いず)” の例文
甚だしき遊蕩ゆうとうの沙汰は聞かれざれども、とかく物事の美大を悦び、衣服を美にし、器什きじゅうを飾り、いずるに車馬あり、るに美宅あり。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼女の若き日のあこがれは、未来の外交官たる直也なおやの妻として、遠く海外の社交界に、日本婦人の華として、咲きいずることではなかったか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その斬っていずるや、児戯じぎをあしらう如く脚下にねじ伏せ、懇々、これをこらして放したというような話すらのこっているほどである。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
掘ざれば家の用路を塞ぎ人家をうずめて人のいずべき処もなく、力強家ちからつよきも幾万きんの雪の重量おもさ推砕おしくだかれんをおそるゝゆゑ、家として雪を掘ざるはなし。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかして英雄のいずるは概ね国家擾乱の際、数百載の下にたちて之を想見す。目眩し胸轟く英雄の人物あにそれ知り易しとせんや。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
かつて将来の事を語らんと欲したるも、然れども夫れは実に大なる予が迷いたるの事たるを悟れり。戦地にいずるは、此れ死地に勇進するなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
一群の星は前述のリーラ星座より発して四方に展開しつつあるがごとく、他の一群は北天カメロパルダリス星座の辺よりいずるようである。
宇宙の二大星流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
留守居になってからの貞固は、毎朝まいちょう日のいずると共に起きた。そして先ずうまやを見廻った。そこには愛馬浜風はまかぜつないであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かえって心配の種子たねにて我をも其等それらうきたる人々と同じようおぼいずらんかとあんそうろうてはに/\頼み薄く口惜くちおしゅう覚えて、あわれ歳月としつきの早くたてかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「これは異なこと! 親子の縁は切れてるはずでしょう。イヤお持帰りになりませんならそれで可う御座います、右の次第を届けいずるばかりですから」
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
雪を払ひてにじり入り、まづ慇懃いんぎんに前足をつかへ、「昨日よりの大雪に、外面そともいずる事もならず、洞にのみ籠り給ひて、さぞかし徒然つれづれにおはしつらん」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
れど目科は妻ある身に不似合なる不規則千万せんばんの身持にて或時は朝なお暗き内に家をいずるかと思えば或時は夜通し帰りきたらず又人の皆寝鎮ねしずまりたるのちいたり細君を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その西の山際に海地獄とて池あり。熱湯なり。広さ二段ばかり。上の池より湧きいず。上の池広さ方六間許けんばかり。そのへん岩の色赤し。岩の間よりわきず。見る者恐る。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かくて、吾等われら二人は、過来すぎこかたをふりかへる旅人か。また暮れく今日の一日ひとひを思ひ返して、燃えいずる同じ心の祈祷きとうと共に、その手、その声、その魂を結びあはしつ。
乃公だいこう一度びいずれば手に唾して栄職につく事が出来ると考える。そして何分にも長い学生生活に倦きているから、社会に出て働くと云う事に無限の興味と期待を持っている。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それほどの浅い夜を、昼から引っ越して来たかすみが立てめる。行く人も来る人も何となく要領を得ぬ。逃ればもやのなか、いずれば月の世界である。小野さんは夢のようにを移して来た。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
波も静かでねぶりすりすり、簑鞘みのさやはずす。空のすんばり、荒崎沖よ。明星あけぼしいずれば船足ふなあし遅い。遅い船足たのしり沖よ。これでなるまい、かじをかきかきおとじをはずす。おとじはずせば法木の前よ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いずべくとして出ずなりぬ梅の宿
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
土地の売買勝手次第又各国巡回中、待遇の最もこまやかなるは和蘭オランダの右にいずるものはない。是れは三百年来特別の関係でうなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
武蔵は、いずる植物の本能のように、体のうちから外へ向ってあらわれようとしてまないものに、卒然そつぜんと、筋肉がうずいてくるのを覚えた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二匹は思はず左右に分れ、落ちたるものをきっと見れば、今しも二匹がうわさしたる、かの阿駒なりけるが。なにとかしたりけん、口より血おびただしく流れいずるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
此際は寛はよもぎわらびを採るに野にいずるも、亦他の人も蒔付に出るも、小虫は一昨年に比すればなかばを※じたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
珠運思い切ってお辰の手を取り一間ひとまうちに入り何事をか長らく語らいけん、いずる時女の耳のあかかりし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生計の事ではその進は莫大ばくだいな収入がある身となっているし、老人の質素な生活は恩給だけでも有り余るほどなので、互に家事向の話のいずべき所がないわけであった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帰舟かえりは客なかりき。醍醐だいごの入江の口をいずる時彦岳嵐ひこだけあらしみ、かえりみれば大白たいはくの光さざなみくだけ、こなたには大入島おおにゅうじまの火影はやきらめきそめぬ。静かに櫓こぐ翁の影黒く水に映れり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
先年里人さとびと妻その夫といさかいておおいにいかりしがこの熱湯に身をなげけるに、やがて身はただれさけて、その髪ばかりうかいず。豊後風土記いわく速見はやみ赤湯泉せきとうせん。この温泉も穴郡あなごうりの西北竈門山かまどもんやまあり
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
やがて其広き庭より廊下へ進み入り曲り曲りて但有とあ小室しょうしつの前にいずればうちには二三の残りいん卓子てえぶるを囲みて雑話せるを見る、余は小声にて目科を控え「今時分藻西太郎に逢う事が出来ようか」と問う
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
たとえば、敵、万人かかり来るとも、一箇のわが身辺へ近づける者は、せいぜい前後を囲んでも八人をいずることはない。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下士はよき役をつとめかねて家族の多勢たぜいなる家に非ざれば、婢僕ひぼくを使わず。昼間ひるまは町にでて物を買う者少なけれども、夜は男女のべつなく町にいずるを常とす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
全体小癪こしゃく旅烏たびがらすと振りあぐるこぶし。アレと走りいずるお辰、吉兵衛も共にとめながら、七蔵、七蔵、さてもそなたは智慧ちえの無い男、無理にうらずとも相談のつきそうな者を。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此際は殊に小虫多く、眼口鼻に入る為めに、畑にいずるにはいずれも覆面して時々逃げて小屋内にて休息す。便処べんじょにても時々「タイマツ」の様なるものを携うる事とせり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
しかしひらめいずる美しいほのおはなくて、真青まっさおけむりばかりが悩みがちに湧出わきいだし、地湿じしめりの強い匂いをみなぎらせて、小暗おぐらい森の梢高こずえだかく、からみつくように、うねりながら昇って行く。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
洋燈らんぷつけて戸外そといずれば寒さ骨にむばかり、冬の夜寒むに櫓こぐをつらしとも思わぬ身ながらあわだつを覚えき。山黒く海暗し。火影ほかげ及ぶかぎりは雪片せっぺんきらめきてつるが見ゆ。地は堅く氷れり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すべて中津の士族は他国にいずること少なく他藩人にまじわることまれなるを以て、藩外の事情を知るの便なし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夜陰やいんに主人の寝息を伺って、いつ脅迫暗殺の白刄はくじんが畳をつらぬいてひらめいずるか計られぬと云うような暗澹あんたん極まる疑念が、何処どことなしに時代の空気の中に漂って居た頃で、私のうちでは、父とも母とも
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
「守るも死、いずるも死」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第六、上士族は大抵たいてい婢僕ひぼくを使用す。たといこれなきも、主人は勿論もちろん、子弟たりとも、みずから町にゆきて物を買う者なし。町の銭湯せんとうる者なし。戸外にいずればはかまけて双刀をたいす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夏は去って蝉は死し、秋は尽きて虫の声も絶え、そしてたちま落葉らくようの冬が来た。わたくしは初めて心を留めて枇杷の枝に色なき花のさきいずるのを眺め、そして再びその実の熟する来年のことを予想した。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがていずるや秋の夜の
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れば瘠我慢の一主義はもとより人の私情にいずることにして、冷淡れいたんなる数理より論ずるときはほとんど児戯じぎに等しといわるるも弁解べんかいなきがごとくなれども、世界古今の実際において
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
霜枯れしくさむらにそもこの花のひらめきいず
いずる東国!
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
即ち居家きょかの道徳なれども、人間生々せいせいの約束は一家族にとどまらず、子々孫々次第に繁殖すれば、その起源は一対の夫婦にいずるといえども、幾百千年をるの間には遂に一国一社会を成すに至るべし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
暴飲の海に帆を揚げていず
いずるも
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)