うつ)” の例文
苦笑しながら逸作はそう言ったが、わたくしが近頃、歌も詠めずにうつしているのを知ってるものだから、かばってついて来てれた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「いや、許田の御猟は、近来のご盛事じゃったな。臣下のわれわれも、久しぶり山野にうつを散じて、まことに、愉快な日であった」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第二種(疾病編)疫、痘、ぎゃく、卒中、失神、癲癇てんかん、諸狂(そう性狂、うつ性狂、妄想狂、時発狂、ヒステリー狂等)、髪切り病、恙虫つつがむし
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
左はやなぎ稚松わかまつと雑木の緑とうつした青とで野趣やしゅそのままであるが、遊園地側の白い道路は直立した細い赤松の並木が続いて、一
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
其壁そのかべして、桑樹くはのき老木らうぼくしげり、かべまがつたかどには幾百年いくひやくねんつか、うつとして日影ひかげさへぎつて樫樹かしのき盤居わだかまつてます。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それゆえに、結局けっきょくへとへとになって、揚句あげく酒場さかば泥酔でいすいし、わずかにうつらしたのです。かれは、芸術げいじゅつ商品しょうひん堕落だらくさしたやからをもいきどおりました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとその話がきまった頃から、妙に私は気がうつして、自分ながら不思議に思うほど、何をするにも昔のような元気がなくなってしまいました。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下に二神あり、一をうつ、一をるいと名づく、並びに葦のさくを執って不祥のを伺い、得ればすなわちこれを殺すと。
二人は土手を上つて行つて黒麦酒ビールを飲んだ。酔つて幾らかうつを散じてまた二人は川原の方に下りて行つた。川原には川柳の一めんに生えてゐるところがある。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
時雄はしきりに酒をあおった。酒でなければこのうつを遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
異郷へうつを慰めに来た身が、またしても苦しい思いをして、彼れはせめてゆかりのある言葉を聞こうと、おしかさんのなまりとおなじことばで語る京都へいって
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さらぬだに、魔の行燈と、怨霊の灯と、蚊帳の色に、うつし沈んだ真三の顔を、ふと窺いつつ
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落し差しのていとなって、深夜のそぞろ歩きに、天井裏のうつを慰めに出たのかも知れない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もと播州ばんしうむろの津にいたりけり當所は繁華はんくわみなとにて名に聞えたるむろ早咲町はやざきまちなど遊女町いうぢよまちのきつらねて在ければ吾助は例の好色かうしよく者と言ひ懷中には二百兩の金もあり先此處にてつかれを慰めうつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
来る日も来る日も念仏を唱えながらうつうつとして過しているところであった。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
春の今頃の時節の、日曜日の昼下りというのは、へんにむしむしして、気分がうつするものですねえ。赤木医師も毎年今頃の気候が、一番体や頭に悪いと、いつか問わず語りに話していました。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
他の事にまぎらして暫しうつを忘れるというのが、東洋思想の「慰め」である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
落語らくご濫觴らんしやうは、昔時むかし狂歌師きやうかし狂歌きやうかひらきときに、たがひに手をつかねてツクネンと考込かんがへこんでつてはくつします、そこ其合間そのあひまに世の中の雑談ざつだんたがひに語りうて、一うつつたのが濫觴はじまりでござります。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しな毎日まいにちつておもて雨戸あまどを一まいだけけさせた。からりとしたあをそらえて自分じぶん蒲團ふとんちかくまでつた。おしなれまではあかるいそとようとおもふにはあまりにこゝろうつしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
飲もう! 飲んでうつを晴らそう。なんじ、無力なる国民学校教師よ。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「このことは、お聞きにいれない約束になっておりますが、わたし一人の胸にためておけといわれても、重荷なばかりで、気持がうつしてなりませんから、それで、申しあげることにいたしましたのです」
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「誰も来やしないよ。それはあんたの体の中で血が暴れているせいだよ。血の出所がなくなって、うつして濃くなってくると、いろんなものが見えたり聞こえたりするのだよ……ご飯はどう、食べるかね?」
うつとしておごそかに立てる影かな。
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
不遇で長かった皇太子時代には、青年らしい奔放な恋もし、またうつはなつためには、後宮の女色漁りも人いちばいな方であった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかりといえども、集散遅速は火の初めて滅して、煙気なおうつせるがごとし。ゆえに、鬼神の感格あり、厲霊れいりょうの来出あり、精爽せいそうの依託あり、魂魄の流行あり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しばらくすると、玄關げんくわんふすまが、いつになく、めうしづかいて、懷手ふところですこうつした先生せんせい
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼女はもう何もかも一切のわずらわしさを捨て、故郷に隠遁いんとんしてしまおうと決心したが、その心持ちを知る人に慰藉いしゃされて思い直し、末虎、照玉と共に旗上げをしてうつをなぐさめた。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うつとして曇天どんてんのしたに動かざりこずゑのさくら散り敷けるさくら
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
あり余る若さとうつのやりばとして、宮はよく洛外へ狩猟かりに出た。供にはいつも吉野、十津川いらいの猛者もさを大勢つれていた。
これ婚姻の当夜以来、お通がいまだ一たびも聞かざりしうついかれる良人の声なり。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お気のどくに堪えません。このたびは、非常な御不首尾ごふしゅびでお帰りなされた。きっとそのうつを筑前どのに聞いて戴こうと思っていたにちがいない」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姦婦かんぷ」と一喝いっかつらいの如くうついかれる声して、かたに呼ばはるものあり。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは人目にもわかる程だったので、むしろ幸いにして、主君にいとまを乞い、山代やましろの温泉へ行って、やまいよりはむしろ心のうつを忘れようとしていた。そして
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一声ひとこえ、時彦は、うつし沈める音調もて、枕も上げで名を呼びぬ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
留守をつとめていた腹心の早川主膳には、主人が何で鎌倉のご不興をこうむったのか、心外でならないらしく、いまも、道誉が昼酒にうつっているその席で
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに松川はいまだ眠らでぞある。うついかれる音調
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
玄蕃にいいふくめて、途中に兵を埋伏まいふくし、夜逃げの秀吉を急襲して、一挙に後のわざわいを絶ち、ここ腹いッぱい溜っているうつを晴らせるものと、夜明け方まで
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公子 (色はじめてうつす)むむ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、ふたりとも、しんが疲れたことであろ。そう気を病むな、うつするな。大儀大儀、酒でも参るがよい」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はたちまち、ここ数日のうつを眉に払って、大満悦なていとなり、すぐさま開封かいほう東京とうけいへさして出立した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここで吉次は幾ぶん胸のうつをはらした。見まわせば、いかにも貧しそうだ。豊かな公卿というものはすくないが、わけてここの邸には、坐っていても貧乏のにおいがする。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし同じ嘆息にしても、ああ——と満腔まんこうからうつを天へ吐きすてるのもあるし、われとわが身へ、ああと歎いて、世の憂いをいよいよ身一つにあつめてしまうものとがある。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついうつを吐いていたらしいが、たとえ放免筋ほうめんすじ(諜者)でなくても、ヘタな人間に聞かれると、いつか密告されていて、後日忘れた頃に引ッ張られた——などの例は毎々眼にも見
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
等々々、みなしざまに、数正の非行をののしって、家康のうつを、慰めようとするのだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うつぼつが、発したのである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
詩を詠じてうつを放ち
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)