つるぎ)” の例文
旧字:
入道鰐にゅうどうわに黒鮫くろざめの襲いまする節は、御訓練の黒潮、赤潮騎士、御手のつるぎでのうては御退けになりまする次第には参らぬのでありまして。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
針といっても、長さ一間、はば一尺もある鋼鉄製のつるぎだ。その楔型くさびがたの鋭くなった一端が、彼の頸の肉にジリジリと喰い入っているのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それ以来そのところを焼津やいずと呼びました。それから、みことが草をお切りはらいになった御剣みつるぎ草薙くさなぎつるぎと申しあげるようになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
雨は少し小やみになって、チラとほころびた乱雲の隙間から、カーッと空の明るみがし、一瞬、目ざましいつるぎの舞を描いてみせた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔よけのつるぎをふるっている鍾馗しょうきまでが、どうも山の人ではなくて、唐国からくにあたりから船で海を渡ってきた目の大きな人のように見えます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天子てんしさまはたいそう頼政よりまさ手柄てがらをおほめになって、獅子王ししおうというりっぱなつるぎに、おうわぎ一重ひとかさえて、頼政よりまさにおやりになりました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「……清き心のますらおが、つるぎと筆とをとり持ちて、一たびたたば何事か、人生の偉業成らざらん、ぷうぷう、豆腐イ、ぷうぷう」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかしドン・ジユアンは冷然と、舟中しうちうつるぎをついた儘、にほひい葉巻へ火をつけた。さうして眉一つ動かさずに、大勢おほぜいの霊を眺めやつた。
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
バクチの方では干将莫耶かんしょうばくやつるぎでござんしてな、この賽粒の表に運否天賦うんぷてんぷという神様が乗移り、その運否天賦の呼吸で黒白こくびゃく端的たんてきが現われる
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
聞け! とらうそぶいて、谷これにこたえている。秋の曲を奏すれば、物さびしき夜に、つるぎのごとき鋭い月は、霜のおく草葉に輝いている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
忽然巨大な一振りのつるぎが雲の中から現われ出たが、まず継母の首を斬り、次いで壺皇子をつかへ乗せ、どことも知れずけ去ったのである。
そうして、反絵の動かぬ一つの眼には、彼女の乳房ちぶさの高まりが、反耶の銅のつるぎに戯れるはとの頭のように微動するのが映っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
梅「いかぬたってお前さん怖いじゃア無いか、此処はつるぎの中に這入って居るような心持がして、眞達の親父と云う事が知れては」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つるぎを鎌に打ち直すといったようなことにあるとすれば、そも/\この目的の到達を妨げるのはなんでしょう? 情欲なのです。
しかもそれをもって一途いちずに他殺の証拠と認め難いのは、ここらの池や川は氷が厚いので、それが自然に裂けてつるぎのように尖っている所もある。
鴛鴦鏡 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
草薙くさなぎつるぎ景行天皇けいこうてんのう御時おんとき東夷とうい多くそむきて国々騒がしかりければ、天皇、日本武尊やまとたけるのみことつかわして之を討たしめ給う。みこと駿河するがの国に到りし時……
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御城の北一里にあるつるぎみね天頂てっぺんまで登って、其所の辻堂つじどう夜明よあかしをして、日の出を拝んで帰ってくる習慣であったそうだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは何で拵えてあるかといえば、麦焦むぎこがしをバタと水とでね固めてその上を植物の赤い汁で染めてある。その形は立法三角でつるぎの形に似て居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「汝らもし我らいかに彼を攻めんかと言い、また事の根われにありと言わばつるぎおそれよ、忿怒いかりは剣の罰をきたらす、かく汝ら遂に審判さばきのあるを知らん」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「なぜお前はこやつを庇うんか? かやつのつるぎはどこにある? あやつのいまいましい騎兵のつるぎはどこだッ。——」
跡は降ッた、つるぎの雨が。草はもらッた、赤絵具を。さみしそうに生まれ出る新月の影。くやしそうに吹く野の夕風。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
起きよ、我儕われら往くべし。我をわたすもの近づきたり、此如かくいへるとき十二の一人ひとりたるユダつるぎと棒とを持ちたる多くの人人とともに祭司のをさと民の長老としよりもとより来る。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
仕止師マタドールは右手に細身ほそみつるぎ、左手に赤布ムレエータを拡げ、牛の前に突っ立ち、やっ! とばかしに襟筋に剣を突っ立てたがなかなか「突っ通し」というわけにはゆかない。
たった今のつるぎの光を見たわけですが、太夫さん程の腕がありゃ、どんな夜道も安心だとはいうものの、そのしおらしい女形おやま姿を、夜更けの一人歩きは考えもの。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
人々は皆独帝のつるぎが、他を指すことを心ひそかに祈っていた。ただベルギー人の中でゼラール中尉一人だけは、独軍の国境突破の報を今か今かと待ち受けていた。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この落ちつきがなければ、男子はどんな仕事もやりおおせる事が出来ない。伊藤博文だって、ただの才子じゃないのですよ。いくたびもつるぎの下をくぐって来ている。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
みんなは、に、武器ぶきっていました。それは、竹槍たけやりや、たまたま海岸かいがんげられた難破船なんぱせんいている、鉄片てっぺんつくられたつるぎのようなものでありました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
次にはつるぎを持って来て斬り合いましたが、打ち合うたんびに剣が折れて斬り合うことが出来ません。
「冗談でしょう、親分、あんな白粉焼おしろいやけのした、お使い姫のようなんじゃねえ。その上胸へ一丁、ギラギラするつるぎを突き立てられていると聴いたらどんなもので、親分」
槍、つるぎ、合わしたならば二十本にも余る白刄の林の中へ、恐るる色もなくぱッとおどりおりました。
美しくゆひ上げたるこがね色の髪と、まばゆきまで白きえりとをあらわして、車の扉開きしつるぎびたる殿守とのもりをかへりみもせで入りし跡にて、その乗りたりし車はまだ動かず
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
頭おのおの一槽に入れて呑み酔うてねぶりけるを、尊はかせる十握とつかつるぎをぬきて寸々ずたずたに切りつ。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
Unhappy Far-off Things も戦争中の作で、しんみりした静かな筆で「ウエレランのつるぎ」と同じような優しい書きふりである、あまり面白い物ではない。
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
が、よく調べると、独鈷ではなくて、つるぎの柄であろうという川崎先生の鑑定でありました。
王子はめんどうくさくなったのでつるぎをぬいていきなり小藪こやぶをばらんと切ってしまいました。
草薙くさなぎつるぎは能く見ゆる野火を薙ぎ尽したりといへども、見えざる銃鎗は、よもや薙ぎ尽せまじ。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そうして夫や弟が敵を尋ねる艱難を思えば、雪は愚かつるぎの上にも寝るのが女房の役というふうに考えているのである。しかし我々はこのような動機づけを是認することはできぬ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
唯乳母が居て、地獄、極楽、つるぎの山、三途さんずの川、さい河原かわらや地蔵様の話を始終聞かしてくれた。よつ五歳いつつの彼は身にしみて其話を聞いた。而して子供心にやるせない悲哀かなしみを感じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なんじらがつるぎえたり汝ら剣に食をあたえよ、人の膏血あぶらはよき食なり汝ら剣にあくまで喰わせよ、あくまで人の膏膩あぶらえと、号令きびしく発するや否、猛風一陣どっと起って
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯乳母が居て、地獄、極楽、つるぎの山、三途の川、賽の河原や地蔵様の話を始終聞かしてくれた。四五歳よついつつの彼は身にしみてその話を聞いた。そうして子供心にやるせない悲哀かなしみを感じた。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
つるぎいけのほうに出て、それから藁塚わらづかのあちこちにうずたかく積まれている苅田のなかを、香具山かぐやま耳成山みみなしやまをたえず目にしながら歩いているうちに、いつか飛鳥川のまえに出てしまいました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かかる世にうまれて弓矢とらんには、一八棠谿たうけい墨陽ぼくやうつるぎ一九さてはありたきもの財宝たからなり。されどよきつるぎなりとて千人のあたにはむかふべからず。金の徳はあめが下の人をも従へつべし。
あわれなペー! あわれなスイ・ホン! 現世でのふたりの思いは、めぐりあいました。しかしわたしの冷たい光は、大天使のつるぎのように、このふたりのあいだに横たわっていました!
地獄の沿道には三途さんずの川、つるぎの山、死出しでの山、おいさか賽河原さいのかわらなどがあり、地獄には叫喚きょうかん地獄、難産地獄、無間むげん地獄、妄語地獄、殺生せっしょう地獄、八万はちまん地獄、お糸地獄、清七地獄等々があって
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
石のつるぎの大嶺が、半円形にえぐられて、蜿蜒えんえんとして我が日本南アルプスの大王、北岳きただけに肉迫している、その北岳は、大岩塊が三個ばかりくッついて、その中の二塊は、楕円形をしているが
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
いろんなものを思い出すんだけど! だって『軽騎兵はつるぎりつ』なんか、歌うわけにゃいかないからねえ! ああそうだ、フランス語で『Cinq sousサン スウ』をうたおうよ! ほら
意外にも敵のおのれよりわかく、己より美く、己より可憐しをらしく、己よりたつときを見たるねたさ、憎さは、唯この者有りて可怜いとしさ故に、ひとなさけも誠も彼は打忘るるよとあはれ、一念の力をつるぎとも成して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「かくて彼は、友の一人が差し伸べしつるぎに、われとわが身をつらぬいて死せり」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
と、女はつるぎのような瞳を輝かした。その耳には凱歌の声がひゞいて居た。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
門の外にはいかめしく武装した清盛きよもりの兵士らがわしの車をようして待っていた。彼らのある者はつるぎやりをこわれるほどたたいて早く早くとうながしていた。妻はまっさおな顔をしてふるえていた。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)