何故なぜ)” の例文
大学を辞して朝日新聞に這入はいったらう人が皆驚いた顔をして居る。中には何故なぜだと聞くものがある。大決断だとめるものがある。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし何故なぜ面白いのか。何故かう心を惹くのか。さう思つて考へて見ても、うしてもその理由がわからないやうな場合がよくある。
黒猫 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
何故なぜと云えばお君さんは、その女髪結の二階に間借をして、カッフェへ勤めている間のほかは、始終そこに起臥おきふししているからである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
長崎県五島の故郷へ出すおんなの手紙を代筆してやりながら、何故なぜこんな所へ来た? 親のため、そやけどこんな所とは思わなかったわ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
ひとり苦笑くせうする。のうちに、何故なぜか、バスケツトをけて、なべして、まどらしてたくてならない。ゆびさきがむづがゆい。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何故なぜとはなく暫しはそのままで兩人は向き合つて立つてゐた。私の胸は澄んだやうでも早や何處やらに大きな蜿蜓うねりがうち始めて居る。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
帽子屋ばうしやはこれをいていちじるしくみはりました、が、つたことは、『何故なぜ嘴太鴉はしぶとがらす手習机てならひづくゑてるか?』と、たゞこれだけでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
何故なぜ先生は愛妻愛子愛女の心尽しの介抱かいほうの中に、其一片と雖も先生を吾有わがものと主張し要求し得ぬものはない切っても切れぬ周囲の中に
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それだのに、人口僅か十六人のB島を別にすれば、此処ここほど寂しい島は無い。何故なぜだろう? 理由は、ただ一つ。子供がいないからだ。
のみならず、犬は人と交って最も長いものだ。これは非常に面白い興味ある題目である。何故なぜ狸や虎が家畜とはならなかったろう。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
御主おんあるじ耶蘇様イエスさま百合ゆりのやうにおしろかつたが、御血おんちいろ真紅しんくである。はて、何故なぜだらう。わからない。きつとなにかの巻物まきものいてあるはずだ。
幼年時代厳島にもうで、家臣が「君を中国の主になさしめ給え」と祈ったというのを笑って「何故なぜ、日本の主にならせ給えとは祈らぬぞ」
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
し犯人が歩き続けたとすれば、必ず足跡が残っていなければならぬ。では何故なぜ消えたのか。犯人は足で歩くことをやめたからだ。
何故なぜと言ッて見給え、局員四十有余名と言やア大層のようだけれども、みんな腰の曲ッた老爺じいさんあらざれば気のかないやつばかりだろう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何故なぜ、こんなにまでして通学せねばならないのか。このような毎日をつづける意味は、要するに「大学出」になることでしかない。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
何故なぜ、今日中流以上の日本人の子供たちがパパ、ママと呼ぶことを厳禁し処罰しないのでしょう——と、さえわたしは思うのです。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
何故なぜ窓の前に置かないのだと、友達がこの部屋の主人に問うたら、窓掛を引けば日が這入らない、引かなければぶしいと云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何故なぜまたこんな悪い陽気だのにあの方はいらっしゃるのかしら? あそこまでいらっしたら、こちらへもお見えになるかも知れないが
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
…………晃兄さんも習字があの様に善く出来て、漠文の御本も善く読める癖に、何故なぜ真面目まじめに成つて夷人ゐじんさんのことばが習へないのかなあ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
何故なぜと云つて自分は直接日本を改革しやうと云ふ目的を以て論じたのでもなければ又自ら立つて改革しやうと云ふ程の勇氣もない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
何故なぜでしょう。僕は今でも不思議に思って居るのです。何故父の問うたことが僕の身の上のことと自分で信ずるに至ったでしょう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何故なぜだといいますと(その女学校はこの節はだいぶよく揃ったそうでありますが、このあいだまでは不整頓の女学校でありました)
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「しかし君は、そうした犯人に関する意見を、何故なぜに司法主任の馬酔あせび君に話さなかったのですか。その方が正当の順序じゃないですか」
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
又「これは至極妙策、成程い策だが、ポッポと火をいたら、又巡行の査官さかんに認められ、何故なぜ火を焚くと云ってとがめられやしないか」
お登和さん、ホントに今だして下すった松茸は良い品物ばかりですね。何故なぜ良い品ばかり揃えて直段ねだんを高くしてうらないでしょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「君は何故なぜ、最後の一歩というところで追求をゆるめたのだ?」と熊城はさっそくになじり掛ったが、意外にも、法水は爆笑を上げて
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ほどならば何故なぜかれ蜀黍もろこしることをあへてしたのであつたらうか。かれれまでもはたけものつたのは一や二ではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何故なぜかともうすに、いわうえから見渡みわたす一たい景色けしきが、どうても昔馴染むかしなじみ三浦みうら西海岸にしかいがん何所どこやら似通にかよってるのでございますから……。
ごぼうはワアワアと 机にもたれて一時間以上も泣きました。何故なぜといつて、手紙に書いてあつた事は 全くほんとの事だつたからです。
ゴボウ君と大根君 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
……あ! 何故なぜ仰言おっしゃつたの? だつて、いち番手近かなモデルぢやありませんこと? それに私は自分のからだが憎らしかつたのです。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
(前略)不運は何故なぜかくまで執拗しつえうに余に附纏つきまとふことに候や。今春は複々また/\損失、××銀行破産の為め少しばかりの預金をおぢやんに致し候。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
許宣はこんな大きな家に住んでいた人が何故なぜわからなかったろうと思って不審した。彼はそのまま小婢にいてそこの門をくぐった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俺たちが何故なぜ死んじまわないんだろうと不思議に思うだろうな、穴倉の中で蛆虫うじむし見たいに生きているのは詰らないと思うだろう。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
何故なぜお前のいた糸のが丁度石瓦いしかわらの中にめられていた花のように、意識の底に隠れている心の世界を掻き乱してくれたのか。
本郷のごみごみした所からこの辺に来ると、何故なぜか落ちついた気がしてくる。一二年前の五月頃、漱石そうせきの墓にお参りした事もあった……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
何処かしっとりしたうるおいに欠けてい、道行く人の顔つき一つでも変に冷たく白ッちゃけているように見えるのは何故なぜであろうか。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これらの雑誌が何故なぜ困るかというと、それは余り眼新しい珍らしい科学上の知識の集成に走っていて、これでは無垢むくな読者に
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あの明るいにぎやかなところはいったいどこのあたりにあるのだろう。そうして、それがおれには何故なぜ見ることをゆるされないのであろうか。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私が何故なぜ別れるやうになつたのでせうと云ひましたら、赤坊あかんぼうの死んだのが悪かつたのだとあなたは云つておいでになりました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
何故なぜ?………おれだツて其樣そんなに非人情ひにんじやうに出來てゐる人間ぢやないぞ。偶時たまにはさいの機嫌を取ツて置く必要もある位のことは知ツてゐる。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何故なぜか僕たちは、その一度だけで、まるで痛いものを避けるが如くに旗に関する一言ずつの会話も取り交さなかったのである。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
長城を築く——毛人らが何故なぜそれを恐れるかというと、かれらはその昔、しん始皇帝しこうていが万里の長城を築いたときに駆り出された役夫えきふである。
や、巡査じゅんさ徐々そろそろまどそばとおってった、あやしいぞ、やや、またたれ二人ふたりうちまえ立留たちとどまっている、何故なぜだまっているのだろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何故なぜこんなに苦しめられねばならないか? その後何年つたか、わざと云はない——今になつて、私は、そのわけが、はつきり判つて來た。
国香は既に老衰して居た事だらう、何故なぜといへば、国香の弟の弟の第二子若くは第三子の将門が既に三十三歳なのであるから。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「折角来た父ちやんは誰れにも歓迎されずに、また一人で帰つて行つてしまふ。何故なぜ母ちやんは父ちやんと坊と一緒に帰らないのだらう?」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
何故なぜというに、現代詩人のうちには随分敬虔けいけんなような、自家の宗教を持っているらしい人があるのですからね。リルケなんぞもその方ですよ。
何故なぜと云うに他人の夢中になって汚ない事を話して居るのをく注意してきいて心にめて置くから、何でも分らぬことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それにしても、わしは何故なぜこんな野原の真中で、こんなことをしてゐるのだらう。良寛さんは、雲を見てちよつと考へたが、解らなかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
こっちからきもしないのに何故なぜこんな内幕咄うちまくばなしをするのか解らなかったが、一と月ばかり経って公然入社の交渉を受けた時初めて思い当った。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)