、かまいつけない。えず、商用のため、東奔西走とうほんせいそうしているからだ)
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
僕がからかうって! 僕は三か月のあいだもあんなに期待をもって僕を一心に見つめていた可愛かわいい弟を悲しませるようなことはしないよ。
主婦はそう言っておどおどしている女客の浅ぐろい顔を見たが、妙に浅ぐろいために何か可憐な可愛かわいげのある顔つきであった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
赤いほのおつつまれて、なげき叫んで手足をもだえ、落ちて参る五人、それからしまいにただ一人、まったいものは可愛かわいらしい天の子供こどもでございました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その美しい山吹が秋陽に半顔を照らしながらシクシク泣いているのであるから、ちょっと形容出来がたいほど可愛かわいらしく見えるのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
他にたくさん、私を可愛かわいがって下さる老人のお金持などあるような気がします。げんにこないだも、妙な縁談みたいなものがあったのです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そういながら、わたくしるべく先方むこうおどろかさないように、しずかにしずかにこしおろして、この可愛かわい少女しょうじょとさしむかいになりました。
目端めはしの利くところから、主人に可愛かわいがられ、十八までそこの奥向きの小間使として働き、やがて馬喰町ばくろちょうのある仕舞しもうた家に片着いたのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
信一郎の顔をじっと見詰めている夫人の高貴ノーブルおごそかに美しい面が、信一郎の心の内の静子のつつましい可愛かわいい面影を打ち消した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
岩と土とからなる非情の山に、憎いとか可愛かわいいとかいう人間の情をかけるのは、いささか変であるが、私は可愛くてならぬ山を一つもっている。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
「高木の家では、いい嫁さんを当てたものだ。気だてはよし、働きものだし、隠居いんきょさんも自慢の可愛かわいい嫁さんだからね。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
私は今彼らが噛み合っている気味の悪い噛み方や、今彼らが突っ張っている前肢の——それで人の胸を突っ張るときの可愛かわいい力やを思い出した。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
……僕は、めちゃめちゃに幸福だ! (足早に、ニーナを迎えに行く。彼女登場)さあ、可愛かわいい魔女が来た、僕の夢が……
そうすると後で叔父さんにむかって、源三はほんとに可愛かわいい児ですよ、わたしが血の道で口が不味まずくっておまんまが食べられないって云いましたらネ
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
避けるとするも行く先きの永い子供は可愛かわいそうだ一命に掛けても外国人の奴隷にさしたくないあるい耶蘇やそ宗の坊主にして
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
いよいよ夫婦が仲好なかよく暮すようにして、こんな手紙などてんで問題にならなかったと云う所を見せてやり、二人が同じようにリリーを可愛かわいがって
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
子家鴨こあひるはあのきれいな鳥達とりたちねたましくおもったのではありませんでしたけれども、自分じぶんもあんなに可愛かわいらしかったらなあとは、しきりにかんがえました。
女は私が三文文士であることを知っているので、男に可愛かわいく見えるにはどうすればよいかということを細々こまごまたずねた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「他の奴らは未だ残っております、可愛かわいそうに、若い奴らだから女を恋しがって、ね、それでも、俺のいう事を聞いて黙って働いていまさあ……。」
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
つまりわが子可愛かわいさからの事に違いあんめいから、そりゃそのうちどうにかなるよ、心配せんで着々実行にかかるさ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
茶色ちゃいろかみをかぶったようなおとこ人形にんぎょうで、それをかせばをつぶり、こせばぱっちりと可愛かわい見開みひらいた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはかたちちひさく、またこしげたかざものちひさく可愛かわいらしいので、多分たぶん王樣おうさま子供こどものおはかだらうと想像そう/″\されます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
けれども、こんな海苔巻のようなものが夏になると、あの透明とうめいはねをしたになるのかと想像すると、なんだか可愛かわいらしい気もしないことはありません。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「わしらがやうな勤めの身で、可愛かわいと思ふ人もなし、思うてれるお客もまた、広い世界にないものぢやわいな」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
はるうつくしいはなくのがたく、なつあついときにすゞしい木蔭こかげしい以上いじようは、にはでも、まちのなみでも、おなじように可愛かわいがつてやらねばなりません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「残念だなあ。可愛かわいい顔をしている下士官だ。あんな少年を見殺にするのは、敵ながら可哀そうな気がするね。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
独身のせいか、同じ二十五でも、真弓は肌こそ荒れていたがずっと子供っぽく若々しく、気持ちも可愛かわいらしい。もう、その差はきっと縮まらないのだろう。
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
うと、それをしたらしました。王子おうじのぼってたが、うえには可愛かわいいラプンツェルのかわりに、魔女まじょが、意地いじのわるい、こわらしいで、にらんでました。
その子供らしい熱心さが、一党の中でも通人の名の高い十内には、可笑おかしいと同時に、可愛かわいかったのであろう。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
隅の方の椅子に腰をおろして、紅茶と菓子を註文すると、十六七の可愛かわいらしい娘が註文の品々を運んで来た。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あの可愛かわいらしい兎や鳩や、その他の動物を殺すことを少しも可哀想だとは思わなかった。それは人間の征服性の興味が、慈悲心を超越しているからであろう。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
スターベア大総督の一人娘で、大総督は、トマト姫を目の中に入れても痛くないほど、可愛かわいがっていられる。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふだん姉を可愛かわいがって、荒い言葉一つかけたこともない父が、人前もなくこんなにもののしりつけているのは、姉の死をいたむ父の痛恨の一種だったかも知れません。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして可愛かわいい初孫の顔を見た瞬間に、勃然ぼつぜんとして心の底に人間の弱さをおぼえた風間老看守の心境も、なんだか、わかるような気がしきりにし始めるのだった。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
その蝶々をなぜ殺したの? 毛虫を殺すのは蝶々を殺すのと同じことでしょ?……御覧ごらん! 可哀かわいそうに……今は毛むぐじゃらで、あんまり可愛かわいらしくないけど
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)